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February 29, 2012

《メモ書き》モチベーションと業績の関係モデル―『熱狂する社員』より

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 先日の記事「自分自身は信頼するが、未来への希望は下がり始めるミドル層―『ミドルの自己信頼が会社を救う(Works No.110)』」で、リクルートワークス研究所が新たに提唱している「自己信頼」という概念にいろいろと突っ込みを入れたわけだが、同号でも書かれているように、そもそも「自己信頼」と個人や企業の業績との関係はまだ検証されていないとのことである。
 この量的指標の扱いが、自己信頼の今後の課題でもあるという。たとえば、自己信頼の高い従業員は、上司による評価も高いのか、業績上の成果も上げているのかといった、自己評価ではない客観的指標との相関は、まだ検証されていない。
 ちなみに、同号で「自己信頼」と類似の概念として取り上げられている「自尊感情(自尊心)」に関しては、定量的に測定する方法が確立されているという。そして、個人の「自尊感情」が高すぎるのも組織にとっては問題であることが明らかになっているそうだ(うぬぼれが強い人は周囲から煙たがられるために、円滑な人間関係を構築できず組織全体のパフォーマンスに悪影響を及ぼすことは、感覚的にも理解できるところである)。

 ところで、同号を読みながら、根本的な疑問として、「モチベーション」と「業績」はどのように関係しているんだっけ?と思い、本棚から『熱狂する社員』(デビッド・シロタ他著)を引っ張り出してきた。

熱狂する社員 企業競争力を決定するモチベーションの3要素 (ウォートン経営戦略シリーズ)熱狂する社員 企業競争力を決定するモチベーションの3要素 (ウォートン経営戦略シリーズ)
デビッド・シロタ スカイライトコンサルティング

英治出版 2006-02-02

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 本書は、社員のモチベーションと業績に関する30年以上の実証研究に基づくものである。1994年以降だけで、89か国、237社におよぶ民間企業、公的機関、非営利団体に勤める250万人ものデータを収集したとのことである。これらのデータを分析した結果、社員の「正のモチベーション」(※「仕事をやりたくない」という「負のモチベーション」もあるので、敢えてこの表現にした。なお、正のモチベーションが強い社員を、本書では「情熱的」と呼ぶ)と企業の業績には強い相関関係が見られるという。

 ただ、あくまでも”相関関係”であって、モチベーションと業績をめぐる関係はもう少し複雑である。著者は、モチベーションと業績に影響を与える、あるいはモチベーションと業績から影響を受ける他の因子との関係をまとめて、以下の「人材パフォーマンス・モデル」を提示している。

人材パフォーマンス・モデル(モチベーションと業績の関係)
(※本書より筆者作成)

 「社員の士気」が高まると、「社員のパフォーマンス」が向上⇒「顧客満足度」が向上⇒「顧客の購買行動」が向上⇒「企業の業績」が向上、という流れで業績向上につながる。さらに、「社員のパフォーマンス」、「顧客満足度」、「顧客の購買行動」、「企業の業績」は、いずれも「社員の士気」に対してブーメランのように跳ね返ってくる因子でもあり、これがフィードバック・ループと呼ばれる。

 また、「社員の士気」には、「リーダーシップ」や「経営慣行」が影響を与える。ここで、「リーダーシップ」と「経営慣行」については、それぞれ次のように述べられている。
 本書では基本的に、経営者や管理職による日々の経営慣行が、社員の士気にどんな影響を与えるか、それは企業の業績にどうつながるかについて論証している。しかし経営慣行は、社員のパフォーマンスに直接的にも作用する。チームワークを重んじる企業が高業績を上げるのは、仕事のほとんどが共同作業によってパフォーマンスを押し上げられるからであり、またチームワークにより連帯感が満たされ、社員のモチベーションや情熱といった「スピリット」が高まるからだ。(中略)このモデルにおいて、経営慣行は最も重要であり、社員の士気とパフォーマンスに大きく作用する。
 日々の経営慣行と同様、経営陣のリーダーシップも社員のパフォーマンスへ直接・間接の影響を与える。経営陣は、事業戦略を決定する。(中略)経営陣、特にCEOの能力と事業戦略の堅実性は、成功のための大きな要素である。事業戦略の堅実性は、ビジネスの成功を社員の士気とパフォーマンスにフィードバックすることで、企業の業績をさらに増幅させるのである。

