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   新ブログ 谷藤友彦ー本と飯と中小企業診断士
April 07, 2006

MBO(目標管理制度)に欠陥あり…でも業績は好調??

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 ある企業の方とお話をさせていただいたく機会があったのですが、ひょんなことからMBO(目標管理制度)の話題になって、自社のMBOがいかにうまくいっていないかを語ってくださいました。

 この企業では次のような問題が発生しているとのことです。

○経営陣が設定した目標を出発点として、部、課、グループ、一般社員の順に目標をブレークダウンさせていくのだが、より下層の社員になるにつれて目標が細分化しすぎてしまい、目標の設定が困難になっている。誰かの立てた目標をコピーして使いまわすという事態が起こってしまう。

○名目上は絶対評価なので目標を達成したらいい査定が得られるはずなのに、評価の各段階の人数はあらかじめ決まっているために、上層部で評価の調整が行われる。上司としては、調整によって部下の評価が下がった場合に、どうやってフィードバックしていいか困る。

○目標設定シートを見るのにも、評価のシートを見るのにも時間がかかるため、制度を運用する側にとっては非常に負担になる。

 富士通の成果主義の失敗例とあまりに酷似しているので驚いてしまいました(上記の話はもちろん富士通の方から聞いたものではありません)。しかし、成果主義およびMBOの導入とともに業績が悪化した富士通とは対照的に、この企業の業績は好調であり、業界ではリーディングカンパニーと位置づけられる存在です。

 この企業の不思議な(!)ところは、MBOを導入していながら成果主義型の報酬制度を採用していないことです。残業代は通常どおり支払われていると言います。さらに、年功序列型の職能資格級制度に近い昇進システムも残っています。何のためにMBOを採用しているのか首を傾げたくもなるのですが、どうやらこの方の言葉を借りれば「社員の啓蒙のため、努力目標を書かせる」という目的でMBOを運用しているようです。こうした点を考えると、かなり不十分な形でMBOが運用されていると言えるのですが、それでも業績は悪化していません。

内側から見た富士通「成果主義」の崩壊 (ペーパーバックス)内側から見た富士通「成果主義」の崩壊 (ペーパーバックス)
城 繁幸

光文社 2004-07-23

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 『内側から見た富士通「成果主義」の崩壊』では、成果主義という制度自体が富士通を弱体化させた諸悪の根源であるかのように書かれています。これに対して私は、成果主義とMBOの導入によって、より早い昇進とより大幅な昇給が可能になるという経営陣と人事部の当初の「確約」が、様々な裏切り行為によって無残に破棄されたことが、制度崩壊の主たる原因だと見ています。もらえるものがもらえないと解ると、人間は激しい憎悪を抱き、モチベーションを著しく低下させるからです。

 私がお話を伺った企業のMBOにも確かに問題点は多いのですが、富士通の場合と違って、社員に過剰な期待を抱かせなかったのが幸いだったように感じます。「本当ならもっと給料が上がったはずだ」とか「本当ならもっと早く昇進できたはずだ」という声は聞かれませんでした。この企業の方が挙げた問題点を端的にまとめるならば、「MBOは面倒臭いし、やっている目的がよく解らない」ということに尽きます。「富士通の成果主義(2)−富士通の失敗からの教訓」の中で、「富士通の社員には、成果主義を徹底的に無視することを決め込んで、以前と変わらぬ態度で粛々と仕事をするという選択肢もあったように思えます。」と書いたのですが、この企業の社員はまさにMBOを無視して粛々と仕事をするという選択肢を選んだように見受けられました。

 富士通と同じような問題を抱えながらも、進んだ道はまったく違うという点で非常に興味深い話でした。
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