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January 05, 2012

KPI(重要業績評価指標)の取得方法を工夫しよう―『日経情報ストラテジー(2012年2月号)』

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日経情報ストラテジー 2012年 02月号 [雑誌]日経情報ストラテジー 2012年 02月号 [雑誌]
日経情報ストラテジー

日経BP社 2011-12-28

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【997本目】1,000エントリーまであと3。

 明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。新年一発目の記事は軽めで。『日経情報ストラテジー』の定期購読を始めて4か月になるけれど、やっぱDHBRに比べるとコストパフォーマンスが低いな・・・日経情報ストラテジー1冊あたりの料金は、DHBRの約半分。しかしながら、日経情報ストラテジーを2冊読めばDHBR1冊と同じくらい濃い情報が得られるかというと、今のところかなり疑問。まぁ、もうちょっと辛抱強く読み続けるか。飽きたらこのブログで取り上げるのをやめます。

 2月号で印象に残ったのは、新幹線の車内販売を手掛ける「ジェイアール東海パッセンジャーズ」の事例。販売業務改善に向けた施策の効果を定量的に測定している点が興味深かった。
 最近、同社が取り入れたのが「振り返り販売」と「お勧め販売」である。振り返り販売とは客席を通過しても何度も振り返り、お客の見逃しを無くすこと。一方、お勧め販売とは、お弁当を買った人にお茶を勧めるというような”関連販売”だ。(中略)

 2つの販売について、きっちりと数値管理している。2010年12月では、振り返りとお勧めの回数は、それぞれ7195回(1列車当たり約24回)と3913回(同13回)。うち販売に結び付いた回数は411回(17回に1回ほど)と1312回(3回につき1回ほど)という高さだ。
 以前の記事「プロセスKPIを設定するための5つの視点」で書いたように、業務プロセスの生産性や各種施策の効果をモニタリングするには、KPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)を用いたマネジメントが有効である。KPIは、これもまた昔「実務的なプロセスKPIにファインチューニングする3つのポイント」という記事で書いた通り、「値を継続的に測定できる」ものでなければならない。実のところ、KPIマネジメントは、この部分で頓挫することが多い。すなわち、値を測定し続けることが困難であるために、だんだんとモニタリングが雑になり、やがて放棄されてしまうのである。

 しかし、ジェイアール東海パッセンジャーズの事例は、工夫次第でKPIの値を取得できることを示唆している。私の推測の域を出ないが、同社は振り返り販売やお勧め販売の効果を測定するために、パーサー(販売員)が持っている端末を多少改良したのであろう。つまり、製品ごとに割り当てられているボタンの一部を、「振り返り販売実施」、「振り返り販売成功」、「お勧め販売実施」、「お勧め販売成功」というボタンにして、それぞれの回数をカウントしたのだと思われる(間違っていたらスミマセン)。

 似たような効果測定を、もっと徹底的にやっていると感じるのが、マクドナルドである。マクドナルドは100円マックのクロスセルに力を入れている。例えば昼下がりの時間帯にコーヒーだけを頼むと、必ず100円マックを勧められる。また、週替わりで様々なキャンペーンを展開しており、直近では「マックフライポテトLを買うと、割引券などが当たる福引がついてくる」というものがあった。キャンペーン期間中にポテトMやSを注文すると、クルーは必ずLサイズへのアップセルを行う。

 店員がこうしたキャンペーンの紹介を顧客に対して行った後、POSレジに特定のキャンペーンコードが表示されることに気づいた方もいらっしゃるのではなかろうか?店員がPOSレジのキャンペーンボタンを押して、キャンペーン実施の有無をカウントしていると考えられる。さらに、表示されるキャンペーンコードや、店員がPOSレジを打ち込む操作を見ていると、成功・失敗を問わず、押すボタンは1つと決まっているようである。

 実際、クロスセルやアップセルの成功率を算出するには、ボタンが1つあれば十分である。「Xという製品の注文があった時はYという製品を勧める」という条件さえ整っていれば、「クロスセル/アップセルの実施フラグ」を立てるボタンが1つあればよい。クロスセル/アップセルの成功率は、フラグが立っているトランザクション(取引)データのうち、Y製品が含まれるトランザクションの割合を計算することで求められる(※)。

 ジェイアール東海パッセンジャーズのように、パーサーの数がそれほど多くなければ、多少複雑な操作でもトレーニングでカバーすることができる。ところが、マクドナルドのクルーは16万人にも上り、その大半はパートやアルバイトである。彼ら彼女らが確実に操作できるように配慮されているというわけだ。

(※)逆に、ジェイアール東海パッセンジャーズの場合は、クロスセルのパターンを明確に決めることが難しい。例えば、お酒を買った顧客におつまみを勧めたところ、その顧客はおにぎりなどの軽食を選択するかもしれない。あるいは、ご当地のお土産を買った顧客に別のお土産を勧めたら、その顧客は友人に自分と一緒のお土産を送ろうと、同じお土産をもう1つ購入するかもしれないからだ。こういう場合には、マクドナルドのようにボタン1つでやりくりすることができないため、「お勧め販売実施」、「お勧め販売成功」という2つのボタンを用意する必要があるだろう。
July 10, 2011

結果とプロセスをバランスよく評価しよう―『失敗に学ぶ人 失敗で挫折する人(DHBR2011年7月号)』

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 7月号のレビューを書いているうちに、8月号が届いちゃった(汗)それでも7月号の書評を続けるよ。

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なぜ、ビジネスの論理と倫理を切り離してしまうのか 「意図せぬ悪事」の科学(マックス・H・ ベイザーマン、アン・E・テンブランセル)

 ビジネスパーソンが倫理に反する行動をとってしまう理由として著者が指摘しているのは次の5つ。 
(1)不適切な目標設定
 望ましい行動を促進するために目標やインセンティブを設定するが、逆に倫理に反する行動を助長してしまう。
(2)動機づけられた見落とし
 見て見ぬふりをしたほうが自分の利益になる場合、他者の倫理に反する行動を見落とす。
(3)間接的であるがゆえの見落とし
 他者が第三者を介して倫理に反する行動をした場合には、直接行った場合よりも責任を問わない傾向がある。
(4)滑りやすい坂
 他者の倫理に反する行動が徐々に進行していく場合、気づきにくい。
(5)結果の過大評価
 結果がよければ、倫理に反する行動を認めてしまう。
 (1)の典型例は、売上だけでしか評価されない営業担当者が、期末が迫ってくると顧客に対して無茶な押し売りをしてしまう、というものである。

