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新ブログ 谷藤友彦ー本と飯と中小企業診断士
September 21, 2011
ポーターの「共通価値」の理解が深まるBOPビジネス事例集(1/2)―『マーケティングを問い直す時(DHBR2011年10月号)』
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ピラミッドの底辺を掘り起こせ 貧困層セグメンテーション(V・カストゥーリ・ランガン他)
DHBR2011年8月号の論文「手つかずの巨大市場を攻めよ 新興国ミドル市場で成功する条件」(マシュー・J・アイリング他)は「ミドル層」(月収が5,000〜8,000ルピー[約125〜200ドル]程度)へアプローチする方法を説いたものであったが、この論文はもっと下位層を狙った、いわゆる「BOP(Bottom of the Pyramid)ビジネス」を扱っている。
《参考》DHBR2011年8月号のレビュー記事。
今月号はインド企業の事例がいっぱい―『ビジネスモデル 構想と決断(DHBR2011年8月号)』
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著者は、BOP市場を「低所得者層(1日の収入が3〜5ドル)」、「最低生活層(1日の収入が1〜3ドル)」、「最貧困層(1日の収入が1ドル以下)」という3つのカテゴリに分け、各カテゴリの特徴的なニーズを列挙した上で、最適な戦略を提案している。以下、論文の内容を私なりに整理してみた。
(1)低所得者層(1日の収入が3〜5ドル、世界で約14億人)
低所得者層は、基本的な衣食住のニーズは満たされており、一定の収入もある。だが、ミドル層が日常的に利用している製品やサービスは、価格が高くて手が届かない。そこで、製品の機能やサービスの内容を大幅に削って低コストを実現し、さらに地元の零細企業や非営利組織などを販売チャネル化して販促費の低減を図ることで、ミドル層向けよりも圧倒的に安い製品やサービスを提供することが成功のカギとなる。
《特徴》
・数年にわたる中等教育を受けており、職を得るのに必要なスキルを持っている。
・多くは建設作業員、小商人、運転手、企業や公共機関の下級職員として働き、わずかながら定期収入を得ている。
・公式の市場と非公式の闇市場の双方で取引を行い、すぐ上の階層の人々に隣接して、あるいは入り混じって生活している。
・自転車、テレビ、携帯電話といった消費財を所有していることが多い。
・高等教育や、高給が得られる安定した仕事を得ようと努力している。
・よりよい住居を望み、高い信用を得ることや健康管理を追い求める。
《戦略》
・革新的なビジネスを導入して、現在手に入るものよりも全体の利用コストが安くて利便性が高い、質の高い製品やサービスを提供する。
《事例》
・サファリコム
ケニアの1万8,000もの零細小売店にオペレーター業務を委託し、携帯電話を使った送金サービス<M-ペサ>を展開している。
・ノバルティス
インドで2万人以上のボランティア医師を動員し、村を訪問して患者の診察や薬剤の提供を行っている。
(2)最低生活層(1日の収入が1〜3ドル、世界で約16億人)
最低生活層は、衣食住や教育などの基本的ニーズが十分に満たされておらず、文字通り最低限の生活しかできていない。マイケル・ポーターの言葉を借りれば、「社会的ニーズが充足されていない」ということになるだろう。ポーターは、DHBR2011年6月号に寄稿した論文「経済的価値と社会的価値を同時実現する 共通価値の戦略」の中で、従来のCSRの取り組みは不十分だと指摘し、「社会的ニーズの充足を通じて、経済的価値を拡大する(すなわち、利益を追求する)」ことが、今後の重要な戦略になると述べている。
《参考》DHBR2011年6月号のレビュー記事。
社会的ニーズの充足を通じて経済的価値を創造する(1)―『戦略と競争優位(DHBR2011年6月号)』
社会的ニーズの充足を通じて経済的価値を創造する(2)―『戦略と競争優位(DHBR2011年6月号)』
「社会的価値」はどうやって測定すればいいのだろう?―『戦略と競争優位(DHBR2011年6月号)』
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《特徴》
・大部分は教育水準が低く、スキルもほとんどない。
・日雇い労働者や臨時作業員として収入を得ているが、収入は不安定である。
・衛生状態の改善や健康管理、教育を必要としている人々が多い。
・1日1回はきちんとした食事を摂っているが、栄養の摂取量は基準以下のことがほとんど。
・この層が(消費者としても生産者としても)取引を行うのは闇市場であるが、インフラや支援施設がないために、経済効率がよくない。
