※2012年12月1日より新ブログに移行しました。
>>>現行ブログ free to write WHATEVER I like
⇒2019年にさらにWordpressに移行しました。
>>>現行HP シャイン経営研究所(中小企業診断士・谷藤友彦)
⇒2021年からInstagramを開始。ほぼ同じ内容を新ブログに掲載しています。
>>>Instagram @tomohikoyato
   新ブログ 谷藤友彦ー本と飯と中小企業診断士
Top > 仕事 アーカイブ
<<前の3件 次の3件>>
July 07, 2012

いたずらに新しさを追求することに果たして意味はあるのか?という疑問―創業1周年に寄せて(1)

拍手してくれたら嬉しいな⇒
 7月1日で弊事務所が創業1周年を迎えました。ただ、だからといって特に何もないです(苦笑)。ボチボチやっている感じです。HPも後回しになったままで、未だに完成していませんし・・・。とはいえ、せっかくなので今考えていることを書いてみようかと。

 ちょうど先日、ブログの右欄についている「ブログを評価してください」のアンケートに、「耳年増的で限界が」というネガティブなコメントが寄せられた。「耳年増」とは、聞きかじりの知識ばかりが豊富な女性のことであり、特に性的な知識を指すようなので、このコメントを書いた人は、言葉の意味を正確に解った上で使っているのかなぁ?という疑問を感じる反面、「聞きかじりの知識が多い」という点に絞って言えば、痛いところを突かれたという気持ちであった。

 現在、このブログを始めてから8年目になる。右欄のカテゴリー別の記事数をご覧になればお解りになるように、財務・会計やガバナンスに関する記事が極端に少なく、また、カテゴリーにはないが、生産・在庫管理など私が弱い分野もまだたくさんある。それでも、経営の技術について新しいものを追い求め、それを私なりに幅広くあれこれと書いてきたつもりである。とはいえ、私の情報源は大半がビジネス籍であり(守秘義務の関係上、仕事のことは書きにくいという事情もあるのだが・・・)、それを様々に組み直して論じるのが私の基本スタイルであるから、「聞きかじりの知識が多い」という批判はある意味当たっており、耳が痛いのである。

 その“聞きかじった範囲”でこんなことを言うとまた怒られそうだが、最近は新しい技術や技法、ノウハウをいたずらに追い求めることに、果たしてどれほどの価値があるのか?という疑念が私の頭に浮かんでくるようになった。非常に乱暴な議論になるけれども、仮に新しい知識や情報が増加するにつれて人間の能力や創造力が向上するならば、その分だけ経済も成長するはずである。

 ここで、1980年以降の新刊書籍の出版点数と実質GDPの推移を見てみる。新刊書籍の点数は1980年比で約2.8倍になっているのに対し、実質GDPは約1.9倍にとどまる(ピンクの折れ線。近年はデフレなので、名目GDPで計算すると倍率はもっと低くなる)。ここに、インターネット上の情報を加えれば、情報量と経済の拡大スピードには歴然とした差が生まれるのは明白である。

<新刊書籍点数の推移(1980年〜2010年)>(※1)
新刊書籍点数の推移

<実質GDPの推移(1980年〜2010年)>(※2)
実質GDPの推移(1980年〜2010年)

 もちろん、新刊書籍の全てが新しい知識を扱っているわけではなく、過去のものに若干手を加えたレベルの書籍もあるし(むしろそういう書籍の方が多いかもしれない)、そもそも新刊書籍はビジネス書に限られない。同様のことは、インターネット上の情報にも当てはまる。インターネットの場合は、罵詈雑言に近い情報も多分に含まれているものと推測される。だから、単純にこのグラフの比較だけで、知識や情報の量と経済規模は比例しないという結論を下すことはできない。しかし、あるデザイナーが、昨今の情報技術の発達によってデザイナーの創造力は上がったか?という問いに対して、「下手な絵が増えただけだ」と答えたというエピソード(※3)は、それなりに現実を捉えている気がしてならないのである。

 かつて、ナレッジマネジメントシステムの導入が経営のブームになり、営業部門内では優良な提案書を、設計部門では優良な設計書を共有する、といった動きが広がった。ところが、一部の企業からは、「システム上は新しい提案書が増えても、営業担当者の提案書の質が向上しない」とか、「3D-CADで設計した設計書を共有すると、若手は設計の妥当性検証をシステムに頼るようになり、製造ラインでちゃんと製造できるかどうかを厳密に考えて設計する力が落ちた」といった声を聞いたものである。

