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新ブログ 谷藤友彦ー本と飯と中小企業診断士
June 27, 2012
「国家株」によるギリシャ危機の回避策、他―『小売業は復活できるか(DHBR2012年7月号)』
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Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2012年 07月号 [雑誌] ダイヤモンド社 2012-06-08 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
先日も書いたけれど、今月号は個人的にちょっとイマイチだった。ステイシー・チルドレスの「GDP成長率と学力テストは相関する」も、「GDP成長率と学力テストは”因果関係”がある」だったら読む気も起きたのだけど、相関関係だけを取り上げられてもねぇ・・・という感じ(なので、この論文は読んでいない)。論文の紹介文に「長期的な国の競争力は学力テストの得点と相関性があるとする研究も発表され・・・」とあるが、(ここで言う「長期的な国の競争力」とは何なのか?にもよるものの、)いわゆる「国の競争力ランキング」で用いられているモデルには、その国の教育水準も含まれているから、学力テストの得点と国の競争力に相関関係があるのは当たり前じゃないの?という気もする。
今月号で興味深かったのはむしろ、後半に掲載されていた「世界の課題を解決するHBR13の提言」である。これは、HBR誌が各界の権威および第一人者にお願いして、世界が抱える課題に対し”大胆な”提言を寄せてもらったというものである。中には大胆すぎて突飛なものもあるとはいえ、議論の取っ掛かりとしてこういう提言には意義があると思う。その中で興味深かったものをいくつか紹介したい。
「国家株」による危機回避策(ロバート・J・シラー)
国家は資金調達の手段として、企業と同じように株式を発行してはどうか?という提言である。「トリル」という仮称が与えられたこの国家株を発行する国は、GDPの1兆分の1に相当する配当金を四半期ごとに支払う。国家株が国債よりも優れているのは、国債は意図的なインフレによって債務を実質的に減免できるのに対し、トリルの場合はインフレを起こすと名目GDPが膨れ上がり、支払うべき配当金も増えてしまうため、インフレを起こすインセンティブが抑制される、という点である。
提言では、仮にギリシャが国家株を発行していたら、昨今の急激なGDPの減少に伴って配当金も減るので、GDPの7割とも8割とも言われる巨額の対外債務にかかる利息を支払うよりも、負担がずっと軽くて済んだだろうとも述べられている。
もっとも、国家株を取引する市場はどこに設置するのか?とか、国家株に議決権がつくとしたら、何に対する議決権を有することになるのか?(内政干渉になりはしないか?)あるいは、国家株の大量取得による国家の買収が起きるのではないか?さらに、今回のギリシャ危機のようなことが起きれば、国家株の暴落によって損害を被った株主が訴訟に踏み切る可能性が高いが、この訴訟を処理する裁判所はどうするのか?など、クリアしなければならない課題は山積しているものの、非常に面白い提言だと感じた。
NASAに本来の任務を与えよ(グレッグ・イースターブルック)
宇宙ビジネスが実現しない根本的な理由は、「推進力を生み出すための重たい物体を地球周回軌道にまで運ぶ費用」の問題が解決されていないからだという。地球周回軌道は、地表から200マイル(約320km)上空にある。この高さに1ポンド(約0.454kg)の物体を運ぶのに必要な費用は、何と1万ドルに上るそうだ。解りやすい例で言えば、宇宙飛行士が毎日2リットルの水を飲むとすると、その水を地球周回軌道上に運ぶだけで、毎日2万ドル以上かかる計算になる。
この理屈で「人類に火星を送り込む」というミッションを達成するのに必要なコストを試算すると、1兆ドルというとんでもない数値になる(提言では、6人の乗員で500日かかる、という前提の下に計算されている)。つまり、日本の国家予算1年分を丸ごと全部突っ込まなければならないというわけだ。著者は、地球周回軌道に物体を運ぶコストを低減することこそがNASAの本来の任務であると主張している。この提言は、純粋に科学的な記事として面白かった。ただ、何のために火星に行くのか?という肝心の問いには全く触れられていなかったのだが・・・。
クラウドソースで上司を査定する(リンダ・A・ヒル、ケント・ラインバック)
上司を査定するという話自体は、既に180度評価や360度評価を取り入れている企業もあるので新鮮味はないのだけれども、その査定結果をクラウド上で全社員に公開してしまおう、というところに目新しさがある。
部下が上司を評価すべき理由として、議会制民主主義の原則が引っ張り出されることがある。国会議員は国民の選挙によって選出される、言い換えれば、国民が国会議員を評価するという「下から上への評価」が行われている。ならば、企業組織においても同様の評価が行われない理由はない、というのである。