 (2)の例として、論文ではMLBの通算本塁打記録を持つバリー・ボンズが挙げられている。ボンズがステロイド剤を使用していると球団側もファンも知りながら、球団側はボンズのホームランによる集客効果を無視できず、ファンもボンズのホームランを見たがっているがゆえに、球団もファンも「見て見ぬふり」をしてしまったと著者は指摘している。

 (3)は、個人的にはやや特殊な例のように感じるのでここでは省略。(4)は(2)とも近い。論文の内容からは逸れるが、「壊れ窓理論」は(4)に当てはまると思う。「壊れ窓理論」とは、ある地域にフロントガラスの割れている自動車を放置しておくと、その地域での犯罪率が上がるというものである。

 フロントガラスが割れた車を見た人間は、多少の悪事は許されると思い、ごみのポイ捨てや落書きなどといった軽犯罪を起こすようになる。それがエスカレートしていくと、やがては強盗や殺人といった凶悪犯罪までもが発生するようになる、というのである。

 (5)に関しては、論文では製薬会社の例が紹介されている。ある新薬の開発中に、その薬を服用すると死亡する危険性があることが明らかになった。ここで、A社はさらに試験を繰り返し、一定の確率で死に至る可能性があることを十分に認識した上で新薬を発売した。これに対し、B社は試験データをねつ造して、死亡の可能性がないように見せかけて新薬を販売した。

 A社は実験の結果通り何人かの死者を出してしまったが、B社の顧客からはラッキーなことに死者が出なかったとする。この場合、世間やマスコミはA社を厳しくバッシングするだろう。しかし、本当はB社の方が非倫理的なのではないか?と著者は問いかけている。

 このような非倫理的な行動の背後には、結果重視の評価制度が潜んでいると私は考える。IBMの元CEOであるルイス・ガースナーは、「何か変革を起こしたければ、まずは評価制度を変えるべきだ」と主張しているように、評価制度は人間の行動を大きく左右する(※)。評価指標を1つ変えるだけでも、人間の行動は全く違うものになってしまうのである(過去の記事「評価制度を間違えると社員の行動はおかしな方向へ導かれる」で取り上げたコールセンターの事例を参照)。

 社員が非倫理的な行動に陥らないようにするためには、結果とプロセスのバランスが取れた評価制度を構築することが有効であろう。プロセスの指標は、「バランス・スコア・カード(BSC)」や、以前このブログで書いた「プロセスKPI(Key Performance Indicator:重要業績指標)を設定するための5つの視点」で設定してもいいのだが、とにかく結果だけに偏った評価制度にしないことが肝要である。

 (1)の営業担当者について言えば、押し売りをされた顧客は満足度が下がり、他社の製品にスイッチする可能性が高くなると考えられる。そこで、売上に加えて「営業活動に対する顧客満足度」や「顧客のリピート購入率」など(=これらの指標は、BSCで言うところの「顧客の視点」に該当する)も評価指標に組み込めば、期末の押し売りが低減されるかもしれない。

 (2)のボンズの薬物使用を止めるにはどうすればよかったのだろうか?アイデアベースに過ぎないが、次のような方法は考えられないだろうか?MLBでは、球団の資金力の格差によってチームの実力が乖離しないよう、各球団の収益を再配分する仕組みがある。すごくシンプルに言えば、人気も実力もあるニューヨーク・ヤンキースの利益が、万年最下位争いをしているデトロイト・タイガースに配分されるようなものだ(こうした配分を行っても、タイガースは強くならないので、再配分制度にも限界があるわけだが・・・)。

 再配分にあたっては、球団の「勝敗数」という結果が第一に考慮される。これに加えて、各球団は「ステロイド剤などの禁止薬物を使用していない選手の割合(当然、100%でなければならない)」を、明確な証拠資料とともにMLB事務局に提示する。万が一100%でない球団が出た場合は、分配金を削減する。さらに、虚偽の申告が後になってから発覚した場合には、さらに厳しい減額措置をとる。こんな感じで、プロセスKPIを組み合わせることができるのではないだろうか?

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大惨事をいかに未然に防ぐか ニアミス:隠れた災いの種(キャサリン・H・ティンズリー、ロビン・L・ディロン他)
 人々は結果が成功に終わると、たとえそこに至るプロセスに明らかに問題があっても、基本的に健全だったとみなす性向がある。だからこそ、「成功すれば文句は言えない」と言われるのである。しかし、実際には文句を言えるし、またそうすべきだ。

 諸研究によれば、組織の災厄が1つの原因だけで起きることはまずない。むしろ、複数の小さな、たいていは外見上取るに足りない人為的ミスや技術的な問題、あるいは不適切な業務上の判断が予想を超えて絡み合い、災厄をもたらす。それらの潜在的誤謬が実現条件と結びつくことによって、重大な失敗が生まれるのだ。
 DHBR5月号の『リーダーシップ 真実の瞬間』に所収されているロジャー・E・ボーンの「クライシスの火種を消す 「その場しのぎ症候群」から脱する法」とも関連する論文。ボーンの言葉を再引用すると、
 ほとんどのアメリカ企業では、最悪の窮地から組織を救った人は英雄視される。しかしその人は、問題が発生した時には、どこで何をしていたのだろう。なぜ、問題が大きくなる前に、先手を打って行動しなかったのだろう。問題の発生件数が少ないマネジャー、長期的な予防策やシステマティックな問題解決を実践しているマネジャーに報奨を与えるべきである。
 ニアミスの報告が評価される企業は少ない。しかし、ニアミスが重なって引き起こされた大惨事を鎮圧した人は高く評価される。今回の福島原発の事故を受けて、東京電力がどのような人事評価を行うのかは外部の人間からは解らないが、命懸けで事態の鎮圧にあたっていた人たちは高く評価され、中には大幅に昇進する人も出てくるだろう。他方、事故現場での意思決定や言動に問題があった人たちは、危機的状況に対応する能力が低いというレッテルを貼られるに違いない。

