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   新ブログ 谷藤友彦ー本と飯と中小企業診断士
March 04, 2009

堅苦しい知識詰め込み型の研修よ、サラバ−『効果10倍の<教える>技術』

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吉田 新一郎
PHP研究所
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第一章だけでもご覧ください
「工場モデル」型からワークショップ型へ
現役の講師からすると、もの足りないかな
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 未曾有の景気後退の中、研修に対する各企業の対応は真っ二つに分かれている。一方は有無を言わさず研修予算をばっさり切ってしまうグループ、もう一方はこういう時代だからこそ人材育成に投資すると考え、研修予算を従来どおり確保する(場合によっては予算を増やす)グループである。われわれのような研修ベンダーは、断腸の思いで前者とのリレーションを一時的に諦めなければならず、何とも心苦しい。その分、後者の顧客を大切にし、何としてでも成果の上がる研修を提供したいと思うものである。というわけで、効果的な研修づくりの参考にならないかと手に取ったのがこの本だ。

 本の内容を強引に一言でまとめると、これまでのような「座りっぱなしの講義のみでつまらない」、「講師が威張っている」、「一般論ばかり」、「発言ができず堅苦しい」研修とはとっととおサラバして、「楽しくて興奮する」、「成果がみんなのものと思える」、「明日から使える知識が技能が身につく」、「自由に発言でき、仲間ができる」ような研修をやらないとダメということに尽きる。まあこのぐらいのことはさすがに研修ベンダーも理解しているわけで、あとはそれを具体的にどうやるかが勝負どころなのだが、残念ながら新書というページ数の限界のためか、具体的なハウツーまではそれほど詳しく紹介されていない。とはいえ、主要な教育学者の考えが随所に紹介されており、頭の整理にはよいかと。

個人の学習スタイルに合わせる…が実際にはどうやるのか?
 これまでの研修は同書の著者が「工場モデル」と呼ぶように、全員を同じ教室に集め、ひたすら知識を詰め込む形式だった。だが、人にはそれぞれ「学びのスタイル」というものがあり、学習しやすい方法が異なる。例えば、文章で理解する方が早い人もいれば、映像で理解する方が早い人もいる。私なんかは文章で理解する方が圧倒的に早いし、逆に自分で学習スピードを調節できない映像はあまり好きではない。工場モデルは講師が効率的に教えることを目的とした講師都合のモデルでしかなく、受講者にとっては個人の差異が無視された非効率なモデルというわけだ。

 学習スタイルにもいくつか分類方法がある。同書からいくつか引用してみる。一番解りやすいのは、デイビッド・コルブのものだ。
デイビッド・コルブの4分類
仝たり(観察したり)、聞いたり、読んだりして学ぶタイプ
△犬辰り考えることによって学ぶタイプ
F阿い燭蝓⊆尊櫃忙遒靴討澆襪海箸砲茲辰導悗屮織ぅ
ぅ侫ーリングや感情、直感などを大切にする形で学ぶタイプ
 別の切り口で4つに分類したのがアンソニー・グレゴーク。「情報の認識の仕方(具体的/抽象的)」と「情報の処理の仕方(連続的/任意的)」という2軸のマトリクスを作って、4つの学習スタイルを定義した。
アンソニー・グレゴークの4分類
(析的(抽象的+連続的)
計画的(具体的+連続的)
H明的(具体的+任意的)
ご鏡的(抽象的+任意的)
 もう少し細かい分類としては、ハワード・ガードナーが提唱した「マルチ能力」理論における分類がある。マルチ能力とは、人間が生きるために使う多様な力であり、人それぞれ得意・不得意がある。
8つのマルチ能力
仝生貲塾
∀斥的−数学的能力
6間能力
た搬痢蘖親闇塾
ゲ惨暁塾
人間関係形成能力
Ъ己観察・管理能力
┝然との強制能力
 いずれのモデルにも共通することだが、人の学習タイプがどれか1つに限定されるというわけではなく、複数のタイプを同時に持ち合わせている。そして、講師は受講者の学習スタイルの違いを考慮した上で、学習内容を適切に設計すべきだとされる。