もちろん、企業は民主主義的な組織とは異なるから、同じ理屈を通すのにはやや無理があると個人的には思うわけだが、そもそもなぜ評価を行うのか?という点に立ち戻ると、「自分がお願いしたことを、相手がちゃんとやってくれているか確認するため」という、至ってシンプルな理由による。
企業においては、上司が部下に仕事を依頼するのはもちろんのこと、実は部下も上司に対して、自分の仕事がうまくいくように、何らかのサポートを期待しているものであるし、実際上司は部下をサポートすべきである(上司は、部下を支援して部下を成功に導かない限り、自分が昇進できないことを思い出すとよい)。だから、上司が部下を評価するだけでなく、部下も上司を評価すべきなのだ、と私は考えている。
June 26, 2012
オムニチャネル化に伴い”買い物経験”を再構築すべき、という凡庸な結論・・・―『小売業は復活できるか(DHBR2012年7月号)』
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Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2012年 07月号 [雑誌] ダイヤモンド社 2012-06-08 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
今月号の特集「小売業は復活できるか」は何とも不思議な特集だった。というのも、「米国経済指標(直近12ヶ月のデータ、60ヶ月のグラフ)」を見ると、2011年6月〜2012年5月の1年で「小売売上高(%)」の数値が前年同月比を下回ったのは2回(4月と5月)だけであり、「個人所得(%)」、「個人支出(%)」に関してはわずかに1回ずつ(個人所得は2011年11月、個人支出は2011年6月)にすぎない。また、「ミシガン大学消費者信頼感指数(Index)」も、リーマン・ショック後、一時的に落ち込んだ時期はあるものの、総じて回復傾向にあると見ていいように思える。
それにもかかわらず、「アメリカの小売業は危機に瀕している」とでも言いたげな今月号のDHBRは、アメリカ小売業の一体何を問題視しているのだろうか?統計の数値はあくまでも前年比の数値であって、未だにリーマン・ショック以前の水準に戻っていないことを問題と捉えているのだろうか?
確かに、統計上は問題なさそうに見えるアメリカの消費も(最近の欧州危機で消費冷え込みのリスクが高まったが・・・)、実際には消費が落ち込んでいるというのはニュースで見聞きするところであり、アメリカ政府がどんなに紙幣を刷ってもインフレが起こらず(※1)、FRBが政府から直接国債を買い取って市場に資金を供給する「ヘリコプターマネー」という”禁じ手”を使っても経済が立ち直らない(※2)ことから、アメリカには「消費者が買いたいと思うものがない」ということなのかもしれない。
と、いろいろ考えながら今月号を読んだのだけれども、そこまで突っ込んだ議論は展開されていなくて、やや期待外れだった・・・。本号が問題としているのは、Webサイト、リアル店舗、キオスク、DMやカタログ、コール・センター、ソーシャル・メディア、携帯端末、ゲーム機、テレビ、ネットワーク家電、在宅サービスなど、マルチチャネルならぬオムニチャネル(omni-channel)化しているにもかかわらず、多くの小売業はそれに対応できていないということであり(ダレル・リグビー著「デジタルを取り込む リアル店舗の未来」より)、未だに「Webサイトで売れたか?店舗で売れたか?」という二分法に頼っている、という点のようだ(トーマス・ダベンポート著「ITが可能にした高度なカスタマイズ化 データが導く顧客への最適提案」では、店舗を訪れた顧客が、製品を持って帰るのが面倒だという理由で、その場で店舗のWebサイトを開き、サイト上で注文をした場合、この製品の売上は店舗のものなのか、Webサイトのものなのか?といった問いを提起しているが、これはまさにその通りだと感じた)。
この問題に対する答えは、顧客は複数のチャネルを通って製品を購入することを前提に、顧客が複数チャネルを通過する際の”買い物体験”を再構築しなければならない、というものである。チャネルの通過パターンは顧客セグメントによって変わるから、小売業は顧客セグメントごとに異なる買い物体験を用意する必要がある。あるいは、チャネルの通過パターンを分析すると、既存の顧客セグメントを見直す必要性が出てくるかもしれない。
とまぁ、このくらいならそれほど目新しい話ではないなぁ、という印象だった。昨年の「ビジネスモデル変革のパターン」のシリーズで、コカコーラの事例を取り上げたことがあったが(「【第11回】販売チャネルを拡大する―ビジネスモデル変革のパターン」)、「顧客に提供する価値をチャネルによって変化させる」という原則が、チャネル構成の多様化に伴ってもう少し複雑になる、といった感じか?
