Top > ビジネスモデル アーカイブ
April 26, 2012

【ドラッカー再訪】ドラッカーの「戦略」を紐解く(3)〜一般的な戦略策定プロセスに沿って整理―『創造する経営者』

拍手してくれたら嬉しいな⇒
創造する経営者 (ドラッカー名著集 6)創造する経営者 (ドラッカー名著集 6)
ピーター・F・ドラッカー 上田 惇生

ダイヤモンド社 2007-05-18

Amazonで詳しく見るby G-Tools

 前回までは、ドラッカーが事業の「暫定的な診断」と呼ぶ、事業の現状把握のための2つの方法、すなわち「(1)業績をもたらす領域、利益、資源についての分析」と「(2)コストセンターとコスト構造についての分析」について述べた。今回からは残りの2つである「(3)マーケティング分析」と「(4)知識分析」について整理してみたいと思う。

 前回の記事の最後で、「暫定的な診断」はどちらかと言うと業績改善のための方法であり、戦略観があまり感じられないと書いた。戦略策定と関連するのは、むしろ「(3)マーケティング分析」と「(4)知識分析」の方である。以下に、よくある戦略策定プロセスを掲載したが(パワポで書くのが面倒だったので、手書きの図にしてしまった点はご容赦ください)、(3)は市場や競合を俯瞰する外部環境分析に相当し、(4)は自社の経営資源の強み・弱みを洗い出す内部環境分析にあたる。ドラッカーは、経営資源の中でも、「知識」がとりわけ重要な競争優位の源泉になるとしているが、これは後にゲイリー・ハメル&C・K・プラハラードがまとめた「コア・コンピタンス」に通じる考え方である。

戦略策定プロセス

 上図について少し補足すると、上図では戦略(戦略コンセプト)とビジネスモデルを区別している。戦略とは、「どのターゲット顧客に(=Who)、どのような顧客価値を(=What)、どのようにして(=How)提供するか?(自社の組織能力をどう活用し、どうやって競合との差別化を図るのか?)」という基本構想であり、ビジネスモデルはその構想を実現する仕組みを意味する(過去の記事「戦略とビジネスモデルの違いが解る特集―『ビジネスモデル 構想と決断(DHBR2011年8月号)』」を参照)。

 より具体的に言えば、業界全体のバリューチェーンの枠組みに従って、自社が担当するプロセスと、外部プレイヤーである仕入先、販売先などが担当するプロセスを整理し、自社、外部プレイヤー、顧客の間でお金がどのように流れるのか?自社はどうやって売上と利益を上げるのか?を可視化するものである。

 もっと完成度の高いビジネスモデルは、プレイヤー間のお金の流れだけでなく、ヒト、モノ、情報、知識といった経営資源の流れをも明らかにする。簡単な例を挙げると、Amazonのビジネスモデルでは、購買履歴”情報”が顧客からAmazonに流れ、Amazonがそれを高度な統計技法で分析して”知識”に転換し、その知識に基づき顧客におすすめ製品”情報”を提供して、継続購買を促す仕組みになっている(顧客が継続購買をすれば、Amazonはまた新しい購買履歴”情報”を入手し、自社の”知識”がさらに高度化する、という正のフィードバックループもはたらいている)。(ビジネスモデルに関しては、以前の連載モノ「【シリーズ】ビジネスモデル変革のパターン(全20回予定)」も参照)

 ビジネスモデルをデザインした後は、モデルを有効に機能させるために必要な経営資源の量と質を明確にする。これが現有リソースのFit&Gap分析である。その分析結果を基に、経営資源のギャップをどのように埋めるのかを検討しなければならない。例えば、先進的な技術や特許、顧客価値の形成に欠かせない新製品やサービス、営業・販売上の重要な情報や販売網などを獲得するにあたって、R&Dや人材育成への追加投資による内部調達を選択するのか?それとも、買収や提携という手段に出るのか?(提携にしても、業務提携と資本提携のどちらを選択するのか?)を決定する。ドラッカーは本書で、ビジネスモデルについては言及していない(ドラッカーは「戦略」は世に知らしめたが、「ビジネスモデル」という概念までは提唱しなかった)ものの、買収に関しては第13章で解説している。

 これらのリソース調達・強化方法が戦略的打ち手、あるいは戦術という名前で、各部門で実施すべき施策に落とし込まれる。そして、施策の実行スケジュールを引き、実行責任者を特定し、さらに施策の成果を測定する指標(KPI)を設定する。戦略を画鋲に終わらせないためには、スケジュールの作成と成果管理指標の設定まできっちりと行うことが肝要である。この点は、本書の第14章で強調されている。

 (続く)

《2012年5月16日追記》
 この記事を書いた後で思ったのだが、図中の「外部/内部環境分析」は「外部/内部環境の『認識』」と改めた方がいいのかもしれない(図の修正が面倒なので後回しになっているが、汗)。ドラッカーも本書の中で「分析」という言葉を多用しているけれども、「分析」という言葉は、分析の方法や切り口が客観的にきっちりと決まっていて、誰がやっても同じ結論が出るような印象を与える。
 
 ところが、こうした客観的な分析から導かれる戦略コンセプトは、得てして誰でも思いつくような凡庸なものに落ち着いてしまう傾向がある。競合と差別化された戦略を導くには、社内の戦略立案スタッフやコンサルタントが編集したデータや情報を使うだけでなく、既存の顧客や潜在顧客と直に接し、また各部門の現場に赴いて、「多少歪んだレンズ」で現実をじっくりと観察した方がいいのかもしれない。

 そうした「主観的な知覚」が、他の人たちには見えていない市場のチャンスや自社の強みの発見につながる可能性がある。特に、イノベーティブな戦略を導くには、このような主観的な環境認識が重要になると思う(以前の記事「リーダーが帰納的に課題を設定するとはどういうことか?」)。その意味で、環境の「分析」ではなく、環境の「認識」という言葉の方がふさわしいだろう。

 もちろん、こうした主観的な環境認識にはリスクもある。イノベーティブな戦略家は、特定かつ少数の事実を一般化して、事業機会があると思い込む危険性がある(例えば、自分の友人のうち、数人が「こんなサービスが欲しい」と言っただけで、そのサービスが事業として成り立つと思い込んでしまう、など)。とはいえ、結局のところイノベーションは、「どれが当たるのかはやってみないと解らない」という性質から逃れられない。一説によると、1つのイノベーションを起こすには3,000のアイデアが必要だという。だから、「多少歪んだレンズ」を持った戦略家が集まって、戦略コンセプトのアイデアを量産することが重要なのかもしれない。

 なお、「戦略コンセプトの策定」と「ビジネスモデルのデザイン」の間には、「戦略目標の設定」というプロセスが必要である(これは完全に書き忘れた、大汗)。戦略目標の例は、「市場シェア○○%」、「新製品の売上○○億円」、「新規顧客獲得数○○人」などである。こうした目標がないと、ビジネスモデルを描くにあたって、どのくらいの生産体制や販売チャネルが必要になるのか?何社ぐらいの仕入先を開拓しなければならないのか?などといった規模感を算出することができない。
February 16, 2012

「顧客コミュニティの活用」というビジネスモデル変革―『「チェンジ・ザ・ワールド」の経営論(DHBR2012年3月号)』

拍手してくれたら嬉しいな⇒
Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2012年 03月号 [雑誌]Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2012年 03月号 [雑誌]

ダイヤモンド社 2012-02-10

Amazonで詳しく見るby G-Tools

 今回から本格的に論文のレビュー開始。

顧客と企業のつながりをいかに強化するか 成功するSNS戦略(ミコワイ・ジャン・ピスコルスキ)
 (ソーシャル・プラットフォームに参入している60社超を調査した結果、)うまくいっていない企業に共通していたのは、ソーシャル・プラットフォームに「デジタル戦略」を導入し、売らんがためのメッセージを発信し、顧客の反応を求めるというやり方であった。顧客はこのような提案は拒否する。なぜなら、ソーシャル・プラットフォームを利用する主たる目的は、だれか―それは企業ではない―とつながることだからである。

 それに引き換え、大きな利益を得ている企業は、新たな出会いを生み出し、人間関係をより良好なものにする「ソーシャル・ネットワーキング・システム(SNS)戦略」を打ち出していた。夕食の例えで言えば、SNS戦略を採用している企業は、席に着くと、こう言ってくる。「どなたかご紹介いたしましょうか。それとも、いまのお友だちとの仲が深まるようなお手伝いをいたしましょうか」
 著者によると、成功するSNS戦略は、「戦略上の効果」と「人間関係上の効果」という2軸で構成されるマトリクスを用いることで、次の4つに分類できるという(事例は、論文の内容を基に私がまとめたもの)。
(戦略上の効果, 人間関係上の効果)=
(1)(コスト削減, 人間関係の強化)
 《ジンガ》(※facebookで「ファームビル」や「シティビル」などのソーシャルゲームを提供する企業)
 初期状態のユーザが所有する土地や運営できる事業数には限りがあり、これを引き上げるにはバーチャルの製品やサービスを購入する必要があるが(アイテムの購入金額が主たる収益源という、よくあるソーシャルゲームのビジネスモデル)、それ以外に友人の力を借りることで機能制限を取り払うことも可能である。プレイヤーは自分の友人を新たなプレイヤーとして勧誘し、ゲームを通じて交流を続ける。これはジンガ側から見ると、新規プレイヤーの獲得コストを削減したことになる。

(2)(コスト削減, 人間関係の創出)
 《イェルプ》(※レビューサイト)
 「イェルパー」と呼ばれるレビュアー(多くは教育水準の高い30代〜40代)の中でも特に熱心なレビュアーには、特別な出会いの場が提供される。具体的には「エリート・スクワッド」への招待状が届き、美術館でのカクテルパーティーや、サンフランシスコのバブル・ラウンジでの大宴会などのイベントに参加できる。参加者はここで新しい交友関係を築くと同時にイェルプへのロイヤルティを強め、今後もレビューを投稿する気になる。これはイェルプ側にとっては、イベントへの支出だけで、良質なレビューの継続的な獲得に成功したことになる。

(3)(購買意欲の増進, 人間関係の強化)
 《イーベイ》
 2010年末から始まったサービス「グループ・ギフト」では、何人かでお金を出し合って友人へのプレゼントを購入することができる。仕組みは簡単で、プレゼントを贈りたい人は、イーベイのページで贈り物を選択し、facebookの友人にカンパを呼び掛けるというものだ。このサービスによって、贈り主と受取人の人間関係だけでなく、カンパした贈り主同士の人間関係も深まる。また、イーベイ側から見ると、1人ではなかなか買えない高価な贈り物をイーベイで買ってもらえる機会が増えたことになる。さらにイーベイによると、グループ・ギフトの利用者の3分の1がペイパルの口座を開き、3分の1が1か月以内にイーベイでまた別の製品を購入しているという。

(4)(購買意欲の増進, 人間関係の創出)
 《アメリカン・エキスプレス》
 同社の会員制サイト「コネクトデックス」は、カード会員の継続を前提に加入することができるSNSである。同SNSは1万5,000人以上の小規模事業者が利用している。年商10万ドル以上の小規模事業者の半数近くは、他の事業者から何かを学びたいと思っているという調査結果もあり、「コネクトデックス」はまさしくこのニーズに応えるネットワークとなっている。また、アメックス側から見ると、このSNSはユーザのカード離反率を下げるとともに、カードの利用率を上げる効果もある。
 個人的には、「コスト削減⇔購買意欲の促進」、「(既存の)人間関係の強化⇔(新しい)人間関係の創出」という区別は、それほど境界線が明確ではないような気がする。《ジンガ》の例で言えば、新規ユーザを勧誘したことで競争心に火が付き、お互いにバーチャルアイテムを購入し始めたとすれば、これは購買意欲の促進に該当するだろう。また、《イーベイ》の例も、「グループ・ギフト」の利用者の3分の1がペイパルユーザに加わったという点では、顧客獲得コストを節約したと言える。《アメックス》の例では、何もSNSに参加している小規模事業者が全て赤の他人とは限らない。以前から親交のあった小規模事業者同士が、同じアメックスユーザであることを知って、さらに交流を深めるというケースも十分にありうる。

 SNS戦略のポイントは、既存のビジネスモデルによって提供されている顧客価値が、顧客同士のコミュニティによって強化されるか否か?であると思う。SNS戦略で成功している企業は、顧客コミュニティの活用を通じて、顧客価値を強化することに成功した企業と言い換えることができる。これは新しいビジネスモデル変革のパターンだと思った。だから、昨年書いた連載モノ「【シリーズ】ビジネスモデル変革のパターン(全20回)」に、21個目の変革パターンとして「顧客コミュニティを活用する」というのを追加した方がいいのかもしれない。

