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新ブログ 谷藤友彦ー本と飯と中小企業診断士
July 28, 2011
「ニーズはあるがお金はかけたくない」事業をどう成立させるかがカギ(1)―『「雇用を創る」構造改革』
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(レビューの続き)本書では、「530万人雇用創出プログラム」のうち、高齢者ケア、子育て支援、医療情報サービス、健康サービス、住宅流通・リフォーム・賃貸サービス、生活者支援輸送サービス、旅行・観光の7サービスに焦点を絞り、将来的に求められるサービス像と先行事例、および市場拡大に向けた課題が整理されている。
7サービスの中で、健康サービスとは、EBH(Event Based Health)、つまり「証拠に基づいた健康づくり」のサービスを意味する。例えば「Aという食品を摂取すれば、疾患Xの発症率がX%下がる」、「Bという運動をすれば、疾患Yの発症率がY%下がる」、「Cという生活習慣の人は、疾患Zの発症率がZ%上がる」などといった科学的な根拠に基づいて、食品、サプリメント、リラクゼーション、スポーツ、旅行など多様なサービスを提供することを指している。
もちろん、各企業が独自に調査を行って自社製品やサービスの有効性をアピールするマーケティングは、すでに数多く行われている。ただし、”科学的な証拠”となると、各企業がその要件を満たしているとは限らない。科学的な証拠を集めて分析するには、十年単位の長期的な研究が必要となる。よって、健康サービスが産業として成立するには、まだかなりの時間がかかりそうだ(そもそも、「本当に”科学的な証拠”という厳密な事実まで必要なのか?」という別の論点はあるが)。
また、旅行・観光は、テロや感染症、自然災害などの影響を非常に受けやすい産業である。よって、観光産業への依存度が高くなるのはあまり望ましいとは言えない。さらに、現在でも訪日観光客の大半はアジア人(韓国が1位、台湾が2位、中国が3位)であり、日本アニメの評価が世界的に上がって特に米仏で熱狂的なアニメファンが増えたとはいえ、欧米人全体の訪日観光ニーズはそれほど伸びていない状況である(http://www.geocities.co.jp/nezimaki_tokyo/kankou/kuni.html)。したがって、健康サービスと旅行・観光の2つについては、中長期的かつ継続的な取組みを要する産業であるように思える。
これに対して、喫緊の課題として産業の拡大が必要なのは、残りの高齢者ケア、子育て支援、医療情報サービス、住宅流通・リフォーム・賃貸サービス、生活者支援輸送サービスの5つである。住宅流通・リフォーム・賃貸サービスを除く4サービスに関しては、本書では詳しく触れられていないが、2つの共通する課題が存在すると私は思う。
1つ目の課題は、ブログのタイトルにも挙げたように、4つのサービスは「ニーズはあるけれども、顧客がそれほどお金をかけたくない」ものだということである。言うまでもなく、顧客が料金を支払ってくれなければ、事業として成立しない。一昔前ならば、このような事業化しにくいサービスには、政府や自治体が補助金をつけたであろう。しかし、昨今は国も地方も財政難に陥っていることを考えると、事業主が補助金に頼り続けることは難しい。
2つ目の課題は、これらの4サービスは、医療情報サービスを除いて労働集約型であり、固定費が高くなるという点である。固定費が高い事業は、損益分岐点が高くなり、資金繰りが難しくなる。よって、経営者はできるだけ固定費を下げようとする。しかし、労働集約型であるがゆえに、固定費を下げようとすると、コストカットの対象はおのずと人件費になる。他方で、社員は当然のことながら定期的な昇給を望むだろう。
本書では、公立保育園の人件費について言及している箇所がある。公立保育園のスタッフは公務員であり、80年代前後に採用されたスタッフは、公務員の人事給与制度に従って昇給を続け、今では年収が1,000万円を超えるスタッフも少なくないという。この人件費の高さが、公立保育園の経営を圧迫しているわけである(しかも、公務員だから、よほどのことがない限りクビを切れない)。
2つの課題を総合すると、4つのサービスは、経営者の視点から見ると、「売上を上げにくい上に総コストに占める人件費の割合が高く、スタッフの勤続年数が長くなればなるほど、より不利になる」ということになる。ニーズはあるけれどもあまり旨みがないビジネスに、前述の雇用創出プログラムが想定するシナリオに沿って、果たして民間企業は参入してきてくれるだろうか?
