※2012年12月1日より新ブログに移行しました。自分で言うのもおこがましいですが、20代の頃に書いた本ブログよりも、30代に入ってから書いている現行ブログの方がはるかに中身が濃く、内容が多岐にわたり、面白いと思いますので、是非ご覧いただけるとありがたいです!
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April 26, 2012

オープンブック・マネジメント(OBM)の事例と導入時の注意点

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 以前の記事「オープンブック経営(Open-book Management: OBM)」への補足。同記事では、オープンブック・マネジメントは中小企業ほど成功しやすいと書いたものの、改めて考え直してみると、中小企業であっても、社員が財務諸表の各項目と自分の仕事を結びつけて考えることは容易ではないだろう。例えば、製造現場の社員たちに「売上原価」の数字を見せて、「原価を下げる方法を考えてほしい」とお願いしても、アイデアは思いつくだろうが、話が大きすぎると感じるに違いない。社員にとって関心があるのは、原価の総額というよりも、自分が担当している工程で使用する材料のコストや工程のリードタイム、歩留まり率、仕掛品在庫の量などである。

 言ってしまえば、財務諸表の項目は少なすぎるのであり、複数の社員の仕事の成果をまとめた数字にすぎないため、一人ひとりの仕事の実態からはどうしても遠くなってしまうのである。指標に対する責任を社員に負わせるのであれば、その指標は社員が直接コントロールできるものでなければならない。先ほどの製造現場の例で言えば、各工程の材料費、リードタイムなどの情報まで開示した上で、その改善策を各社員に検討させるべきなのである。

 オープンブック・マネジメントの解りやすい導入事例が『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』2012年5月号に掲載されていたので、やや長いが引用しておく(グレッチェン・スプレイツァー、クリスティーン・ポラス著「社員のパフォーマンスを高める 幸福のマネジメント」より)。
 数々の食品関連事業を展開するジンガーマンズ・コミュニティ・オブ・ビジネシズは、情報の透明性をとこと追求している。かねてから同社は、意識的に経営数字を伏せたことはなく、財務情報を社員向けに掲示していた。しかし共同創業者のアリ・ワインツワイグとポール・サギノーは1990年代半ばにオープンブック・マネジメントを学び、「数字を目の当たりにすれば、社員たちはもっと高い関心を示すはずだ」と考えるようになった。

 実のあるオープンブック・マネジメントを正式に取り入れるのは容易ではなかった。数字をガラス張りにしても、社員たちにとっては注意を払う理由などほとんどなく、自分の日常業務とどう関係するのかもピンと来ないようだった。

 最初の5、6年は、オープンブック・マネジメントを自社の流儀や習慣として何とか根づかせ、「額を集めての苦行」の意味を社員らに理解してもらおうと四苦八苦した。毎週、皆でホワイトボードを囲むようにして業務成果を確かめ、数字を記録し、自習の数字を予測する。社員はオープンブック・マネジメントのルールは飲み込んだが、当初は「ただでさえ忙しいのに、なぜこのうえさらに会議をするのか」と首をひねった。

 経営層が問答無用で会議を強制するとようやく、ホワイトボードを使う本当の目的に気づいてくれた。ホワイトボードには、財務数字だけでなく、サービスや商品の品質指標、客単価、社内満足度などが記されていた。「お楽しみ」という項目もあり、その内容は週次のコンテスト、顧客満足度ランキング、社員のイノベーション・アイデアなど、実に多彩だった。

 一部の事業部門は「ミニ・ゲーム」を取り入れた。問題を解決したり、事業機会をうまく活かしたりした時には、臨時のインセンティブを与えるのである。たとえば、ジンガーマンズ・ロードハウスという傘下のレストランでは、来店者へのあいさつを競うゲームを実施した。

 あいさつを怠ると顧客満足度は下がり、応対の遅れを埋め合わせるために往々にして一品サービスするはめに陥ってしまう。このゲームは給仕を対象に行い、50営業日連続で「すべての担当顧客に、着席から5分以内にあいさつを済ませる」(※)というルールを守ったら、ささやかなボーナスを支払うことにした。給仕たちは奮起して、サービスの不行き届きにはすぐに目を留めて対処するようになった。

 1ヶ月の間にサービス指標は大きく跳ね上がった。ジンガーマンズの他の事業部門や店舗もこれと似たようなゲームを導入して、迅速な配送や、ベーカリーでの刃物による怪我の減少(これは医療保険料負担の節減につながる)、厨房の整理整頓などを達成すると、インセンティブを出した。
(※)「5分以内のあいさつ」では遅すぎるのでは??と思うが、これはアメリカと日本でサービスに対する顧客の期待水準が違う(日本の方が要求が厳しい)ため、ということにしておこう。

Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2012年 05月号 [雑誌]Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2012年 05月号 [雑誌]

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March 03, 2012

「安さ創り」というより、組織設計の原則を再確認した特集だった―『日経情報ストラテジー2012年4月号』

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日経 情報ストラテジー 2012年 04月号 [雑誌]日経 情報ストラテジー 2012年 04月号 [雑誌]
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 (続き)

現場に権限委譲する場合、どの権限を委譲し、どの権限を本社に残すか?
 現場での意思決定を迅速化し、現場を活性化するために「権限委譲(※1)」が効果的であるという主張は昔から見られるものである。そのための組織設計のアイデアもいくつか出ており、例えばロバート・K・グリーンリーフらの『サーバントリーダーシップ』では、顧客を一番上に、経営層を最下層に位置づけた逆ピラミッド型の組織図が登場する。

 もう少し具体的な組織設計の方法論となると、私の蔵書の中ではJ・R・ガルブレイスの『顧客中心組織のマネジメント―「製品中心企業」から「顧客中心企業」へ』が挙げられる。この本は、何でもかんでも現場に権限委譲すればいいというスタンスは取らず、

 ・「製品の規模と範囲」・・・同一顧客に提供している製品・サービスの種類が多いか?
 ・「統合化」・・・同一顧客に提供している製品・サービスが相互に関連しているか?別の言い方をすれば、たくさんの製品・サービスをバラバラに提供することが多いか(例:食品小売)、まとめてパッケージ化することが多いか(例:SIer)?

という2つの指標を使って、両方のスコアが高ければ顧客中心型の組織を設計し、現場への権限委譲を進めるべきだと提案している(※2)。

サーバントリーダーシップサーバントリーダーシップ
ロバート・K・グリーンリーフ ラリー・C・スピアーズ

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顧客中心組織のマネジメント―「製品中心企業」から「顧客中心企業」へ顧客中心組織のマネジメント―「製品中心企業」から「顧客中心企業」へ
Jay R. Galbraith

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 ここで問題になるのは、現場に権限委譲する場合、どの権限を委譲するのか?換言すれば、何に関する意思決定権を現場に付与するのか?ということである。この権限配分を間違えると、顧客への迅速な対応という当初の目的も達成されず、現場の暴走を招くことになりかねない。

 委譲の対象となる権限として真っ先に検討しなければならないのは、マーケティング・ミックスの4Pのうち、Place(チャネル)を除く3つである。すなわち、Product(製品)、Price(価格)、Promotion(プロモーション)の3つだ(Placeに関しては、現場そのものがPlaceに該当するから、権限委譲できない)。Productに関する権限はさらに、「製品・サービスの種類」(具体的には新製品企画)と、「製品・サービスの量」(具体的には発注・在庫調整)に関する権限に分けることができる。

 この3つのうち、どれを現場に委譲するかを決定するにあたって拠り所となる原則は、「そのチャネルがターゲットとする顧客のニーズで、最も変動が大きいものに関する意思決定権を委譲すること」だと思う。以下、『日経情報ストラテジー』2012年4月号に登場する事例で見てみると、

《H・I・S》※Productのうち、「製品・サービスの種類」に関する意思決定権を委譲。
・現地ツアーは、本社ではなく現地法人が企画・販売を行うようにした(かつては日本本社が企画やチケットの仕入れ、コースの段取りを行い、現地法人は旅行客が到着した後のサポートのみを担当)。
←【筆者補足】旅行客がどのような現地ツアーを望んでいるかは、旅行先の国や地域によってバラバラであるから、本社が全部まとめて企画するより、現地の魅力を一番よく知っている現地法人に任せた方が早い。

《カルビー》※Productのうち、「製品・サービスの種類」に関する意思決定権を委譲。
・ペプシコの資本参加を受けた2009年以降、製品別カンパニー製から地域別の事業本部制に改め、地域限定製品を企画する権限を各事業本部に委譲した。
←【筆者補足】前回の記事「「安さ創り」というよりマーケと組織設計の原則を再確認した特集だった(1)―『日経情報ストラテジー2012年4月号』」でも紹介したように、カルビーは地域限定製品をお土産としてではなく、その地域の人々に販売しようとしている。お土産用であれば、各地の旅行客数からおおよその需要は予測できるし、各地の名物の中で特に知名度が高いものを選べば、製品企画は割とスムーズに進む。ところが、その地域の人に愛される製品となると、各地域の食習慣や嗜好をより深く知る必要がある。そのために、製品企画の権限を地域別事業本部に委譲したと思われる。