 《アメックス》のクレジットカードがもたらす顧客価値は、基本的には「小規模事業者の資金調達ニーズを満たす」ことである。だが、小規模事業者の資金調達ニーズとは、もっと深く掘り下げていくと、単なる資金獲得にとどまらない。現在の事業収入でどこまでクレジットを使っても大丈夫なのか?返済計画はどのように練ればよいのか?他の資金調達方法はないのか?といったことも彼らの関心事である。

 そして何より重要なのは、小規模事業者は小規模であるがゆえに孤独であり、そういう悩みを気軽に相談できる人が周囲に少ないということである。「コネクトデックス」はまさに、小規模事業者の孤独を解消するソリューションであり、「小規模事業者の資金調達ニーズを満たす」という本来の顧客価値を強化するのに役立っていると言えるだろう。

 このビジネスモデル変革のもう1つのポイントは、顧客コミュニティの活用によって本来の顧客価値が強化されるのであれば、そのネットワークがバーチャルかリアルかは関係ないということである。バーチャルとリアルのどちらが顧客価値の強化に効果的なのかは、ケースバイケースである。顧客コミュニティの活用と言うと、どうしても流行のソーシャル・メディアばかりに目が向きがちであるけれども、敢えてリアルのコミュニティを選択した方がよいケースもあるはずだ(※)。

 事実、引用文で紹介した《イェルプ》の事例は、バーチャルではなくリアルのコミュニティである。また、「ビジネスモデル変革のパターン」シリーズの「【第2回】高級志向の顧客を狙う」で取り上げたハーレー・ダビッドソンも、リアルのコミュニティを重視している。バイク好きの人には、バイクメーカーに忠誠を誓うだけでなく、同じバイクを乗り回している人たちとも密接につながっていたいという心理があるようだ。同社のライダーコミュニティは、そうした心理的欲求を満たすのに一役買っている。

 (毎度のようにレビューは続きますよ)


(※)ラリー・クレイマー著「フランス企業に学ぶ優良顧客との関係構築法 ネットワークよりリレーション」(『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』2011年3月号)によると、フランス企業は安易にバーチャルのソーシャル・メディアに飛びつかず、古典的なリアルのコミュニティを重視する傾向があるという。

Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2011年 04月号 [雑誌]Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2011年 04月号 [雑誌]

ダイヤモンド社 2011-03-10

Amazonで詳しく見るby G-Tools
July 25, 2011

【第20回(終)】自社を介して3種類以上の顧客を持つ―ビジネスモデル変革のパターン

拍手してくれたら嬉しいな⇒
【パターンの概要と適用できるケース】
 足かけ約8か月でようやく最終回にたどり着きました。今回のパターンは、前回の「自社を介して2種類の顧客を持つ」の発展形である。この手のビジネスモデルは、広告ビジネスにもう1つの顧客層を追加しているケースがほとんどである。

【パターンが当てはまる事例】
《mixi》
 初期のmixiは、バナー広告が主たる収益源である典型的な広告ビジネスだった。ところが、「サンシャイン牧場」などのソーシャルアプリが登場してからは、ユーザ、広告主という2種類の既存顧客に、「アプリ開発ベンダー」という顧客も加わったことになる。

mixiのビジネスモデル(ソーシャルアプリを含む)

 ソーシャルアプリは基本的に無料であるけれども、一部のアイテムやキャンペーンにはお金がかかる。こうしたアイテムなどの購入金額がアプリ開発ベンダーの収益源になるわけだが、その一部は”mixiのプラットフォーム利用料”という形でmixiに流れる。

 上図には描ききれなかったが、約500万人もの莫大なユーザを抱えるサンシャイン牧場は、自らも外部の企業と様々なタイアップ企画を行っている。例えば、サンシャイン牧場が提携している外部サイトに会員登録をすると、サンシャイン牧場内で使用可能なポイントが(わずかではあるけれども)蓄積される。あるいは、提携先のWeb通販サイトで買い物をすると、購入金額の数パーセントがポイントになり、単なる会員登録よりもより効率的にポイントを貯めることができる。

 このポイントの仕組みについては、以前紹介した「Tカードのビジネスモデル」に近いと考えられる。サンシャイン牧場のユーザが、提携先企業のWebサイトで会員登録や製品購入をすると、ユーザにポイントが付与されるが、それと同時に、提携先企業は発行ポイントに応じた手数料をサンシャイン牧場に支払う。提携先企業から見ると、ポイントに応じた手数料は、新規顧客を獲得するためのマーケティング投資という位置づけになる(もっとも、ユーザは「単にポイントがほしい」という理由だけで、それほど興味がない提携先サイトの会員になることも多いと思われるから、投資に見合ったリターンが得られるかどうかは難しいところだが)。

 こうして見てみると、アプリ開発ベンダー自身も、ユーザと提携先企業という2種類の顧客を持っており、「自社を介して2種類の顧客を持つ」というビジネスモデルを実現していることになる。SNSをめぐっては、実に多様なネットワークが形成されているわけである。

《ファッション雑誌》
 ファッション雑誌も典型的な広告ビジネスであるが、最近は異業種企業とタイアップ企画やコラボ企画を行う雑誌が増えている。ファッション雑誌社から見ると、タイアップ企画を行う外部企業は、雑誌購読者、広告主に続く第3の顧客と言える。タイアップ先の企業は、雑誌が有する膨大な顧客基盤へのアプローチを通じて、自社顧客の拡大を狙っている。タイアップ先の企業は、その見返りとして、雑誌社に一定の手数料を支払うことになる(ある意味、既存の広告とは違った形態の広告とも言える)。

ファッション雑誌のビジネスモデル(広告+タイアップ企画)

 ネットでいくつかタイアップ企画関連の記事を拾ってみた。

 <Web通販サイトとのタイアップ企画>
 DeNAとぶんか社、人気女性ファッション誌「JELLY」と連動したモバイルショッピングストアを開設|DeNA
 <オンラインゲームとのタイアップ企画>
 ハンゲームと人気ファッション誌「men's egg」がタイアップ企画を実施|THE SECOND TIMES
 <携帯電話メーカー、携帯電話キャリアとのタイアップ企画>
 雑誌「Seventeen」とコラボレーションした折りたたみ型のFOMA端末「SH-05B」

【考えられるCSF(Critical Success Factor:最重要成功要因)】
 今回のビジネスモデルのCSFは、基本的に前回のパターンと同じである。ただし、ネットワークが複雑になる分だけ、より複雑な仕組みが求められることになる。

 ・膨大な顧客基盤を有すること
 (広告ビジネスを展開する上で、これは必須)

 ・3種類の顧客ニーズのマッチング精度を向上させる仕組み
 (顧客が2種類の場合よりもマッチングのパターンが増え、仕組みが複雑になる)

 ・ネットワーク拡大のカギを握るプレイヤーを押さえること
 (3つのネットワークそれぞれについて、キーとなるプレイヤーを把握する必要がある)

【終わりに】
 せっかくなので、もう一度全20回の変革パターンを再掲しておこう。1点、注意しなければならないのは、これまで紹介してきた変革パターンは、あくまでも思考の幅を広げるヒントに過ぎないのであって、ビジネスモデルを変えること自体を目的としてはいけない。DHBR2011年8月号の特集「ビジネスモデル 構想と決断」をよく読むと解るが、ビジネスモデルは戦略に従う。

 つまり、戦略の再構築なくして、ビジネスモデルの変革はありえないのである。ターゲットとなる顧客層が変化し、それに伴って顧客に提供する価値が変質する場合、あるいは競合との差別化要因をより明確なものにしたい時こそが、ビジネスモデルを変革するべきタイミングなのである。

<ビジネスモデル変革の20パターン>
 顧客を変える
  1.低価格志向の顧客を狙う(サウスウェスト航空、サイゼリア)
  2.高級志向の顧客を狙う(ハーレー・ダビッドソン、アンテノール)
  3.水平展開で事業エリアを拡大する(マクドナルド、自動車メーカー、ウォルマート)
  4.全く異なる属性の顧客を狙う(グラミン銀行、任天堂[Wii])
 製品を変える
  5.顧客の隣接する消費行動を押さえる(TSUTAYA[Tカード]、外食チェーン、工務店[リフォーム事業])
  6.顧客のライフステージを押さえる(自動車メーカー、銀行)
  7.製品を増殖させる(出版社、日能研、SHOICHI[アパレル])
  8.製品をまとめてパッケージ化する(旅行代理店、大手SIer)
  9.製品を分解する(アップル[iTunes]、はなまるうどん、葬儀業者)
  10.製品を売るのではなく貸す(エアビーアンドビー[CtoCの賃貸]、ビクシー[自転車レンタル]、テックショップ[作業場・作業用具レンタル])
 チャネルを変える
  11.販売チャネルを拡大する(コカ・コーラ)
  12.販売チャネルを絞り込む(トヨタ自動車[レクサス]、カゴメ[キャロット]、QBハウス[1,000円カット])
 プロセスを変える
  13.プロセスを分解して特定プロセスに特化する(デル、シティバンク、ヴァージン航空)
  14.プロセスを垂直統合する(ユニクロ、GAP、しまむら)
  15.特定プロセスを顧客にやらせる(イケア、Salesforce.com)
  16.顧客の特定プロセスを代行する(各種アウトソーシング業)
  17.プロセスの時間を大幅に短縮する(本田技研工業、オフショア開発)
  18.プロセスを分解して特定プロセスを独占する(マイクロソフト、インテル、日本の部品メーカー)
 顧客の種類を増やす
  19.自社を介して2種類の顧客を持つ(広告ビジネス、サービス共同購入サイト[GROUPON、ポンパレなど]、ショッピングセンター)
  20.自社を介して3種類以上の顧客を持つ(mixi、ファッション雑誌)

>>【シリーズ】ビジネスモデル変革のパターンの一覧へ
July 22, 2011

【第19回】自社を介して2種類の顧客を持つ―ビジネスモデル変革のパターン

拍手してくれたら嬉しいな⇒
【パターンの概要と適用できるケース】
 結局、6月中に第20回まで全て終えるという目標は達成できませんでした。すみません。あと2回なので、7月中に何とかします!

 今回のビジネスモデルは、一言で言えばマッチングビジネスであり、売り手と買い手の間に立って仲介役を担う。代表的なビジネスは、言うまでもなくテレビや雑誌、ネットの広告である。グーグルも、創業者のサーゲイ・ブリンとラリー・ペイジの2人は、検索エンジンそのものを企業に販売しようとしていたが、エリック・シュミットの提案によって、現在のような広告モデルができ上がったと言われる。

 広告ビジネスについてもう少し補足すると、膨大な顧客基盤を有する企業は、ほぼ例外なく広告ビジネスを展開できる。極端な話をすれば、食品メーカーは自社製品のパッケージの一部を広告枠にして、消費者の興味をそそるような広告を掲載することだってできるはずだ。

 しかし、実際のところ、そこまでやらないのは、1つには過剰な広告を消費者が嫌がり、製品のブランドイメージを傷つけてしまうリスクがあるからであり、もう1つは食品メーカー自身が広告主を開拓する営業部隊を新たに設ける必要があり、新しいケイパビリティを獲得しなければならないためである。

 広告ビジネス以外にも、業界内に売り手が数多く存在し、買い手へのアプローチが難しくなると、両者の橋渡しを行うプレイヤーが登場する。このプレイヤーにとって、売り手はサプライヤではなく、「何とかして製品・サービスを売りたい」というニーズを持った顧客と化す。こうして、仲介役のプレイヤーは、売り手と買い手の両方を自社の顧客にすることができるわけだ。

 「お金を払ってでも売りたい」という売り手が存在する業界の1つに、出版業界が挙げられる。著名な作家であれば、出版社が出版権をめぐって争奪戦を繰り広げるものの、無名の人間が出版する場合には、出版社に対して百万円単位のお金を先に支払わなければならない。これはもちろん、本が売れないリスクを出版が作家に転嫁しているわけだが、見方を変えれば、「お金を払ってでも自分の作品を世に出したい」という作家のニーズに応えているとも捉えられる。

【パターンが当てはまる事例】
《サービス共同購入サイト[GROUPON、ポンパレなど]》
 昨年から注目を集めているのが、このサービス共同購入サイトのビジネスである。製品の共同購入ビジネスは以前から存在したが、そのサービス版だ。アメリカでGROUPONが人気を博すようになってから、その人気が日本にも飛び火し、一気に多数のプレイヤーが参入してきた。

GROUPON、ポンパレのビジネスモデル

 GROUPONを例にとってみよう。まず、サービス業者は、クーポン価格とクーポンの最低販売枚数を決定し、GRUPONに情報を掲載する。消費者は、ほぼ日替わりで更新される情報の中から、気に入ったサービスのクーポンを購入し、代金をGROUPONに支払う。販売枚数が最低ラインを超えれば取引が成立し、GROUPONからクーポンが発行される(取引が成立しなかった場合は払い戻し)。消費者は、クーポンの有効期限内にサービスを利用する、という流れになる。

