※2012年12月1日より新ブログに移行しました。
>>>現行ブログ free to write WHATEVER I like
⇒2019年にさらにWordpressに移行しました。
>>>現行HP シャイン経営研究所(中小企業診断士・谷藤友彦)
⇒2021年からInstagramを開始。ほぼ同じ内容を新ブログに掲載しています。
>>>Instagram @tomohikoyato
   新ブログ 谷藤友彦ー本と飯と中小企業診断士
November 24, 2008

「侍ジャパン」は世界を斬れるのか心配だ(2)−中日ボイコット騒動

拍手してくれたら嬉しいな⇒
 監督問題に次いで、今度は選手の選出をめぐって何だかえらいことになっている。当初リストアップした48人の代表候補の中から辞退者が続出。21日に開かれた日本代表のスタッフ会議ではチームの再編成を迫られた。会議終了後、原監督は球団名を伏せながらも、「ほとんど協力的だけど、事情がある辞退も聞いた。やむを得ないこともあるが、1球団においては誰ひとりも協力者がいなかった。やや寂しいことでした」と残念そうに語った。(※1)この球団がどうやら中日ではないかという憶測が流れていたが、翌日になって中日の代表候補(岩瀬、森野、浅尾、高橋)が全員辞退していたことが判明。

 一部のマスコミがこれを「ボイコット」と報じたためか、落合監督がすかさず反論。球団や監督の圧力があったのではないかという疑惑を否定し、あくまで「選手個人の判断」であることを強調した。(※2)

 22日から23日にかけて、各紙には反落合のムードを煽るような記事が並んだ。まあ、ちょっとやりすぎなんじゃないの?といつもながら思うが。落合監督のコメントは、ファンの感情を逆なでする部分があるとはいえ、正論もあると思う。

 「公式戦以外のイベントへの参加の強制権はない。プロ野球選手は球団の社員ではなく、個人事業主。故障をした時の保障もないし、自分のことを考えるのは一番の権利。全部NPBがフォローしてくれるならいいけど理想論を掲げられて一番困るのは選手だ。みんな出てくれると思っているのが大間違い。」(※3)これは確かに、現行のルールの下ではそうなってしまうのだ(後述)。結局、日の丸のプライドとか威信というだけで選手や球団が一枚岩になるのは困難で、戦いの体制をきちんと整えなければWBCは長く持たない、ということを落合監督は言いたかったのではないだろうか?

野球とサッカーの国際試合に対する取り組み方の違い
 「『侍ジャパン』は世界を斬れるのか心配だ−WBC監督問題」の中で、プロ野球の国際化戦略とそれを実現するための組織・仕組みづくりが必要だとやんわり書いたが、今回はサッカーと比較しながらもうちょっとだけ具体的な議論をしてみたいと思う。

 まず、国際大会の監督や選手選びにはいろんな組織が絡んでいるので、その辺りを整理するところから始めたい。(以下の記述はネットでいろいろリサーチをしたものをまとめたものであるが、間違いがあったら指摘してください。)

 サッカーでは、Jリーグなどの各リーグを日本サッカー協会が統括している。日本サッカー協会はアジアサッカー連盟(AFC)に加盟しており、AFCは国際サッカー連盟(FIFA)に加盟している。この関係により、日本はFIFAワールドカップなどFIFAが開催する国際大会に参加することができる。また、日本サッカー協会は国際オリンピック委員会(IOC)傘下の日本オリンピック委員会(JOC)にも加盟している。この関係により、日本はオリンピックに参加することができる。(※4)
サッカー組織図

 サッカーの場合、FIFAワールドカップであれオリンピックであれ、監督や選手は、原則として日本サッカー協会の中にある技術委員会にて決定される。技術委員会は監督・選手の選出以外にも、代表チームの強化スケジュールを組んだり、各国チームの戦力分析をしたりする役割を担う。

 野球も外見上はサッカーと同じような仕組みになっている。日本野球機構(NPB)、全日本アマチュア野球連盟、全日本軟式野球連盟といった各種野球連盟を統括する組織として、全日本野球会議が存在する。サッカーの技術委員会にあたるのが日本代表編成委員会という部隊で、ここで国際野球連盟(IBAF)・アジア野球連盟(BFA)主催の国際大会やオリンピックの監督・選手が決定される。(※5)
野球組織図(オリンピックなど)

 ただ、野球の場合、全日本野球会議がどれほど統括の役割を果たしているのか不明だ。というのも、2006FIFAワールドカップでジーコJAPANが敗退した時には、ジーコ監督の責任ももちろんだが、日本サッカー協会の川淵キャプテンの責任を問う声も大きかった。これは日本代表を国際試合に送り込んだ組織の長としての責任が問われたということだ。これに対して、北京五輪では責任を負わされたのは星野監督ただ一人で、全日本野球会議の名が挙がることはなかった。全日本野球会議の重みは、日本サッカー協会に比べるとかなり低く見られているようだ。

 全日本野球会議自体がそれほど重要視されていない上に、実際に十分な機能を果たしているか疑わしい。北京五輪を例に取れば、星野監督が「他国の分析をしたくても、過去のオリンピックなどの情報が手に入らない」と嘆いたことがあった。つまり、日本代表編成委員会は技術委員会のような戦力分析を行っていないのである。

