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March 03, 2006

富士通の成果主義(2)−富士通の失敗からの教訓

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内側から見た富士通「成果主義」の崩壊 (ペーパーバックス)内側から見た富士通「成果主義」の崩壊 (ペーパーバックス)
城 繁幸

光文社 2004-07-23

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 富士通の成果主義は運用面で多くの失敗をしたと言えます。ここでは、個人的に富士通の事例から学ぶ教訓を書いてみようと思います。

(1)経営陣が自社事業の方向性を示さないまま導入した成果主義は危険である
 富士通はシリコンバレーの企業に倣って成果主義を導入しました。しかし、シリコンバレーの企業の多くは急成長の途上にある企業です。事業の見通しも明るく、少なくとも今後数年は業績の拡大が見込める企業でした。こうした状況のもとで成果主義を導入するならば、社員は今後の自社の業績拡大に伴って自分の給与が増加することを容易にイメージすることができます。期待理論によると、動機は報酬とその報酬が得られる期待の積によって決定されます。シリコンバレーの企業は、成果主義によって社員を動機づけるための条件を整えていたことになります。

 ところが、富士通が成果主義を導入したのはバブルが崩壊した直後でした(※注)。業績は落ち込み(1992年に富士通は赤字を記録している)、先行きが不透明な状態でした。経営陣としては、成果主義によって猛烈に頑張る社員が登場し、そこから新しい事業が生まれる、あるいは既存の事業において新たな成長の方向性が見つかることを期待したのでしょう。しかしながら、この先どうなるのか解らない不安の中で、自社の新たな方向性を見出すきっかけを与えてくれるほど働いてくれる社員というのは、ごく僅かいるか、あるいは全くいないかのどちらかです。もちろん、社員数が少なければ、その「ごく僅か」の社員に賭けることもあるでしょうが、富士通は万単位の社員を抱えているのです。賭けるにはリスクが大きすぎます。

 さらに言えば、事業の方向性を決定する、要するに戦略を立案するのは本来は経営陣の役割です。その役割を十分に果たさないまま、社員に丸投げしてしまったのはほとんど自殺行為に近いものでした。事実、当時の経営陣は業績が上がらないことを社員の努力不足のせいにするような発言をして、内外から大顰蹙を買ったことがありました。成果主義は、経営陣がしかるべき役割を果たし、しかるべき責任を負って初めて社員に理解されるものです。

(2)もらえると思ったものがもらえないと解った時の人間の反動は恐ろしい
 評価がいい加減で成果主義の本来の趣旨に沿ったものではないというのも書籍から読み取れることです。しかし、個人的には評価の不公平さ、不透明さはそれほど問題ではないと思っています。なぜならば、それまでの年功序列的な評価制度は公平さ(成果に見合った給与を支払うという意味での公平さ)も透明性もほとんど問題にしないものであり、その年功序列のもとで富士通は成長を遂げてきたからです。評価が公平でない、制度に透明性がないといっても、これまでもそうであったのだから、極端な言い方をすれば、「評価制度は以前とそんなに変わっていない」のです。

 富士通の社員には、成果主義を徹底的に無視することを決め込んで、以前と変わらぬ態度で粛々と仕事をするという選択肢もあったように思えます。けれども、その選択肢は取られませんでした。私は、成果主義によって社員に変な期待を持たせてしまったことが問題であったと思います。いい評価を取ればたくさん給与がもらえる、社員はこう考えました。経営陣も人事部もそう言いました。しかし、相対評価の時期には、自己評価は良かったのに管理職クラスで不可解な調整が入り賞与が上がらなかったり、絶対評価の時期には、いい評価であっても周囲も同じくいい評価であるために賞与が上がらなかったりという「裏切り行為」が相次ぎました。もらえるはずのものがもらえないという悲しい現実は、冷たく社員の心に突き刺さるものです(日常生活でも、これほどがっくりくることはない)。そして、そんな時に限ってちゃっかり報酬をもらっている人間がいることを知ると、激しい憎悪を覚えます。案の定、多くの社員が富士通を去っていきました。会社の裏切りに対しては、社員も報復行為を用意しているのです。


《※注》 アメリカ企業が1980年代に苦境に陥った時、やはり富士通と同じように成果主義を導入した。それらの企業の中には90年代に入って業績を回復させたところも少なくないが、その要因は成果主義とリストラ、事業整理を組み合わせた徹底したコスト削減によるところが大きい。結果として社員の疲弊を招き、大きな問題となったことがあった。


《追記》 光文社ペーパーバックスの日本語・英語併記(例えば「そんなことは、あってはならない never happen はずだろう」といった具合に、英語交じりの表記がされている!)は個人的にとても読みづらい。光文社は書籍に再生紙を使用して、環境問題を真剣に考えていることをアピールしているが、この英語交じりのせいで5ページぐらい余計に紙を使っているのではないか?と突っ込みたくなるのは私だけではないはず…
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