 前者に関して言えば、優良な提案書と言えども不完全な部分はあるし、ある顧客向けの特有の情報を含んでいるから、それを安易にコピーして新しい提案書を作ると、かえって不完全な提案書になってしまうことが一因である。イメージとしては、90%ぐらいの出来の提案書を基に提案書を作ると、その8割ぐらいの完成度になる感じである。それが繰り返されていくと、90%×80%×80%×・・・といった具合に、完成度はどんどん下がっていくのである。

 後者に関して言えば、ドキュメントには設計者の”思想”までは反映されていない、言い換えれば、どういう意図でそういう設計にしているのか?という部分が見えないため、本当の意味での設計力が若手に伝承されない、ということである(ただ最近は、そういう設計思想も共有可能なシステムが登場しているらしい)。話があちこち飛躍している感じがしなくもないものの、要するに、いたずらに新しさを追求することは、果たして本当によいことなのか?というのが、最近の私の率直な実感なのである。

 (続く)


(※1)「新刊点数の推移 (書籍)」(日本著者販促センターHP)のデータより作成。

(※2)「日本のGDPの推移」(世界経済のネタ帳)のデータより作成。

(※3)村山昇著『“働く”をじっくりみつめなおすための18講義―よりよく働くための原理・原則』(クロスメディアパブリッシング、2007年)

“働く”をじっくりみつめなおすための18講義―よりよく働くための原理・原則 (アスカビジネス)“働く”をじっくりみつめなおすための18講義―よりよく働くための原理・原則 (アスカビジネス)
村山 昇

クロスメディアパブリッシング 2007-08

Amazonで詳しく見る by G-Tools
June 18, 2012

中小企業白書(2012年)に対する疑問―中小企業の強み「短納期・小ロット」は海外展開では弱み

拍手してくれたら嬉しいな⇒
 先週、中小企業診断士の理論政策更新研修に行ってきた。中小企業診断士は5年ごとに更新が必要で、更新要件の1つに「理論政策更新研修を5年間で5日受講する」というものがあるのだけれども、私は最初の3年間サボっていたツケが回ってきて、去年からの2年で5回も受けるハメに(先週で4回目)。診断士の皆様、ちゃんと1年に1回ずつコンスタントに受講しましょう。私みたいにえらいことになりますから・・・。

 研修では、今年度の「中小企業白書」の概要と中小企業関連施策に関する講義があった。まだ製本されておらず、中小企業庁のHPでPDFが公開されているだけなので、中小企業庁HPへのリンクを貼っておく(出版されたらリンクを貼り直す予定)。 6月末に出版されました。 ちなみに、昨年度は東日本大震災の影響で白書の書き換え作業が発生したため、白書の発表が7月にずれ込んでしまったが、今年度は例年とほぼ同じ時期の発表となった。

 中小企業白書(2012年版)の発表について(中小企業庁、2012年4月27日)

中小企業白書 2012年版中小企業白書 2012年版
中小企業庁

日経印刷 2012-06

Amazonで詳しく見る by G-Tools

図解要説 中小企業白書を読む 2012年度対応版図解要説 中小企業白書を読む 2012年度対応版
安田武彦

同友館 2012-07-03

Amazonで詳しく見る by G-Tools

 1点、第2部の冒頭の記述で気になった箇所があったので、その点について述べておきたい。
 中小企業が持つ潜在力とは、変化する社会環境において、何らかの障害があって利用されていない経営資源である。小ロット・短納期への対応、技術力、マーケティング力、充実したアフターサービス、高い社会意識等の潜在力を持つ中小企業が、東日本大震災からの復興に大きな役割を果たしていく姿を明らかにするとともに、国内外の成長機会を取り込むことで潜在力を発揮している、海外展開企業及び女性の事業活動について取り上げる。
 この文章を読むと、(私の邪推ではないと思うが、)「小ロット・短納期の対応」という中小企業の強みが、海外展開にも活かせるかのような印象を受ける。しかし、実際には、「短納期の対応」はいいとしても、「小ロット」は逆に弱みになるような気がするのである。つまり、海外展開をするためには、「大ロット、短納期」を実現しなければならない。

 理由は非常に簡単で、海外、特に新興国の市場は、日本とは比べ物にならないほど規模が大きい上に、成長スピードも速いからである。小ロットでしか納品できないメーカーは、海外企業から相手にされないだろう(相手にされたとしても、富裕層向けのニッチな市場に限定される)。