 しかし、原発が津波によって崩壊するかもしれないことを、3.11よりずっと前から指摘し続けてきた人たちも高く評価されるべきである。そういう人たちが重要なポストに就けば、周囲の社員は小さな問題でも安心して報告するようになる。逆に、原発の脆弱性を認識していながら事なかれ主義を貫いていた人たちには、事故現場での行動に問題があった人たちよりも厳しい評価を下すべきであろう。

(※)ルイス・ガースナー著『巨象も踊る』(日本経済新聞社、2002年)

ルイス・V・ガースナー
日本経済新聞社
2002-12-02
おすすめ平均:
リーダー一般、またはITビジネス関係者に
すごい
IBMの再建を託された男
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May 25, 2010

実務的なプロセスKPIにファインチューニングする3つのポイント

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 前回の記事「プロセスKPIを設定するための5つの視点」では、プロセスKPIを定義するにあたってまずは測定対象となる業務プロセスを明確にすること、そして「量」、「質」、「時間」、「コスト」、「次プロセスへの進行率」という5つの視点を使ってできるだけ網羅的にKPIを設定することを述べた。
プロセス定義に基づくKPI設定
(※クリックして拡大表示)

 ここから、実務的に運用可能なレベルへと微調整を加えていく。その際のポイントは以下の3つである。

(1)定性的な指標は可能な限り定量的な指標に置き換える
 これはとりわけ「質」のKPIについて言えることだが、定性的な指標は読み解くのに時間がかかるし、良い−悪いの判断が難しい。定性的な指標はできるだけ定量的に測定可能なものに変換するのが望ましい。

 上図では、すでに部分的にファインチューニングを行っているKPIがある。それは「商談の難易度評価(製品・サービス提供にあたり、自社のリソース・ノウハウで十分対応か否か)」、「商談獲得の見込み評価(受注の確度がどの程度あるか)」という指標である。営業活動から生まれるアウトプットの質とは、言い換えれば「顧客や商談の良し悪し」である。しかし、こうした定性的な情報はそのままでは非常に測定しにくい。そこで、商談をA〜Eの5段階で評価して、それぞれのランクに含まれる商談数をカウントすることで、定量的な測定を可能にしている。

 営業会議で、「今週のA商談は○件、B商談は○件、C商談は○件…」といった進捗報告を行っている企業もあるだろう。その場合の件数が、まさに商談の質を定量的に測定した数値と言える。

(2)測定困難な指標は代替指標を考えるか、方法を変える
 KPIはその数値を継続的にモニタリングすることができなければ意味がない。KPIの値を取得するだけで莫大な時間がかかるのであれば、改善策の検討が大幅に遅れてしまう。だから、KPIは測定が容易で、かつ繰り返し取得できるものにしなければならない。

 例えば、上図にある「提案書の質」に関しては、営業担当者が顧客企業に「私が書いた提案書の内容はどうですか?満足していただけましたか?」と聞いて回るのはあまりにも常軌を逸した行動である。また、ある期間内に作成された全社員の提案書をマネジャーが評価することも非現実的である。

 こういう場合は、サンプリング調査を行う。無作為に抽出した数十件程度の提案書の内容を社内で定めた基準に従って採点するというやり方である。サンプリングと社内基準が適切であれば、提案書の質に関する全社的な傾向を知ることができる。

(3)最終成果との結びつきが薄い指標は削り、KPIにメリハリをつける
 プロセスKPIは最終成果に至るまでのプロセスをモニタリングするものであるから、最終成果をどのように位置づけるかによってKPIの優先順位が変わってくる。

 とにかく売上拡大が最優先課題であるような場合は、「時間」や「コスト」に関するKPIはごっそり削ってしまうのも1つの手である。逆に、収益性を重視するのであれば「時間」や「コスト」は重要なKPIになるし、「値引率」や「値引になった商談の割合」も見過ごせない指標となる。

 営業活動の効率性を重視するのであれば、「量」のウェイトを軽くする。前回の記事の中で、「営業活動はろ過装置のようなものであり、プロセスが進むに従って顧客・商談数が減っていく」と書いたが、効率的な営業とは、入口(=ターゲット顧客数)が多少狭くなったとしても、ほとんどろ過されずに出口から出てくる(=成約できる)状態を指す。この場合は、「量」の代わりに「質」や「次プロセスへの進行率」に重きを置くことが考えられる。

 上記の3つのポイントに従って微調整を行えば、プロセスKPI体系ができあがる。あとは各KPIの目標値を設定し、継続的なモニタリングを通じて目標との乖離をチェックする。そして、必要に応じて改善策を打つ。この繰り返しによって、KPIマネジメントのPDCAサイクルが回っていく。
May 24, 2010

プロセスKPIを設定するための5つの視点

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 以前の記事「スコアボードを見ずに野球ができるか!−プロセス指標の必要性」では、最終成果だけを測定するのではなく、そこに至るプロセスをモニタリングするKPIの必要性に触れた。そして、営業プロセスを例にとり、KPIを設定する視点として、「量」と「次プロセスへの進行率」の2つを指摘した。今回の記事では、プロセスKPIの設定方法をもう少し深めてみようと思う。

 プロセスKPIを設定するに当たって、まず最初にやらなければならないことは「プロセスの定義」である。測定対象をはっきりさせないことには測定しようがない。最終成果に至るまでのプロセスをいくつかの段階に分け、各プロセスにおける社員の行動を記述していく。

 以下にごくごく一般的な法人営業のプロセスを書いてみた。コピー機でもITシステムでも工作機械でも何でもいいのだが、顧客企業に対して何らかの製品を販売し、そのアフターフォローまで行うという営業活動を念頭に置いている。
営業プロセスの定義
(※クリックして拡大表示)