 リーダーシップの威力は、企業文化を決定づけることでさらに拡大される。社員重視の度合いが管理職によって異なることはありえるが、たいてい経営陣の傾向と一致している。経営陣が社員を軽んじる企業では、社員を軽視する管理職の割合は跳ね上がる。
 換言すると、「リーダーシップ」とは戦略(引用文では事業戦略に限定されているものの、事業をまたぐ全社戦略も含んでよいと考える)や、企業文化の根幹をなす価値観・行動規範のことであり、「経営慣行」とは社員の職務デザイン、職場での人的ネットワークの形成、業務のモニタリングと支援、育成・教育機会の提供と評価などといった、社員との日常的な接点において生じる様々な具体的言動、ということになるだろうか?

 本書が面白いのは、
 社員から見て唯一最大のモチベーションが何かを突き止めようとするのは時間の無駄である。社員の「最大の」欲求は1つではないからだ。「とにかくお金」や「そのためならすべてを犠牲にできる」のように1つのものだけを追い求めるのは、心理学的には病気である。
と前置きをした上で、
 人が仕事をするうえでの3つのゴールを、我々はここに宣言する。それは、公平感、達成感、連帯感だ。これを仕事のモチベーションにおける3要素理論として提唱する。
 と断言している点である(※いずれも太字は原文ママ)。要するに、モチベーションを構成する要素は、「公平感」、「達成感」、「連帯感」の3つしかないのであり、社員のモチベーションアップを考えている企業は、この3つに効く施策を打つ必要がある(もちろん、先ほど登場した「リーダーシップ」や「経営慣行」も、この3要素に影響を与える。例えば、明確で正当な評価基準に基づく信賞必罰が風土として染みついている企業であれば、社員の「公平感」が刺激される)。

 ここで、「モチベーション」と「自己信頼」の構成要素を比較してみると、「連帯感」と「良好な人間関係」はぴったり重なると思う。「達成感」には、「過去の仕事の達成感」に加えて、「将来的に大きな仕事をやらせてもらえるかもしれない」という期待も含まれているので、この点では「未来への希望」と重なる部分がある(なお、先日の記事で述べたように、「未来への希望」と「自己への信頼」は部分的に重複している印象があるので、「達成感」と「自己への信頼」も重なる部分があると言えそうだ)。だが、「公平感」に関しては「自己信頼」と重なる要素がない。したがって、「自己信頼」と業績の間に相関関係が見られるかどうかは、個人的にはやや怪しいと推測している。
January 14, 2012

社員間の非公式な交流を促進する「職場デザインの3P」―『自分を鍛える 人材を育てる(DHBR2012年2月号)』

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Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2012年 02月号 [雑誌]Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2012年 02月号 [雑誌]

ダイヤモンド社 2012-01-10

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 DHBR2012年2月号のレビューの続き。

知識労働者の生産性を高める 進捗の法則(テレサ・M・アマビール、スティーブン・J・クレイマー)
 知識労働者たちがつけた日誌を詳しく分析することで明らかになったのが、「進捗の法則」(progress principle)である。すなわち、仕事中に「感情」「モチベーション」「認識」を高める可能性があるすべての要素のうち、最も重要なのは「有意義な仕事の進捗を図る」ことである。
 我々が調査のなかで「社員の意欲を高めるカギは何か」について尋ねたところ、「優れた評価に対する評価」が最も重要であると言うマネジャーもいれば、「目に見えるインセンティブ」を重視するマネジャーもいた。「対人関係の支援」の必要性を重んじる者もいれば、「明確な目標」が重要だと考える者もいた。興味深いことに、調査対象のマネジャーのなかで「進捗」を一番目に挙げたのはごくわずかだった。
 要するに、知識労働者は「今日は仕事が進んだなぁ」という実感が持てるとモチベーションが向上する。マネジャーは、知識労働者がそのような実感を持てるような環境づくりや働きかけをする必要がある。