 以前、(普段は滅多に見ない)テレビ番組で見たのだが、ある竹の産地が生き残りをかけて海外市場に挑むという特集があった。この産地に集積している中小メーカーは、竹の弾力性と肌触りを活かして、通常の椅子とは座り心地が全く違う椅子を開発した。メーカーがこの椅子を海外の家具販売会社に提案したところ、製品のコンセプトやデザインはメーカーの思惑通りに受け入れられた。

 ここまでは順調だった。ところが、取引条件として、「いついつまでに、同じ椅子を△△個、同じ品質で納品してほしい」(詳しい時期と数は忘れてしまった(汗))という、非常に厳しいものを突きつけられてしまったのである。この条件は、どのメーカーの製造能力をもはるかに上回っていた。それでも、何とか地域の中小企業が力を合わせて納品にこぎつけたので、その販売会社で竹の椅子を取り扱ってもらえることになり、めでたしめでたし、というエンディングであった。

 しかもこの販売会社は、新興国ではなく、欧州の企業だったと記憶している。ヨーロッパ(EU)も、1つ1つの国は小さいものの、全体を合わせれば約5億人という、アメリカを上回る巨大市場である。しかも、EU加盟国は地理的にも近いため、EUの複数の国でビジネスを展開する企業も多い。その企業を相手にするならば、小ロット生産ではお話にならないのである。これが、人口10億を超える中国やインドが相手となれば、そこまで行かなくとも1億前後の人口を抱える国々が相手ならば、やはり大ロット・短納期を実現しない限り、持続的なビジネスにはならないと思うわけである。

 あと、同じ引用文に関して、ものすごく細かいことを言うと、中小企業の強みの1つに「マーケティング力」が挙げられている一方で、「第2章 中小企業の経営を支える取組」では、中小企業の経営課題として「営業力・販売力の強化」が第1位になっている。これが、若干解せないんだけどね・・・。マーケティングは強いのに営業力は弱いってどういう状態なんだ??
March 14, 2012

オフィス・エボルバーのビジョン(ドラフト)の補足(2)

拍手してくれたら嬉しいな⇒
 前回「オフィス・エボルバーのビジョン(ドラフト)の補足(1)」の続き(⇒オフィス・エボルバーのビジョン草案)。

 【価値観】
 これは、新しいアイデアを生み出し、それを実現するための基本的な行動原則を並べたものである。1つ1つは取り立てて珍しいものではないと思う。我々はこれらの規範に従って、お客様のビジネスにとってプラスとなるアイデアを構想し(または、お客様自身がアイデアを構想できるよう支援し)、それが現実のものとなるまで寄り添い続ける。

 「1.慣例や常識を疑う。」
 「2.一方で、伝統を尊重する。」

 どんな仕事であっても、それが初めて誰かに割り振られた時には、何かしらの合理的な理由や根拠があったはずだ。ところが、時間の経過とともに、その理由や根拠が正当性を失い、人々の記憶から消え去ってしまうことが多い。新しい仕事は、既存の慣例や前提、常識やルール、やり方や手続きを疑い、否定するところからスタートする。

 あらゆる仕事について、「なぜそれをやっているのか?」、「それをやり続けるもっともな理由はあるか?」と問わなければならない。その答えがNoであれば、その仕事は止めるべきだ(ドラッカーが言うところの「体系的廃棄」である)。そして、新しい現実を前に、「何を前提としなければならないか?」を問い、その前提に基づいた新しい仕事を設計する必要がある。

 だが、無駄に思える仕事や無効に感じる慣習を何でもかんでも否定すると、それはそれで災いを招くから要注意であるこれが、一見矛盾するようだけれども、2番目に「一方で、伝統を尊重する。」という項目を入れた所以である。よくよく考えると、実に高度に設計された仕事というのはあるものだ。最近、興味深い記事を読んだので引用しておく。
 高級なクラブなどに行くと気づくのは、そこにある灰皿が極端に小さいことだ。小さく造形された灰皿はそれだけで独特な美しさを持っているが、ここには原作者の粋なアイデアが詰まっている。小さな灰皿は、一本でもたばこを吸えばいっぱいになってしまう。そうすると、スタッフが灰皿を新しいものに替える。そうするとことで、客への細やかなサービスを演出できるし、スタッフに自然と客へ細かく注目させることを可能にしている。