 GROUPONは、クーポンの販売総額に一定のパーセンテージをかけた金額を手数料として手元に残し、残りをサービス業者に支払う。このパーセンテージはサービス共同購入サイトの運営企業によってまちまちだが、GROUPONの場合は約30%のようだ。つまり、あるサービス業者が3,000円のクーポンを500枚販売した場合、サービス業者には3,000円×500枚×70%=105万円、GROUPONには3,000円×500枚×30%=45万円が入る計算になる。

 サービス業者から見ると、クーポンの価格を通常の価格よりも低く設定しなければならない上に、GROUPONに約30%の手数料を持って行かれるため、たいていのクーポンはサービス業者にとって赤字になる。それでもサービス業者がGROUPONに情報を掲載するのは、クーポンを利用した消費者の一部がリピーターになってくれれば、赤字の分を取り戻せるからである。

 ここで、このビジネスに向いているサービス業は何か考えてみよう。GROUPONやポンパレ、さらに他のサービス共同購入サイトも、飲食店のクーポンが目立つ。ポンパレはリクルートが主体であり、ホットペッパーなどで蓄積した飲食店向けの営業ノウハウを活用していると言える。

 ところが、このビジネスの成立条件は、前述したように「クーポンを購入した消費者の一部がリピーターになること」である。私の周りで飲食店、特に飲み屋関係のクーポンを購入した人に話を聞いてみると、「同じ店に2度は行かない」という人が多数を占めている。よく考えれば至極当然なのだが、よほどお気に入りの飲み屋でもない限り、同じ店に何度も足を運ぶことは考えにくい。

 さらに、赤字覚悟でクーポンを販売していることを考えると、売れば売るほど損になるビジネス、すなわち変動費率が高いビジネスは危険である。飲食店のように、そもそも薄利多売のビジネスがむやみにクーポンに頼ると、自分で自分の首を絞めることになりかねない。むしろ、固定費率が高く、顧客が多少増えても追加コストがほとんど発生しないビジネスの方が向いている。

 これらの点を総合すると、この手のビジネスに向いているサービス業とは、美容院やエステ、スパ、ネイルサロン、マッサージ、ゴルフの打ちっ放しなど、固定費率が高く、かつ一度利用した顧客がリピーターになりやすい(=顧客がロックインされやすい)業態であると考えられる。つまり、向いているサービス業はそれほど多くないのだ。アメリカでGROUPONが上場するかも?という情報が流れた時に、ビジネスモデルが脆弱で投資対象としては不適格だという声も聞かれた。サービス共同購入サイトの今後の動向が気になるところだ。

ショッピングセンターのビジネスモデル

 もう1つ、広告ビジネス以外で2種類の顧客を有するビジネスモデルを図示してみた。上図はショッピングセンター(SC)のビジネスモデルである。SCの運営会社には、テナント企業と消費者という2種類の顧客が存在する。SC運営会社は、消費者に対してはSCに来てもらうためのキャンペーンを実施し、テナント企業に対しては単なる場所貸しという枠を超えて、テナントの経営改善に向けたサポートなどを提供している。テナント企業は、毎月の家賃に加えて、売上の数%を手数料としてSC運営会社に支払う。これがSC運営会社の収益源になる。

 SC運営会社にとって重要なのは、SC全体の来客数を増やすために、目玉となるテナント企業を誘致することである。魅力的なテナントが出店すれば、来場者が増加する。来場者が増加すれば、他のテナントも売上増の恩恵にあずかることができる。そして、「あのSCに出店すると、売上が伸びやすい」という評判が流れれば、出店を希望するテナント企業が増えていく。

 今回のビジネスモデルは、自社の両側に2種類のネットワークが存在するとも言える。こうしたビジネスでは、ネットワークの外部性が働く。しかも面白いことに、片方のネットワークのプレイヤーが増加すると、そのネットワークのプレイヤーが増加するだけでなく、もう片方のネットワークのプレイヤーも増えていくのである。

 先ほどのSCの例で言えば、目玉となるテナントが出店すると、そのテナントを目当てに消費者側のネットワークができ上がる。消費者側のネットワーク内に、口コミでSCの評判を広げてくれる人がいれば、消費者側のネットワークが増大する。すると今度は、消費者側のネットワークの大きさに惹かれて、新たに出店を希望するテナント企業が登場する。つまり、テナント側のネットワークが拡大するのである。

 サービス共同購入サイトも同じである。まずは、目玉となるサービス業者にクーポンを発行してもらう。ポンパレがハーゲンダッツと組んで、1個100円のアイスのクーポンを100万枚販売しようとしたのを覚えている方も多いだろう(この仕掛けそのものは、悲惨な結果に終わったわけだが)。

 サービス共同購入サイトの運営会社は、消費者側のネットワークを拡大するために、ほぼ例外なくtwitterやfacebookなどのソーシャルネットワークを活用している。クーポンを購入した消費者が、「あそこのお店のクーポンが○○円で買えたよ!」とtwitterでつぶやいてくれれば、フォロワーにもその情報が伝わるからである。

 ソーシャルメディアの利用者の中に、芸能人など影響力の強い人がいれば、消費者側のネットワークが一気に広がる可能性がある。すると今度は、「あのサイトにクーポンを出せば、確実に取引が成立する」という評判がサービス業者に流れて、サービス業者のネットワークが広がっていくのである。

【考えられるCSF(Critical Success Factor:最重要成功要因)】
 事例から見えてくるCSFはこんな感じだろうか?

 ・膨大な顧客基盤を有すること
 (広告ビジネスの場合は、これが必須)

 ・両方の顧客ニーズのマッチング精度を向上させる仕組み
 (グーグルのAdSenseがよい例)

 ・ネットワーク拡大のカギを握るプレイヤーを押さえること
 (サービス共同購入サイト、ショッピングセンターの事例より)

《参考》今回のビジネスモデルについては、トーマス・アイゼンマン他「「市場の二面性」のダイナミズムを生かす ツー・サイド・プラットフォーム戦略」(DHBR2007年6月号)が参考になる。

posted by Amazon360
>>【シリーズ】ビジネスモデル変革のパターンの一覧へ
July 20, 2011

戦略とビジネスモデルの違いが解る特集―『ビジネスモデル 構想と決断(DHBR2011年8月号)』

拍手してくれたら嬉しいな⇒
posted by Amazon360

 8月号のレビューはこれで最後。「戦略」と「ビジネスモデル」は非常に紛らわしい言葉であるが、個人的には次のように解釈している。

 <戦略>
 自社がどの顧客に対して、どのような価値を提供するのか?そして、競合とどのように差別化を図るのか?という問いに対する答え。言い換えれば、市場における自社のポジショニング、立ち位置を示すコンセプト。

 <ビジネスモデル>
 ・戦略を実現するためのビジネスプロセス(=社員の行動の束、時に取引先や提携先の企業の行動を含む)、およびビジネスプロセスに対する経営資源の投入の仕組み(IT基盤、人材の採用・育成・配置・評価に関するルール、ナレッジやノウハウ、重要な技術や知的財産を蓄積・共有する仕組み、予算配分の制度、およびこれらの経営資源を全体的にコントロールする意思決定のメカニズム)を含むビジネスの全体像であり、かつ売上や利益の創出、コストの発生を示すシナリオ。

 ちょっと前に『ストーリーとしての競争戦略』という本が流行ったけれども、この本でいう「ストーリー」がほぼビジネスモデルに該当する(実際のところ、『ストーリーとしての競争戦略』の著者は、ビジネスモデルとストーリーを厳密に区別しているが)。

 「(※注)以降の記述で作品に関する核心部分が明かされています―『ストーリーとしての競争戦略』
 「既存企業が戦略ストーリーを再構築することは不可能なのか?―『ストーリーとしての競争戦略』

 「戦略」や「ビジネスモデル」という語句と関連して、「戦略を再構築する」とか、「戦略的打ち手を打つ」といった文言が使われることがある。「戦略の再構築」とは、自社のポジショニングの変更であり、「戦略的打ち手」とは、ビジネスモデルを修正する各種施策であると言えるだろう。

=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-
【再掲】コンセプトのあいまいさが失敗を招く ビジネスモデルの正しい定義(ジョアン・マグレッタ)
 ビジネスモデルとは、端的に言えば「物語」、つまりどうすれば会社がうまくいくかを語る筋書きである。優れたビジネスモデルは、ピーター・ドラッカーの古くて新しい質問である「顧客はだれで、顧客価値は何か」という質問に答えるものだ。また、マネジャーが避けては通れない基本的な質問である「どのようにこの事業で儲けるか、どのような論理に基づいて適切なコストで顧客に価値を提供するか」にも答えてくれるだろう。
 この論文は今月号の最後から2番目に所収されているのだが、最初に読んだ方が他の論文を理解しやすくなるように思える。戦略とビジネスモデルの違いを説明するにあたって、著者はウォルマートとデルの違いに言及している。つまり、「サム・ウォルトンは戦略を描き、マイケル・デルはビジネスモデルを描いた」と言うのである。

 ウォルマートと言えば、徹底的に標準化された店舗オペレーション、厳格な在庫管理システム、緻密な需要予測に基づく大量発注の実現、大幅なディスカウントなどを想起するが、これらはビジネスモデルを構成する要素である。ウォルマートはビジネスモデルを徹底的に磨き上げることで競争優位を築いている。とはいえ、個別の要素自体は、実はウォルマートよりも前に登場しているものばかりである。

 サム・ウォルトンは、すでに大型スーパーがしのぎを削っている大都市部を避け、敢えて郊外に出店した。こうした地域では、車で何時間もかけてスーパーに行かなければならない。自らも田舎町の出身であったサム・ウォルトンは、郊外での買い物の大変さを肌身で感じていた。そこで、田舎町に住む人々にとって身近なスーパーを作り、かつ手ごろな価格で製品を提供しようと考えたのである。これはまさしくポジショニングの問題であり、この点でサム・ウォルトンは戦略を描いた、というわけだ。

 他方、マイケル・デルはPCの直販事業を作り上げた。これは、従来のPC業界には存在しなかったビジネスモデルである。ただし、マイケル・デルは、決して戦略を無視したわけではない。マイケル・デルは、個人向けPCの市場を捨てて、大口の法人顧客のみにターゲットを絞った。

 法人顧客はある程度PCに詳しいので、面倒な製品説明やアフターサービスをしなくてもよい。デルは、法人顧客向けのビジネスモデルを十分に練り上げた後で、個人向けPC市場に進出している(ただし、デルは法人顧客を相手にしていたせいでカスタマーサポートのノウハウが溜まらなかったため、しばしば個人顧客から対応の悪さを批判されてきたが)。

=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-
優位性を高める選択がカギ 優れたビジネスモデルは好循環を生み出す(ラモン・カサデサス=マサネル、ジョアン・E・リカート)
 我々の調査からは、ビジネスモデルの要素として欠かせないものの1つが、オペレーションのやり方に関わる選択であることがわかる。ここで言う選択とは、報酬慣行、調達契約、施設の立地、垂直統合の度合い、営業・マーケティングの施策などである。(中略)わかりやすく概念化すれば、ビジネスモデルは、経営上の選択と、その選択がもたらす結果から成り立っている。
 この論文では、格安航空会社であるラインエア社のビジネスモデルが図示されている。だが、その図をよく見ると、実はM・ポーターがサウスウェスト航空を例にとって、同社における「アクティビティ」の関係を図示したものと酷似している。本論文の著者は、「優れたビジネスモデルは、正のフィードバックループによって自己強化される」と主張しているが、それはちょうど、ポーターが「各アクティビティが”フィット”していることが重要である」と説いたのと同じである気がした。

マイケル・E. ポーター
ダイヤモンド社
1999-06
posted by Amazon360
=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-
新規事業研究の第一人者が語る よいビジネスモデル 悪いビジネスモデル(リタ・ギュンター・マグレイス)
 (自社のビジネスモデル変革を検討する前に、)まず、自社のビジネスモデルに組み込まれている前提を疑ってみるプロセスが必要です。(中略)私がみなさんにお勧めするのは、「どのようなデータがあれば、これとは違う意思決定を下すだろうか」と自問することです。既存の信条を裏づける情報ばかりを集めないように気をつけてください。そうすれば、求めなければならない、これまでとは違った情報について考えられるようになります。
 要約すれば、「例外」について検討する場を設けることが、ビジネスモデル再構築のスタートになるということ。ただ、「例外」を発見するためには、「標準」が定められていなければならない。そういう意味では、明快な戦略とそれを実現する業務プロセスや仕組み、さらにプロセスや仕組みの成果を測定する指標をきちんと定義しておく必要がある。この辺りの話については、以下の記事もご参照ください。