 具体的には、明確な目標を定める、自主性を認める、十分な資源や時間を提供する、仕事を部分的に手伝う、成功を他のメンバーと共有する、メンバー間のアイデアの自由な交換を促進するといった「部下の仕事を後押しする行動」や、部下に対する敬意と評価、激励、問題を抱えた部下への協力といった「対人的な支援行為」が効果的であると著者は言う。

 著者が挙げている「進捗の法則」は、動機づけ理論の1つである「目標設定理論」の考え方と共通しているところがあると思う。ただ、目標設定理論が目標管理制度(MBO)の理論的根拠になっているように、どちらかというと半期や1年単位の目標を想定しているのに対し、「進捗の法則」ではもっと細かい単位で目標設定を行うことになる。すなわち、マネジャーは部下に対して、「今日は/今週はここまで頑張ろう」といった感じで小さな目標を頻繁に設定し、目標の達成度合いについてきめ細かくフィードバックを与えることが重要だ。

 1つ注意しなければならないのは、知識労働者は他者からの干渉をあまり好まないという点である。先日、ある企業の営業担当者と話をする機会があったのだが、その企業にはSFAシステムが導入されており、日報を入力すると上司から翌日にフィードバックが届く仕組みになっている。この営業担当者は、若い頃は上司からのフィードバックが嬉しかったのだけれども、年数を重ねるうちに段々とフィードバックをうっとうしく感じるようになったと話していた(それでもこの上司は、毎日フィードバックをしている分だけ素晴らしいと思う。SFAのフィードバック機能は、私がいろいろと話を聞く限り、次第に使われなくなることの方が多いものだ)。

 知識労働者を部下に持つマネジャーは、それぞれの部下がどのくらいの頻度で、あるいはどういう局面で介入を望んでいるのかを知る必要がある。しかも、前述のように、得てして介入の場面と時間は限定されるものだから、限られた時間の中で部下の目標を設定し、目標達成に不可欠なリソースの提供や、目標達成を阻害する問題の除去に努め、さらにはフィードバックまで与えなければならないだろう。

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組織の活力と良循環を生む 社員を輝かせる5つのステップ(エドワード・M・ハロウェル)
 著者のエドワード・M・ハロウェルは精神科医であり、主に児童の精神治療が本職のようであるが、その著者から見ても現代のビジネスは人とのつながりを欠いていると映るようだ。組織に対する忠誠心の欠如、理念や価値観の希薄化、中傷とえこひいきの蔓延、派閥の対立、攻撃的な言葉が飛び交う社内会議…多くの企業で見られるこれらの症状を著者は「断絶」の病と呼び、断絶を克服する方法を提案している。

 論文の中で著者が紹介している研究結果が興味深かったので引用。
 スウェーデン、フィンランド、ドイツ、ポーランド、それにイタリアの各国で、さまざまな仕事に従事している2万人の労働者を対象とした調査結果によれば、「上司とのつながりがない」と感じている人は病気になったり、仕事を休んだりする傾向が強いばかりか、心臓発作を起こす可能性も高かった。

 対照的に、世論調査結果ギャラップが2007年に公表したデータでは、職場に親友がいる人は、いないひとよりも、仕事に前向きに取り組んでいる確率が7倍高いことが示されている。
 恥ずかしい話だけれども、私は社会人になってから昨年独立するまでの約7年の間で、ちゃんとした上司の下で働いた記憶がない(それを示す証拠の1つとして、上司との評価面談を4回しか経験していない。皮肉なことに、正確な回数が言えるぐらいしか面談をやっていない)。私も心臓発作のリスクが高いのかなぁ(苦笑)

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コラボレーションや創造性を生み出す 「意図せぬ交流」を促す職場デザイン(アンヌ=ロール・ファヤード、ジョン・ウィークス)
 創造的なアイデアを生み出すことを狙って、社内の非公式なコミュニケーションを活性化させるためのオープン・スペースを取り入れる企業が増えている。だが、単に開放的な空間を用意するだけでは、社員同士の交流は進まない。交流を促進するデザインは、”3つのP”を備えていると著者は指摘する。その3つとは、「近接性(proximity)」、「プライバシー(privacy)」、「許可(permission)」である。

 「近接性」には、物理的な距離の近さだけではなく、組織心理学者のトーマス・アレンが「機能的中心性」と呼ぶものも含まれる。機能的中心性とは、入口やトイレ、階段、エレベーター、コピー機、コーヒー・メーカー、冷水器など、人々が共用する資源のことを指す。共用資源を含む空間では、人々の交流が活発になる。