 ここからプロセスKPIの設定に入る。プロセスKPIを設定する視点は、「量」、「質」、「時間」、「コスト」、「次プロセスへの進行率」の5つである。この5つの視点に基づいてKPIを設定すると、かなり網羅性の高いKPI体系ができあがる。以下、先ほど定義した法人営業プロセスに対応するKPIを各視点から設定してみた(ごめんなさい、「顧客ターゲティング」の「質」だけどうしてもいい指標が思いつかなかったので、ブランクにしてあります…)。
プロセス定義に基づくKPI設定
(※クリックして拡大表示)

(1)量
 量はさらに、「各プロセス内における行動量」と「各プロセスのアウトプットの量」に分けて考えることができる。上記の図で言えば、

 ・各プロセス内における行動量=営業による初期接触回数、顧客訪問・ヒアリング実施回数、顧客との討議回数、価格交渉実施数など
 ・各プロセスのアウトプット量=抽出した顧客ターゲット数、キーマン情報入手数、パワーポリティクス・競合情報入手数、成約数、1件あたり成約金額など

 となる。

(2)質
 各プロセスのアウトプットの質を指す。製造プロセスであれば、各工程のアウトプット(中間製品)の品質を測定するのは比較的容易である。それに比べると、営業プロセスは中間成果物が目に見えにくいのでKPIの設定は難しいのではないかと思われるかもしれない。ただ、「提案」においては提案書がプロセスの成果物として必ず発生するから、その品質をKPIとして設定することができる。「アフターフォロー」における「次期商談・製品改善に役立ちそうな情報の数」も同じである。

 それ以外のプロセスはどうするか?(1)で挙げた「抽出した顧客ターゲット」、「入手したキーマン情報」、「入手したパワーポリティクス・競合情報」の質を評価するのは非常に難しい。キーマン情報やパワーポリティクス情報が合っているかどうかは、検証のしようがない。

 営業活動から生まれるアウトプットの質とは、言い換えれば「顧客や商談の良し悪し」である。つまり、「自社にとって利益をもたらす優良顧客か否か」、「受注の確度が高い商談か否か」ということである。こうした定性的な情報はそのままではKPIとはならないが、例えば顧客や商談をA〜Eの5段階で評価して、それぞれのランクに含まれる顧客数、商談数をカウントすれば、KPIの測定が可能になる。

 なお、「値引率」、「値引になった商談の割合」を質のKPIとしているのは、それらが「自社にとって利益をもたらす優良顧客か否か」を表す指標となるからである。

(3)時間
 各プロセスにおいて求められる行動を実施するのに社員が費やした時間、またはあるプロセスのスタートから次プロセスに移行するまでのリードタイムをKPIとして設定する。

 工場であれば、実際にストップウォッチを持って各工程の作業時間を測定することもあるが、営業活動でそれをやるのはかなり難しい。こういう場合は、営業日報から時間を計算したり、アンケート形式で1週間のうちそれぞれの活動に何時間費やしたかを営業担当者に答えてもらったりすることで代用する。

(4)コスト
 各プロセスにおいて発生する費用をKPIとして設定する。工場とは異なり、材料や機械を使っているわけではないため、ここでいうコストの大半は人件費である。(3)で計算した業務時間に基づいて、ABC(activity-based costing:活動基準原価計算)の手法を使うと、各プロセスにおけるコストを算出することができる。

 もちろん、商談で使った交通費や、契約手続時に発生した法務関連費用など、明確に判明している費用は上乗せする必要がある。

(5)次プロセスへの進行率
 製造プロセスにおける「歩留率」を裏返したものと考えていただければ解りやすい。営業プロセスはろ過装置のようなものであり、プロセスが進むにつれて対象顧客・商談数が減っていく。あるプロセスに滞留していた顧客・商談数のうち、次のプロセスに移行することができた割合をKPIとして設定する。この作業をそれぞれのプロセスにおいて行う。

 「量」、「質」、「時間」、「コスト」、「次プロセスへの進行率」という5つの視点を使うと、プロセスKPIが整理しやすくなる。ただ、これだけ多くの指標を全部チェックしなければならないのかというと、そういうわけではない。5つの視点はあくまでもKPIの網羅性を高めるためのものであり、実務運用上スムーズにモニタリングできるKPIにファインチューニングする必要がある。その方法については、次回の記事で書くことにしよう。
April 15, 2010

「バランス」の意味を再考してみる−『バランススコアカード−新しい経営指標による企業変革』

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ロバート・S. キャプラン
生産性出版
1997-12
おすすめ平均:
翻訳のひどさ、どうにかならないものか。
中身はいいのだが
BSCの古典です
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 過去の記事「スコアボードを見ずに野球ができるか!−プロセス指標の必要性」や「部門のミッションに合ったKPIを設定しよう」でKPI(Key Performance Indicator)の重要性に触れたが、KPIを語る上ではやはりこの本は欠かせないということで改めて読み返してみた。

 バランススコアカード(BSC)の「財務の視点」、「顧客の視点」、「社内ビジネスプロセスの視点」、「学習と成長の視点」それぞれについて具体的な指標が示されており、またBSCを実際に導入している企業のBSCが部分的ではあるが紹介されているため、内容を理解するのに苦労することはない(多少、翻訳に難がある程度)。ただ、例示されている一部の指標がやや混乱を招くようにも感じるので、私なりの見解を書いておきたいと思う。

 例えば、「社内ビジネス・プロセスの視点」の章では、研究開発部門のKPIとして「新製品売上高の割合」、「主力製品売上高の割合」(p139)が挙げられているが、これらは「顧客の視点」に入れるのがふさわしいだろう。代わりに、「新製品開発件数」や「新製品の市場投入リードタイム」、あるいは「実際に製品化された製品企画の割合」などが「社内ビジネス・プロセス視点」のKPIになりうるはずだ。

 また、同様に「社内ビジネス・プロセスの視点」の章において、「ブランドマネジメント」という活動の成果を測るKPIの例が「市場占有率」、「ブランドの認知度」(p150)となっている。これらもやはり「顧客の視点」のKPIとして位置づけた方がよい。「社内ビジネス・プロセスの視点」のKPIとしては、「雑誌広告の出稿回数」、「キャンペーンの企画実行数」の方が適切だと考える。

