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   新ブログ 谷藤友彦ー本と飯と中小企業診断士
March 08, 2010

自分の「強み」を活かすのか?「弱み」を克服するのか?

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 今の会社に転職する前、ある会社の面接で「効果的な人材マネジメントのポイントは何だと思うか?」と聞かれたことがあった。私は「それぞれの社員の強みを活かすこと」だと答えたら、面接官は「なぜ強みを活かすことが望ましいのか?」とさらに突っ込んできた。ドラッカーがしばしば「社員の強みを生かすことで弱みをカバーすることがマネジメントの役割である」といった趣旨のことを述べており、それをそのまま答えただけであったから、この面接官の切り返しには返す言葉が見つからなかった。当時の自分の考えは浅かったなぁと今になって感じる。

 それから数年が経ち、自分の考えがどれだけ進歩したかははなはだ怪しい限りではあるが、自分の「強みを活かす」ことと、「弱みを克服する」ことの関係について少し書いてみたいと思う。

 結論を先取りすると、「両者の比重は年代によって異なる」というのが私なりの見解である。20代の頃は、自分の強み、弱みといっても自分の中の相対的な比較であり、会社や世間一般が求める基準からしたら大半が弱みにしかならない。だから、20代はまず、強みを活かすことよりも、弱みを克服することに重きを置くべきである。

 このことは野球の世界を見ているとよく解る。高校野球や社会人野球でどんなにスーパースター扱いされた選手であっても、プロ野球に入ってすぐに活躍できるわけではない。それは、彼らが強みと思っていたことがプロで求められる基準に達していないからである。だから、ルーキーはたとえスーパールーキーであっても、自分の実力をプロレベルに高めるために必死に練習することが求められる。

 例えば日本ハムの中田選手は、屈指のパワーヒッターとして高校野球で活躍したが、守備に難があるために未だ一軍での実績は少ない。いくら打撃センスがあるからといって、守備に就く必要のないDHとして起用するわけにはいかない。DHはどちらかというと、打撃の実力が非常に高いが、故障などで守備に不安を抱えるベテランのためのポジションである。その位置に若手の中田選手を起用ことは考えられないのである。よって、中田選手は守備力を高めるべく猛練習を課せられている。

 同じように、今年の黄金ルーキーである西武の菊池投手も、豊富な球種が魅力であり即戦力としての期待が高かったのだが、スタミナがプロレベルではないために、2軍で基礎体力作りから始めることになってしまった。各選手がトレーニングを通じて自らの弱みを克服し、プロの世界で戦える素地を整えてから初めて、首脳陣はその選手の強みをどのように活かして試合を戦うのか?という議論に入ることができるのである。

 若いうちは弱みを克服する努力を軽視してはならない。それは、一人前のビジネスパーソン、プロフェッショナルとなるために不可欠なステップである。そうして一人前になり、20代後半から30代にかけて実績を積み上げていくと、自分の中の相対的な比較だけではなく、周囲の目から見ても「あの人はここが強い」という差別化要因が生まれてくる。

 ただし、40代、50代になると、どうしても克服できない弱みが露呈する。人間は完全な生き物ではないから、これは致し方ないことだ。人間の学習能力は無限であるとはいうものの、それは強みを活かす場合の話であって、この年齢から弱みを克服するのは非常に困難を伴う。これは、私自身が人事部の方々や研修受講者との仕事や、中小企業診断士としての活動などを通じて幅広い年代の人と触れてきた中で感じることである(青二才が何をぬかしているんだ!と怒鳴られそうだが…)。

 ドラッカーはマネジメントの大家でありながら、一度も大企業で働いたことはない。というよりも、そもそも組織で働いた経験が非常に少ない。マービン・バウワーからマッキンゼーで一緒に仕事をしないかと誘われた時も、自分は1人でやる方が向いていると言って断ってしまったくらいだ(※)。

 ドラッカーは自分自身の弱みを次のように語っている。
 とにかく私は他人と一緒に働くのがどうしても性に合わず、一匹狼として働くのが好きでした。私はコンサルタントですが、意思決定には向いていません。何か決めても、翌朝には気が変わっているというタイプの人間だからです。

 真の意志決定者はいったん決断したら、後は「果報は寝て待て」とばかり、夜はぐっすり眠るものです。私は5〜60回も覆した挙げ句、みんなを混乱に陥れてしまいます。

 (中略)それとかなり以前に、私は人に引導を渡せない性格であることを知りました。仕事ができないスタッフを解雇したり、業務から外したりという決定を何度も先送りにしてしまうのです。私にすれば、苦痛以外の何物でもないのです。
(ピーター・ドラッカー「明日への指針(上)」『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』2003年11月号)
 人を働かせ続けるために、仕事をしなければならないというのは、私の性に合わない。私は自分のしたい仕事をしたい。報酬を払わなければならないとか、食べさせなければならないとかいう理由でしなければならない仕事は、したくない。私はソロのプレーヤーだ。会社をつくることに興味をもったことは、一度もない。人を管理することにも、興味はない。うんざりさせられてしまう。
(ピーター・ドラッカー著、上田惇生他訳『マネジメント・フロンティア−明日の行動』ダイヤモンド社、1986年)

