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August 21, 2007
【書評】森秀明著『IT不良資産−12のチェックポイントで見るシステム投資の実態とその解決法』
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ブーズ・アレン・アンド・ハミルトンの森秀明著。ブーズ・アレン・アンド・ハミルトンは戦略コンサルティング会社であるが、マッキンゼーやボストンコンサルティングに比べると、IT分野のコンサルティングにもより力を入れているような印象がある。
昨年の秋に日経コンピュータで「IT メタボリック症候群」なる新語が誕生した(http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/OPINION/20061031/252283/)。簡単に言えば、ユーザー部門の「こんな機能があったらいいな」というおねだりに負けて(または「こういう機能をつけろ」という脅し?に屈して)、情報システム部門(あるいはそことくっついている外部ベンダー)があれもこれもと機能を追加した結果、システムの機能が膨らみすぎてユーザーが使いこなせない、ひどい場合は全く使われないシステムが出来上がる、という状態のことだ。
ITが「不良資産」と化すのは、こうしたITメタボリック症候群にかかったときだけではない。戦略と整合性の取れないシステムを作ってしまった場合や、古いシステムのリプレース・廃棄のタイミングを掴み損ねた場合にもITは不良資産化する。本書はそうしたIT不良資産の現状と、ITを不良資産化させないためのITガバナンスのあり方について論じているものである。
本書を読み始めると、いきなり衝撃的な数字が飛び込んでくる。「我々の調査の結果、日本におけるハードウェア、ソフトウェアのIT資本ストックは全体で約16兆円だが、そのうちの約30%、約4.4兆円が不良化していることが判明した。もう一方で、IT費用は日本全体で毎年5兆円くらいだが、そのうちの約50%、およそ2.6兆円が不良化していることも分析から判明した。両方を合わせると約7兆円である。」(もっとも、2003年の書籍なので、現在はまたちょっと数字が異なるだろう。同社はこの調査を毎年やっているわけではなさそうなので、残念ながら最新のデータは解らない)。
同書でいうIT資産とは、「不利用資産」「無価値資産(利用はされているが、効果がいまいちなIT資産)」「不必要な費用(不利用資産と無価値資産の保守・運用費用)」「削減可能な費用(ITの効果は出ているものの、余計な保守・運用に費やされるコスト)」の合計を指している。
ただし、この数字には1つ留意すべき点があるだろう。それは、調査方法が完全に非公開になっている点だ。本来であれば、独自に行った調査はその方法をある程度明確に記述しておくべきであろう。まさか1つ1つの企業のシステムを逐一分析するなんていうことは考えられない。おそらくは、企業をサンプリングして「あなたの企業で不良資産となっているITは何%ありますか」といったアンケートに回答してもらっていると思われる。そもそも効果が見えにくいと言われるITに関して、肌感覚でIT不良資産の割合を答えているとすれば、その数値にどこまでの信憑性があるかどうかは判別できない(もっとも、不良資産化しているのにそれを認識していない場合ということもありうるから、厳密にはもっと不良資産額が大きい、という可能性もあるが)。
まあ、とはいえ「日本企業には無視できない金額のIT不良資産がある」ことを真っ向から否定する人はそうそういないだろうから、話は「どうやってIT不良資産をなくし、ITの成果を最大化するか」という点、すなわちITガバナンスに話を移そう。同書の面白い点は、成功、失敗ともに事例が豊富であることだ。様々な企業のIT投資判断の仕方、情報システム部門の役割と責任、経営陣の関与の仕方が紹介されていて興味深い。
ただ、事例が多い本に共通のことではあるが、事例から導かれる教訓は納得のいくものではあるものの概略的であり、それを現場で活かそうとするならば、頭を相当悩ますことになる。同書の最後の方に「まずは戦略ありきの企業体質を作る」という助言があるが、これこそ「解っちゃいるけど、実際にやるには血ヘドを吐くような思いをしなければならない」教訓の最たるものだろう。
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