 さらに「学習と成長の視点」の章では、保険会社の変革プロジェクトを例にとり、「チームで作成した事業計画の割合」(p187)をKPIとして挙げているが、事業計画自体は業務プロセスのアウトプットであるから、「社内ビジネス・プロセスの視点」に入れるべきだろう。仮に事業計画作成にあたり、何らかの部門横断的な研修を実施したとすれば、「学習と成長の視点」には、例えば「事業計画作成のトレーニング回数」を入れることができる。

 BSCにおけるKPIの妥当性や各KPIの因果関係を実感するためには、やはり自分の会社や部門を例にとって、実際に自分でBSC書いてみるのが一番だろう。

 ところで、BSCの「バランス」とは何のバランスなのか?これについてはいくつかのサイトを見てみると、多種多様な解釈が存在するようだ。キャプランとノートンは、同書の中で次のように述べられている。
 業績評価指標は、株主や顧客という外部的業績評価指標と、重要なビジネス・プロセスやイノベーション、さらに学習と成長といった内部的業績評価指標との「バランス」を表している。さらに、この業績評価指標は、過去の努力結果を表す成果の業績評価指標と、将来の業績向上を導く業績評価指標との「バランス」も表している。バランス・スコアカードは、客観的で定量化しやすい業績評価指標と、何らかの主観的な判断を要する業績評価指標とで「バランス」を保っている。
 たまに、「短期的な財務の視点と長期的な学習と成長のバランスをとる」といった趣旨の表現を見かけるが、これは正確な表現ではない。

 BSCの4つの視点は、「学習と成長によって従業員の行動やスキルが変われば業務プロセスが改善され、それによって顧客の満足度やブランド価値が高まり、結果として財務状態が上向く」という因果関係で結ばれている。よって、KPIの値が短期的に変化するのはむしろ「学習と成長の視点」や「社内ビジネス・プロセスの視点」であって、「顧客の視点」や「財務の視点」のKPIの値は、もっと長時間をかけて変化することになる。

 バランススコアカードの本来の目的は、「戦略の実現をサポートすること」にある。戦略はその本質からして、基本的には3年〜5年程度の将来を見据えて立案される。したがって、必然的に「財務の視点」に掲げる目標は中長期な実現を目指す目標になるし、「顧客の視点」でいうところの顧客は、将来の顧客にフォーカスを当てる必要がある。

 その上で、「その戦略を実現するために、今日からわが社の社員はどのような能力を身につけ、どのような業務を行う必要があるのか?」と問う。その答えが、「学習と成長の視点」や「社内ビジネス・プロセスの視点」のKPIとなって現れるのである。

 また、「短期と長期の財務目標のバランスをとる」という表現にも注意が必要だ。もっとも、キャプランとノートンは、この点を否定しているわけではない。次の記述がそうだ。
 財務的な視点により、短期的な利益を維持ないし確保できる一方で、バランス・スコアカードは、長期の財務的業績向上と競争優位を確保するためのバリュー・ドライバー(価値創造要因)を明らかにしてくれる。
 だが、私が思うに、もし仮に短期と長期の財務目標のバランスをとるならば、短期的な財務目標からブレイクダウンされるBSCと、長期的な財務目標から導かれるBSCの2種類を作った方がいいような気がする。前者には各年度の事業計画や過去の戦略に紐づいている戦術、後者には中長期の新しい戦略がバックボーンとして存在する。この2つを1つのBSCにまとめてしまうと、社員も経営陣も混乱してしまうに違いない。

 BSCは、コンセプト自体は非常に解りやすいがゆえに、簡単に使いこなせるように錯覚してしまうのだが、その本来の目的や4つの各視点の因果関係を見失ってはいけない。何よりも、自社の戦略に対する深い洞察が求められる。その点で、非常に奥深いツールである。
March 27, 2010

部門のミッションに合ったKPIを設定しよう

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 阪神開幕戦勝利!ヒーローインタビューで「阪神ファンに自己紹介をお願いします」と言われて、「長崎県佐世保市から来ました城島健司です。よろしくお願いします」くぅぅ、楽しませてくれるねぇ。

 さて、昨日の記事「スコアボードを見ずに野球ができるか!−プロセス指標の必要性」では、最終目標に到達するまでのプロセスをマネジメントする指標をKPIとして設定し、KPIの値をモニタリングすることの必要性について触れた。

 部門の業績評価制度や、業績評価と連動する社員の人事評価制度を設計する上でも、KPIという考え方は非常に重要だ。なぜならば、「名ばかり成果主義」の過ちを防ぐことができるからである。「名ばかり成果主義」は、成果を最終結果と履き違えている。社員の間には、とにかく結果を上げればどんな手段を使ってもいいという風潮が生まれ、結果的に社員同士の疲弊を招く。これは成果主義ではなく、結果主義(業績主義)とでも言うべきものである。

 本来の成果主義はこれとは違う。アメリカの成果主義の発展の歴史を見ていくと、成果主義が結果ばかりを見ているのではなく、プロセスも重視していることに気づく。プロセスの中には、短期的な結果には結びつかない種まき的な活動や、社員同士の協業、ナレッジの共有なども含まれる。この点を日本企業は見落としていた。

 ちょっと話が逸れてしまったが、KPI体系を策定する際には、「部門のミッションや役割に合ったKPIを設定する」ことがポイントだ。先日の「評価制度を間違えると社員の行動はおかしな方向へ導かれる」という記事では、あるコールセンターの事例を紹介した。

 収益性を高める必要性に迫られていたコールセンターでは、2つのチームが別々のKPIを設定した。あるチームは「1コールあたりの所要時間(の削減)」を、別のチームは「顧客1人あたりのコール回数(の削減)」をKPIにした。

 前者のチームは、とにかく早く対応を終わらせて電話を切ろうと皆が必死になるのだが、顧客は自分の問題が解決しないため、何度も何度も電話をかけてきてしまう。1コールあたりの時間は短くなっても、コール回数がその効果を打ち消すほどに増えてしまい、収益をむしろ圧迫する結果となった。