 「実行を通じて戦略を修正するフィードバックループが欠けてるよな−『戦略の実現力(DHBR2010年11月号)』
 「「業務プロセスがイノベーションの原動力」というのは別の意味で一理あり―『イノベーションの新時代』

=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-
衰退が始まってからでは遅すぎる 持続的成長のS字曲線(ポール・ヌネシュ、ティム・ブリーン)
 修復の必要がだれの目にも明らかになる前に再構築に取り組むことは、たやすいことではない。多くの場合、企業は衰退し始める直前に、最も輝いて見えるものだ。既存のビジネスモデルからの収入は急増し、利益は堅調で、株価はとんでもなく割高に取引されているからである。しかし、それこそマネジャーが手を打つべき時なのである。
 この論文を読んでいて、誰が言っていたかは忘れてしまったけれど、「お笑いは、ネタが一番ウケている時に、次のステップを考えておかなければならない。それを怠ると一発屋で終わってしまう」というタレントの話を思い出した。お笑いと経営には、意外なところで共通点があるものだ。

 お笑いの場合は、「ネタでブレーク⇒フリートークのゲスト、またはロケタレントとして多くの番組に出演⇒冠番組で司会を担当」というのが出世の王道のように思える。ネタでブレークしている間に、例えば雑誌のインタビューなど、話が滑ってもあまり痛手を負わない場面でフリートークの技術を身につけ、いろんな番組に出演しながら司会業の技を盗むことが重要なのだろう。

 ただし、お笑いと違って経営の場合は、お笑いの出世街道に該当するはっきりとした筋道など存在しない。それを見つけられるマネジャーとそうでないマネジャーの間に出世スピードの差が生まれるし、それを見つけられる企業とそうでない企業の間に成長スピードの差が生じる。
July 17, 2011

インド企業の発展は宗教や歴史と結びついている―『ビジネスモデル 構想と決断(DHBR2011年8月号)』

拍手してくれたら嬉しいな⇒
posted by Amazon360

 早速8月号のレビューに突入。今月号を読んでいて目立ったのは、インド企業の事例の多さだった。しかも、インド企業の成長の根底には、インドで最も信者が多いヒンドゥー教の教えや、ガンジーの独立運動を通じてインド人に根付いていった価値観があることを示唆している点で、非常に興味深い特集だった。

=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-
インド企業に学ぶ 「ガンジー主義」イノベーションの知恵(C・K・プラハラード、R・A・マシェルカ)
 賢いインド企業は、新しい技術と先鋭的なビジネスモデルを考え出し、国内のマス市場に浸透している。SCMから人材採用まで、バリューチェーンのほぼあらゆる要素を変革し、新たなビジネス生態系を創造することで、これをなし遂げたのだ。

 この現象を「ジュガード」(jugaad)というインドの伝統の延長だとする者もいる。ジュガードとは、資源の不足を克服し、一見解決不能な問題を解決するために代替的、即興的、臨時的な策を講じることをいう。

 だが、ジュガードという言葉には、質の面で妥協するという含意がある。それよりも好ましいのは「ガンジー主義」イノベーションである。このタイプのイノベーションは、マハトマ・ガンジーという偉大なる指導者の2つの信条がその中核をなしているからだ。その1つは「みんなのためになる発明なら何でも尊重する」、もう1つは「この地球は、すべての人の(欲望ではなく)必要を満たすだけのものを提供してくれる」である。入手しやすさと持続可能性は、60年前にガンジーが基準とした条件であり、インド企業はここへきてその力を認識した。
 『コア・コンピタンス経営』、『ネクスト・マーケット』などの著者であり、BOPビジネスの実践家でもあったC・K・プラハラードの遺稿。インドのイノベーションは、新興国でよく見られる高付加価値路線とは異なり、限られた資源を最大限に活用しながら、割安な価格で多くの人々に製品やサービスを広く提供することを目指している。そして、こうしたインドの起業家の方向性は、ガンジーの思想に通じるところがある、と著者は指摘しているわけだ。

 本論文では、「バーティ・エアテル」と「EMRI」の事例が詳細に述べられている。バーティ・エアテルは、通話時間1分あたり1セントという低価格を実現している通信業者である(ちなみに、中国は2セント、アメリカは8セントぐらい)。EMRIは、救急医療そのものが未だにインドに浸透していないという状況の中で(急病になっても、インド人の多くは、どこに連絡をすればよいのか解らないらしい)、無料に近い救急サービスをインド全土で提供している。

 この2社のビジネスモデルは、全く正反対である点でも注目に値する。バーティ・エアテルはIBMなどのグローバル企業と連携し、アウトソーシングをフル活用している。他方、EMRIは基本的に垂直統合型のビジネスモデルであり、各州に設置されているコールセンターを自社社員で運営するのは当然のこと、救急車の設計も自社で手掛けるほどである。

 「ビジネスモデル変革のパターン」の連載記事でも取り上げたように、業界全体のバリューチェーンを分解して顧客接点のみに特化するパターンと、これとは逆にバリューチェーン全体を垂直統合するパターンの両方があるわけだが、本論文は、どちらのパターンであっても、低価格のサービスを多くの顧客に提供することが可能なことを示している。

 「【第13回】プロセスを分解して特定プロセスに特化する
 「【第14回】プロセスを垂直統合する

=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-
インフォシスが実践する 非線形のイノベーション・モデル(ビジャイ・ゴビンダラジャン、クリス・トリンブル)
 企業が存続するためには、「維持:ボックス1」「破壊:ボックス2」「創造:ボックス3」の3つの力を適正なバランスに保たなければならない。このバランスを取ることがCEOの最重要任務だが、ほとんどの企業は極端にボックス1を重視する。
 まず、3つのボックスを用意し、自分が今取り組んでいる仕事を1つずつカードに書き出してみる。次に、それぞのれカードを、該当するボックスに入れていく。そうすると、多くの企業では、ボックス1ばかりがいっぱいになり、ボックス2と3にはほとんどカードが入らないものだ、と著者は指摘する。

 既存事業の維持ばかりだと頭打ちになるのは目に見えているから、同時並行で新規事業の種をまく必要がある、というのは別に珍しい主張でも何でもなくて、この論文以外にも多くの著者が言っていることなのだけれども、実際にはなかなか難しいものである。

 この論文が面白いのは、この3つのボックスの区分をヒンドゥー教と紐づけている点である。
 ヒンズー教にはさまざまな神が登場するが、主要なのは三神のみである。維持の神であるビシュヌ(ボックス1)、破壊の神のシバ(ボックス2)、創造の神のブラフマー(ボックス3)である。(中略)ヒンズー教の原理によれば、この三神の間のバランスの取れた相互作用から、「維持」「破壊」「創造」の連続的サイクルが生まれる。
 つまり、インドでは、既存事業の維持を図りながら、不要な製品やサービス、業務やシステムを破壊し、新しい事業を創造していくというサイクルが、ごく自然な価値観として人々の心に刻まれているのである。宗教観とビジネスの論理を結びつけて捉えることは、各国のマネジメントのスタイルをよく理解する上で有効だと私は考える。「宗教観や社会の基本的価値観が、マネジメントとどのように関連しているのか?」という論点は、私が最近大いに関心を寄せているものである。

 例えば、アメリカは一神教の国であるのに対し、日本は多神教の国である。この違いが、両国のリーダーシップ像に影響を与える。すなわち、アメリカでは1人の強力なリーダーが求められるのに対し、日本ではそれほど目立たない多数のリーダーたちが社会を動かそうとするのである。

 また、日本人には、長年かけて1つの分野を極める姿勢をよしとする精神がある。柔道、剣道、書道、武士道といった言葉に含まれる「道」の考えがそれに該当する。さらに、吉田兼好の徒然草には「完成と同時に崩壊が始まる」という考えが記されている(※)。よって、何事も永遠に完成することはなく、刻々と変化する状況に常に適応していかなければならない。こうした価値観は、日本が誇るマネジメント手法「トヨタ生産方式」と無縁ではないように感じる。

 話がだいぶ逸れてしまったけれど、本論文では、インドのITアウトソーシング業界でリーダー的存在にある「インフォシス」の取り組みが紹介されている。インフォシスが3つのボックスのバランスをとるために行っていることを以下に列記しておく。

 ・同社の長期的な前提条件に異議を唱えたり、将来の成長に向けた大胆な提案を行ったりする場として、一部のクライアントにグループ会議や一対一の打ち合わせに直接参加してもらう。
 ・「ボイス・オブ・ユース」と呼ぶ若手社員のパネルを編成し、年8回、経営幹部の会議に出席させる。
 ・戦略に関して議論する時には必ず、創造的で過去に縛られない30歳未満の参加者を30%入れるという「30・30ルール」を適用する。
 ・何千名もの若手社員を継続的に戦略策定プロセスに引きつけるために、「ストラテジック・グラフィティ・ウォールズ」(戦略を落書きのように壁に描く)、「ジャム・セッション」(同社が新興国市場で勝つためにはどうすればよいかといった質問に対し、参加者がわずか1分という持ち時間で回答していく円卓会議)、「ナレッジ・カフェ」、「スピード・マニア」など、様々な名称の創造的な仕組みを新設した。

(※)日光東照宮の陽明門を支える柱のうち、1本だけ他の柱とは逆の模様が描かれている(逆柱と呼ばれる)。これは、「建物は完成と同時に崩壊が始まる」という伝承を逆手にとったものである。

 (続く)
June 21, 2011

【第18回】プロセスを分解して特定プロセスを独占する(2)―ビジネスモデル変革のパターン

拍手してくれたら嬉しいな⇒
 (前回からの続き)

《日本の部品メーカー》
 日本の最終製品メーカーは、中国や台湾などの安価な製品に押されて世界での影響力を失いつつあるけれども、部品メーカーの中には、世界市場で高いシェアを保っている企業がまだまだ多い。半導体業界のキーエンスやロームはその一例である。とりわけ、半導体業界では後発組であったロームは、ユニークな仕組みで競合他社を凌駕した。

 ロームは、顧客にあたる最終製品メーカーのニーズをより深く理解するために、顧客企業の”業種別”に組織を構成した。つまり、家電メーカー担当部門、自動車メーカー担当部門、PCメーカー担当部門・・・といった具合だ。設計、製造、営業の担当者はみな、顧客企業の工場に張りついて顧客の製造プロセスをじっくりと観察し、顧客ですら気づいていなかった潜在ニーズを掘り出して製品を提案していったそうだ。

 アップルのiPodは、日本の部品メーカーに大きく依存していることで有名だ。2005年時点では、iPodの製造原価のうち、約70%を日本企業が占めていた(ハードディスク=50%[東芝]、液晶ディスプレイ=16%[東芝、松下]、電池=2%[TDK])。iPodは、日本企業の力なしには成り立たなかった製品と言えるだろう。

 ところが、iPadになると状況が一変し、iPadの製造原価に占める日本企業の割合は大きく落ち込む。携帯電話高周波装置に村田製作所が、液晶ディスプレイにセイコーエプソンが、水晶振動子にエプソントヨコムが採用されているだけで、残りはほとんどが中台韓のメーカーになってしまっている(※5)。

 これにはいろいろな要因が考えられるが、日本のメーカーが安易に製造工程を海外にアウトソーシングしてしまったために、肝心の技術までが海外メーカーに持っていかれてしまったのではないだろうか?川下(=最終製品の市場)で勝ち目がない場合に、川上に上って生き残りを賭けるというのは戦略的にアリだ。うまくいけば、寡占によって大きなパイをもぎ取ることもできる。

 しかし、一度川上に上ってしまうと、もうそれ以上は川上に上れない。戦略的には、もう一度川下のプロセスに手を伸ばすという選択肢もあるけれども、川下にいるのは自社の顧客である。安直に川下のプロセスを取り込もうとすれば、既存顧客との関係を悪化させてしまうかもしれない。

 だから、一旦川上に上った企業は、川上を死守するための方策を打たなければならない。具体的には、自社のコア技術が外部に漏れないように、十分なナレッジマネジメントを行う必要がある。インテルやMSはこの辺りがうまいから、未だに市場の覇者として君臨している。しかし、日本の部品メーカーはこの点で手痛い失敗をしているように感じる。

《ミスミ》
 ミスミは、表向きは中小製造業向けの金型を専門に扱う商社であるが、実際には「金型の製造に特化しており、さらに製品企画の一部を顧客企業に任せ、生産は金型メーカーに委託している企業」と捉えることができる。今回のパターンと、「【第15回】特定プロセスを顧客にやらせる―ビジネスモデル変革のパターン」を組み合わせたビジネスモデルになっているというわけだ。

 ミスミが顧客である中小製造業に向けて送付する製品カタログの中には、マス目入りの用紙が入っている。製品カタログに載っていない金型がほしい場合、顧客企業は同封されている用紙に金型の設計図を描いてミスミに送り返す。ミスミは、送られてきた設計図から顧客ニーズの最大公約数を抽出し、新たな金型を企画するのである。

 中小製造業は、大手製造業が手がけないような、規模の経済が働きにくい特殊な部品を製造しているところが多い。その製造に使われる金型も、当然のことながら特殊なものになる。だからといって、中小製造業を1社1社訪問してニーズを聞き出していては非常に手間がかかるし、さらに特殊な金型をいちいちメーカーに依頼すると製品ラインナップが膨れ上がり、製品単価も上がってしまう。そこで、顧客自身に製品企画をやらせて、ニーズが多い金型のみを製品化するという手法をとっているのである。

【考えられるCSF(Critical Success Factor:最重要成功要因)】
 事例から見えてくるCSFはこんな感じだろうか?

