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April 09, 2012

今さらだけど、エルピーダ破綻の7原因(仮説)を個人的に検証(5終)〜復活のカギは”インテル化”?

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 今さらだけど、エルピーダ破綻の7原因(仮説)を個人的に検証(1)〜円高説は違う
 今さらだけど、エルピーダ破綻の7原因(仮説)を個人的に検証(2)〜シナリオなきPC分野への進出
 今さらだけど、エルピーダ破綻の7原因(仮説)を個人的に検証(3)〜スマイルカーブの嘘
 今さらだけど、エルピーダ破綻の7原因(仮説)を個人的に検証(4)〜産活法という縛り
 《メモ書き》DRAM、パソコン、ノートブック、タブレットPC、スマートフォン関連の市場規模データなど

(7)産活法を活かした「国家による業界支援」という構図がまずかった(続き)
 そもそも、政府が一企業の再生を支援することはできても(りそな銀行やJALのように、再建に成功した例もある)、業界全体の再生や発展を支援することは非常に難しい(エルピーダの場合は、エルピーダ自体が国内唯一のDRAMメーカーであるから、エルピーダへの支援がエルピーダという企業単体の支援を意味するのか、DRAM業界全体の支援を意味するのか区別しにくい面もあるが、前回の記事で紹介した経産省の狙いからして、やはり後者と判断してよいだろう)。

 1960年代から70年代前半にかけて、日本企業が急成長した背景を説明するモデルの1つに、チャルマーズ・ジョンソンなどが提唱した「日本型政府モデル」というものがある。ジョンソンらは、日本政府(特に当時の通産省)が各種産業の発展を後押ししたとして、政府の役割を積極的に評価する。
日本型政府モデルの構成要素
(1)安定した官僚機構を持つ中央政府による積極的介入(主に通産省)
(2)経済成長に貢献する特定産業の重点育成
(3)輸出の積極的促進
(4)広範にわたる「指導」、許認可、規制
(5)国内市場の選択的保護
(6)外国企業による直接投資の制限
(7)独占禁止法の緩い運用
(8)不況産業にとどまらない政府主導の合理化
(9)カルテルの公認
(10)規制に縛られた金融市場および限定的なコーポレート・ガバナンス制度
(11)政府が支援する共同研究開発プロジェクト
(12)堅実なマクロ経済政策
 この「日本型政府モデル」をめぐって、マイケル・ポーターは日本の成功産業と失敗産業を研究し、モデルに挙げられた政府の行動が実際にどの程度存在したのかを調査した。その結果、成功産業ではモデルにある政府の行動はほとんど見られず、逆にそのような行動が見られるのは失敗産業の方であったと結論づけている。ポーターは、産業全体の競争優位を説明する自らの「ダイヤモンド・モデル」(※23)に沿って、失敗産業には何が足りなかったのか?政府は何をすべきだった/すべきでなかったのか?を分析しており興味深い(詳細はここでは割愛)(※24)。なお、ポーターによる成功産業と失敗産業の分類は以下の通りである。

 《成功産業》
 半導体(ポーターが研究した時期には、成功産業にグルーピングされていた!)、VTR、ファクシミリ、家庭用オーディオ機器、カーオーディオ、タイプライター、マイクロ波および衛星通信機器、楽器、産業用ロボット、家庭用エアコン、ミシン、炭素繊維、合成繊維織物、カメラ、醤油、テレビゲーム、自動車、フォークリフト、トラック・バス用タイヤ、トラック

 《失敗産業》
 民間航空機、化学、証券業、ソフトウェア、洗剤、アパレル、チョコレート

 乱暴な言い方になるけれども、政府が介入すればするほど、産業全体は失敗に向かうのである。経産省が認定した具体的な再建スキームに従って、政府が具体的にどのような行動をとっていたのかは、残念ながら現時点で情報が収集できていない。エルピーダに関しては、「日本型政府モデル」のうち、少なくとも(6)外国企業による直接投資の制限、(10)規制に縛られた金融市場および限定的なコーポレート・ガバナンス制度、(11)政府が支援する共同研究開発プロジェクトなどはなかったと思われるが、”政府主導による業界全体の再生”はそれほど甘くないことを、関係者は十分に認識できていなかったのではないだろうか?