 もちろん、これを違うやり方で実現することもできる。たとえばマネージャーが、スタッフに「客を細かく見ろ。灰皿は、客が一本たばこを吸ったら必ず変えろ」と言えばいい。そういうマニュアルを作ってもいいし、バックルームに貼り紙をしてもいい。なんらかの指示や号令を書いた張り紙は、オフィスなどでもよく見られるものだ。でも、これは無粋なのだ。
(「フェンスを外す人」[β2、2012年2月27日])
 こうした伝統は捨ててはならない。マイケル・ハマーが90年代に著書『リエンジニアリング革命』でBPR(Business Process Reengineering)を提唱した際、アメリカ企業はこぞってBPRに飛びついた。しかしながら、株主に対して約束したコスト削減目標を達成することばかりが目的と化し、捨ててはならない仕事まで捨ててしまった結果、その後の競争力に影を落としたという苦い経験を思い出す必要がある。

 「3.現実世界をよく観察する。」
 「4.創造力を働かせる。」
 「5.異分野から積極的に学ぶ。」

 机の上に座って誰かが編集した数字や情報を眺めているだけでは、斬新なアイデアはまず出てこない。先入観を捨てて現実世界をじっくりと観察し、帰納的思考を駆使することによってこそアイデアは湧いてくる。インドのタタ・モーターズの低価格車「ナノ」は、いわゆる市場調査ではなく、会長自身がインドの交通事情を観察するによって誕生したことは、以前このブログでも紹介した(「リーダーが帰納的に課題を設定するとはどういうことか?」)。

 アップルのマッキントッシュも、スティーブ・ジョブズの観察によって誕生した製品である。ジョブズは、ゼロックスのパロアルト研究所を見学した際、数々のアイコンやウィンドウが画面に並び、その全てをマウスのクリック1つで操作するコンピュータを観察して、「いつか全てのコンピュータが、こんなふうに動作するようになるとはっきり解った」と悟ったという。それから5年をかけて開発されたマッキントッシュは、世界で初めてGUI(グラフィカル・ユーザ・インターフェース)を搭載したパソコンだった(※1)。

 製品やサービスだけでなく、経営手法も観察から生まれることがある。トヨタ生産方式は、生みの親である大野耐一がアメリカ出張中に、当時の日本にはまだなかった大規模な食品スーパーを観察したことがきっかけであった。スーパーでは、買い物客が必要な品物を必要な分だけ買い物かごに入れていく。これと同様に、各工程も必要な部品を必要な分だけ前工程から引き取れば、余分な在庫を持たなくても済むのではないか?と大野は考えたわけだ。

 そして、大野耐一の例からも解るように、イノベーティブなアイデアはしばしば、異分野との結合によって創造される。例を1つ挙げると、数か月前に在庫管理のコンサルタントの講演を聞く機会があった。この方は、古典的な在庫管理の方法論(発注点における発注量や、安全在庫量などを算出する理論)に異議を唱え、より実用的かつ精度の高い在庫管理を可能にする理論を構築した、在庫管理の第一人者とでも言うべき専門家である。その人が理論の着想を得たのは、意外なことに1つはアインシュタインの相対性理論の数式であり、もう1つはピカソの絵だったという。

 異分野同士の交流から画期的なアイデアが生まれる、という例は枚挙にいとまがない。古くはイタリアのメディチ家が、彫刻家から科学者、指示、哲学者、画家など、幅広い分野の専門家をフィレンツェに集め、彼らが創造的な作品を次々と生み出す触媒となった。これは「メディチ現象」と呼ばれる(※2)。

 フランスの豊かな芸術や思想は、同国のカフェ文化と切り離すことができないと言われる。アポリネール(詩人)、ピカソ(画家)、ヘミングウェイ(小説家)、サルトル(哲学者)らの知識人は足繁くカフェに通い、異分野の達人たちとのコミュニケーションを通じて、自分のアイデアに磨きをかけていった(※3)。アイデアの枯渇とコミュニケーションの断絶に悩む最近の企業は、こうしたカフェ形式でのオープンな対話に打開策を求めているようで、「ワールド・カフェ」なるものがちょっとしたブームになったりもしている。

 イーベイの創設者であるピエール・オミダイアは、新しアイデアのためなら郵便係と話をすることだって厭わない、といった趣旨の発言をしている。我々もこのぐらいの気持ちで、異分野を積極的に知る気概を持たなければならない。
 「合い言葉にするなら『CEOより、郵便係と話したい』って感じかな。自分とは違う背景、考え方を持つ人とこそ出会いたい。とにかく色々な思考方式に触れたいんだ。決まった方法にとらわれず、全く自由なやり方で、様々な方面からインプットを得ている」(※1)