ここからは私のアイデアになるが、上記の課題を解決するには2つの策を打てばよいのではないだろうか?まず、売上を上げにくい、顧客がお金をあまりかけたがらないという点については、顧客の可処分所得を増やす必要がある。ここでカギを握るのが、実は住宅流通・リフォーム・賃貸サービスである。
言うまでもなく、日本の土地・建物は世界的に見ても非常に高い。消費者は一生に一度の買い物として、新築の住宅やマンションを購入する。しかし、一旦家を購入してしまうと、その価値は右肩下がりで減っていき、ローンの支払いが終わる頃には価値がほぼゼロになってしまう。この背景には、中古住宅の流通市場がほとんど存在しないという、日本特有の事情がある。
中古住宅の流通市場が充実していれば、新築の住宅・マンションにリフォームを施して価値を維持し、住む必要がなくなった時に住宅・マンションを一定価格で売却することが可能になる。これからの日本は、人口減に伴って住宅・マンションが余るのが目に見えているから、余った中古住宅・マンションが市場に数多く出回るようになる。そうすると、従来よりも低価格で家を手に入れられる人が増加するに違いない。本書では、中古住宅流通市場の拡大に向けた具体策がいくつも提示されており、非常に興味深い。
仮に住宅の取得金額が1,000万円下がると、消費者にとってはかなりのメリットがある。私に2人の子供が生まれて、私立保育園に生後6か月から2歳まで(=幼稚園に入る直前まで)預けるとしよう。保育料はやや高めの4万円/月とすると、2人の子供にかかる料金総額は、30か月×4万円×2人=240万円となる。残りの760万円は、老後資金として取っておく。
2人の子供が成人になって独立し、今度は私と妻が「安心ハウス」と呼ばれる福祉施設に入所することになったとする。ちなみに「安心ハウス」とは、本書で著者が提唱しているものであり、従来の高額な老人ホームとは違って、年金程度の金額でありながら、介護サービスも十分に受けられる施設である。
事業者は主に民間事業者を想定し、コストの削減や多様なサービスの展開など民間事業者の創意工夫に期待する。例えば食事サービスについては、特別養護老人ホームは1日3食の定型サービスだが、安心ハウスでは民間給食サービスやケイタリングサービスを利用しても、外に行って食べてもいいなど、入居者の好みとニーズに応じた多様な選択ができるようにする。この安心ハウスの利用料を、2人で20万円/月(※本書では15万〜20万円程度とされている)とすると、残りの760万円で、760万円÷20万円=38か月(約3年超)住むことができる。さらに、入所前に自宅を売却し、その売却額が数百万円程度残っていれば、利用可能期間はもっと延びる。万が一、年金制度が破綻して、私が高齢者になる頃には年金が受け取れなくなったとしても、死ぬ直前の5年程度は介護を受けながら生活することが可能になる(介護保険制度が破綻しないことが前提だが)。
介護サービスについては、介護保険法に基づく「特定施設入居者生活介護」指定を受け、特別養護老人ホームと同等の介護サービスを受けられるケースや、既存の訪問介護サービスや事業者と連携した在宅介護サービスを受けられるケース、デイサービスセンター等が併設されていて昼間はそこに行ってくつろいだり介護を受けたりするケースなど、多様なサービスが考えられる。
(続く)
July 27, 2011
(メモ書き)「530万人雇用創出プログラム」の概要―『「雇用を創る」構造改革』
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著者の島田晴雄氏(慶応義塾大学経済学部教授)は、小泉政権時に内閣府特命顧問を務め、構造改革の推進を支えてきた人物である。著者は、医療、福祉、子育て支援、教育(特に成人教育)など、様々な生活関連サービスへのニーズが将来的に増加することを踏まえて、生活サービスの規制改革を進め、民間企業の参入を増やせば、約530万人の雇用が創出されると予測している。このシナリオをより具体化したものが、2003年春に「530万人雇用創出プログラム」として政府から発表された。本書は、この雇用創出プログラムの解説本として、2004年に出版されたものである。