 野球の場合、もう1ついびつなのが、WBCに関しては監督・選手の選出方法が通常の国際大会と違う点だ。今回のWBC監督は、NPBの加藤コミッショナーを議長とする体制検討会議という名の急造会議で決定された。そして選手は、原監督、王特別顧問を中心とするスタッフ会議によって選出されようとしている。ここでは全日本野球会議は一切関与しないのだ。WBCはアメリカ・メジャーリーグベースボール協会(MLB)主催の大会であり、MLBがNPBに直接参加要請をしてきたのがその理由と思われる。(ちなみに、MLBはIBAFに加盟していない。)
野球組織図(WBC)


NPBにはWBCの専門組織を常設すべきだ
 日本の野球はもともと、プロ、アマチュア、軟式がそれぞれ独立した形で発展してきており、思惑がそれぞれ大きく異なる。各連盟を統括する全日本野球会議が設置されてはいるものの、「会議」という名が示す通り、所詮は緩やかな合議体でしかなく、現実には各連盟の自立性に委ねられているというのが実態のようだ。

 サッカーのことを考えれば、本来は全日本野球会議がWBCについても管轄するのが組織図的にはきれいに収まる。全日本野球会議のホームページには「2007年度には、『国際委員会』と『プロ・アマ協議会』を設け、今後の国際大会への対応を検討することになった。」という記述もあり、ちょっとぐらいそこでWBCのことも考えてほしいとも思う。だが、これまでの経緯を考えるとやはり難しいのかもしれない。

 そうであれば、NPB内に日本サッカー協会の技術委員会にあたる専門組織を作ってしまうのが一番よい。WBCは短期決戦であり、ワールドカップのように予選が何度も頻繁にあるわけではないので、組織化する必要はないという意見もあるだろう。とはいえ、NPBが本腰を入れてWBCに取り組んでいるという姿勢を見せるためにも、コミッショナー直属の常設組織にするべきだ。他国の戦力分析に基づいて日本の戦略の方向性を決定する。選考プロセスと基準を明確にした上で監督と選手を選出するといった基本的な役割に加え、球団や選手会とのさまざまな調整もこの委員会が担う。そしてWBCの終了後には、成果と改善点をまとめて情報を蓄積し、次回以降のWBCへと活かしていく。さらに、監督やコーチ、選手に国際経験を積ませ、世界で戦える人材をもっと増やすために、各国の強豪との親善試合を企画するなんていうのもありだと思う。

野球協約、統一契約書も見直す
 WBCへの参加を前提とした基本的なルールの策定も急務だ。

 落合監督の「公式戦以外のイベントへの参加の強制権はない。」という発言には根拠があると書いたが、統一契約書の第19条に、
「(試合参稼制限) 選手は本契約期間中、球団以外のいかなる個人または団体のためにも野球試合に参稼しないことを承諾する。ただし、コミッショナーが許可した場合はこの限りでない。」
という規定があるのだ。この統一契約書、どこを探しても「代表」といった言葉は見当たらず、あくまで「リーグ戦中心主義」を前提としている。つまり、国際試合を想定したものにはなっていないのだ。

 一方、Jリーグ規約は、選手に対して、
 「協会から、各カテゴリーの日本代表選手に選出された場合のトレーニング、合宿および試合への参加」(88条(7))
という義務を負わせているし、Jクラブに対しても、
「Jクラブは、所属選手が、代表チームまたは選抜チーム等の一員に選出された場合、当該選手をこれに参加させる義務を負う。」(41条2項)
と定めている。このあたりはプロ野球の方が遅れている。(※6)

 また、出場した選手に対する手当やケガをしたときの補償も問題だ。前回のWBCでは、手当や補償に関する取り決めが明確になっていないと選手会が反発したために、日本のWBC参加表明が遅れた経緯がある。最終的にはNPB側が選手会と必要な取り決めを行ったため選手会も納得してWBCに参加したのだが、落合監督の発言を読む限り、まだ十分な規定ができているとは考えにくい。WBCへの参加を前提とした協約や統一契約書の改定が急がれる。 

 来年のWBCが終わってペナントレースが始まってしまうと、NPB側はきっとこれまでの混乱などすべて忘れてみんなペナントレースに集中してしまう。だから、今のうちにスタッフ会議などと並行して、WBCをめぐる中長期的な課題の解決(もちろん、NPB版技術委員会の設立を視野に入れて)を目指すプロジェクト組織を立ち上げたらいいのにと思うがどうだろうか?

(※1)「原WBC非常事態、中日全選手が辞退」(日刊スポーツ)
(※2)「選手個人の判断と落合監督 WBC代表候補辞退で」(共同通信社)
(※3)「落合監督『みんな出ると思うのが間違い』」(日刊スポーツ)
(※4)日本サッカー協会ホームページの組織図を基に作成。
(※5)全日本野球会議ホームページの組織図を基に作成。全日本野球会議に属する組織は主なもののみを記載した。
(※6)統一契約書やJリーグ規約については、「野球とサッカーにおける『代表』の違い。」(企業法務戦士の雑感)を参考にした。
トラックバックURL

このエントリーのトラックバックURL:

コメント

なかなか熱い記事ですねー。

コメントする