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February 08, 2006

ストックオプション制度、従業員持ち株制度などの株式報酬制度に思うこと

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 転職活動でスカウトサービスを利用していると、前職が情報システム業界だったためか、IT業界の企業からしばしばメールを頂きます。募集要項を見ていると、ストックオプション制度(※1)を採用している企業が結構多いことに気付かされます。

 近年広まりつつあるストックオプション制度は、IT業界のように比較的歴史が浅い業界において進んで導入されているようです。しかし、自社株を報酬として与えるのはストックオプション制度に限らているわけではありません。例えば、従業員持株制度(※2)というものもあります。

 ストックオプションや従業員持株制度のような株式報酬制度の場合、自社株を所有している従業員自身の努力が業績向上に繋がれば株価が上昇し、上昇分が従業員に報酬として跳ね返ってくるため、従業員の動機づけには効果的であるというのが一般的です。しかし、だからといって動機づけのためには株式報酬制度を導入すればよいということにはなりません。

 自社株を購入するということは、自社に投資するということです。よって、当然のことながら、自社が投資する価値のある企業であるかどうかが非常に重要です。売上が下がって従業員の士気も下がっている、しかも市場は成熟しつつある。こんな状況で、従業員のモチベーションを上げるために安易に株式報酬制度を導入したならば、おそらく経営陣は従業員から反感を買うでしょう。もちろん、株主総会での発言権しかない一般の投資家とは違い、従業員株主の場合は自ら行動することができるため、経営陣は従業員に向かって「株式資産をパーにしたくなければなんとかしろ」とハッパをかけるかもしれません。しかし、単なる危機感だけでなく、自分の資産が吹っ飛ぶかもしれない危険を抱えればたいていの従業員は保守的になります。

 アメリカでもストックオプション以外に様々な株式報酬制度があります。しかし、株式報酬制度は万能薬ではありません。ある調査結果によると、株式報酬制度が効果を発揮するのは次のような場合だそうです。
(1)成長を目指す新興企業
 これから成長しようという、まだ起業して間もない企業にとって、社員に自社株を保有させるのは、他の手段では望めないような優れた人材を集める絶好の手段となる。

(2)「骨を埋める職場」を目指す企業
 世の役に立つ仕事、気前のよい報酬、前向きな職場環境が揃っている企業の場合、株式報酬制度が社員中心の企業文化をごく自然に補完する。

(3)競争圧力を受けている企業
 幅広い社員を対象とした株式報酬制度と、その趣旨にふさわしい経営方針に貫かれている企業は、競争圧力に対してほとんど無敵の抵抗力を備えている。

(4)伝統ある中堅企業
 大なり小なり安定した、いわゆる中級の企業で、成長と好業績を望んでいる企業は、株式報酬制度の導入により、多少なりとも同業他社とは異なる印象を顧客に与えることができる。

(5)企業倫理の面でイメージを高めたい企業
 若い企業で、他者に示すことのできる伝統や実績が乏しい場合、社員が株主になっていると創業者は一時の金儲けのために事業を興したのではないことが顧客にはっきりと伝わる。
(『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』2006年1月号に掲載された論文「『従業員オーナーシップ』経営」をもとに作成)
Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2006年 01月号Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2006年 01月号

ダイヤモンド社 2005-12-10

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 顧客に対する印象をよくするという(5)を除いて、株式報酬制度が有効なのは一言で言うと「成長が見込める企業」ということになります((3)も「競争圧力を受けている」というネガティブな表現になっていますが、競争圧力に耐えられる経営方針を持っているというのがポイントです)。株式報酬制度が従業員を動機づけ、企業の成長をもたらしているというよりも、すでにある程度の成長を達成している、あるいは達成しつつある企業が、株式報酬制度の導入によって従業員のさらなる努力を引き出し、より堅固な成長を達成しているというのが現実であるように思います。

 個人的には、株式報酬制度の導入は、従業員のモチベーション向上にとってそれほど重要であるとは思いません。動機づけにおいて重要なのは、自社の成長が見込めるような経営方針、業務プロセス、職場環境があるかどうかです。株式報酬制度は、自社の成長が見込める状況において、従業員の「プラスアルファ」の動機づけをもたらすのに効果的であって、それ以上ではないと考えています。


(※1)ストックオプション制度 役員や従業員などに一定量の株式を一定期間に一定の価格で自社から買い取ることのできる権利を付与する制度。株式の買い取り価格よりも株価が高い場合に、権利を行使して株式を買い取った後、それを第三者に売却すればキャピタルゲインが得られる。

(※2)従業員持株制度 会社がその従業員に自社株を保有してもらうための制度。上場企業の大部分で導入されている。目的としては、(1)福利厚生の一環として従業員の財産形成を図ること、(2)従業員の経営参加意識を高めること、(3)企業買収に備えて安定株主を形成すること、などがある。通常は、従業員持株会という常設機関を設立し、会員である従業員から毎月一定額を拠出してもらい、株式を共同購入して、拠出額に応じて持分を配分する。従業員持株会の運営は証券会社に委任されることがほとんどである。
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