《サンエース(塩化ビニールの添加剤メーカー)》※Priceの意思決定権を委譲。
・M&Aによってオーストラリアやサウジアラビアなど世界9カ国に14拠点を展開するが、買収先である現地法人の自主性を尊重。特に価格に関しては、「国内では長期取引が一般的だが、海外では毎月見積もりを求められ、より安い価格を提示した会社がそのつど選ばれる」という商習慣の違いに配慮し、価格決定権を現地法人に委譲している。
←【筆者補足】BtoBビジネスは、それぞれの顧客と個別に価格交渉が生じるのが常であるから、価格決定権はたいてい現場に委譲されているものだが、サンエースの事例で重要なのは、現地法人の経営陣が全て現地の人々によって構成されており、彼らが決定権を握っているという点である。現地の商習慣を一番よく理解した人が現地のビジネスを進める、というスタイルができ上がっている。

 本号の特集では、Productのうち「製品・サービスの量」に関する意思決定権と、Promotionに関する意思決定権を委譲している事例がなかったのだが、後者に関しては、例えば保険業界で、保険会社から顧客に対してDMを送るだけでなく、代理店が顧客1人1人に手書きのメッセージを添えてDMを送るといった販促活動が該当するだろう(私自身の経験だと、保険会社から直接DMが届くことは皆無に等しく、DMは代理店から来る)。これは、1人1人の顧客のことをよく知っている代理店にPromotionを任せた方が得策との判断によるものであろう。

 前者に関しては、多くの小売業が各店舗に発注権限を与えている(セブンイレブンの仮説検証型経営はその最たる例)。小売業の場合、本社がモデル商圏を設定し、モデル商圏の顧客構成や顧客数に近い商圏を選択して出店するため、製品・サービスの中身自体にはそれほど差が出ないようになっている。ただし、各地の気候やイベントなどの地域特性によって、各製品の”販売数”は店舗固有の変動を見せるので、その変動に合わせて発注量を調整する役割が現場に与えられる。

 逆に、各店舗に「製品・サービスの種類」に関する意思決定権、言い換えれば新製品企画・調達の権限まで与えている小売業はほとんどない。確かに、顧客のニーズを一番よく知っている現場に、新製品企画の権限を与えてもよいのではないか?という考え方もあるかもしれない。しかし、店舗の本業は”製品を販売すること”であり、また、言うまでもなく特殊製品が増えるとスケールメリットが得られなくなる上に、全社的にも製品管理が煩雑になりコストが増える。したがって、多くの小売業では、新製品のアイデアを吸い上げる仕組みを整備するにとどまっている。この点、店舗ごとに独自メニューを揃え、さらに価格の変更まで許容している王将は、かなり例外的な存在のような気がする。


(※1)「権限委譲」に該当する英語には"delegation"と"empowerment"の2つがある。"delegation"は単に意思決定権や責任を委譲することを指すが、"empowerment"には自立を促しそれを支援するといった意味合いがある(「MBA経営辞書―goo辞書」を参照)。

 "empowerment"は、もともと市民運動において生まれた概念であり、「個人や集団が自らの生活への統御感を獲得し、組織的、社会的、構造に外郭的な影響を与えるようになること」と定義される。"empowerment"という概念を初めて用いたのは、ブラジルの教育思想家であるパウロ・フレイレであり、その後、ラテンアメリカを始めとする世界の先住民運動や女性運動、あるいは広義の市民運動などの場面で用いられ、実践されるようになった。こうした経緯もあって、"empowerment"には、「力を与える」、すなわち、個人の主体性や関心を高めるといったニュアンスが含まれている(「エンパワーメント―Wikipedia」を参照)。

(※2)この本はいい本なんだけど、日本語訳がとにかくひどいので、読まれる方はそれなりの覚悟を持って読んでください(苦笑)。プログラム言語であるJavaが「ジャバ」と表記されていた時は、さすがにひっくり返りそうになった。
December 12, 2005

【ミニ書評】ハロルド・カーズナー著『カーズナーの実践プロジェクトマネジメント―ベストプラクティスの追求』

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カーズナーの実践プロジェクトマネジメント―ベストプラクティスの追求カーズナーの実践プロジェクトマネジメント―ベストプラクティスの追求
ハロルド カーズナー Harold Kerzner

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 ハロルド・カーズナー著、伊藤健太郎訳。総合品質マネジメント(TQM)、コンカレントエンジニアリング、自己管理チーム、権限委譲(エンパワーメント)、リエンジニアリング、リスクマネジメントといったこれまでの様々なマネジメントプロセスを俯瞰した上で、それらの統合的なマネジメントシステムを構築し、プロジェクトに導入すべきだと主張する。卓越したプロジェクトマネジメントの各要素、すなわち「統合マネジメントプロセス」「文化」「マネジメントサポート」「教育訓練」「非公式のプロジェクトマネジメント」「卓越した行動」について概説している。