 「プライバシー」は、オープン・スペースというコンセプトとは矛盾するように聞こえるけれども、立ち聞きされたり、邪魔が入ったりするのを社員が気にすると、会話がかえって表面的で短くなってしまうという調査結果もあるそうだ。確かに、上司が頻繁に出入りする給湯室では、言いたいことも言えない。他人の接近を自らコントロールできること、さらには、交流を避けたい時には避けられることが重要であるという。

 「許可」とは、社員間のオープンなコミュニケーションが企業風土として認められている状態である。著者が調査したあるコンサルティング会社では、豪華なコーヒー・ラウンジがあるにもかかわらず、社員がコーヒーカップを手に取るとすぐに立ち去ってしまう傾向が見られた。ラウンジの活用を妨げていたのは、「『真の仕事』はデスクか会議室で行われるものだ」というこの会社の企業風土であった。

 この論文を読んでいて意外だったのは、「コピー室」が社員の交流を促進しているという研究だ。コピー室は「機能的中心性」を備えていると同時に、デスクから隔絶された小部屋であるという点で一定のプライバシーが確保されており、さらに「コピー室にいる限りは仕事をしているとみなされるから、多少ムダ話をしてもお咎めは受けない」という心理が相まって、交流が進むようである。

 もっとも、この研究で調査対象となっていたのはフランスの企業である。日本では「コピー室」がある企業をあまり見かけないし、昨今のペーパーレス化によってコピー機周辺での社員の交流が少なくなったという話も聞いたことがない(実際にはそういう由々しき事態が起きているのかもしれないが…)。
January 10, 2012

人間は利他的だとしても、純粋な利他的動機だけで富は生まれぬ―『自分を鍛える 人材を育てる(DHBR2012年2月号)』

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Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2012年 02月号 [雑誌]Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2012年 02月号 [雑誌]

ダイヤモンド社 2012-01-10

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【999本目】1,000エントリーまであと1。

 今月号は特集のタイトルだけ見ると自己啓発がテーマのように感じるものの、編集局が時流を意識したのか、「絆」をテーマとした論文が多かった。今日取り上げる論文がまさにそうだし、他にも後日紹介する「数だけが重要ではない ハイ・パフォーマーの人脈投資法」、「社員の積極性と生産性を高める6つのルール 職場に『真実の協力』を生み出す」、「コラボレーションや創造性を生み出す 『意図せぬ交流』を促す職場デザイン」などが「絆」にフォーカスを当てた論文である。

生物学、心理学、神経科学の知見が教える 利己的でない遺伝子(ヨハイ・ベンクラー)
 トマス・ホッブズの『リヴァイアサン』やアダム・スミスの『国富論』に代表されるように、「人間は生来、利己的である」という考え方は広く浸透しており、社会の様々な制度やルール、組織構造や報酬体系はこの考え方を前提に設計されている。ところが、近年の科学は、人間は思った以上に利他的であるという立場を強めているようだ。本論文にはまず、ハーバード大学の進化生物学者マーティン・ノヴァクが『サイエンス』誌上で語った言葉が登場する。
 おそらく進化の最も注目すべき側面とは、競争社会で協力を生み出す能力である。したがって『突然変異』『自然選択』に次ぐ進化の第三の基本原則として『自然協力』を加えてよいのではないか。
 ノヴァクの言葉に呼応するように、人間は協力的で私心がないことを示す証拠も挙がっている。以下はゲーム理論に関する心理学の実験結果である。
 広範な実験の結果、人間はゲーム理論の予想以上に協力し合うことが示されている。スタンフォード大学教授のリー・ロスの共同実験では、実験の参加者の半分に「コミュニティ・ゲーム(力を合わせて課題を解決していくゲーム)をする」と伝え、残る半分には「ウォールストリート・ゲーム(どれだけ儲けられるかを競うゲーム)をする」ことを伝えた。