 一方、後者のチームは、極端な言い方をすれば顧客が同じような問合せを二度としてこないように、ファーストコールで懇切丁寧に説明することを心がけた。1回目の対応時間は長くなったものの、2回以上電話をかけてくる顧客が大幅に減ったために、総合的には収益が改善されたという。

 両チームのKPIの違いは微妙なものだが、結果は全く異なるものとなった。コールセンターのミッションは、アフターサービスに対する顧客の満足度を高めることにある(それがリピート購入につながる)。収益性は確かにクリティカルな問題ではあるとはいえ、顧客満足度よりも優先されるわけではない。もし収益性だけを重視するのであれば、最初からコールセンターなんて止めてしまえばいいだけの話である。

 前者のチームは部門のミッションを軽視し、収益性という自社都合の題目のみに目が行ってしまった。これに対して後者のチームは、顧客が少ないコール回数でトラブルを解決できることが満足度につながることを見抜いていた。だからこそ、「顧客1人あたりのコール回数(の削減)」をKPIとして設定することができたのだろう。

 部門のミッションに合ったKPIの設定の例としてもう1つ取り上げたいのが警察である(私は警察の評価制度に詳しいわけではないので、ここからの記述は多分に推測を含んでいます。もし誤りがあったらお詫びします)。警察のミッションはいろいろあるが、道路交通に絞れば「市民が交通規則に従う安全な社会の実現」ということになるだろう。

 ところが、警察は「スピード違反切符を切った枚数の多さ」で評価される時期があるのか、やたらと取締りが厳しくなる時期が年に何度かある。しかし、よく考えれば、違反切符をたくさん切ればいいというのは、警察のミッションからすれば全く逆方向に走っていることになる。もしミッションに忠実なKPIを設定するならば、「スピード違反件数の減少率」になるはずである。

 ただし、これだと警察官が怠けてスピード違反切符を切らなければ、勝手に違反件数も減ってしまう。そこで、複合的なKPIを設定する必要がある。警察の怠惰でスピード違反が増えれば、交通事故が増えるはずであるから、「スピード違反の減少率」と合わせて、「交通事故件数」も見ればよい。または、近隣住民から寄せられる、「近辺で危険な運転をする車が多い」といった「苦情件数」をカウントする方法も考えうる。いくらスピード違反件数が減っても、交通事故や苦情が増えているのであれば、警察の交通指導が行き届いていないことになる。

 警察の例はあくまで私の勝手な推測で恐縮だが、要は部門のミッションや役割をよく考え、その実現に貢献する指標を特定することが重要だということである。この点を間違えると、社員の行動は部門のミッションを無視して、いい評価を得るがためにおかしな方向へと導かれることになる。


《2012年4月6日追記》
 警察の例は今読み返しても「これで大丈夫かな?」と思うけれど、今のところ警察関係者から意見や苦情は来ていないので(単にブログが読まれていないだけか、汗)、このままにしておこう。

 警察の例のように、KPIの”合わせ技”で成果を測定した方がいいと感じた事例が『日経情報ストラテジー』2012年5月号に載っていたので紹介したい。ブライダルビジネスを展開するエスクリは、ブライダルプランナーの成果測定指標として「成約率」を重視しており、BI(ビジネスインテリジェンス)による顧客データの分析から成約率向上につながるノウハウを抽出し、プランナーにフィードバックする、という仕組みを整えている。

 ただし、「成約率」というKPIを重視するあまり、弊害もあったようだ。
 データによって意識を統一できていなかった頃は、KPIも有効に機能しにくかった。一部の現場では成約率のKPIを意識するあまり、電話のやり取りで手応えを感じられなかった見込み客に対して来館を促すことに消極的になるプランナーもいたという。
 成約率=成約数÷来館数であるから、分母を減らすことで成約率を上げようという意識がプランナーには働いてしまっていたわけだ。とはいえ、分母が大きくならない限り、いくら成約率が上がってもビジネスとしては不調に終わる。

 このケースでは、「成約率」と合わせて「来館数」もKPIにするとよいのではないだろうか?一見両立が難しいKPIを敢えて設定することで、「電話では成約の手応えがなさそうだった見込み顧客から成約を獲得するには、通常の見込み顧客とは違ってどのようにアプローチをすればよいか?」とか、「本当に成約の可能性がなさそうな見込み顧客を電話とのやり取りで識別するには、どういう質問を投げかければよいか?」などといった、新たなノウハウが生まれる余地が出てくるだろう。


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日経情報ストラテジー

日経BP社 2012-03-29

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March 26, 2010

スコアボードを見ずに野球ができるか!−プロセス指標の必要性

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 いよいよセ・リーグが開幕し、また野球シーズンがやってきた。今年の阪神はどうなるかなー。打線は結構面白そうだけれど、昨年に続き先発陣がやっぱりちょっと不安だなぁ。

 さて、野球にはスコアボードが存在し、各イニングの得点が一目で解るようになっている。また、SBOのカウント表示や塁上のランナー、さらには守備位置といった定量的、定性的なデータが数多く散らばっている。攻撃側も守備側も試合のプロセスとともに常に変化するデータを見ながら、状況に応じた様々な戦術を展開する。これが頭脳戦としての野球の醍醐味である。

 ところが、ビジネスの世界になると、プロセスが軽んじられ、最終結果ばかりがフォーカスされる傾向にある。例えば、営業部門では、社員が毎日一生懸命営業活動をしているにも関わらず、マネジャーは受注金額や失注商談しか見ておらず、期末が近づいても予算未達だと「何が何でも売れ!」と無茶なハッパをかける、なんてことはよくある話だ。マネジャーがもっと日々の営業プロセスをモニタリングし、必要に応じて適切な打ち手を施していれば、こんなことにはならないはずである。

 ウェブマーケティングの場合も、BtoC向けのECサイトであれば最終的な売上、BtoB向けの製品紹介サイトであれば資料請求や問合せの件数ばかりに目がいってしまう。売上や資料請求、問合せの件数が少なければ、上司から「一体、どうなっているんだ?」と責められる。マネジャーも担当者も、サイト訪問者がどのようなルートでサイトを訪れ、サイト内でどのような行動をたどっているのかをきちんと分析しているケースは、決して多いとは言えない。