 「6.チームワーク、多様性を活用する。」
 「7.相手の提案やアイデアに真摯に耳を傾ける。」
 「8.相手に積極的に提案する。また、反対意見を恐れない。」

 自分が思いついたアイデアは、それだけではまだよちよち歩きの赤ん坊に過ぎない。だから、周囲の人の意見を聞き、支援を仰ぎながら、一人前の大人へと育て上げる必要がある。その際には、できるだけ様々な考え方、能力、バックグラウンドを持った人たちの力を借りるとよい。多様性に満ちた人材は、自分が見落としていた視点を教えてくれる。時には、耳が痛い反対意見に出くわすこともあるだろう。しかし、反対意見は物事の本質を突いている可能性がある。だから、反対意見こそ歓迎しなければならない。

 これは、自分がアイデアを思いついた時だけでなく、他の誰かが思いついたアイデアを自分に持ちかけられた時も同様である。相手のアイデアに欠けていると感じる視点を補い、時には反対することを恐れてはならない。地位や年齢、経験年数の違いなど気にしなくてもよい。アイデアの前では、何人も平等でなければならない。「法の下の平等」ならぬ、「アイデアの下の平等」である。

 「9.投入したリソースとパフォーマンスのバランスを厳しく検証する。」
 「10.利益の質を追求する。」

 最後の2つは、コンサルティングなどでいろんな企業のことを見聞きしてきた中で、「こういうことをしてはいけないな」と、反面教師的に追加した項目である。9などは当たり前のように思えるが、当たり前のことが案外できなかったりするものである。どんなに素晴らしいアイデアも、最終的に利益に結びつかなければ、企業として意味がない。アイデアが利益に結びつくシナリオを描き、シナリオ通りに進んでいるかどうか、絶えずモニタリングする必要がある。そして、どんな改善策を打っても芽が出なさそうなアイデアは、涙を呑んで摘む覚悟を持たなければならない。

 もう1つ忘れてならないのは、利益につながるアイデアならば何でもよい、というわけではないという点だ。今ここで策定したビジョンという基軸から外れることだけは、断じて避けなければならないと思う。つまり、【目的】の実現につながるものを、【価値観】に沿ったやり方で実現しなければならない。

 ある中小企業の元社員の方から聞いた話で、(その方には申し訳ないが)1つ次元の低い話を紹介したい。その企業では、5年ほど前に一度、大きな黒字を出した。しかしその黒字は、経営陣が本業とは別に運営していた投資部門が稼いだものであった(その当時は好景気だったことが幸いした)。実のところ、本業は赤字だったにもかかわらず、投資部門の黒字のせいで実態が見えなくなっていたのである。その年の年度末には、黒字祝いとして、高級ホテルのレストランを貸し切り、シェフを招いて随分と派手なパーティーをした。

 だが、その後の5年間では、一度も黒字を達成できなかったばかりか、経営破綻寸前の赤字を出し続けた。もちろん、5年前のような派手なイベントは行われなくなった。元社員の方によると、こんな状態でも経営陣は、「投資部門の運用益で、自分の給料分ぐらいは稼げる」と言って憚らなかったし(言うまでもなく、経営陣の仕事は自分の給料を稼ぐことなどではない)、朝出社するとまず最初に声をかけるのは投資部門の社員であったそうだ。

 経営陣は「朝の挨拶をしているだけだ」と思っているかもしれないが、経営陣の習慣を見続けた社員は、「うちの経営陣は、本業よりも投資の方が優先なんだな」と感じたに違いない。こういう経営は甚だよろしくない。絶対に真似してはならない、と私は思った。


(※1)クレイトン・クリステンセン他著『イノベーションのDNA―破壊的イノベータの5つのスキル』(翔泳社、2012年)

イノベーションのDNA 破壊的イノベータの5つのスキル (Harvard Business School Press)イノベーションのDNA 破壊的イノベータの5つのスキル (Harvard Business School Press)
クレイトン・クリステンセン ジェフリー・ダイアー ハル・グレガーセン 櫻井 祐子

翔泳社 2012-01-18

Amazonで詳しく見るby G-Tools

(※2)フランス・ヨハンソン著『メディチ・インパクト』(ランダムハウス講談社、2005年)

メディチ・インパクト (Harvard business school press)メディチ・インパクト (Harvard business school press)
フランス・ヨハンソン 幾島 幸子

ランダムハウス講談社 2005-11-26

Amazonで詳しく見るby G-Tools

(※3)飯田美樹著『Caf´eから時代は創られる』(いなほ書房、2009年)

新版 Caf´eから時代は創られる新版 Caf´eから時代は創られる
飯田 美樹

いなほ書房 2009-09

Amazonで詳しく見るby G-Tools