・銀行口座を持たず、公式なクレジットカードも使えないため、高利貸しに頼らざるを得ず、中間業者に搾取に遭いやすい。
最低生活層に対する戦略としては、まずは(A)この層の人々を自社のバリューチェーンに組み込み、仕事の場を与える、という手が挙げられる。その際、(新興国におけるカカオやコーヒー豆などの生産でしばしば問題になるように、)製品原価を削るために不当な取引条件を押しつけたり、供給量を確保するために劣悪な労働環境で働かせたりするのではなく、生産物の品質改善や生産性向上につながる支援を行う。言い換えれば、彼らを搾取の対象とみなすのではなく、自社の製品価値を高めてくれる共同生産者とみなすわけだ。この戦略(A)によって、彼らの収入増を目指す。
《戦略A》
・最低生活層の人々を共同生産者とみなして、仕事と収入を提供する。
・訓練の場を与えて、基本的な生産作業や組立作業、運搬、流通、そして最終顧客への販売などといった活動に従事させる。
《事例A》
・ネスレやマーズ(チョコレート会社)など、新興国の農作物を仕入れている多国籍企業
現地の農民に技術知識を教えて農産物の品質を向上させ、金銭的な見返りを増やしている。
・ヒンドスタン・ユニリーバ
5万人の女性を訓練して起業家を大勢生み出している。彼女たちは消費者を個別訪問して指導を行い、せっけんや歯磨きなどの製品を販売している。こうした女性たちは、地元の銀行やマイクロファイナンス機関から融資を受けて、その地域に経済生態系を育成するようになっている。
戦略(A)が功を奏し、最低生活層の収入が増えれば、社会的ニーズを充足する製品やサービスを購入する余裕が生まれる。しかし、彼らはどのような製品やサービスが生活の質的改善につながるのかをよく知らない。そこで、彼らが正しい製品知識を獲得するのをサポートし、彼らを”啓蒙”する必要がある。これが2つ目の戦略(B)である。
《戦略B》
・最低生活層は、新しい製品や制度についての必須情報に接する機会が少なく、新しいものを購入したがらない。従って、製品カテゴリー全体の需要を創出しなければならない。その際に、販売チャネルが重要な役割を果たす。
《事例B》
・ヒンドスタン・ユニリーバ
浄水器<ビュレイト>は、水道も電気も引かれていない何百万もの家庭に、国際的な水質基準を満たした水を提供できる。だが、多くの消費者は、浄水が健康に有益なことすら知らず、知っている消費者も22ドルもする浄水器よりもはるかに手軽な代替策、すなわち煮沸を行っていた。そこで、ヒンドスタン・ユニリーバは、消費者教育と浄水器販売の双方を、現地のNGOに委託している。
(続く)
May 27, 2011
「社会的価値」はどうやって測定すればいいのだろう?―『戦略と競争優位(DHBR2011年6月号)』
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これまで見てきたように、ポーターが言う「共通価値の創造」とは、社会的ニーズの充足を通じて経済的価値を創出することであり、従来のCSR(社会的責任)とは異なる考え方である。
社会的ニーズの充足を通じて経済的価値を創造する(1)―『戦略と競争優位(DHBR2011年6月号)』
社会的ニーズの充足を通じて経済的価値を創造する(2)―『戦略と競争優位(DHBR2011年6月号)』
ここで問題になるのは、「社会的ニーズの充足が経済的価値に貢献しているかどうかを、どうやって測定するのか?」ということである。ポーターの論文では、社会的価値の創造に積極的な企業の事例がいくつも紹介されている。例えばこんな感じだ。
コカ・コーラは、全世界における水の量を2004年の水準から9%削減している。これは、2012年までに20%削減するという目標を、ほぼ半分達成したことになる。ただし、このレベルの記述であれば、企業が決算時に発表する「CSRレポート」の記述と大差がないように思える。重要なのは、「コカ・コーラが全世界における水の量を9%削減すると、コカ・コーラの利益がどのくらい増えるのか?」ということである。しかも、単なるコスト削減によるものではなく、需要の創造(=売上の拡大)による利益増でなければならない。そうでないと、本当の意味で経済的価値が創造された、すなわち経済成長がもたらされたとは言いがたいからである。
ダウ・ケミカルは、同社最大規模の生産拠点における真水の消費量を10億ガロン(約37億8500万リットル)削減することにした。これは、約4万人のアメリカ人が1年間に消費する量に匹敵し、最終的には400万ドルのコスト削減につながった。
この問いに答えるためには、「コカ・コーラが全世界で使用する水の削減」と「コカ・コーラの需要増」という2つの要素をつなぐシナリオが必要になる。コカ・コーラが水を節約することで充足される社会的ニーズとは何か?その1つは、「安全な飲み水が得られない人々の減少」ではないだろうか?