 ・自社技術のブラックボックス化
 (インテルやMSの成功例と、日本の部品メーカーの失敗例より)

 ・顧客の業種を問わず、顧客のニーズを幅広く把握する仕組み
 (川上に特化した場合、自社製品の顧客が複数の業種にまたがることがある。よって、業種横断的に顧客のニーズを深く理解する仕組みが求められれる。インテルやMSは周辺製品メーカーとのネットワークを形成し、ロームは顧客企業の業種別組織を構築し、ミスミは顧客企業に製品設計の一部を任せることで、この問題を解決している)

 ・顧客の多様なニーズを集約して標準化する設計・製造スキル
 (ミスミの事例より)

>>【シリーズ】ビジネスモデル変革のパターンの一覧へ

(※5)「iPadから見えるエレクトロニクス・IT産業の国際競争力と対応の方向性」(ITmedia オルタナティブ・ブログ、2010年4月29日)
June 20, 2011

【第18回】プロセスを分解して特定プロセスを独占する(1)―ビジネスモデル変革のパターン

拍手してくれたら嬉しいな⇒
【パターンの概要と適用できるケース】
 今回のパターンは、以前の「【第13回】プロセスを分解して特定プロセスに特化する―ビジネスモデル変革のパターン」とも関連している。業界全体が成熟してくると、バリューチェーンを構成する各プロセスに特化した専門プレイヤーが現れやすくなるのだが、自社は最終顧客との接点に特化し、他のプロセスは外部企業との提携でカバーするのが【第13回】のパターンであった(デル、ヴァージン航空など)。

 最終顧客との接点に特化する企業がいるということは、バリューチェーンのもっと上流のプロセスを専門とする企業も存在することを意味する。それが今回のパターンである。そして【第13回】と今回の大きな違いは、川上のプロセスではしばしば寡占や独占に近い状態が見られるということである。

 岡山のメーカーで、地元大学から多くの学生を研究職として採用していた「林原」は、経営陣が滅茶苦茶な不動産投資をやったせいで倒産してしまったが、本来は甘味料などに使われる糖質「トレハロース」や抗がん剤「インターフェロン」を量産する世界的なメーカーであり、トレハロースの世界生産をほぼ独占している。トレハロースの取引先は全国で約7000社、製品は約2万品目にのぼる。だから、林原が倒産した時には、全国の菓子メーカーが生産不能に陥るのではないかと危惧されたぐらいである(※1)。

 バリューチェーンの上流で寡占が進んでいることは、最近のタブレットPCの急速な広まりからも見て取れる。アップルがiPadを発表してから、世界中のメーカーがこぞってタブレットPC市場に参入した。各社が迅速に製品を開発できたのは、タッチパネルの製造に長けたメーカーが限られているからとも考えられる。要するに、メーカー各社は製品企画こそ自社でするものの、重要なパーツはそれらのタッチパネルメーカーに頼っているのである(その結果、どのメーカーのタブレットPCも、外観は似たようなものになってしまうわけだが)。

 バリューチェーンの上流で寡占が進んでいることを示すもう1つの象徴的な出来事が、実は東日本大震災の直後にあった。部品供給元が被災した自動車メーカー各社は、一時的に生産ラインをストップせざるを得なかった。しかし、復旧は時間の問題と考えられていた。

 一般的に、自動車業界は、最終組立メーカーを頂点として、川上(1次サプライヤ、2次サプライヤ、3次サプライヤ・・・)に行けば行くほどプレイヤーの数が多くなる「ピラミッド構造」になっている(※2)。これは、供給面ではリスク分散のメリットがある。つまり、2次、3次あたりのサプライヤで一時的に供給が途絶えても、他のサプライヤから部品を調達することが可能になるからだ。

 ところが、生産ラインの復旧には予想以上の時間がかかった。なぜならば、一般的な理解とは異なり、電子部品やゴムや樹脂といった材料は、むしろ供給企業数が集約されており、1社の被災が大きく影響することが解ったからである。言い換えれば、ピラミッド構造ではなく、「ひょうたん型の構造」になっていたというわけだ。

 電子部品の代表例であるマイコンを例に挙げてみよう。デンソーや日立オートモティブシステムズ、ケーヒンなどECU(電子制御ユニット)を供給する部品メーカーは多くありますが、その内部に使われているマイコンは、ルネサスエレクトロニクスや富士通セミコンダクターなど何社かに絞られている(※3)。だから、ルネサスの工場が被災すれば、デンソーの工場はストップし、デンソーから部品供給を受けているトヨタも身動きが取れなくなってしまうのである。

【パターンが当てはまる事例】
《インテル、マイクロソフト》
 PC業界では、インテルがCPUを、マイクロソフトがOSをほぼ独占している。ここで重要なのは、インテルの新しいチップやMSの新しいOSが、どのメーカーの機器に搭載されても問題なく動作するかどうかである。しかしながら、PCの周辺機器の数は非常に多く、動作保証が容易ではない。また、半導体の技術革新のスピードは非常に速い(「ムーアの法則」)。よって、インテルが新しいチップを開発してから、それに合わせて顧客企業が新しい周辺機器を開発したとしても、周辺機器ができあがる頃にはインテルが次世代チップの開発を終えているかもしれない。

 そこでインテルは、複数の顧客企業をネットワーク化し、インテルのチップと周辺機器とをつなぐインターフェースを細かく調整しながら、互換性のある製品をセットで同時に市場へ投入できる体制を作り上げている(※4)。おそらくMSも、同じようなネットワークを形成しているものと思われる。

 ちょっと話が逸れるけれども、携帯電話のOSは、今のところアップルのiOSとグーグルのAndroidの一騎打ちのような構図になっている。iOSはMSのWindowsと同じように完全にブラックボックス化されているのに対し、Androidは携帯メーカーによるカスタマイズが可能だ。

 だが、ここにはセキュリティの問題が潜んでいる。MSはWindows Updateを通じて、セキュリティパッチをあらゆるPCに一斉に配布する仕組みを既に10年以上続けている。しかし、Android搭載の携帯電話にセキュリティ上の欠陥が生じた場合、果たしてグーグルはどこまで対策を講じることができるのだろうか?

 逆に言うと、MSのWindows Phone 7は、現時点ではアップルとグーグルに押されて注目度が低いけれども、セキュリティ面に関してはPCのOSで培った能力を活用することで、最もセキュリティの高い携帯電話に化ける可能性がある。さらに言えば、アップルが基本的に自前主義であり、製造のアウトソーシング先が限定的であるのに比べると、MSはメーカーとの広いネットワークを有している。だから、MSが本気を出せば、ハイセキュアでかつバリエーションに富んだスマートフォンを次々と市場に投入し、市場の構造をがらりと変えてしまうことだってできるかもしれないのである。

 (続く)

>>【シリーズ】ビジネスモデル変革のパターンの一覧へ

(※1)「トレハロース生産危機、大企業「林原」が会社更生法申請」(総合ビジネスニュースSpotlight、2011年2月11日)
(※2)「Part4 自動車メーカー編(1)――CTO販売が特徴,新車開発プロセスをPLM/SCMシステムが支える」(ITPro、2007年12月13日)
(※3)「ピラミッド型でなかった部品サプライチェーン」(日経Automotive Technology、2011年6月7日)
(※4)リチャード・K・レスター著『イノベーション―「曖昧さ」との対話による企業革新』(生産性出版、2006年)

リチャード・K. レスター
生産性出版
2006-03
posted by Amazon360
June 14, 2011

【第17回】プロセスの時間を大幅に短縮する(2)―ビジネスモデル変革のパターン

拍手してくれたら嬉しいな⇒
 (前回からの続き)

 ただここで1つ付け加えておきたいのは、何でもかんでも早ければよいというわけではない、ということである。重要なのは、「顧客のニーズに合致した製品」、あるいは「顧客のニーズを先取りした製品」を素早く投入することであるのを忘れてはいけない。

 先ほどのホンダの事例に関して言うと、今では自動車の製品開発リードタイムも随分と短くなっている。しかし、だからといって、必ずしも「売れる自動車」が生まれるとは限らない。日産からアウディに転職したデザイナーのインタビューで、興味深いくだりがあったので紹介したい(※2)。
 日本の企業でデザインしていると、デザインした車が世の中に出ないうちに、もう次のモデルのデザインを始めなければなりません。非常に高い瞬発力を要求されるのです。個人的にはそれが美しいものをつくる環境を壊しているのではないか、本質的なものから遠ざかっているのではないかと思うようになったのです。
 アウディの場合、7〜10年の周期で、できるだけ完成度の高い車を出そうと考えます。アウディのデザイナーに比べると日本のデザイナーは倍の時間働いていると思う。しかし出てくる車の効果はたった数ヶ月なのです。アウディでは、働く時間は日本企業に比べれば比較にならないほど少ないですし休暇もたっぷりあります。でも出てくるクルマは1.5倍の値段がつき、2倍の期間新鮮さを保つのです。アウディはいま、デザイナーにとって最高の環境にあります。それだけに自分の仕事に対しても、逃げ道がないのも事実です。
 「とにかく早く製品開発すればいい」という強迫概念に取りつかれている代表的な企業は、おそらく携帯電話メーカーであろう。携帯電話業界では、1年間に100種類を超える新しい機種が登場する(※3)。1機種あたりの開発費は100億円程度と言われるが、果たして開発費を回収できるほど新機種は売れているのだろうか?(※4)

 携帯電話の買い替えサイクルは、約3.5年である(※5)。携帯電話の普及台数は人口とほぼ等しい1億2,000万台だとすると、年間の市場規模は1億2,000万台÷3.5年=約3,500万台となる。これを100機種で割れば、1機種あたりの売上台数は平均して35万台と推計される。

 携帯電話1台あたりの売上・利益はどのくらいだろうか?ドコモの機種の場合は、ドコモの決算資料から推測すると、携帯電話メーカーが得られる売上は1台あたり4.5万円のようである。ここでは便宜的に、他のキャリアに関しても、メーカーの1台あたり売上は4.5万円である仮定する。また、製造原価については、全メーカーを平均すれば約70%になるそうなので、1台あたりの粗利は、4.5万円×30%=1.35万円ということになる。

 よって、1機種あたりの総粗利は、35万台×1.35万円=約47.3億円となり、携帯電話メーカーは開発費の半分しか回収できない計算になる。そこで、キャリアが残りの開発費を負担することになるのである。ソフトバンクの孫社長が、「SIMロックを解除してキャリアが開発費の負担をやめれば、端末価格は4万円ほど上がってしまう」と発言したことがあったが、この数字はあながち嘘でないようだ。なぜならば、メーカーは開発費を自力で回収するために1台あたりの販売価格をほぼ倍にし、キャリアは値上がり分をそのままユーザーに転嫁するからである。

 ここでもう少しよく考えたいのだが、根本的な問題は、売れるかどうかもよく解らずに、むやみやたらに新機種を投入している携帯電話メーカー(とキャリア)の姿勢にあるのではないだろうか?消費者側から見れば、「とにかく競合が新機種を出すから、うちも新機種を出そう」という考えで新機種を出しているに過ぎない感じがする。

 その結果、確かに製品開発リードタイムそのものは短くなったけれども、メーカーの利益は出ない。国内の携帯電話メーカーの営業利益率は数パーセント台にとどまっており、ノキアやモトローラよりも低いと言われる。まして、営業利益率30%台を誇るiPhoneには、まったく及ばない(※6)。

【考えられるCSF(Critical Success Factor:最重要成功要因)】
 バリューチェーンの各プロセスの時間を短縮する方法の多くは技術的なものである。例えば、設計リードタイムを短くしたければ、過去の設計図を流用できるCAD/CAEシステムを導入すればよい。物流リードタイムを短くしたければ、高性能の物流管理システムを構築すればよい。悲しいかなこうした技術的な方法は、競合他社に簡単に真似されてしまうものだ。