終わりに:エルピーダに考えられた戦略オプション
 では、エルピーダはどうすればよかったのだろうか?まず、原因(2)で述べたように、低価格のPC向けDRAMと、高単価のモバイル向けDRAMの二兎追いは、決して不可能ではなかったと思う。事実、サムスンは二兎どころか、他の半導体部品にも進出しており、三兎も四兎も追っている。ただし、最終部品メーカーの言う通りに部品をせっせと供給する下請け的な部品メーカーではなく、インテルやサムスンのように、最終製品のコンセプトを主導することが条件である。

 とはいえ、実際問題として、その準備ができないままに2008年を迎えてしまい、リーマン・ショックによる大赤字で経営基盤がかなり脆弱になってしまった。よって、荒治療になるとはいえ、PC向けDRAMとモバイル向けDRAMの一方を売却するという選択が必要だったのかもしれない。しかも、産活法のスキームを活用せずに、である。どちらを売却するかによって、その後のシナリオは異なる。

 【(A)モバイル向けDRAMを残した場合】
 PC向けDRAMに比べてまだ単価が高いから、携帯電話メーカーやタブレットPCメーカーに部品を供給するだけでも利益は出せる可能性がある。また、モバイル向けDRAMよりも将来性も収益性も高いNANDフラッシュメモリなどへ進出するのもアリだろう。

 だが、モバイル向けDRAMは国内生産が中心であるから、円高リスクを常に考慮しなければならない。また、モバイル向けDRAMの価格が急落する可能性も否定できない(現在は顧客メーカーごとのカスタムメイドのようだが、仮に汎用化が実現したら一気に下落する)。

 そのような事態に備えて、エルピーダが通信キャリア、メーカーを巻き込んで、iPhone、iPadに対抗できる製品の開発を主導する、という戦略オプションがあり得る。しかしながら、ソフトバンクのiPhone、iPadへの対抗馬としてドコモが用意した目玉製品が、サムスンのGalaxyシリーズであったという時点で、日本のメーカーの力が落ちている証だから、このシナリオは実現可能性が怪しい。そうなると、よりハードルが上がるが、海外の(もちろんサムスン以外の)キャリアやメーカーへと働きかける必要がある。

 【(B)PC向けDRAMを残した場合】
 技術力を誇りとするエルピーダ社にとっては、こちらの決断の方が難しいだろう。だが、売上比率が大きいのはPC向けDRAMであるし、第1回の記事で書いた通りエルピーダの元々の戦略シナリオが”モバイルからPCへ”というものであったことからも、PC向けDRAMの方を残すという選択肢は十分にあり得る。

 PCの場合、薄利多売ビジネスになるため、「多売」が可能な市場を探さなければならない。1つの案としては、新興市場におけるノートPC需要の伸びに着目し(データ集を参照)、主に新興市場向けの新しいノートPCを、こちらもやはり海外のPCメーカーと共同で開発する、という戦略オプションが考えられる(相当チャレンジングなシナリオだが)。

 一言で言ってしまえば、”インテルのようになる”ということに尽きる。いずれもかなり突飛な事業再編案であるが、そのくらいのことをやらなければ、エルピーダは生き残れたとしても未だに低空飛行のままだったのではなかろうか?もっとも、エルピーダがその成り立ちからして、日立、NEC、三菱電機という最終製品メーカーが(言葉は悪いが)お荷物のDRAMを切り離すために作られたような会社(※25)であるから、エルピーダには最終製品のコンセプトをリードするだけの組織能力は備わっていないかもしれない。

 以上がエルピーダ破綻の原因に関する私の考察である。5回に渡り長々と文章を重ね、私の独り善がりな分析もかなり混じっている点は、いつものことながらご容赦ください。


(※23)http://www.obishin.co.jp/business/collaboration/2008_ecofeed/01th.pdf などを参照。
(※24)「日本型主導モデル」と、このモデルに異を唱えるマイケル・ポーターの研究の概要に関しては、マイケル・ポーター著『日本の競争戦略』(ダイヤモンド社、2000年)を参考にしている。

日本の競争戦略日本の競争戦略
マイケル・E. ポーター 竹内 弘高 Michael E. Porter

ダイヤモンド社 2000-04

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(※25)「エルピーダついに倒産 支援先探しは難航必至」『週刊東洋経済』(2012年3月10日号)
April 07, 2012

