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January 16, 2010
プロフェッショナルの条件とは「辞めさせる仕組み」があること
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人材マネジメントや教育研修の世界でも流行り廃りというのはあって、ほんの2、3年前に「プロフェッショナル人材の育成」というテーマが急に注目を浴びた時期があった。「プロフェッショナル人材とは何か?」という定義の話から始まって、人事部は「これからのビジネスパーソンは皆プロフェッショナル人材にならなければならない」と主張し、研修ベンダーは「プロフェッショナル人材のマインドセットを身につけるための研修が必要だ」と新たな製品開発に精を出していたものである。
が、そもそもプロフェッショナルとは弁護士や会計士、医者のような職業を指す言葉であり、誰も彼もがそうそう簡単になれるものでもない。プロフェッショナルの定義については、アマチュアとの比較において「アマチュアは金をもらわずにする仕事、プロフェッショナルは金をもらいながらする仕事」などという説明がされることがあるが、そんな甘いものではない。プロフェッショナルとは、「(1)体系的かつ十分に訓練された知識や技能を基盤とし、かつ(2)高い倫理規範に従って、(3)継続的に高い価値を創造できる人間」のことである。
プロフェッショナル人材というキーワードが先行する中で、私は十分に触れられなかった点が1つあると思う。しかもこれは、プロフェッショナル人材を語る上で非常に重要な論点である。それは何かというと、プロフェッショナル人材を育成、維持するための「組織的要件」である。
先ほどプロフェッショナル人材の定義として3つのポイントを指摘したが、プロフェッショナル人材に関わる組織的要件とはこれら3つのポイントを担保するために不可欠な組織の機能を意味する。
(1)その仕事に求められる体系的な知識や技能を習得させる仕組みづくり
弁護士や会計士、医師などの世界においては、座学、ケーススタディ、実務従事など様々な学習方法を組合せ、長い年月をかけて体系的な知識や技能を習得させる。そして、十分なスキルが備わったと判断されたところで初めて資格認定され、プロフェッショナルを名乗ることを許される。
プロフェッショナルに必要な知識や技能は日進月歩で変化していく。こうした変化の吸収を本人任せにせず、組織的に取り組むことも重要である。マッキンゼーは世界中のコンサルタントが手がけた案件をデータベース化し、最新の知識を世界中で共有できる仕組みがあると本で読んだことがあるが、元マッキンゼーの人に聞いたら、単純に最終成果物をナレッジマネジメントシステムに突っ込むだけでなく、汎用的なフレームワークやメソッドに昇華させた上でDBに登録しているという。
また、コンサルタントには経営的な知見を提供するだけでなく、クライアント企業の社員を巻き込んで変革推進を支援する「チェンジ・エージェント(変革の代理人)」としての役割が求められる。この役割に求められる技能は暗黙知の性質が強く、人間的な資質に近い。こうした力がきちんと備わっているかどうかを、プロジェクトが終了するたびにメンバー間の相互フィードバックによって確認することがルール化されているという。
(2)その仕事に従事する人間が遵守すべき倫理規範の策定
プロフェッショナルは単に高度な知識体系を持っているだけでは不十分である。知識を私利私欲のために乱用するのではなく、公益のために活用しなければならない。それぞれのプロフェッショナルには、それぞれの職業規範が必要である。
医師の世界には古来より「ヒポクラテスの誓い」(※)というものが存在し、現代の医師の倫理規範の基礎を成している。また、プロ野球の世界を見てみると、かつてジャイアンツには「巨人軍は紳士たれ」という言葉があり、選手の行動規範となっていた。先日も、ファンサービス重視の姿勢を改めて打ち出し、ファン軽視の行動を取った選手は二軍行きという記事が話題になった(「G大改革!ファン無視なら罰走、2軍落ちも」)。プロフェッショナル人材を有する組織は、それぞれの仕事内容に応じた具体的な倫理規範を策定し、定着させる努力を行っている。