 「顧客のニーズに合致した製品」、あるいは「顧客のニーズを先取りした製品」を素早く投入するためには、「顧客の潜在ニーズを素早く察知する『判断能力』」と、「キャッチした潜在ニーズを、製品の機能やデザインに迅速に反映させる『意思決定のメカニズム』」こそがカギを握る。これらは人に依存している部分が大きく、競合他社が模倣するのは困難である。逆に言えば、タイムベース競争のCSFは、この2つの属人的な要素にあると考えられる。

>>【シリーズ】ビジネスモデル変革のパターンの一覧へ

(※2)一條和生著『MBB:「思い」のマネジメント−知識創造経営の実践フレームワーク』(東洋経済新報社、2010年)

一條 和生
東洋経済新報社
2010-06-18
おすすめ平均:
意思の力が実現を導く
リーダーをやるのが楽しくなります
posted by Amazon360

(※3)「検証用の携帯電話自営コストを大幅に削減するための新サービス「オンデマンドサポートサービス」を提供開始。」(株式会社ケータイラボラトリー、2008年11月30日プレスリリース)
(※4)これ以降の試算は、人力検索はてなの「日本の携帯電話の製造費ってどのくらいか、開発費はどのくらいかかるのか、教えてください。また、iphoneの開発費・製造費もご存知でしたらお願いします。」の数値を参考にしている。
(※5)「長持ち志向鮮明に!−耐久消費財 買い替え年数一覧表。」(CostDown、2009年9月10日)
(※6)「iPhoneの利益率、市場で突出」(VILLAGE Newspaper、2010年9月27日)
June 13, 2011

【第17回】プロセスの時間を大幅に短縮する(1)―ビジネスモデル変革のパターン

拍手してくれたら嬉しいな⇒
【パターンの概要と適用できるケース】
 今回のパターンは、もうかなり昔の本になってしまうけれど、BCGの『タイムベース競争―90年代の必勝戦略』を参考にしている(※1)。タイムベース競争とは、端的に言うと、「バリューチェーンを構成するプロセスの時間を大幅に短縮することで、競合優位性を獲得する」という戦略である。全てのプロセスを短縮する必要はないが、一部のプロセスでも短くすることができれば、競合に先駆けて市場のチャンスをつかむことが可能になる。しかも、単なる改善によって微々たる時間短縮を実現するのではなく、圧倒的な差異を生み出すことが肝要である。

【パターンが当てはまる事例】
《本田技研工業》
 先ほどの『タイムベース競争』で紹介されていた事例で、「へぇ〜」と思ったものを1つ引用。
 オートバイメーカーがなぜ自動車でも成功したか、その勝因はまさにタイムベース競争にある。そもそもオートバイという乗り物は、不要不急の商品である。重要なのは本来の機能性より、ファッション性である。流行はすぐに変化するから、素早く商品開発に取り入れなければならない。したがって、普通、オートバイメーカーは1台のオートバイを1年半で開発する。そして、1年半で開発されたオートバイは1年で売れなくなる。これがオートバイという商品のサイクルである。

 一方、自動車メーカーは4年から5年の開発期間をとっていた。しかも、新しい車種を開発したら、金型の償却などの関係で最低4年は売らないとコストが合わない。少々乱暴な言い方をすれば、新車の開発にあたっては8年後、9年後にも売れる車をつくらなければならない。

 今日の社会では、8年後や9年後に売れる車はおろか、5年後がどういう世の中になっているかさえ予測できない。だから、当然、新車の開発は予測はずれが多くなる。

 そこへ本田技研工業が進出し、1年半で新車を開発するというオートバイメーカーの迅速性を活かして、開発期間をトヨタや日産より短縮したのである。開発期間が短くなった分だけ、ホンダの車はユーザーのもっとも新しいニーズを組み込むことができるから、カッコいい、ナウいと評価される。
 「ナウい」という表現がすでに古臭いが、もう20年ぐらい前の事例なのでその辺は勘弁してくださいな(汗)。製品開発リードタイムの短縮は、今回のパターンの典型例である。売れる製品を競合よりも早く市場に投入すれば、市場シェアを一気に獲得できるのは自明である。

 「ムーアの法則」が通用していた半導体業界も、製品開発リードタイムをいかに短縮するかが重要な経営課題であったが、インテルはまさにこの課題をクリアして王者に君臨したメーカーであると言える。

《オフショア開発》
 システム開発では、海外の時差を活用して、事実上24時間の開発体制を実現しているところが多くなってきている。例えば、日本とブラジルでは12時間の時差があるから、日本で仕様書を起こしてブラジルに送り、日本人が眠っている間にブラジルで開発を進めることが可能になる。ブラジル人はでき上がったソースコードを日本に送り、今度はブラジル人が眠っている間にそれを日本人がチェックして、修正点をブラジルにフィードバックする。こうすると、理論上は日本国内だけで開発をする場合に比べて、半分の時間で開発が完了する計算になる(もちろん、こんなにスムーズに事が進むわけではないが・・・)。

 他にも、部品の調達リードタイムや製品の納入リードタイムを短縮することで、競合優位性を獲得しているのが、GAPやユニクロなどに代表されるSPAのビジネスモデルである(「【第14回】プロセスを垂直統合する―ビジネスモデル変革のパターン」を参照)。ただ、このモデルにもまだまだ改善の余地はある。というのも、SPAモデルは基本的に、「需要予測が可能」という前提に立っているからである。その需要予測を競合よりも頻繁に行うことで、予測と実績の乖離を防ごうとしているわけだ。

 ユニクロが需要予測に頼っていることは、昨年末から今年初めの気温が比較的高かったせいで、ユニクロの冬物が不振に陥ったことからもうかがえる。つまり、ユニクロの需要予測が外れたのである。また、需要予想が外れたと解った後で生産計画を変更し、素材の種類や量を変えて、生産ラインを組み替えるというプロセスにも、まだ不十分な点があることを示している。

 「需要予測が可能」という前提そのものをひっくり返し、「需要予測はしなくてもいい」と言い切っているのが、制約理論(TOC:Theory of Control)で知られるエリヤフ・ゴールドラットである(「「需要は予測すべき」という前提を大胆にも捨てたゴールドラット−『ザ・チョイス』」を参照)。ゴールドラットの主張は、一言でまとめると「売れた分だけ作って補充する」ということになる。しかしながら、ゴールドラットによれば、ここまでのサプライチェーンを実現している企業はほとんどないという。

 (続く)

>>【シリーズ】ビジネスモデル変革のパターンの一覧へ

(※1)ボストン・コンサルティング・グループ著『タイムベース競争−90年代の必勝戦略』(プレジデント社、1990年)
June 02, 2011

【第16回】顧客の特定プロセスを代行する(2)―ビジネスモデル変革のパターン

拍手してくれたら嬉しいな⇒
 (前回からの続き)

(D)(重要度、頻度、業務負荷)=(高、高、低)
 この分野の例としては、まずITの運用・保守が挙げられる。基幹システムが停止したら一大事なので、企業としては常に実施していなければならない重要な業務である。しかし、運用業務の中身は、サーバなどに問題が起きていないかどうかをモニタリングするだけなので、業務負荷はそれほど高くない。そうすると、よほど巨大なシステムを自社で抱えていない限り、その業務の専任担当者を置こうとは思わないものだ。したがって、この分野はアウトソーシングの対象となる。

 具体的なアウトソーシングビジネスとしては、ITベンダーが自社で巨大なデータセンターを設立して、顧客企業に導入したシステムの運用・保守を一括で行う、というものがある。また、もっと踏み込んだ形態としては、以前IBMやアクセンチュアなどがさかんにやっていた「戦略的アウトソーシング」というのがある。これは、ITベンダーが顧客企業と共同でシステムの運用・保守会社を設立して、ITベンダーの社員と顧客企業の情報システム部門の社員を、その会社に異動させるというものである。

 もっとも、「戦略的」という名前が意味するように、単に運用・保守業務を効率的に実施することだけを目的としているのではなく、運用・保守業務の中からシステムの課題を発見し、新システムの企画・構築を親会社である顧客企業に提案していく役割も担っている。

 上記以外にも、収納代行ビジネスや、コールセンターのアウトソーシングビジネスなどは、この分野の業務を担当していると言える。顧客から代金回収ができなければ企業は潰れてしまうけれども、電気、電話、水道、ガス事業などのように顧客数が多いと、代金回収の回数が非常に多くなる。こういう場合には、収納代行ビジネスの出番となる。

 収納代行企業は、自ら決済インフラを構築し、コンビニなどの支払窓口と決済インフラをつないでいる。例えばコンビニで電話代が支払われると、一部は事務手数料としてコンビニに流れ、さらに残りの金額の一部が決済インフラ利用料として収納代行企業に流れる。事務手数料と決済インフラ利用料を抜いた金額が、収納代行企業からNTTに支払われる、という流れになる。手数料は抜かれるけれども、NTTがわざわざ顧客の家に社員を派遣して代金を回収したり、督促状を送り続けたりするよりはずっと安上がりである。

(E)(重要度、頻度、業務負荷)=(高、低、高)
 この分野には、まず第一に、新卒採用、上場企業の決算発表など、一定の時期に仕事が集中する重要な業務が該当する。この分野には、新卒採用コンサルティングやIRコンサルティングなどのプレイヤーが参入している。

 もう1つは、内部統制対応やIFRS対応など法規制への対応に関する業務、あるいは新規事業戦略の立案など、仕事の時期は読めないが、仕事をしなければならないと決まったら、一定期間の間に高い負荷が発生する分野である。この分野を担っているのは、会計コンサルティングや戦略コンサルティングなどのプレイヤーである。

 これらの分野はそれなりに高度なノウハウが必要とされるが、頻度が少ないために自社内にノウハウを蓄積する機会に恵まれず、外部からノウハウを調達した方が早いという判断になりやすい。そのため、アウトソーシングの対象となる。

(F)(重要度、頻度、業務負荷)=(高、低、低)
 「企業にとっては重要だけれども、頻度も業務負荷もそれほどない仕事」というのはあまりないのだが、例えば会社設立の手続や、重要な契約書類のチェックなどはこの分野に該当するだろう。これらの業務は、行政書士や弁護士にアウトソーシングされている。

【考えられるCSF(Critical Success Factor:最重要成功要因)】
 事例から見えてくるCSFはこんな感じだろうか?

 ・受託対象業務の標準化・効率化
 ・標準化・効率化した業務を社員に浸透させるトレーニング
 (これはアウトソーシングビジネスをやる上での大前提。顧客企業よりも効率的に業務ができなければ、お話にならない。なお、重要度が高い業務になると、非定型的な業務が増え、標準化が難しくなるけれども、この場合でも標準化・効率化の努力を怠ることはできない。例えば、大手のコンサルティングファームは、過去のプロジェクトの成果物をデータベース化し、他の類似プロジェクトで活用できるようにしていることが多い。)

 ・顧客に対するコストメリットを明確にした提案・営業活動
 (アウトソーシングによって、どのくらいコストが削減できるのかを顧客に対し定量的に示すことは重要である。また、コストはそれほど変わらないが、従来よりも短時間で業務が遂行できるならば、それも顧客にとって価値がある。

 手前味噌な話で恐縮だけれども、コンサルティング業界は実はあまりこの点が上手ではない気がする。だから、顧客企業からは「価格が高い」と思われてしまう。コンサルティングの場合、顧客企業がコンサル会社に依頼しようとしていた業務を自社でやった場合にかかる人件費と、コンサルティングフィーを天秤にかけて、コンサルを依頼すべきか否かを判断するのが本来の姿なのだろうが、コンサル会社は顧客企業がそういう意思決定を下せるようにうまく働きかけることができていないように感じる。

 また、コンサルフィーが高いとしても、短期間で高い成果が得られれば、その後のビジネスでは競合に先んじてチャンスをモノにできるから、高いコンサルフィーでも割に合うのだけれども、この点を訴求するのもあまり上手ではない。まぁ、あまりこの辺を露骨に示すと、顧客企業に嫌がられるという理由もあるけれどね。)

 ・自社社員の稼働率を一定に保つための仕組み
 (ファウンドリやデータセンターなどを除けば、アウトソーシングビジネスの大半は労働集約的なビジネスである。よって、社員の稼働率をいかにして一定水準に保つかがポイントになる。特に、頻度が低い業務を受託する場合はこの点が重要だ。

 最もオーソドックスな対策は、正社員以外に契約社員やアルバイトを活用して、需要の変動に応じて社員の数を増減できるようにすることである。ただ、この場合は、社員のモラルやサービス品質をどのように維持するかが別の問題として発生する。)