今さらだけど、エルピーダ破綻の7原因(仮説)を個人的に検証(4)〜産活法という縛り

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 今さらだけど、エルピーダ破綻の7原因(仮説)を個人的に検証(3)〜スマイルカーブの嘘
 《メモ書き》DRAM、パソコン、ノートブック、タブレットPC、スマートフォン関連の市場規模データなど

(6)「最終製品のコンセプト」に影響を及ぼせず、プロフィットプールを取り込むことができなかった(続き)
 プロフィットプールを握ることができるのは誰なのか?それは、「最終製品(サービスを含む)のコンセプトを主導したプレイヤー」である。アップルやインテルもしかり、「必要最低限の機能・スペックが揃った法人向けの安価なPC」というコンセプトを生み出した初期のデルもしかりである。最近は、電子書籍市場をめぐって出版社とアマゾンがプロフィットプールの争奪戦を繰り広げているが、この対決は「消費者の『読書体験』をより上手にデザイン・演出できるのはどちらなのか?」と読み替えることができる。

 部品メーカーが最終製品のコンセプトを主導して、「最終製品メーカーはその部品メーカーの部品を使わないと製品が製造できない」という状況を創り出す。すると、最終製品メーカーは部品メーカーに対する依存度が高くなり、部品メーカーは最終製品メーカーに対して大きな交渉力を発揮できるようになる。価格の決定権に関しても、部品メーカーが主導権を握れる。サムスンのように、部品メーカーでありながら最終製品も製造する場合は、部品から最終組立までの各プロセスに存在するプロフィットプールを総取りできるから、より有利である。

 逆に、単に最終製品メーカーの要求に従って、下請け的に部品を提供しているだけでは、部品メーカーの立場が弱くなり、買い叩かれるリスクも大きくなる。iPhoneやiPadに採用されている日本メーカーの部品の割合は依然として高いから、アップル製品が売れれば売れるほど、実は日本企業が潤うという声もあるものの、実際にはアップルに買い叩かれてほとんど利益は出ていないと見た方がよい。

 エルピーダはiPhoneやiPad用のモバイル向けDRAMで、下請け的な部品メーカーに成り下がっていたのではないか?そして同じことが、PC向けDRAMについてもあてはまるに違いない。だから、景気後退でノートPCの価格が下がった時、エルピーダ(を含む標準型DRAMのメーカー)はノートPCメーカーから標準型DRAMの値下げを要求され、素直にそれを飲むしかなかったのだろう。原因(1)で言及した「事業構造の脆弱性」とはつまり、最終製品のコンセプトへの影響力がなく、最終製品メーカーの下請け的な存在に甘んじていた、ということなのである。

(7)産活法を活かした「国家による業界支援」という構図がまずかった
 もう1つの重要な原因として私が考えているのが、実はこの原因(7)である。産活法(産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法)は、文字通り産業活力の再生と産業活動の革新のための法律であり、1999年に初めて制定され、2009年4月7日に改正法が施行されて現在に至る。産活法の適用認定を受けた企業は、税制、金融、会社法の特例措置を受けたり、株式会社産業革新機構などの下で経営再建を目指したりすることになる。リーマン・ショックの影響で2009年3月期に大幅な経常赤字に転落したエルピーダは、改正産活法が初めて適用された事例である。

 経済産業省は、エルピーダに産活法を適用することで、どのような再生シナリオを描いていたのだろうか?
 エルピーダメモリ株式会社から提出された「事業再構築計画」について平成21年6月30日付けで認定を行いました。この計画で、同社は、第三者割当増資及び金融機関からの資金調達を実施し、財務基盤を強化します。同社の強みである微細化技術に加えて、広島工場に高付加価値DRAMの最先端設備を導入することにより、更なるシェア拡大を図ります。汎用DRAMについては、台湾のDRAMメーカーと連携して製造の主軸を台湾に移管します。これらの取組を通じて、同社は、技術優位性を維持し、生産性の向上を目指します。(※21)
 政府としては、エルピーダの元々の強みである高価格のモバイル向けDRAMと、PCや液晶TVなどに用いられる低価格の標準型DRAMを両方とも拡大する目論見だったように感じる。まさに、”日の丸半導体”の復活を賭けていたわけであり、”DRAMで再び世界一を”という目標が経産省の中にあったのかもしれない。