2004年の本を何で今さらレビューするのか?と言われそうだけれども、桐山秀樹著『この街は、なぜ元気なのか?―北海道伊達市モデル』の中で、伊達市の改革をサポートしていたのが島田教授であると解り、教授自身の考え方やスタンスに興味が湧いてきたから、というわけだ(以前の記事「「地域活性化」という、いつもとちょっと毛色の違う本を読んでみた」もご参照ください)。
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やや長いが、530万人雇用創出プログラムの概要を以下に引用しておく。「企業・団体向け」や「社会人向け教育」、「リーガル・その他の専門職種」など、生活支援サービスとは言い難いものが部分的に含まれているので、純粋に生活支援サービスだけを取り出すと、雇用創出効果は約300万人前後になりそうである。
A-1.個人向け・家庭向け(雇用創出効果+137〜213万人)雇用創出プログラムが発表されてから8年が経過しているが、上記のサービスに関しては、現在でも市場動向はほとんど変わっていないだろう。「環境」については、福島原発事故を受けて、自然エネルギーや再生可能エネルギーへの関心が一気に高まっているから、もっと多くの雇用が創出されるかもしれない。
(1)コンシェルジェ(家事代行、食、資産運用、娯楽等)
女性の社会進出の増加、価値観の多様化、高齢化の進展等を背景に今後大幅にニーズが増加
(2)旅行
訪日旅行客は海外旅行客の1/3。2010年までに訪日旅行者を倍増。有給休暇取得率50%以下
(3)健康促進
国民の健康や美への志向は益々高まる
(4)ライフモビリティ
新たな形態の生活支援関連輸送サービスが登場
A-2.企業・団体向け(同+192〜210万人)
(1)情報関連
インターネット普及、ブロードバンド化の急速な進展
(2)労働者派遣
派遣労働者数は引き続き高い伸び率で増加
(3)ロジスティクス
荷主事業の本業への経営資源集中等を背景に成長
(4)警備業
厳しい犯罪情勢の中での専門的警備へのニーズ増大
A-3.社会人向け教育(同+13〜20万人)
(1)高度職業教育関連
生涯の様々な段階における多様な学習ニーズの顕在化
(2)生涯教育関連
高度専門人材への需要の高まり
(3)特定産業における次世代人材養成
基幹労働者の高齢化・退職に伴う将来の人材不足
A-4.住宅関連等(同+26〜37万人)
(1)住宅関連
今後は、質の高い住宅ストックが形成され、円滑に流通する市場構造とすることが求められる
(2)ビルメンテナンス・リフォーム
ビルの効率的な維持管理が重要。リフォームによるグレードアップ等の動きが活発化
A-5.子育て関連(同+8〜10万人)
・保育・子育て
都市部における保育・子育てサービスへの潜在的ニーズは、多様かつ今後も引き続き高水準
A-6.高齢者ケア(同+56〜78万人)
・老人福祉・介護
介護保険導入に伴い、老人福祉・介護サービスの利用者が大幅に増加。今後もニーズは益々増加
A-7.医療・医療情報(同+16〜17万人)
・医療・医療情報
電子カルテ・電子レセプトなどのIT化は緒についたばかり。また、必要な情報提供が不足。情報化進展に期待
A-8.リーガル・その他の専門職種(同+6〜10万人)
・法曹、司法書士、税理士、公認会計士、行政書士
経済の国際化、高度化、複雑化に伴う専門職サービスに対するニーズの増大
A-9.環境(同+16〜22万人)
・廃棄物・リサイクル対策、地球温暖化対策、その他
世界的な環境制約の高まりに伴い、環境関連サービスに対するニーズは益々増大
B-1.労働市場の環境整備(後述のB-2と合わせて+26万人+α)
・労働市場整備
円滑な労働移動や多様な働き方を選択することが可能な労働市場の整備が重要
B-2.若年者、女性、中高年労働者に対する支援
(1)若年者
若年者の高い失業率、フリーターの増加
(2)女性
依然として不十分な女性の環境雇用
(3)中高年
中高年の失業者の長期化
(次回からもっと突っ込んだ書評になります)
September 11, 2005
「コーランか、剣か」で郵政選挙を大勝に導いた小泉首相は残りの改革も進められるか?