P・F. ドラッカー
ダイヤモンド社
1986-10
おすすめ平均:
現状認識が不十分で実践を求められても、たじろぐな。今日を理解せよ。
小論の集成
posted by Amazon360


 ドラッカーは24歳で処女作を発表し、29歳で2冊目の作品を出すなど、早咲きの文筆家ではあった。だが、大半の作品は50代から晩年にかけてのものである。彼は自分が組織で実際にマネジメントを行うよりも、社会に散らばっているマネジメントの知恵を包括的にまとめ上げ、自らの卓越した文章力をもって移転可能な叡智へと昇華させる方が自分の強みが活かされると考えたのだろう。

 もし、ドラッカーがマッキンゼーでコンサルタントとして働いたり、あるいはどこかの大企業から請われて経営陣を務めたりしていたら、数多くの名著は生まれなかったことだろう。彼の弱みが禍いして、コンサルティングファームの一員としても経営陣としても、目立った成果は上げられなかったかもしれない。

 20代、30代とは違い、40代、50代になってくると、弱みが決定的な影響を及ぼす役職に就けることは避けた方がよい。長年克服できなかった弱みを抱えたまま仕事を進めるのは本人にとっても気の毒であるし、組織全体にも深刻な損害をもたらす危険性が高い。なぜならば、40代、50代の社員が行う仕事は、若手社員に比べてはるかに大きな影響力と責任を伴うからだ。年齢が上になるに従って、本人の強みに着目し、本人の強みが活かされるように社員を配属することが、人材マネジメントの肝要だと思うのである。

(※)ピーター・ドラッカー著『ドラッカー20世紀を生きて−私の履歴書』(日本経済新聞社、2005年)

ピーター・F. ドラッカー
日本経済新聞社
2005-08
おすすめ平均:
人生をかけて学び続けた人
ドラッカー氏の履歴書
ドラッカーの人となりが分かる、読みやすい本。
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コメント

はじめまして、Google検索から来ました。

面接官が「。。。?」とさらに突っ込んできた。
ここを読むとトヨタ生産方式の「なぜを5回繰り返せ」
を思い出します。

この面接官さんは
(1) 想定質問に対する訓練。
(2) 本質的なことを理解して言葉を使っているか?
などを確認したかったのでしょう。

「強みと弱み」という言葉だけでは無意味で、
社会は他人との競争に勝つ事で利益が得られる。
だから、他人と比べて自分の「強みと弱み」を知り、
「他人に対して自分が強い」部分で勝負して勝つ事が
目標となる。
というようなことまで説明しないと、
単なる言葉のまる暗記だけでは学校の試験しか通らない
というこを言いたかったのでは?
この会社の名前を知りたい。

では、v(*^o^*)v
以上です。

ジャギオさん

こんにちは。コメントありがとうございます。
会社名は残念ながらご紹介できませんが、割と有名な研修サービス会社です。
研修会社であるからこそ、受け売りの知識ではなく、
知識の本質を理解しているかどうかを、この面接官は確かめたかったのでしょうね。

私自身、個人事業ではありますが企業向け研修の仕事をしていると、
やはり教えている内容を自分の腹に落ちるまで咀嚼し切っていないと
受講者からの質問に対して十分な回答ができないと痛感することが多いです。

> はじめまして、Google検索から来ました。
>
> 面接官が「。。。?」とさらに突っ込んできた。
> ここを読むとトヨタ生産方式の「なぜを5回繰り返せ」
> を思い出します。
>
> この面接官さんは
> (1) 想定質問に対する訓練。
> (2) 本質的なことを理解して言葉を使っているか?
> などを確認したかったのでしょう。
>
> 「強みと弱み」という言葉だけでは無意味で、
> 社会は他人との競争に勝つ事で利益が得られる。
> だから、他人と比べて自分の「強みと弱み」を知り、
> 「他人に対して自分が強い」部分で勝負して勝つ事が
> 目標となる。
> というようなことまで説明しないと、
> 単なる言葉のまる暗記だけでは学校の試験しか通らない
> というこを言いたかったのでは?
> この会社の名前を知りたい。
>
> では、v(*^o^*)v
> 以上です。
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