 一方、エルピーダは若干異なるシナリオを構想していたような気がする。この点は、エルピーダが作成した「事業再構築計画」の中から読み取れる計画の中で、エルピーダは自社の戦略を次のように語っている。
 現在当社は、高付加価値マーケットへの事業集中による差別化を推進しつつあり、中でも低消費電力及び大容量・高速品への市場要求は高まっている。当社は将来における高付加価値DRAM市場で高い収益性を確保できる世界トップクラスのDRAM カンパニーを目指すものである。そのためには最先端工場への投資とグループ経営力の強化が当社にとって不可欠である。(※22)
 また、事業再建の対象となる「中核的事業」を「今後急拡大が予想される高付加価値市場(デジタルコンシューマー、サーバー等)向けを中心とするDRAMの開発、設計、製造、販売」としており、標準型DRAMについては一切言及がない(※22)。つまり、国のメンツにかけて”DRAM業界全体の復活”を目指す政府側と、まずは"企業としての生き残り”を優先するエルピーダの間には、再生シナリオに差があったわけである。

 両者の狙いに微妙なズレがあったことに加え、政府側が”DRAM業界の復活”という具合に、製品をDRAMに限定したことも、エルピーダの戦略を狭める結果になったのではないだろうか?これは原因(5)と関連する部分である。もしもこの縛りがなければ、エルピーダはDRAM事業を縮小して、DRAMよりも市場の成長と大きな利益が期待できるNANDフラッシュメモリなど、他の半導体部品へと進出したかもしれない。エルピーダがDRAMに固執したのは、エルピーダがそうしたというよりも、”DRAM復活”を願う経産省のメンツを立てるためだった、というのは行き過ぎた邪推だろうか?

 もちろん、原因(5)で書いたことの繰り返しになるが、ありものの部品を単にくっつけたり、優れた部品を取り揃えたりするだけではダメであり、それらを使って最終製品としてどう仕上げていくのか?最終消費者にどういう顧客価値や経験を提供するのか?というコンセプトが大事である。そのコンセプトによって、最終製品メーカーならびにエンドユーザの市場に対しパワーを発揮していくことが必須である。

 (続く)


(※21)「エルピーダメモリ株式会社の産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法に基づく事業再構築計画の認定について」(経済産業省、2009年6月30日)
(※22)「エルピーダメモリ株式会社の産業活力再生特別措置法に基づく事業再構築計画のポイント」(経済産業省、2009年9月26日)
April 06, 2012

今さらだけど、エルピーダ破綻の7原因(仮説)を個人的に検証(3)〜スマイルカーブの嘘

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 今さらだけど、エルピーダ破綻の7原因(仮説)を個人的に検証(1)〜円高説は違う
 今さらだけど、エルピーダ破綻の7原因(仮説)を個人的に検証(2)〜シナリオなきPC分野への進出
 《メモ書き》DRAM、パソコン、ノートブック、タブレットPC、スマートフォン関連の市場規模データなど

(5)DRAMに固執しすぎて、他分野への進出が遅れた
 半導体の技術に詳しい方々からは、原因(5)のような指摘が見られる。
 今回の会社更生法申請に行きつくのに、これまでの技術の大きな流れ、すなわちメガトレンドを読んでいない、と思われる節がある。というのは、セミコンポータルが何度も指摘してきたようにDRAMだけに固執していると危ない、という不安が的中したからだ。サムスンやマイクロンはNANDフラッシュも製品ポートフォリオに採り入れ、サムスンはさらにアップル向けのロジックファウンドリへ軸足を移し、マイクロンはCMOSイメージセンサにも力を入れていた。DRAMだけでは成長できないと考えていたからだ。(※13)
やはり単一の製品に頼る構造が不安定ということで、フラッシュ・メモリ関係の事業との統合も一案なのでしょうが、ありもの同士をくっつけ合わせても当座しのぎにしかならないようにも見えます。いっそのこと、不揮発で高速に書き換えられる新メモリで、既存のフラッシュ・メモリやDRAMを吹き飛ばしてしまうようなところから勝負しないと、メモリLSI事業で成功することは難しいのかも、とも思います。(※14)
 前者の引用文にあるように、DRAM市場の先行きはそれほど芳しくなく、それよりもNANDフラッシュ(PC用のUSBメモリやSSD、デジタルカメラ用のメモリカード、携帯音楽プレーヤー、携帯電話などの記憶装置として使われる。日本のメーカーでは、東芝がサムスンに次いで世界シェア2位につけている(※15))の方が有望な市場であった(データ集を参照)。NANDフラッシュ以外にも、DRAM市場以上に成長が見込める半導体部品はあったようである。だが、後者の引用文で述べられている通り、単に他の部品分野へと進出し、ありものをくっつけただけではおそらく業績は回復しなかっただろう。