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選挙に行ってきました。現在の小泉改革路線を支持する投票をしてきました。
私の地元岐阜1区では、造反組の野田聖子氏と刺客の佐藤ゆかり氏が激しい選挙戦を繰り広げて大変な騒ぎになっていましたが、現在住んでいる東京17区は、テレビにもよく出演している平沢勝栄氏の地盤が強いところなので、比較的静かな選挙戦でした(結果も、平沢氏の圧勝でした)。
今回の自民党圧勝劇は、小泉総理が郵政民営化に焦点を一本化し、まるで「コーランか、剣か」とでも言わんばかりに、賛成−反対の対立軸を鮮明に演出したその手法がもたらしたものです。
しかしこの戦法は、よく考えれば至極真っ当な方法です。現代社会が「広告社会(インターネットにアフィリエイトが溢れているのはその極み)」であり、私たちは普段から様々な媒体を通じて、企業や製品・サービス等に関する情報を簡潔かつ明快なメッセージによって受け取ることに慣れているのです。とりわけ国民の関心が薄れつつあった選挙で、政党が同様の手法に出ることは全く不思議ではなく、むしろこうした手法が今後のモデルケースにすらなると思います。
もちろん、簡略化しすぎることの弊害はいくらでも挙げることができるし、国民が政治を知る必要性と責任が少しも減少することはありません。しかし、選挙戦でさえいわば政党のマーケティング活動なのだから、自民党の方が正攻法だったといえます。
今回の選挙で、自公合わせて総議席の3分の2を超える320議席超を獲得したため、与党はどんな法案でも可決することができます。与党にとっては、構造改革を一気に進める舞台が整ったことになります。
優れた経営者が言うように、改革は一気に進めなければなりません。郵政民営化はこれで問題なく進みます。問題はその次です。年金問題、税制改革、日中韓関係、対北朝鮮外交などの問題は依然として残っています。
改革において重要なのは明確なビジョンを掲げることと、リアル・チェンジ・リーダー(RCL)たるキーマンを立てることです。郵政民営化では小泉総理と竹中平蔵大臣がその役割を担っています。残りの問題で同じようにビジョンとキーマンを創り出せるかが大きなポイントです。(いちおう小泉自民党を支持しているが、小泉さんには難しいかな…。郵政民営化しか頭になさそうだから。)
私の地元岐阜1区では、造反組の野田聖子氏と刺客の佐藤ゆかり氏が激しい選挙戦を繰り広げて大変な騒ぎになっていましたが、現在住んでいる東京17区は、テレビにもよく出演している平沢勝栄氏の地盤が強いところなので、比較的静かな選挙戦でした(結果も、平沢氏の圧勝でした)。
今回の自民党圧勝劇は、小泉総理が郵政民営化に焦点を一本化し、まるで「コーランか、剣か」とでも言わんばかりに、賛成−反対の対立軸を鮮明に演出したその手法がもたらしたものです。
しかしこの戦法は、よく考えれば至極真っ当な方法です。現代社会が「広告社会(インターネットにアフィリエイトが溢れているのはその極み)」であり、私たちは普段から様々な媒体を通じて、企業や製品・サービス等に関する情報を簡潔かつ明快なメッセージによって受け取ることに慣れているのです。とりわけ国民の関心が薄れつつあった選挙で、政党が同様の手法に出ることは全く不思議ではなく、むしろこうした手法が今後のモデルケースにすらなると思います。
もちろん、簡略化しすぎることの弊害はいくらでも挙げることができるし、国民が政治を知る必要性と責任が少しも減少することはありません。しかし、選挙戦でさえいわば政党のマーケティング活動なのだから、自民党の方が正攻法だったといえます。
今回の選挙で、自公合わせて総議席の3分の2を超える320議席超を獲得したため、与党はどんな法案でも可決することができます。与党にとっては、構造改革を一気に進める舞台が整ったことになります。
優れた経営者が言うように、改革は一気に進めなければなりません。郵政民営化はこれで問題なく進みます。問題はその次です。年金問題、税制改革、日中韓関係、対北朝鮮外交などの問題は依然として残っています。
改革において重要なのは明確なビジョンを掲げることと、リアル・チェンジ・リーダー(RCL)たるキーマンを立てることです。郵政民営化では小泉総理と竹中平蔵大臣がその役割を担っています。残りの問題で同じようにビジョンとキーマンを創り出せるかが大きなポイントです。(いちおう小泉自民党を支持しているが、小泉さんには難しいかな…。郵政民営化しか頭になさそうだから。)