全世界には、安全な飲料水を利用できない人が約11億人存在すると言われている。実に全世界の人口の5分の1に相当する数だ(※1)。コカ・コーラは世界で約900以上の工場を有しているが(※2)、その中にはインドや北アフリカなど、新興国に立地するものも少なくない。何年か前に、インドのコカ・コーラ工場が水を使いすぎて周辺の土地が地盤沈下を起こし、インド国内のコカ・コーラ不買運動にまで発展したこともあった。
仮にコカ・コーラが新興国の工場で使用する水の量を節約し、その分を現地住民に還元することができたならば、こんなシナリオが考えられるのではないだろうか?
コカ・コーラが新興国の工場で使用する水の量を節約する。
⇒周辺住民は、安全な飲み水を利用できるようになる。
⇒周辺住民の衛生状況が改善される。
⇒周辺地域における感染症が減少する。
⇒感染症に弱い子どもの死亡率が低下する。
⇒順調に成長する子どもが増え、将来的には地域の労働力人口が増加する。
⇒その地域の各世帯の所得水準が向上する。
⇒その地域でコカ・コーラを購入できる人たちが増える。
⇒コカ・コーラの売上が増加する。
これはかなりアバウトなシナリオだし、コカ・コーラにとってあまりにも有利なシナリオになっている感じが自分でもするのだけれども、「社会的ニーズの充足」と「経済的価値の創造」をつなぐとは、こういうことなのではないだろうか?
こうしたシナリオが描ければ、各プロセスの成果を測定するKPI(Key Performance Indicator、重要成果指標)を設定することが可能になる。先ほどのシナリオで言うと、コカ・コーラの工場の周辺地域における、
・安全な水にアクセスできる住民の数
・感染症の患者数
・子どもの死亡率
・労働力人口
・1世帯あたりの所得
などをKPIとして設定し、その数値を中長期的にモニタリングすることになるだろう。ポーターも、共通価値の創造に向けた指標の重要性を指摘している。
共通価値を創造するには、(中略)具体的な指標を事業部門別に用意する必要がある。さまざまな社会的影響について追跡し始めた企業もあるが、これら社会的影響と経済的利益を事業として結びつけている企業はまだ少ない。ただ、ここでもう1つ問題になるのは、これらのKPIはコカ・コーラ単独で改善できるものばかりではない、ということである。むしろ、コカ・コーラ以外の影響の方が大きいだろう。感染症の患者数を減少させるには、優れた医療機関の存在が欠かせないし、子どもが順調に成長することを願うならば、適切な教育施設が整っていることも必要条件となる。
では、「コカ・コーラは共通価値を創造するために、医療機関や教育施設の整備にも乗り出さなければならないのか?」というと、それはまた別問題である。この点が、企業の社会的責任の範囲を決める上で重要な論点になるわけだ。ドラッカーは何十年も前から企業の社会的責任について論じていたけれども、「企業が責任を持てないことにまで手を伸ばすのは、逆に無責任である」と何度も忠告している。
コカ・コーラが医療機関や教育施設を建設・運営するべきか否かは、コカ・コーラのコア事業との関連性によって決まる。コカ・コーラがこれらの施設をマネジメントする能力を有しないならば、たとえ共通価値の創出が大義名分として掲げられていたとしても、この分野に手をつけてはいけないということになる(よく考えれば当たり前なのだけれども・・・)。かといって、この問題を放置しておくわけにもいかない。コカ・コーラは、これらの分野に強い他の企業や現地NPO、あるいはコカ・コーラと似たような社会的ニーズの充足に取り組む企業との上手な連携を通じて、共通価値を創造していくことになるのだろう。
(※1)国際連合『World water Development Report 2(世界水開発報告書2)』(2006年)
(※2)日本コカ・コーラHPより。ちなみに、日本には2つしか工場がない。
May 23, 2011
社会的ニーズの充足を通じて経済的価値を創造する(1)―『戦略と競争優位(DHBR2011年6月号)』
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今月のDIAMONDハーバード・ビジネス・レビューは、競争戦略で知られるマイケル・ポーターの論文集。先月号に続いて過去の論文のまとめだったので、「おい、またかいっ!?」っていう気持ちになったけれど、改めてポーターの論文を読み直してみたら、いろいろと考えさせられることがあった。