 エルピーダが経営破綻する寸前、日本政府主導で東芝との経営統合が検討されていることがリークされた。台湾の市場調査会社TrendForceは、政府は東芝とエルピーダを統合して、価格が暴落している標準型DRAMの投入削減や、DRAMとNANDフラッシュの製品ラインの整理を行い、これによって韓国系大手と同様に、スマートフォンやタブレットPC市場に対応するのが狙いだったと指摘している(※16)。最近も、破綻したエルピーダの支援先として東芝の名前が挙がっている(※17)。ただ、仮に東芝とエルピーダの統合がもっと早い段階で実現していたとしても、NANDフラッシュの利益をDRAMの赤字が食いつぶして終わった可能性が高いような気がする。

 ありものをくっつけただけではうまくいかないことを如実に表しているのが、アメリカのマイクロンの業績である。マイクロンは事業規模がエルピーダとほぼ同じだが、フラッシュメモリを扱っている点でエルピーダと異なる。しかも、売上高に占めるフラッシュメモリの比率が大きい。2011年3月〜5月期では、NANDフラッシュメモリが売上高の35%前後、NORフラッシュメモリが売上高の15〜20%を占めており、DRAMの40〜45%よりもフラッシュメモリの売上比率が高い構造となっている。DRAMに比べるとフラッシュメモリの価格水準は高く、利益を稼ぎやすいと言われる(※18)。

 では、そのマイクロンの業績はどうなのかと言うと、お世辞にもよいとは言えないだろう。エルピーダと同じように2007年は赤字であり、2010年に営業利益率24%をマークしたものの、2011年は営業利益率9%と急落している。つまり、エルピーダの業績推移と大して変わらないのである(エルピーダの営業利益率は、2010年3月期が5.7%、2011年3月期が7.0%)。

 原因(3)(4)の流れを引き継いで言うと、川上の部品メーカーは優れた部品だけをたくさん集めても仕方がない。その部品を使って、最終製品としてどういうものをエンドユーザーに提供したいのか?これがポイントなのである。この点は、次の原因(6)で述べたいと思う。なお、エルピーダがDRAMに固執し続けた理由は、別のところにも求めることができると感じる。これについては、最後の原因(7)で述べる。

(6)「最終製品のコンセプト」に影響を及ぼせず、プロフィットプールを取り込むことができなかった
 長々とあちこちに脱線しながら考察を続けてきたけれども、原因(3)(4)(5)を突き詰めていけば、結局はこの原因(6)に行き着くのではないか?というのが私の結論の1つである。サムスンとエルピーダ、インテルとエルピーダの決定的な違いは、「最終製品のコンセプトに対する影響力があるか否か?」である。インテルは、かつてはマイクロソフトとの連合によって、そして最近は「Ultrabook」という独自コンセプトの提唱によって、最終製品の市場を自ら動かそうとしていることは前回の記事で述べた。サムスンの場合はもっと直接的で、部品供給メーカーであると同時に最終製品メーカーでもあり、PCも携帯電話もスマートフォンもタブレットPCもデジタル家電も自ら製造している(携帯電話、スマートフォン、タブレットPC市場におけるサムスンのシェアについては、データ集を参照)。

 「プロフィットプール」という言葉がある。製品開発や部品の製造という川上から、最終消費者へのサービスという川下に至る業界全体のバリューチェーンを描き、それぞれのプロセスでどのくらいの付加価値が生み出されているのか、平たく言えばどのくらい利益が上がっているのかを分析すると、プロセスによって利益の規模に差があることに気づく(垂直統合型の企業ならば、自社の利益を購買・製造・物流・営業など機能別に分析すると、特定の機能に利益が集中していると解る)。言い換えれば、儲かりやすいプロセスと、儲かりにくいプロセスがあるわけだ。その儲かりやすいプロセスが、「プロフィットプール」=利益のたまり場と呼ばれる。戦略を練る際には、どうやってそのプロフィットプールを自社に取り込むか?が重要なポイントとなる。