数年前に大相撲で薬物問題が持ち上がった時、協会には薬物使用の禁止に関するガイドラインが明確に存在せず、それゆえに薬物を使用した力士への対応が曖昧になってしまった。この一件は、プロスポーツとしての大相撲の地位を大きく揺るがす事態となった。
(3)プロフェッショナルにふさわしくない人材を排除するルールの整備
私は組織的要件の中で、この点が最も重要であると思っている。プロフェッショナル人材の要件を満たさない人材は、プロフェッショナルの世界から退出を命じられなければならない。プロフェッショナル人材の質を保つためには、このルールが不可欠である。弁護士、公認会計士、医者などの国家資格には、倫理規範に反する行為を厳しく罰し、資格剥奪をも辞さない制度がある。プロスポーツの世界でも、シーズンオフには必ず戦力外通告を受ける選手が出てくる。
また、コンサルティングファームにおいても、"Up or Out"と言って、一定の成果を上げられない社員は上の職位に上がることができないばかりか、強制的に退職させられる(海外の場合は解雇される。日本の場合はその理由で解雇することは難しいため、人事部と本人が相談の上、自主退職の形がとられる)。
事業会社の場合でも、GEなどは厳しい成果主義を導入していることで知られる。GEは毎年一定の割合の社員を解雇することが人事制度の中に埋め込まれている。解雇の対象となるのは、期待された成果が上がらない、あるいはGEの価値観にそぐわない社員である(後者の場合、たとえ高いパフォーマンスを上げていても解雇される)。GEには常に社員の新陳代謝を促し、人材の質を高度に保つための仕組みが整っている。
こうした3つの組織的要件が整って初めて、その職業はプロフェッショナルだと言えると思う。もっとも、プロフェッショナル職業の代表である弁護士や医師などでも、その組織的要件は完璧ではない。例えば、弁護士には資格更新の制度がなく、最新の法律知識や技能(それこそ、裁判員制度に適応できる能力など)を継続的に習得させる仕組みがあるわけでなない。また、医師や公認会計士の中にも、診療報酬を不正に受け取ったり、不正な会計処理を容認したりする者がおり、彼らを完全に排除することはできていない。
そのくらい、プロフェッショナル人材を育成、維持するのは難しいことなのである。私が言いたかったのは、「プロフェッショナル人材の育成」が聞こえのいいファッションに留まっていて、そのテーマを持ち出した人材マネジメント業界の人間が、本気で組織的要件を実現する努力を行っていたのか?ということである。
プロフェッショナルを育成すると宣言しながら、月並みの研修制度だけしか揃えず、あとは現場のOJTや本人の努力に任せていたのではないか?企業の場合は、弁護士などのようにまとまった学習時間を確保することが難しい。だから、知識や技能を体系的に習得させ、かつそれらを継続的に更新させるには一工夫必要だ。それは、単に研修を充実させればよいというだけの話ではなく、現場での学習を含めてトータルで企業内の学習をどうデザインすればよいのか?という難題である。
倫理規範も果たして明確であっただろうか?もちろん、企業自体の経営理念にある程度の行動規範は含まれているだろう。だが、プロフェッショナルの倫理規範は、先ほど指摘したように彼らの仕事内容に即したより具体的なものでなければならない。人事部などは、そうした職業規範の策定や浸透を本当に行っただろうか?
そして、プロフェッショナル人材の質を高いレベルで保持するための人事制度を真剣に検討したであろうか?日本企業の場合、解雇の条件が厳しいため、GEをそっくりそのまま真似ることはできない。だが、企業がプロフェッショナル人材の集団を名乗るならば、社員がプロフェッショナルとしてのスキルや価値観を本当に備えているかどうかを公正な視点で評価し、基準に満たない社員に配置転換や降格など何らかの是正措置を取る制度が絶対に不可欠である。経営陣や人事部は評価制度の改革を視野に入れていただろうか?
