※2012年12月1日より新ブログに移行しました。
>>>現行ブログ free to write WHATEVER I like
⇒2019年にさらにWordpressに移行しました。
>>>現行HP シャイン経営研究所(中小企業診断士・谷藤友彦)
⇒2021年からInstagramを開始。ほぼ同じ内容を新ブログに掲載しています。
>>>Instagram @tomohikoyato
   新ブログ 谷藤友彦ー本と飯と中小企業診断士
August 29, 2007

リチャード・フロリダの名言

拍手してくれたら嬉しいな⇒
 ある日、カーネギー・メロン大学の自分が受け持つ講座で学生たちと「知識経済」(knowledge economy)について議論していた時です。ドラッカーや大前研一、あるいは、この分野における日本人の研究について議論していると、女子学生の一人が、「私は、知識経済の理論が嫌いです」と言い出しました。「大学で公共政策や環境問題について勉強していますが、その一方で、GISマッピングが好きだし、夜はクラブでDJをやっています。私は自分をクリエイティブな人間だと思っています」と言ったのです。ほかの学生もみな、彼女の発言にはうなずいていました。

 彼女は、大学で身につける知識以上に、自分が本当にやりたいと思うことをやっていることに価値があるのではないか、ということを主張したかったのでしょう。

 私は、この学生が自分のことを「クリエイティブな人間」と定義したことにとても興味を覚えました。それは、私が「知識労働者」という言葉に感じていた物足りなさを払拭してくれる響きがありました。
(リチャード・フロリダ「『クリエイティブ・クラス』とは何か」『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』2007年5月号)

 リチャード・フロリダ(1957〜) 
 ジョージ・メイソン大学ハースト記念講座教授。「クリエイティブ・クラス」という新しい階層の提唱者。日本でも今年になって、『クリエイティブの世紀』が刊行されている。

 フロリダは「クリエイティブ・クラス」を2種類に分けている。1つは「スーパー・クリエイティブ・コア」というものである。彼らは「新しいアイデアや技術、コンテンツの創造によって、経済を成長させる機能を担う人々」であり、具体的な職業としては、「科学者やエンジニア、建築家、デザイナー、教育者、アーティスト、ミュージシャン、エンターテイナー」が当てはまる。そしてもう一つが、ドラッカーや大前研一が言うところの「知識労働者」であり、「ビジネス、金融、法律、医療などの分野で、独自の判断に基づいて複雑な問題解決に取り組む」専門家が該当する。

 実は、非常に似たようなことを主張している人物として、ダニエル・ピンクが挙げられる。大前研一が翻訳を手がけている『ハイコンセプト』の著者である。アルビン・トフラーが『第三の波』で農業から産業、そして知識・情報へという歴史的パラダイムを示したのだが、ピンクは知識・情報という「第三の波」に続く、「第四の波」としてハイコンセプトを提示し、「左脳思考と右脳思考の融合」の必要性を訴えた。フロリダもピンクも、単なる専門的知識だけでなく、創造性を重視している点では共通している。ただし、「第四の波」という言葉を使って、新たなパラダイムシフトを描き出したピンクの方がより急進的な考え方をしていると思う。

 ピーター・ドラッカーが「知識労働者」という言葉を生み出したのが1950年代のことであることを考えれば、知識経済の時代に突入してからまだ半世紀ほどしか経っていない。そして、知識経済の全容はまだ混沌として見えていない(「知識」の定義を巡って未だに揉めているぐらいだ)。産業革命が起こってから何世代も後に、ようやく資本主義の全体像がおぼろげながら解ってきて、ちゃんとした議論ができるようになったように、新しい時代の全体像がそれなりに捉えられるようになるには長い時間を要する。

 ピンクの言う「第三の波」のインパクトがまだ十分に明らかにされないままに、「第四の波」という新たなパラダイムへとジャンプアップするのはちょっとやり過ぎであるように感じられる。その点、フロリダの「クリエイティブ・クラス」は、従来の「知識労働者」「知識経済」の再定義・概念拡張という位置づけになっており、個人的には非常に理解しやすい。

 確かにドラッカーのいう「知識労働者」の定義はかなり狭かった。至極単純な表現をすれば、「知識労働者=高等教育を受けた人」であり、「高等教育」とは大学レベルの「教育機関での教育」を意味していた。しかし、必ずしも大学で学習した専門知識をそのまま仕事に生かしている人たちばかりではないし、専門知識は教育機関でしか身につけられないものではない。さらには、デザイナーやミュージシャンのように、知識と創造性がセットになっているような仕事をしている人もいる。

 晩年のドラッカーは、「およそ現代の製造業は知識産業である」とも述べていた。これは、自らの定義だけでは捉えきれない知識労働者の存在を暗に肯定した表現のようにも見て取れる。従来の理論の枠組みを乗り越えて、「知識経済」の全貌を描いていくことは、今世紀の重要な課題だと思う。

Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2007年 05月号 [雑誌]Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2007年 05月号 [雑誌]

ダイヤモンド社 2007-04-10

Amazonで詳しく見るby G-Tools
トラックバックURL

このエントリーのトラックバックURL:

コメントする