 これは野球に置き換えて言えば、各イニングの得点も、SBOのカウントも、塁上のランナーも解らないままにバッターボックスに入り、ピッチャーマウンドに上がるようなものである。序盤で3点ビハインドのケースでの先頭打者の役割と、1点リードで終盤を迎え、1アウトで1塁にランナーがいる場合の打者の役割は全く違う。同様に、ピッチャーの配球の組み立て方も変わってくる。だが、スコアボードが見えないからそうした判断もできない。

 また、ボールカウントが見えないと、今の状況が打者有利なのか投手有利なのかも判然としない。だから、バッターもピッチャーもお互いにどう攻めていいのか迷ってしまう。こんな状態で試合が続いていくと、いつの間にか試合が終わっていて、ふたを開けてみたらどちらかが大差で負けていた、なんてことになっているかもしれない。やっている方にとっても観ている方にとっても、全くもって訳が解らない試合になってしまう。

 もちろん、野球の世界ではどう考えたってこんなことはありえない。だが、ビジネスの世界では実際に起こっているのだから不思議だ。要は、プロセスに対する観察が足りないのである。

 業績を適切にマネジメントするためには、最終結果に至るプロセスを明らかにし、各プロセスの中間成果を測定する指標(KPI:Key Performance Indicator)を設定する必要がある。法人営業のプロセスが解りやすいので例にとると、

 見込み顧客へのコンタクト
⇒アポイント設定
⇒訪問
⇒商談
⇒見積提示
⇒クロージング
⇒成約(最終目標) というのが一般的なプロセスである。

 まずは、各プロセスの「量」をKPIとして設定することができる。つまり、

・見込み顧客へのコンタクト数
・アポイント設定数
・訪問数
・商談数
・見積提示数
・クロージング数 である(成約数は最終目標=KGI:Key Goal Indicatorにあたる)。

 次に、これらの値を基に、各プロセスの進捗「率」もKPIとして設定できる。具体的には、

・アポイント化率(=アポイント設定数÷見込み顧客へのコンタクト数)
・訪問成功率(=訪問数÷アポイント設定数)
・商談化率(=商談数÷訪問数)
・見積提示到達率(=見積提示数÷商談数)
・クロージング率(=クロージング数÷見積提示数)
・成約率(=成約数÷クロージング数) となる。

 これら複数のKPIを随時モニタリングしていると、営業活動のどこに問題があるのかが見えてきて、改善策を考えやすくなる。例えば、商談化率が芳しくない場合、営業担当者が顧客のニーズをきちんと捉えられていないのかもしれないし、営業担当者が提案書を書くのに時間をかけすぎて競合他社に遅れをとっているのかもしれない。あるいは、営業担当者が顧客に見せる販促ツール(プロトタイプや他社事例など)が十分でない可能性もある。この場合は営業部門の問題ではなく、マーケティング部門の問題になる。

 商談化率は一見低く感じるが、業界の特色として競合他社も似たような傾向にあるとすれば、商談を増やすための方法は、分母にあたるアポイント設定数、さらに遡って見込み顧客へのコンタクト数を増やすことしかない。このように、プロセス指標が見える化されていると、問題の早期発見と早期解決が可能になる。スコアボードを見ながら野球ができるのである。

 ちなみに、Webマーケティングの場合のKPIと改善策の一例は、以前書いた「ウェブに続く営業活動も見据えたプロセスを設計しよう−『ウェブ営業力』」という記事に少し載せてあるので、そちらもご参考に。

 最終成果と因果関係のある指標を並べていくと、KPIの体系ができあがる。こうしたKPI体系に基づく経営手法を「コックピット経営」と呼ぶそうだ。パイロットがコックピットで様々な数値を見ながら飛行機を操縦するように、経営者は様々なKPIをチェックしながら企業の舵取りを行うという訳だ。

 今はどうなっているか解らないが、デルの日本法人は徹底したコックピット経営を行っていたらしい。日本法人の社長が就任当時、システム上に羅列された数多くのデータを目にして、「まさにコックピットに座っているみたいだ」と感じたという話を聞いたことがある(人づての情報で恐縮…)。
March 20, 2010

評価制度を間違えると社員の行動はおかしな方向へ導かれる

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 DHBR2010年4月号に収録されていたアンドリュー・リキアーマン卿の「業績評価制度の罠」という論文を読んで、業績評価制度について少し考えてみた。個人的に、業績評価制度はすごーく地味な制度である割に、社員には非常に大きな影響を与えるものだという印象を持っている。制度設計を間違えると、社員の行動を悪い方向へと導いてしまう。

 これはあるコールセンターの方から聞いた話だが、コールセンターは基本的にQ&A対応が中心のコストセンターとして見なされるため、収益性を高めることが至上命題となる。そこで、あるチームは「1コールあたりの所要時間(の削減)」を、別のチームは「顧客1人あたりのコール回数(の削減)」を評価指標にしたという。ここでクイズ。収益性が高まったのはどちらのチームだろうか?

 前者のチームは、とにかく早く対応を終わらせて電話を切ろうと皆が必死になるのだが、顧客は自分の問題が解決しないため、何度も何度も電話をかけてきてしまう。1コールあたりの時間は短くなっても、コール回数がその効果を打ち消すほどに増えてしまい、収益をむしろ圧迫する結果となった。

 一方、後者のチームは、極端な言い方をすれば顧客が同じような問合せを二度としてこないように、ファーストコールで懇切丁寧に説明することを心がけた。1回目の対応時間は長くなったものの、2回以上電話をかけてくる顧客が大幅に減ったために、総合的には収益が改善されたという。両チームが掲げた評価指標の違いは微妙なものだが、それだけでも社員の行動、ひいては部門の業績にに与える影響が全く異なることを示す好例である。