 もう1つ、「スマイルカーブ」という言葉がある。これは、以前に比べて業界内でプロフィットプールの場所が移動したことを表す言葉としてよく使われる。バリューチェーンの各プロセスのプロフィット(利益)の大きさを折れ線グラフで表現すると、かつてはバリューチェーンのほぼ中央に位置する最終製品の組立プロセスを頂点として、”山形のカーブ”を描くのが一般的であった。つまり、最終製品の組立が一番儲かるプロセスであり、反対に川上の製品開発や素材・一次部品の製造、川下のサービスは儲からないプロセスだった。

 それが、最近では最終製品の組立プロセスを頂点とする”谷型のカーブ”へと変化したという。この谷型のカーブが、ちょうど笑っている顔に似ていることから、「スマイルカーブ」という名前がついている。要するに、最終製品の組立や、その一歩手前の製品加工など、どの企業でもできるような製造プロセスは、新興国の企業が安い労働力でまかなうようになり、逆に、高い技術を結集させた上流部品の製造や、顧客への付加的なサービスの方が儲かるプロセスになったというわけである。アップルはその好例で、「製品のデザイン」という川上と、iTunesやアプリストアという川下のサービスで高い利益を上げる構造になっている。

 ただし、このスマイルカーブは必ずしも全ての業界に当てはまるわけではない。むしろ、当てはまらない業界の方が多いのではないか?とさえ思える。例えば、デルは最終製品の組立に特化している。スマイルカーブの考え方からすると、こんな戦略は自殺行為に等しいけれども、実際にデルはこのビジネスモデルで成功している。

 逆に、スマイルカーブに従えばもっと利益が上がっていなければおかしいのに、そうなっていないというケースもある。例えば、それこそエルピーダのような日本の部品メーカーである。中台韓を始めとする新興国メーカーから猛烈な追い上げを食らっている日本の製造業を擁護する声として、日本のメーカーは、上流の部品レベルでは依然として高いシェアを上げているから大丈夫だという意見がある。しかし、高いのはあくまでシェアであって、収益ではない(※19)。また、もしスマイルカーブが成立するならば、バリューチェーンの川下にあたる日本のサービス業の生産性がアメリカに比べて低いとか、製造業で生産性を挙げても、川下のサービス業の生産性の低さが足を引っ張っているといった議論は出てこないはずである(※20)。

 (続く)


(※13)「エルピーダが会社更生法を適用、DRAMへの固執が成長路線から脱落」(セミコンポータル、2012年2月28日)
(※14)「拝啓 半導体エンジニアさま(34) ― 「システムLSI事業の統合案」と「エルピーダの経営破たん」に思う」(Tech Village、2012年2月28日)
(※15)【Market View】4Q11 Sales Ranking of Branded NAND Flash Manufacturers(DRAMeXchange、2012年2月2日)
(※16)「【産業動向】 エルピーダの命運、キングストンとPTIの動向が左右と指摘 台湾メディア」(EMS One、2012年1月5日)
(※17)「エルピーダ支援入札に参加方針 東芝、米マイクロンなど」(MSN産経、2012年3月30日) ただし、最終的に東芝は支援候補から外れた(「エルピーダ:支援企業から東芝外れる 候補は海外3社に」毎日新聞、2012年4月5日)。
(※18)「■福田昭のセミコン業界最前線■高コストの日本から低コストの台湾へ、軸足を移すエルピーダ」(PC Watch、2011年9月27日)
(※19)妹尾堅一郎著 『技術力で勝る日本が、なぜ事業で負けるのか―画期的な新製品が惨敗する理由』(ダイヤモンド社、2009年)

技術力で勝る日本が、なぜ事業で負けるのか―画期的な新製品が惨敗する理由技術力で勝る日本が、なぜ事業で負けるのか―画期的な新製品が惨敗する理由
妹尾 堅一郎

ダイヤモンド社 2009-07-31

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(※20)ただし、この「日本のサービス業の生産性の低さ」をめぐっては、必ずしもそうではないという見解も多数存在する。例えば、「サービス産業の生産性は低いのか?〜企業データによる分析〜」(RIETI、2008年)、「「日本のサービス業の生産性は低い」はウソでした。」(時間管理術研究所、2007年9月25日)など。