 コミュニティ・ゲームのグループでは70%が最初から最後まで協力的だったのに対し、ウォールストリート・ゲームでは逆に70%のプレーヤーが協力し合わなかった。当初、30%は協力的だったが、相手が反応しないと協力するのをやめた。
 また、神経科学では、
 だれかに協力することで脳内の報酬系が活性化することもわかっており、これを科学的な根拠として、「選ぶとすれば、協力したいと考える人間は存在する。なぜなら気持ちがよいからである」といわれている。
そうだ。さらに興味深いのは、人間の協力的な行動は、生まれた後に社会的に学習されるのみならず、遺伝による部分も大きいという点である。
 性格は部分的に遺伝することが、いくつかの研究からわかっている。ミネソタ大学心理学部教授のトマス・プシャードとマット・マクギューの結論によると、外向性、情緒安定性、協調性、開放性などの人格特性は平均で42〜57%が遺伝性であった。しかし一方、ほとんどの人が大きな影響力を持つと考える共有環境要因(家庭など)は、人格と相関性がなかった。
 論文では他にもいくつかの研究が紹介されているが、それらの内容を踏まえて著者は、人間の利他的動機を引き出す協力のシステムを構築すべきだと説く。

 動機に関する研究は古くから数多く存在する。古典的なもので言えば、フレデリック・ハーズバーグの「動機づけ・衛生理論」や、アブラハム・マズローの「欲求5段階説」(ただしこれは仮説にすぎない点に注意。「沼上幹の名言」を参照)、さらにはデイビッド・マクレランドによる動機の分類(「達成動機」、「権力動機」、「親和動機」)などがある。もう少し時代が下ると、エドワード・デシの「内発的動機」や、ミハイ・チクセントミハイの「フロー」の理論が出てくる。また、手前味噌で恐縮だけれども、過去の記事「「キャリア発達」と「動機づけ要因」の関係を整理してみた−『ぶれない「自分の仕事観」をつくるキーワード80』」で、ビジネスパーソンのキャリアとともに、主たる動機づけ要因が変化するという仮説を提示した。

 どの研究にも共通して言えることだが、利己的動機と利他的動機を峻別することは困難であるように思える。欲求5段階説で最上位に位置づけられる「自己実現」は、「自分がやりたいことをやる」という意味では利己的動機である。しかし、「他者や社会への貢献」が自己実現と結びついているならば利他的動機でもある(同じことはマクレランドの「達成動機」やデシの「内発的動機」などにも当てはまる)。

 「親和動機」は文字通りに解釈すれば利他的動機である。だが、相手からの感謝や何らかの物質的な見返りを期待しているならば、利己的動機の側面を否定することができない。あるいは、周囲をサポートする裏で、「周りの人に『あの人は非協力的だ』と思われるのがイヤだ」とか、「周りの人と仲良くしておかないと自分の居場所がなくなる」と考えているとすれば、それもまた利己的動機であろう。

 権力欲求や金銭的欲求は、典型的な利己的動機と捉えられている。ところが、権力や金銭を握ることで初めて可能になる社会貢献もある。首相というポストはその一例だ。かつて小泉純一郎氏は、自らの最大の関心事である郵政改革を実現するために首相になり、「郵便物を配達するのに公務員である必要があるのか?」と主張して郵政民営化を実現した(残念ながら、その後かなり迷走しているが)。小泉氏にとって首相という地位は、長年温め続けてきた自身の政治テーマを実現するという利己的動機と、国民にもっと効率的な郵便サービスを提供するという利他的動機がともに結びついたものであったと言えよう。

 人間が生来的に利己的なのか利他的なのかという議論は非常に興味深いのだが、現実問題として重要なのは、「利己的であると同時に利他的である動機」を持つことではないだろうか?純粋な利己的動機、あるいは純粋な利他的動機というのは、社会の富を増加させない。例えば強盗は、相手から自分に金銭を移動させているだけである。また、何の見返りも要求せずに相手に尽くし続ける人も、自分から相手に富を移動させているにすぎない。

 社会が富を生み出し発展するのは、利己的であると同時に利他的な動機を持つ人々が集まった時である。言葉は悪いが、「私は周囲の人々の富を増加させる。その代わり、私は生み出した富の一部を分け前としてもらう」というスタンスの人が集まると、社会全体として富の創造が可能になる。だから、利己的であると同時に利他的な動機を刺激するような制度やインセンティブの設計こそが必要なのではないだろうか?