 ところで、DHBR2010年4月号の特集は「イノベーション」であるため、イノベーションと業績評価との関係で一言付け加えておくと、イノベーションを担う部門の業績評価およびそれに基づく人事評価の制度は、既存事業部門のそれとは別物にするべきである、という見解が一般的である(ピーター・ドラッカーをはじめ、ロザベス・モス・カンター、クレイトン・クリステンセンら多くの経営学者が主張している)。

 イノベーションが事業として軌道に乗るまでには時間がかかる。よって、イノベーション担当部門の業績を既存事業と同じ指標、つまり売上や利益、あるいは製品販売数や市場シェアなどで評価すると不利になりやすい。すると、マイナス評価をされたくないがために、優秀な人材がイノベーション担当部門の業務を避けるようになる。誤った業績評価制度は、イノベーションの芽を摘み、企業の将来性を潰してしまうことすらあるのだ。

 イノベーション担当部門の場合は、最初からあまり財務的な指標を強調せず、市場の啓蒙活動を評価する指標を設定することが有益であると考える。例えば新製品・サービスの認知度、アーリーアダプター(早期採用者:新製品・サービスを初期の段階で購入してくれた顧客)の顧客満足度などを指標にする。あるいは、当初の事業計画の進捗度合いといったプロセス的な指標も考えられる。いずれにせよ、既存事業と異なる指標によって評価することで、社員が安心して新しい試みにチャレンジできるよう、工夫を凝らすことが求められる。
November 10, 2009

変革を組織に定着させる「武勇伝」の効力

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 事業環境が刻々と変化する中で、変化に適応し、あるいは変化を先取りするために組織変革に乗り出す企業は少なくない。しかし、複雑な組織構造にメスを入れ、社員の行動を変えることは、言うまでもなく一筋縄では行かない。

 変革がスタートする段階から大多数の社員の合意が取れていることなど稀である。通常は、変革を強く支持する一部のグループと、一部の根強い反対勢力と、どちらのグループを支持するか決めかねている大多数の中間層に分かれるのが一般的だ。変革推進グループは、変革を推し進めながら、徐々に変革の正当性を証明する必要に迫られる。

 私は現在、ある企業で営業スタイルの変革のお手伝いをさせていただいており、営業担当者が新しい営業スタイルを習得するための研修を実施している。このクライアントは、市場の成熟と競合他社からの激しい攻撃により新規商談の機会が減少し、かつ1つ1つの商談規模も小さくなりつつあるという問題を抱えていた。そこで、従来の営業スタイルに加えて新たな営業スタイルを確立し、それを実践できる営業人材を育成するという変革に数年前から着手している。

 だが、今までの営業スタイルとはかなり異なる手法であるため、社員の中には当然のことながら懐疑派も存在する。特に、今までの営業スタイルで高い業績を上げてきた上の年代には、明確に反対の態度こそ示さないものの、変革に理解を示さなかったり、新しい営業スタイルで商談を進める部下やチームメンバーを支援しなかったりすることがあるという。

 変革を成功させる1つの要因として、ジョン・コッターは「短期的な成果の追求」(※)を挙げている。変革とは中長期的な取り組みであり、往々にして数年に及ぶ。しかし、変革が終わるまで何も成果が出ないとなると、変革を推進する人間もさすがに息切れしてしまうし、反対勢力にも変革の無効性を主張する格好のネタを与えることになってしまう。だから、変革の成果を見える化し、変革が着実に実を結びつつあることを早い段階で示すことが非常に重要である。

 短期的な成果を可視化する1つの方法が、KPI(Key Performance Indicator)の設定である。つまり、変革の成果を定量的に測定する指標を設定し、その数値をモニタリングすることである。これだと一発で成果の有無が見えるし、成果が出ていなければ何らかの策を打たなければならないこともすぐに解る。先のクライアントでも、「新しい営業スタイルによる商談件数」、「新しい営業スタイルによる総受注金額、商談1件あたりの平均受注金額」などの指標を用いている。

 だが、KPIの数値がいくら上がっていても、「自分とは関係ない」とか、「上手くできる人にはできるかもしれないが、自分にはできない」と斜に構えた人はいるものである。数値は論理的に訴えることはできても、感情に訴えるのはどうしても苦手である。そこで、変革推進グループがもう1つ気を配らなければならないのが、社員の「武勇伝」だと思う。すなわち、成功ストーリーを蓄積することである。

 先日、先のクライアントで研修を実施した際、事務局の方から、「前回の研修の受講者が、ある新規顧客の案件を手がけたんです。しかし、すでに他社の製品を導入することである程度決まっていたらしく、最初は先方の担当者から全然相手にしてもらえずに、『お前、帰れ』ぐらいのことを言われていました。でも、その受講者が『その製品を導入しただけでは御社の本当の課題は解決しない』ということを、新しい営業スタイルを活用してしつこく訴えたんです。そうしたら、最後の最後に大逆転して3億円の商談を受注したんですよ。」という話を聞いた。

 こうした物語が数値と決定的に異なるのは、聴き手が自分を投影することができる点である。物語には、「そういう体験ができるなら、自分もちょっとやってみようかな」と思わせる効力がある。こうした武勇伝がもっと社員に広まれば、新しい営業スタイルの伝播スピードが上がるだろうなと私は感じた。なお、本当にすごすぎて誰も真似できない武勇伝だけでは意味がないため、できるだけ多様な物語を集める方が効果的だろう。どれか1つぐらいは自分にもできそうだ、と社員が実感できる「武勇伝データベース」を構築することは、決して無駄ではないと思う。

 もちろん、武勇伝ばかりが一人歩きするのも考えものである。物語のインパクトが強すぎると、実態を正しく認識する力が麻痺する可能性もある。すごい成功ストーリーが生まれたが、ふたを開けたら変革の成果はその成功ストーリー1件だけだった、というのでは喜べない。KPIによる定量的なモニタリングと、武勇伝の蓄積による定性的な体験の構築を上手く組み合わせることが大切である。論理と情理のバランスを取りながら、変革の成果を見える化することが、変革の正当性を示すことにつながる。

(※)ジョン・コッター著、梅津祐良訳『企業変革力』(日経BP社、2002年)

ジョン・P. コッター
日経BP社
2002-04
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テキストとして十分すぎるほど重宝しました
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