 確かに、受講者ごとのニーズに合わせた学習を提供するというのは理にかなっている。さながら、研修にマーケティングの原理を適用するようなものだ。だが、問題はそれをどうやって実現するかだ。マーケティングの場合は、市場における各セグメンテーションは一定の規模があるため、セグメントごとに全く別のアプローチをとっても非効率ではなく、収益が損なわれることはない。

 だが、研修の場合は、ちょっとセグメンテーションしただけで各セグメンテーションの人数が非常に少なくなる。マーケティングの原理にバカ正直に従って、セグメントごとに違う学習方法を開発していたのでは、お金と労力がかかって仕方がない。受講者の中に異なる学習スタイルを持つ人が含まれていることを前提として、講師側の「教える効率」と受講者側の「学ぶ効率」を両立させるやり方を模索することが必要なのだろう。

研修そのものも大切だが、研修前後の設計の方がはるかに重要
 「ワークプレイスラーニング2008に行ってきた」でも書いたが、研修そのものが企業の業績につながる成果に貢献する割合は20%ぐらいしかない。成果を左右するのは研修前の目的の理解と研修後の実践の度合いであり、特に後者の方が影響力は大きい。研修がただの「コスト」になるか、企業に効果をもたらす「投資」になるかは、研修そのものよりも、研修前後のプロセスの設計の良し悪しによって決まるのである。

 それでは、なぜ研修で学んだことが職場で使われないのか?同書で言及しているものを引用してみる。ロバート・マークスは次の5つの要因を挙げている。
〇纏が忙しく、研修で学んだことや身につけたことを活かせる状態にない
同僚たちが新しく導入しようとすることに対して好意的でない
その他の問題(組織の再編、合併、あるいは個人的な問題など)を抱えている
せ臆端圓自分の能力に自信を持てない
タ靴靴導入しようとすることに対して、上司が好意的でない
 また、ローズマリー・キャファレラは6つの要因を指摘している。
〇臆端
 ・参加者が参加した研修の助けになる事前知識や経験を持っていない
▲廛蹈哀薀爐侶疎屬反覆疂
 ・応用することが強調されていない
 ・フォローアップが計画されていない
プログラムの内容
 ・態度や技能面の変化こそが必要なのに、知識に焦点が当てられている
こ悗鵑世海箸魍茲すために必要な変化
 ・現行のやり方と矛盾する部分がある
チ反イ両況
 ・同僚や上司のサポートがない
 ・変化と相容れない褒賞制度が存在している
α反イ鮗茲蟯く環境
 ・経済的に悪くなる
 ・変化を好まない社会状況がある
 残念ながら、同書では研修前後の職場要因に関する記述が少なく、私としてはやや物足りなかった。そもそも、この分野の研究自体も、学習内容の設計方法に比べると歴史が浅く、まだまだ分析、調査する余地がたくさん残されている。

最後に、研修会社に所属する自分に自戒
 研修事業に携わるようになってから解ったことだが、この業界は異常なまでに参入障壁が低い。何か売れるコンテンツが1つでもあれば、すぐに会社を立ち上げることができる。それゆえ、いろんな会社がめいめいのやり方で、好き勝手に研修サービスを提供している。これが研修事業の実態なのである。みんな「自分のやり方こそがすごい」と思い込んでおり、多くの顧客やベンダーに受け入れられる標準的な専門性が確立されていない。だから、「研修業界には教えるプロがいない」などと揶揄される。これは悲しき事態だ。

 属人的で確固たる裏づけもなく、講師都合で作成された研修とはいい加減おサラバして、多くの顧客に認められるような効果的な研修を開発するとともに、研修前後のプロセスも責任を持って設計できる研修会社になる。これこそが21世紀の研修ベンダーに求められることだろう。そしてもちろん、われわれの会社がまず第一にそうならなければならないと思う。
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