人事部ばかりを責めているような感じになってしまったが、我々研修ベンダーも、気安く「プロフェッショナル人材の育成をサポートします」などと言って、クライアントを口車に乗せるようなことをしていなかっただろうか?壮大な構想を掲げる割に研修の1つや2つしか提案せず、あとは人事部任せという態度は大いに反省しなければならないと痛感しているところである。
(※)マネジャーにも職業規範が必要だと主張し、「マネジャー版ヒポクラテスの誓い」というものを提案しているユニークな論文がDIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー2009年2月号に掲載されているので、興味がある方はどうぞ。
が、そもそもプロフェッショナルとは弁護士や会計士、医者のような職業を指す言葉であり、誰も彼もがそうそう簡単になれるものでもない。プロフェッショナルの定義については、アマチュアとの比較において「アマチュアは金をもらわずにする仕事、プロフェッショナルは金をもらいながらする仕事」などという説明がされることがあるが、そんな甘いものではない。プロフェッショナルとは、「(1)体系的かつ十分に訓練された知識や技能を基盤とし、かつ(2)高い倫理規範に従って、(3)継続的に高い価値を創造できる人間」のことである。
プロフェッショナル人材というキーワードが先行する中で、私は十分に触れられなかった点が1つあると思う。しかもこれは、プロフェッショナル人材を語る上で非常に重要な論点である。それは何かというと、プロフェッショナル人材を育成、維持するための「組織的要件」である。
先ほどプロフェッショナル人材の定義として3つのポイントを指摘したが、プロフェッショナル人材に関わる組織的要件とはこれら3つのポイントを担保するために不可欠な組織の機能を意味する。
(1)その仕事に求められる体系的な知識や技能を習得させる仕組みづくり
弁護士や会計士、医師などの世界においては、座学、ケーススタディ、実務従事など様々な学習方法を組合せ、長い年月をかけて体系的な知識や技能を習得させる。そして、十分なスキルが備わったと判断されたところで初めて資格認定され、プロフェッショナルを名乗ることを許される。
プロフェッショナルに必要な知識や技能は日進月歩で変化していく。こうした変化の吸収を本人任せにせず、組織的に取り組むことも重要である。マッキンゼーは世界中のコンサルタントが手がけた案件をデータベース化し、最新の知識を世界中で共有できる仕組みがあると本で読んだことがあるが、元マッキンゼーの人に聞いたら、単純に最終成果物をナレッジマネジメントシステムに突っ込むだけでなく、汎用的なフレームワークやメソッドに昇華させた上でDBに登録しているという。
また、コンサルタントには経営的な知見を提供するだけでなく、クライアント企業の社員を巻き込んで変革推進を支援する「チェンジ・エージェント(変革の代理人)」としての役割が求められる。この役割に求められる技能は暗黙知の性質が強く、人間的な資質に近い。こうした力がきちんと備わっているかどうかを、プロジェクトが終了するたびにメンバー間の相互フィードバックによって確認することがルール化されているという。
(2)その仕事に従事する人間が遵守すべき倫理規範の策定
プロフェッショナルは単に高度な知識体系を持っているだけでは不十分である。知識を私利私欲のために乱用するのではなく、公益のために活用しなければならない。それぞれのプロフェッショナルには、それぞれの職業規範が必要である。
医師の世界には古来より「ヒポクラテスの誓い」(※)というものが存在し、現代の医師の倫理規範の基礎を成している。また、プロ野球の世界を見てみると、かつてジャイアンツには「巨人軍は紳士たれ」という言葉があり、選手の行動規範となっていた。先日も、ファンサービス重視の姿勢を改めて打ち出し、ファン軽視の行動を取った選手は二軍行きという記事が話題になった(「G大改革!ファン無視なら罰走、2軍落ちも」)。プロフェッショナル人材を有する組織は、それぞれの仕事内容に応じた具体的な倫理規範を策定し、定着させる努力を行っている。
数年前に大相撲で薬物問題が持ち上がった時、協会には薬物使用の禁止に関するガイドラインが明確に存在せず、それゆえに薬物を使用した力士への対応が曖昧になってしまった。この一件は、プロスポーツとしての大相撲の地位を大きく揺るがす事態となった。
(3)プロフェッショナルにふさわしくない人材を排除するルールの整備