経済的価値と社会的価値を同時実現する 共通価値の戦略
この論文は今月号のための書き下ろし。ポーターの主張を掻い摘んで言うとこんな感じかな。「企業は経済的価値の実現ばかりを追求していてはダメ。企業は地域社会があってこそ存続できるのであって、地域社会における様々なステークホルダーの”社会的ニーズ”をも満たす必要がある。企業の第一の目的は、社会的ニーズの充足を通じて経済的な利益を創出することである」
社会的責任(CSR)の議論と似ているけれども、重要なのは最後にある「社会的ニーズの充足を通じて経済的価値を創造する」という点である。日本の場合は、昔から「三方よし」の考え方があり、さらに明治や戦後の起業家の多くは社会的な貢献を重視していたから、この手の主張は当然のように思える(とはいえ、最近の「生肉ユッケ事件」のように、倫理に反した企業の行動は絶えないわけだが)。
ただ、アメリカだと未だにCSRが必要悪、あるいは社会的批判を避けるためのコストのように扱われているようで、この課題認識がポーターの議論の出発点になっている。ポーターは、社会的価値と経済的価値の両立を目指しており、それを「共通価値」と呼んでいるわけである。
ポーターが言う社会的ニーズとは、天然資源の節約、不十分な公的教育を補うための社員の再教育、社員や顧客の健康促進、自社工場が立地する地域住民の生活への配慮、サプライヤーの生活の保障、金融システムの安定化など、社会が存続するための様々な要件を指している。こうした社会的ニーズを満たさなければならないということは、裏を返せば現状では企業が社会的ニーズを満たすことができてきていない、ということに他ならない。
従来のCSRの考え方だと、「社会的ニーズに対して企業が自社の利益を補填する(それによって、非営利団体や環境保護団体などの批判をかわす)」という打ち手が導かれる。一方、ポーターの「共通価値」の考え方では、「社会的ニーズの充足を通じて、自社の利益を拡大する」という流れになる。両者の違いについて、ポーターはフェア・トレードを例にとって、次のように説明している。
フェア・トレードの目的は、同じ作物に高い価格を支払うことで、貧しい農民の手取り額を増やすことである。気高い動機ではあるが、創造された価値全体を拡大するものではなく、主に再配分するためのものである。ここでちょっと思ったのだが、環境負荷を無視した過剰な生産や複雑な流通、社員を馬車馬のように働かせるマネジメント、海外工場の周辺住民の健康を損なう危険な生産、サプライヤーへのコスト転嫁や不利な契約条件の押しつけ、金融システムを大混乱に陥れるかもしれない高リスクの金融商品の乱発などといった社会的弊害の原因の一部は、実はポーターの名を世界的に有名にした「ファイブ・フォーシズ・モデル」にもあるような気もするんだよね?(ポーターは絶対に反論するだろうけど)
一方、共通価値では、農民の能率、収穫高、品質、持続可能性を高めるために、作物の育成技術を改善したり、サプライヤーなど支援者の地域クラスターを強化したりすることが重視される。その結果、売上げと利益のパイが大きくなり、農家と収穫物を購入する企業の双方が恩恵に浴する。
ファイブ・フォーシズ・モデルとは、業界構造を(1)新規参入の脅威、(2)代替品の脅威、(3)売り手の交渉力、(4)買い手の交渉力、(5)既存企業同士の競争、という5つの切り口で分析するフレームワークである。各業界の魅力度(=どのくらい利益を生み出せる可能性があるか)は、この5つの要因の強さとバランスによって決まる。そして、企業が自社の利益を拡大するには、各要因が自社にとって有利に働くよう仕掛けるとよい(=これが戦略的打ち手である)、というのがポーターの教えである。
ただ、この考え方を推し進めると、極端なことを言えば、新規参入や代替品を排除して、売り手や買い手の交渉力を弱め、競合他社と過度な競争をしなければ、自社の利益を拡大することができる、ということになってしまう。具体的には、
・参入障壁を高くするような規制強化を政府に持ちかける。
・売り手(サプライヤー)の数を減らして自社への依存度を高くし、「うちの言い値で部品を作ってくれないんだったら、お宅との契約は切りますよ」と脅す(もちろん、恐喝にならない範囲で)。
・製品の計画的陳腐化を促して、顧客が新製品を次々と購入しなければならない状況を作る。
・独占禁止法に引っかからない程度に競合他社と協調して価格を維持し、顧客から利益をかすめ取る。
といった行動に出る企業が出てくるのである。
(続く)