>>【シリーズ】ビジネスモデル変革のパターンの一覧へ
June 01, 2011

【第16回】顧客の特定プロセスを代行する(1)―ビジネスモデル変革のパターン

拍手してくれたら嬉しいな⇒
【パターンの概要と適用できるケース】
 今回はいわゆるアウトソーシングのビジネスモデルである。極論すれば、世の中のあらゆる製品やサービスは、顧客が自分自身ではできないことを企業に依頼することで生まれているという意味では、ビジネスというのは基本的に全てアウトソーシングとも考えられる。

 「顧客はドリルを欲しがっているのではない。4分の1インチの穴を欲しがっているのだ」というマーケティングの格言があるけれども、ドリルメーカーは、日曜大工に励むお父さんたちの「穴を開ける」という仕事を代行しているのである。「破壊的イノベーション」の理論を提唱したクレイトン・クリステンセンは、「顧客の”ジョブ”を解決することが重要である」と常々主張しているが、これをドリルの例に当てはめれば、ジョブ=「穴を開ける」ということになる。

 今回取り上げるパターンはそこまで極端なものではなく、BtoBビジネスにおけるオーソドックスなアウトソーシングビジネスが中心になるが、それらをいくつかに分類しながら説明してみたい。

【パターンが当てはまる事例】
《アウトソーシング》
 企業には様々な業務があるけれども、「重要度」、「頻度」、「1回あたりの業務負荷」という3つの切り口で分類すると、どういう領域でどのようなアウトソーシングビジネスが成り立つのかが解りやすくなると思う。まず、(重要度、頻度、業務負荷)=(低、低、低)という業務は、そもそも企業内にほとんどないので、アウトソーシングの対象にならない。逆に、(重要度、頻度、業務負荷)=(高、高、高)という業務は、企業のコア業務であるから、これもまたアウトソーシングされることはない。アウトソーシングビジネスが成立するのは、残りの6つの分野である。

(A)(重要度、頻度、業務負荷)=(低、高、低)
 オフィスの清掃業務などはこの領域の典型である。今や、清掃担当の社員を雇っている企業はほとんどないだろう。ほぼ毎日必要な業務ではあるが、重要度も業務負荷も低い場合は、外部の企業にやらせてしまいたいと考えるのは自然な発想である。

 個人的に「あったら面白いかもな?」と思うビジネスは、「共同社宅」、「共同社員食堂」かなぁ(完全にアイデアベースだけれども)。中堅・中小企業だと、自社で社宅を持つことは難しい。だが、とりわけ都市圏で働く新入社員や若手社員にとっては、家賃の負担がバカにならない。そこで、複数の企業が共同で利用する社宅を作るわけである。

 社宅の運営会社は、それぞれの企業から一定の料金をもらうことで、入居者の家賃を周辺の賃貸物件よりも安く抑えることができる。しかも、各企業の採用計画がある程度解るわけだから、毎年何人ぐらいの入居希望者が出そうか予測しやすい。これは、社宅の稼働率を一定に保つ上では有利である。もちろん、異なる企業の社員が同じ建物に入居し、互いに知り合いになるので、社宅の運営会社は重要な情報の漏洩や社員同士のトラブルに注意する必要がある。

 「共同社員食堂」も似たような発想である。企業が密集する地域に、広い店舗面積を有する食堂をオープンし、周辺の企業に社員食堂として指定してもらう。社員食堂に指定してくれた企業の社員には、会員証などを配布する。食堂で会員証を使うと、周辺のレストランよりも安い価格で食事を取ることができる、という仕組みである。

 同時に、社員食堂に指定した企業からも一定の料金をもらう。安直な考えかもしれないが、社員が毎日安い料金で食事ができることになると、職場環境に対する満足度が上がり、総合的な社員満足度の向上につながる可能性がある(よって、人材の流出防止にもつながる)。その対価として、企業側から料金をいただくのである。

 「共同社員食堂」の場合、競合のレストランなどもそれなりに低価格でバリエーションのある料理を提供しているので、それに負けない価格とバリエーションを実現しないと勝てない点がややネックである。バリエーションの問題はクリアできるとしても、価格を下げるためには規模の経済を働かせなければならない。そうすると、相当大規模な食堂をいくつもオープンさせる必要がある。都市圏でそれだけの土地が果たして確保可能かどうかは、議論の余地があるけどね。

(B)(重要度、頻度、業務負荷)=(低、低、高)
 月次の会計処理、給与計算など、特定の時期に定型的な事務作業が集中する分野である。業務負荷が高くなる特定の時期だけ社員を増やすわけにもいかないので、アウトソーシングの対象になりやすい。中堅・中小企業だと、これらの業務は税理士にアウトソーシングされている。大企業の場合は、「シェアードサービス」のような形で、グループ会社の事務作業を集約するケースが見られる。

(C)(重要度、頻度、業務負荷)=(低、高、高)
 この分野には、ノンコアの製造工程などが該当する。製造工程の一部を、賃金の安い海外工場にアウトソーシングするというのは、今では全く珍しくない話だ。極端なケースになると、製造工程をまるまるアウトソーシングすることもある。PCや半導体のように、アンバンドリングが進んでいる業界では、自社工場を一切持たず、製品の企画・デザインのみを行う「ファブレス」という形態の企業と、ファブレス企業から製造工程をごっそりと受託する「ファウンドリ」という形態の企業が存在する。PC業界では、台湾のファウンドリ企業が有名である。

 (長くなりそうなので、ここで記事を分割します、汗)

>>【シリーズ】ビジネスモデル変革のパターンの一覧へ
May 30, 2011

【第15回】特定プロセスを顧客にやらせる―ビジネスモデル変革のパターン

拍手してくれたら嬉しいな⇒
【パターンの概要と適用できるケース】
 業界が成熟して、顧客が製品やサービスに対して一定の知識を身につけるようになると、企業が全てのプロセスを自社でまかなうよりも、プロセスの一部を顧客自身にやらせた方が得策となるケースがある。いわば、顧客に対するアウトソーシングである。企業側にとってはコスト削減メリットがあり、その分を値下げという形で顧客に還元すれば、顧客の満足度向上につながる。企業のプロセスを肩代わりする顧客は、負荷が増えることになるけれども、「融通の利かない企業に任せるより、自分でやった方が早い」と感じれば、むしろ満足度が上がる。

 古典的な例は、銀行のATMだろう。銀行の窓口に行かなければ現金の引き出しも預け入れもできなかった時代に比べると、ATMは非常に便利である。顧客はATMの操作に慣れる必要があるものの、銀行で長時間待たされるのに比べれば、はるかに苦労も少ない。もっとも、ATMはすでに40年以上の歴史があり、どの金融機関でも当たり前のように導入されているから、ATMが差別化につながることはない。今では、単にビジネスを展開する上での必須条件の1つにすぎない。

 「自社のビジネスのうち、顧客自身にやらせた方がいい部分があるのではないか?」については、議論してみると意外と面白い結論が出てくると思う。特にサービス業には、プロセスの一部に顧客が参加する、あるいは企業と顧客が一緒になってサービスを形成する、という側面がある。例えば、スターバックスでは顧客の好みに応じて味を変えることができるが、見方を返れば「顧客がスターバックスの店員に対して製造指図を出している」とも言える。そうすると、コーヒーの製造工程を全て顧客に任せてしまって、「完全セルフサービスのカフェ」という新しい業態が成立する余地があるのかもしれない(全くの思いつきだが)。

【パターンが当てはまる事例】

(15)特定プロセスを顧客にやらせる

《IKEA》
 IKEAは、家具の組立プロセスを顧客にやらせている。これによって、IKEAは組立工場を持つ必要がなくなり、製品価格をぐっと押し下げることに成功している。また、IKEAはアフターサービスもほとんどやっていない。これは、「組立の際に発生した問題は、お客様自身で解決してくださいね」というメッセージになっている。

 IKEAの製品を購入したことがある人なら解ると思うが、IKEAの組立説明図は非常に乱暴である。簡単な図がついているだけで、文章の説明すらない。文章の説明をつけると各国の言語に対応する必要があり、コストがかさんでしまうという理由もあるが、それよりも重要なのは「この説明図で組み立てられないような人は、IKEAの顧客にならないでください」という暗黙のメッセージになっている点である。

 IKEAのターゲット顧客は、「頻繁にインテリアを入れ替えるのが好きな人たち」、「完全なDIYはできないけれども、ちょっとしたDIYならやってみたいと思っている人たち」と言える。こういう人たちは、大塚家具のように、入店すると担当の販売員がついて、ショールームをぐるぐると回りながら出来合いの製品の説明を受けるよりも、とりあえず使えそうな家具をたくさん買って、自宅で試行錯誤しながら家具を組み立てて、配置していくのが好きなのである。

 逆に言うと、そういうのが苦手な人たちにIKEAに来られても困るし、それでコールセンターにあれこれと難癖をつけられても、IKEAにとってはビジネスの邪魔にしかならない。だから、敢えてそういう人たちを排除するような工夫がされているのである。

 以前、日経ビジネスで顧客満足度に関する特集が組まれていたが、IKEAのアフターサービスに対する顧客満足度は非常に低く、大塚家具などの日本企業に大きく差をつけられている。しかし、総合的な顧客満足度では、IKEAは高いスコアをたたき出している(※)。

 IKEAのアフターサービスは顧客を満足させることができていないけれども、そもそもIKEAの顧客は、アフターサービスに対する期待値が低いと考えられる。なぜなら、先ほど挙げたIKEAのターゲット顧客は、「組立は自分の責任」と思って製品を購入しているからである。

 だから、仮にうまく組み立てられない家具や使えない家具、すぐに壊れてしまう家具があっても、顧客はIKEAのことをあまり責めない。むしろ、「あぁ、自分の選択が間違っていたんだな」と思うのである。でも、「またIKEAに行けばいいか。あそこならたくさん商品があるし、安いからね〜」といった感じで、IKEAのリピーターになっていく。IKEAの総合的な顧客満足度が高い理由は、ここにあるのだろう。

《Salesforce.com》
 SaaS(Software as a Service)の代表格であり、先日もトヨタ自動車との提携が発表されたSalesforce.comも、このパターンに当てはまる。SaaSは、企業がIT資産の「所有」から「利用」へとシフトしていく上で欠かせないサービスとして位置づけられており、その意味では以前取り上げた「【第10回】製品を売るのではなく貸す―ビジネスモデル変革のパターン」にも該当する。しかし個人的には、SaaSビジネスの本質は「IT資産を貸す」というよりも、「ITの構築・運用を顧客にやらせる」という点にあるような気がする。

 Salesforce.comを導入している企業の方々であればご存知だと思うが、Salesforce.comでは、入力項目やデータ処理手順の設定、禁則処理の定義、レポート(帳票)のデザイン、アラートの発信、ユーザの設定と権限付与・グルーピングなどがかなり自由にできる。

 こうした仕事は、もともとはSIerの範疇にあった。コンサルタントやSEを何人も顧客企業に常駐させて、人月単価で何百万円というお金を顧客企業からいただいていたのである。Salesforce.comは、これらの作業を顧客企業に任せることで、従来のSIerに比べて圧倒的に安い価格を実現している。

 Salesforce.comもIKEAと同じで、「ITの設計・開発や運用が自社である程度できる顧客」がターゲットであり、そういう能力に乏しい顧客を暗に排除している。以前の記事「クラウド導入を見送る本当の理由はセキュリティ面の不安じゃないと思うね」でも述べたように、当初は中小企業の方が前向きに導入すると思われていたSaaSが、むしろ大手企業に広く受け入れられているのはこのためである。

 大手企業は自社の情報システム部門がしっかりとしているし、システム構築を何度も経験しているので、セキュリティ面さえしっかりしていれば、SaaSを自分たちで利用することにそれほど抵抗がない。逆に、中小企業は、システム導入を経験しているとしても、たいていはSIerに丸投げ状態であるから、いざSaaSを自分たちで使おうという段階になって、どうしていいか解らなくなってしまうのである。

 先日の記事で紹介した調査では、SaaS導入を見送る理由の第一位に「セキュリティ面の不安」が挙げられているけれども、これは建前であって、本音は自社のIT活用能力の不足にあると私は考えている。よって、中小企業向けのSaaSに商機を見出したいベンダーは、中小企業のIT活用能力を上げる手段を用意しなければならない。とはいえ、1社1社懇切丁寧に対応していたら、SaaSの単価からして全く儲からないから、多数の企業に一気にアプローチできる効率的な方策をひねり出す必要がある。

【考えられるCSF(Critical Success Factor:最重要成功要因)】
 事例から見えてくるCSFはこんな感じだろうか?