私は組織的要件の中で、この点が最も重要であると思っている。プロフェッショナル人材の要件を満たさない人材は、プロフェッショナルの世界から退出を命じられなければならない。プロフェッショナル人材の質を保つためには、このルールが不可欠である。弁護士、公認会計士、医者などの国家資格には、倫理規範に反する行為を厳しく罰し、資格剥奪をも辞さない制度がある。プロスポーツの世界でも、シーズンオフには必ず戦力外通告を受ける選手が出てくる。
また、コンサルティングファームにおいても、"Up or Out"と言って、一定の成果を上げられない社員は上の職位に上がることができないばかりか、強制的に退職させられる(海外の場合は解雇される。日本の場合はその理由で解雇することは難しいため、人事部と本人が相談の上、自主退職の形がとられる)。
事業会社の場合でも、GEなどは厳しい成果主義を導入していることで知られる。GEは毎年一定の割合の社員を解雇することが人事制度の中に埋め込まれている。解雇の対象となるのは、期待された成果が上がらない、あるいはGEの価値観にそぐわない社員である(後者の場合、たとえ高いパフォーマンスを上げていても解雇される)。GEには常に社員の新陳代謝を促し、人材の質を高度に保つための仕組みが整っている。
こうした3つの組織的要件が整って初めて、その職業はプロフェッショナルだと言えると思う。もっとも、プロフェッショナル職業の代表である弁護士や医師などでも、その組織的要件は完璧ではない。例えば、弁護士には資格更新の制度がなく、最新の法律知識や技能(それこそ、裁判員制度に適応できる能力など)を継続的に習得させる仕組みがあるわけでなない。また、医師や公認会計士の中にも、診療報酬を不正に受け取ったり、不正な会計処理を容認したりする者がおり、彼らを完全に排除することはできていない。
そのくらい、プロフェッショナル人材を育成、維持するのは難しいことなのである。私が言いたかったのは、「プロフェッショナル人材の育成」が聞こえのいいファッションに留まっていて、そのテーマを持ち出した人材マネジメント業界の人間が、本気で組織的要件を実現する努力を行っていたのか?ということである。
プロフェッショナルを育成すると宣言しながら、月並みの研修制度だけしか揃えず、あとは現場のOJTや本人の努力に任せていたのではないか?企業の場合は、弁護士などのようにまとまった学習時間を確保することが難しい。だから、知識や技能を体系的に習得させ、かつそれらを継続的に更新させるには一工夫必要だ。それは、単に研修を充実させればよいというだけの話ではなく、現場での学習を含めてトータルで企業内の学習をどうデザインすればよいのか?という難題である。
倫理規範も果たして明確であっただろうか?もちろん、企業自体の経営理念にある程度の行動規範は含まれているだろう。だが、プロフェッショナルの倫理規範は、先ほど指摘したように彼らの仕事内容に即したより具体的なものでなければならない。人事部などは、そうした職業規範の策定や浸透を本当に行っただろうか?
そして、プロフェッショナル人材の質を高いレベルで保持するための人事制度を真剣に検討したであろうか?日本企業の場合、解雇の条件が厳しいため、GEをそっくりそのまま真似ることはできない。だが、企業がプロフェッショナル人材の集団を名乗るならば、社員がプロフェッショナルとしてのスキルや価値観を本当に備えているかどうかを公正な視点で評価し、基準に満たない社員に配置転換や降格など何らかの是正措置を取る制度が絶対に不可欠である。経営陣や人事部は評価制度の改革を視野に入れていただろうか?
人事部ばかりを責めているような感じになってしまったが、我々研修ベンダーも、気安く「プロフェッショナル人材の育成をサポートします」などと言って、クライアントを口車に乗せるようなことをしていなかっただろうか?壮大な構想を掲げる割に研修の1つや2つしか提案せず、あとは人事部任せという態度は大いに反省しなければならないと痛感しているところである。
(※)マネジャーにも職業規範が必要だと主張し、「マネジャー版ヒポクラテスの誓い」というものを提案しているユニークな論文がDIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー2009年2月号に掲載されているので、興味がある方はどうぞ。
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