今月号は、特集以外の記事の方が面白かったので、その辺りは次回の記事で。
(※1)例えば以下のリンクを参照。
「量的金融緩和≠ハイパーインフレ≠米ドル崩壊」(アメリカ経済ニュースBlog、2011年10月26日)
「中央銀行がお金ジャブジャブに刷ってもハイパーインフレにならない理由」(アメリカ経済ニュースBlog、2012年4月15日)
あるいは、米中の関係からアメリカがインフレにならない理由として、
「紙幣をガンガン刷るとインフレになると言われていますが、現在のアメリカはなぜインフレにならないのでしょうか?」(Yahoo! 知恵袋)
(※2)中谷巌著『資本主義以後の世界―日本は「文明の転換」を主導できるか』(徳間書店、2012年)
資本主義以後の世界―日本は「文明の転換」を主導できるか 中谷 巌 徳間書店 2012-01 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
June 15, 2012
『BSCによるシナジー戦略』で言いたかった「部門間シナジーのためのBSC」をまとめるとこんな感じか?
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BSCによるシナジー戦略 組織のアラインメントに向けて (HARVARD BUSINESS SCHOOL PRESS) ロバート S キャプラン デビッド P ノートン 櫻井 通晴 武田ランダムハウスジャパン 2007-10-12 Amazonで詳しく見るby G-Tools |
《前回までの記事》
スタッフ⇔ライン間のシナジーを発揮するためのBSCが中心と理解しているが…―『BSCによるシナジー戦略』
キャプラン&ノートン著『BSCによるシナジー戦略』に関する個人的な疑問(続き)
結局半分ぐらいしか読まなかったのだが(半分読んだだけで紹介するな、という声も聞こえてきそうだけれども)、部門間シナジーを発揮するためのBSCの概要をまとめると、こんな感じになるのではないだろうか?またまた手描きの図で恐縮です・・・。
(図中の「F」は「財務の視点」、「C」は「顧客の視点」、「P」は「内部プロセスの視点」、「L」は「学習と成長の視点」を表す。また、便宜上、各視点には戦略目標、KPI、目標値、施策を1つずつしか記載していないが、当然のことながら、1つの視点に複数の戦略目標、KPI、目標値が設定されるのが普通であるし、あるKPIの目標値をクリアするために、複数の施策を打つこともある)
(1)最初に、各事業部が個別にBSCを作成する。この段階では、まだシナジーをそれほど意識しなくてもよい。第1段階の作業は、「戦略目標」の設定からスタートする。「財務の視点」であれば「収益性の向上」、「顧客の視点」であれば「製品ブランド力の強化」などである。戦略目標は、いわばスローガンのようなもので、定性的に記述して構わない。なお、4つの視点に書いたそれぞれの戦略目標の間に、明確な因果関係が必要であることは言うまでもない。
次に、その戦略目標の達成度合いをモニタリングするKPI(Key Performance Indicator:重要業績指標)と、各KPIの目標値を設定する。先ほど挙げた「収益性の向上」を測定するKPIとしては、財務分析で使用される「売上高総利益率」、「営業利益率」、「投下資本利益率」などの指標が役に立つだろう。また、「製品ブランド力の強化」を測定するKPIとしては、「各製品の認知度」、「各製品の購入頻度」、「各製品を他人に推奨したいと思う人の割合」(※)などがある。いずれのケースも、会社としてどの収益を重視するのか?”ブランド力が強い”とはどういう状態を指すのか?をよく議論した上で、最適なKPIを設定しなければならない。
(2)事業部がBSCを作成したら、それぞれの事業部のBSCを持ち寄って、事業部間シナジーが発揮できないかどうかを検討する。上図では、X事業部が「顧客の視点」でZ事業部と、「内部プロセスの視点」でY事業部とシナジーを発揮できる可能性が示唆されている。具体的なシナジーとしては、
・X事業部とZ事業部で共通する顧客に対し、両事業部の製品・サービスを組み合わせて販売する。
・X事業部とY事業部で製造ラインの共通化を図り、製造コストの低減を図る。
などが考えられる。X事業部は、「顧客の視点」に設定したKPIの目標値について、X事業部の施策と、Z事業部の施策の両方によって達成を目指す(同様に、「内部プロセスの視点」に設定したKPIの目標値について、X事業部の施策と、Y事業部の施策の両方によって達成を目指す)。あるいは、シナジーによってもっと野心的な戦略目標が目指せそうならば、戦略目標から練り直して、それに紐付くKPI、目標値も再設定し、施策の内容も練り直した方がよいかもしれない(この変更により、BSC全体の因果関係にも影響が及ぶ可能性もある)。こうして、「事業部間のシナジー」を考慮したBSCができ上がる。
(3)事業部間のシナジーを検討したら、サポート・ユニット(人事、情報システム、購買、マーケティング、R&D、経理・財務部門など)とのシナジーを検討する段階に移る。個人的には、キャプラン&ノートンが本書で主張したことに反するものの、サポート・ユニットは必ずしもBSCを作成する必要はないと考える。というのも、4つの視点を全部埋めようとすると、冒頭にリンクを貼った記事で指摘したように、どうしても無理が生じるからである(例えば人事部門の事例)。
そうではなく、次のような方法を提案したい。サポート・ユニットは、それぞれの事業部が事業部間シナジーを踏まえて作成した全てのBSCをチェックし、自らのユニットが提供するサービスで、事業部が掲げた戦略目標の達成を支援できそうな箇所を特定する。上図では、人事部門はX事業部とY事業部が「学習と成長の視点」で掲げた戦略目標を、購買部門はX事業部が「内部プロセスの視点」で掲げた戦略目標の達成をサポートできる可能性が示されている。これは例えば、
・人事部門は、トレーニングや採用活動、事業部を超えた人材配置の最適化などを通じて、X事業部とZ事業部が目標とする人材の質・量の確保を支援する。
・購買部門は、仕入先の選定や調達基準の見直しを通じて、X事業部のそれぞれの製造工程で使われる部品の納品リードタイムや納期遵守率を改善し、X事業部の製造リードタイムの短縮を支援する。
といったサポートのことである。サポート・ユニットが提供するサービスの性質によって、各ユニットがサポートできる戦略目標のレイヤーはだいたい絞り込まれる。具体的には、人事部門や情報システム部門は「学習と成長の視点」でシナジーを発揮しやすく、マーケティング部門は「顧客の視点」でシナジーを発揮しやすい(マーケティング部に関して一例を挙げると、マーケティング部はコーポレート・ブランドを市場に浸透させるプロモーションを打つことで、各事業部が掲げている新規顧客獲得数の目標達成を後押しすることができる)。
こうしてサポート・ユニットが各事業部とともに発揮すべきシナジーを整理していくと、BSCという形式よりも、上図に示したように、もっと単純な施策の一覧になるのではないだろうか?もっとも、事業部とサポート・ユニットの関係に関しては、シナジーというよりも、サポート・ユニットが本来のミッションに従って事業部に提供すべきサポートの内容を、より明確に定義したと言った方が適切かもしれない。
(4)ここまでの一連のステップを経て完成した事業部のBSCが、右下に示したものである。4つの視点に設定された戦略目標には、事業部の単独施策で達成を目指すものもあれば、他の事業部やサポート・ユニットと共同で達成を目指すものもある。重要なのは、施策の責任部門を明確にすることだ。これによって、仮にKPIの数値が想定通りに改善しない場合、どの部門に責任があるのか?(もう少しソフトに言えば、どの施策に問題があるのか?)が議論しやすくなる。
(※)マーケティング用語では、「NPS(Net Promoter Score:賞味推奨者比率)」と呼ばれる。フレデリック・ライクヘルドが提唱した概念であり、顧客に対して「あなたは○○の製品・サービスを友人に薦めますか?」という質問をして、推奨者の割合から批判者の割合を引くことで算出される。
顧客ロイヤルティを知る「究極の質問」 (HARVARD BUSINESS SCHOOL PRESS) フレッド・ライクヘルド 鈴木 泰雄 堀 新太郎 ランダムハウス講談社 2006-09-27 Amazonで詳しく見るby G-Tools |
《補足》これまでにも、KPIに関する記事を何本か書いたのだが、プロセスKPIの設定方法については、BSCの「内部プロセスの視点」のKPIを設定する際に参考になると思う。
プロセスKPIを設定するための5つの視点
実務的なプロセスKPIにファインチューニングする3つのポイント
スコアボードを見ずに野球ができるか!−プロセス指標の必要性
部門のミッションに合ったKPIを設定しよう
KPI(重要業績評価指標)の取得方法を工夫しよう―『日経情報ストラテジー(2012年2月号)』