 ・一定の製品知識・能力がある顧客のターゲティング
 ・(上記と関連するが、)逆に、製品知識・能力に乏しい顧客をうまく排除する仕掛けづくり
 (IKEA、Salesforce.comのターゲティングより)

 ・顧客が企業の業務を肩代わりすることで削減されたコストが、顧客に十分に還元されていると解るような、既存製品・サービスに比べて圧倒的に安い価格設定

 ・顧客の裾野を広げたい場合は、顧客の製品知識・能力向上を効率的に行う仕組みを構築
 (IKEAの巨大なショールームは、実はこの役割を果たしていると思う。自分で完全にインテリアをデザインできない人たちでも、ショールームに展示されたいくつかの例を見ていくうちに、ある程度イメージが湧いてくる。あとは、そのイメージに基づいて、1階の倉庫から製品をピックアップしていけばよい。

 また、インテリアデザインが面倒な人たち[=本当は、IKEAがあまりターゲットにしたくない顧客]は、ショールームと全く同じ家具を購入する、という手段に出ることもできる。

 SaaSを本格的に中小企業にも広げていくためには、こうした仕組みが不可欠になる。会員企業限定のサイトをオープンしてSaaSの導入・運用手順を細かく紹介したビデオを流す、中小企業のIT担当者をターゲットとした100人単位のセミナーを開催してその場で自社のSaaSの設定をしてもらう、といった方策がありうるのではないだろうか?)

>>【シリーズ】ビジネスモデル変革のパターンの一覧へ

(※)『日経ビジネス』(2009年8月3日号)
May 07, 2011

【第14回】の補足2―電子書籍市場において、出版社には取次と戦う準備があるんだろうか?

拍手してくれたら嬉しいな⇒
 「【第14回】プロセスを垂直統合する―ビジネスモデル変革のパターン」の補足をもう1つ。

《電子書籍》
 出版社と書店の間には、取次と呼ばれる流通業者が存在する。ただ、通常の業界と違って、出版業界の場合は取次の寡占が進んでおり、トーハンと日販(日本出版販売)の二大取次だけでシェアの70%以上を占めると言われる。また、もう1つの特徴として、出版社と取次、および取次と書店の間で結ばれている「返品を前提とした委託販売契約」が挙げられる。

 本来の委託販売では、受託者は単に販売活動を受託しているだけであるから、受託者側に製品の所有権はなく、委託者から最終顧客に所有権が直接移転する。よって、そもそも受託者側に”返品”という概念がない。そして、受託者が委託者の製品を販売した後に、受託者の売上から受託者側の販売手数料と経費を除いた金額が、委託者の売上(委託者正味手取額)として計上される。つまり、委託者が売上を計上するタイミングは、最終顧客が製品を購入した”後”となる。

 これに対して、「返品を前提とした委託販売契約」は事実上の「売買契約」である。書店は取次から一旦製品を買い取り(製品の所有権が取次から書店に移る)、この時点で取次には売上が計上される。すなわち、最終顧客が製品を購入するよりも”前”に売上を計上することができるのである。

 書店側では在庫管理を考える必要がなく、余った在庫は取次に返品することができる。取次は、返品に備えてあらかじめ”返品調整引当金”を必要経費として計上しているため、返品された製品にかかるコスト(製品の仕入原価や販管費など)は、この引当金の範囲内でまかなうことになる。出版社と取次の間で結ばれているのも、これと同様の契約である。

 このイレギュラーな契約形態の下で、出版社や取次はどのような行動に出るだろうか?日本企業は、基本的に売上高を重視し、売上高の成長こそが企業の成長の証と捉える節がある。売上高を拡大するために、出版社は「とにかくたくさん本を出版して、取次に引き渡してしまえばよい」、取次は「とにかくたくさんの本を書店に引き渡してしまえばよい」といった具合に、むやみに押し込みを行うのである(もちろん、引当金を無制限に積み立てることはできないから、どこかで歯止めはかかるが)。

 もともとこの契約形態は、雑誌など大量の部数が出回る書籍に適したものだと言われる。ところが、今は他の業界と同じで、「多品種少量生産」の時代である。にもかかわらず、出版社と取次の無茶な押し込みのせいで、書籍が売れ残るたびに返品と廃棄を繰り返すシステムは、あまりに非効率だ。

 こうした出版業界の慣例を打ち破る可能性があるとすれば、昨年からホットになっている電子書籍であろう。出版社がその気になれば、自社で電子書籍の販売サイトを立上げることも可能だ。こうなると、出版から販売までのプロセスが垂直統合されることになる。

 電子書籍市場においては、取次の役割はかなり不明確になる。個人的には、取次の食い扶持はなくなるんじゃない?っていう気もするけれども、大手出版社が電子書籍に関するコンソーシアムを立ち上げるたびに、トーハンや日販が食い込んでくる。出版社の方も、取次の力が強すぎるものだから、彼らを無下に扱うことができない。この辺りが、電子書籍市場が一気に拡大したアメリカ(Amazonでは、電子書籍の売上が紙媒体の書籍の売上を上回っている)と、遅々として進まない日本の違いだろうなぁ。

 出版業界に限らず、”分散型”の業界では、各プロセスを担うプレイヤーが既得権益化しているケースが多い(農業もしかり)。垂直統合型のビジネスモデルを目指す新規プレイヤーは、既得権益とのドロドロとした争いを覚悟しなければならないだろうね。
May 06, 2011

【第14回】の補足1―ファストリの農業参入は、既存事業(ユニクロ)の規模が小さければ結果が違ったかも

拍手してくれたら嬉しいな⇒
 先日の「【第14回】プロセスを垂直統合する―ビジネスモデル変革のパターン」は、ユニクロとしまむらのことをいろいろと調べながら書いていたら、それだけでものすごい長い記事になってしまった。本当は、もう少し事例を取り上げたかったんだよね。なので、ちょこっと補足しておくよ。

《農業参入》
 ファーストリテイリング(ファストリ)は、2000年代の始めに農業に参入したことがある。ユニクロで培った垂直統合型のSCM(サプライチェーンマネジメント)のノウハウを農業にも適用し、「よりよい農作物を、より安い値段で提供する」のが狙いである。つまり、SPAシステムの農業版を目指していたわけだ。1,000億円の売上を目標とし、ファストリの第2の事業に育てるはずだった。

 しかしながら、ファストリはわずか1年半あまりで農業ビジネスから撤退した。その理由についてはいろいろ言われているけれど、「衣料品と違って天候に左右されやすい農作物は、在庫のコントロールが難しかったことが主たる原因」ということになっている。ただ、それ以外にもいくつか思い当たる要因はある。

 ファストリは、中国の工場を活用した大量生産で、衣料品のコスト減に成功した。また、需要が変動しても、基本的には中国の工場だけにその情報を伝えればよいので、生産量のコントロールが効きやすい。ところが、農業では大量生産ができないし、土地によって生産できる農作物も異なる。よって、ファストリは全国の農家と幅広く提携する必要があった。

 ちなみに、目標としていた1,000億円というのは、どのくらいの規模感なのだろうか?大手小売店の売上に占める食品部門の割合(2011年2月期)を見てみると、イオンリテール=56.5% 、イトーヨーカ堂=59.6%、ユニー=66.3%、ダイエー=69.1%、イズミ=58.5%、イズミヤ=63.1%、平和堂=69.1%、フジ=66.0%となっている(※)。

 イオンやイトーヨーカ堂は1兆円企業なので、食品部門だけで6,000億円ぐらいの売上があることになるけれども、イズミヤの売上高は2,661億円、平和堂の売上高は3,271億円であるから、食品部門の売上は1,500億〜2,000億円という計算になる。この点を踏まえると、ファストリの1,000億円という目標は、かなり野心的なものであり、イオンやイトーヨーカ堂には敵わないけれども、イズミヤぐらいのGMSとはガチンコで勝負する気だったのだろう。そうなると、相当な数の農家との提携がファストリには求められる。その労力がファストリにはなかった、ということも考えられる。

 とはいえ、ファストリぐらいの馬力がある企業ならば、力技で農家のネットワークを形成することができたかもしれない。けれども今度は、「いいものを安く」という事業コンセプトに合わなくなる。大半の農家は「普通の農作物」を作っているわけだから、ネットワークが巨大になれば、流通する農作物は「普通のもの」が中心になる。せいぜい、ファストリのコスト低減のノウハウを活かして、価格を下げることができるぐらいだ。そうなると、ファストリの製品は「イズミヤなどとほとんど同じで、ちょっと安い」という程度のポジショニングにしかならない。

 ファストリは、おそらくそうなることが解っていたから、参入当初から「永田農法」に目をつけていたのだろう。必要最小限の水と肥料しか使わず、敢えて厳しい生育環境で作物を育てるとうまみが格段に増すのが永田農法の特徴である。

 ただし、永田農法ができる農家は限られているため、今度は事業を大きくできない。永田農法に頼ると、ファストリの既存事業(この時すでに約4,000億円)と新規事業の規模が釣り合わなくなる、という点も撤退の要因になったと思われる。仮に、当時のユニクロの売上が1,000億円程度しかなく、農業ビジネスの目標が200億円ぐらいであったならば、別の道をたどったかもしれないね。

 農業参入は、事業規模を限定すれば決して不可能なビジネスではない。現に、飲食店の中には自ら農業をやっているところもあるし、特定の契約農家と直接取引をしているところもある。ただ、その規模を大きくしようとすると、ファストリのような壁にぶち当たるわけである。

(※)「小売店経営情報−GMS&食品スーパー 商品部門別粗利益率(2011年2月期)」(小売店経営情報 最新記事、2011年4月23日)
May 02, 2011

【第14回】プロセスを垂直統合する―ビジネスモデル変革のパターン

拍手してくれたら嬉しいな⇒
【パターンの概要と適用できるケース】
 前回の「プロセスを分解して特定プロセスに特化する」パターンの舞台は”垂直統合型”の業界であったが、今回の舞台は製造と販売のプレイヤーが異なり、さらに製販の間に多段階の流通構造が存在するような、”分散型”の業界である。

 ”分散型”の業界は、2つの理由で非効率を生みやすい。1つは、各プレイヤーが品切れを恐れて多めに在庫を持とうとするため、バリューチェーン全体で見ると在庫過多の状態になりやすいという点である。過剰在庫はコスト高を招くから、最終的にはそのコストが最終顧客向けの販売価格に転嫁される。

 もう1つは、製造と販売が離れているために、販売の現場が感じている顧客ニーズの変化をメーカーにフィードバックしにくいという点である。メーカーはニーズを的確に捉えることができず、的外れな新製品を作ってしまう可能性がある。失敗作によってメーカーが抱えたコストは、別の製品の価格に転嫁されるから、結局のところは最終顧客がコストを負担することになる。

 これら2つの非効率を解消し、顧客のニーズに合致したリーズナブルな価格の製品を、需要の変動に応じて柔軟に提供できるように、バリューチェーン全体を垂直統合するプレイヤーが登場するわけである。

【パターンが当てはまる事例】
《GAP、ユニクロ、しまむら》
 このパターンの代表例は、GAPやユニクロが採用しているSPAのビジネスモデルである。SPAとは、GAPのドナルド・フィッシャー会長が1986年に発表した「Speciality store retailer of Private label Apparel」の頭文字を組み合わせた造語である。

 従来のアパレルメーカーは、製品企画と仕上げの2次製造は自社でやるものの、1次製造は外注を使い、商社を使って製品を流し、最後は百貨店で販売するというスタイルであった。これに対してSPAでは、製造から小売まで全てのプロセスを自社で一貫して行う。

(14)プロセスを垂直統合する

 ユニクロはSPAのシステム構築と改善に並々ならぬエネルギーを注いでいる。2000年代に入ってから一時期ユニクロの業績が落ち込み、マスコミの間で「ユニクロはもうダメだ」という悲観論が広まっていた中でも、柳井社長はSPAシステムの改善をコツコツと続けていたという(※1)。

 ただし、これほどSPAシステムに熱を入れていても、ユニクロの既存店売上高は2010年8月から5ヶ月連続で前年同月比を割り込んでしまった。特に、冬場は暖冬の影響で主力の冬物製品が思うように売れなかった。暖冬であることが解れば、すぐに製品ラインナップを見直して生産量を変えることもできたのではないか?という感じもするけれども、それが思うように行かなかったところを見ると、柳井社長は「ユニクロのSPAシステムにはまだまだ改善の余地が大いにある」と考えているだろうね(ちなみに、1986年以来の寒さとなった1月になってようやく、ヒートテックなどの売れ行きが戻り、マイナスに歯止めがかかった(※2))。

 ちなみに、ユニクロは本当にバリューチェーンの全機能を自社の経営資源でまかなっているわけではなく、一部はアウトソーシングを活用している。製造工場は中国に委託しているし、物流は商社を活用している。日本国内の物流に関しては三菱商事と、中国の物流に関しては伊藤忠と提携している(※3)。しかし、アウトソーシング先に対するユニクロの影響力は強く、事実上”アパレル版の系列”のような状態になっている。

 例えば、中国の製造工場にはユニクロの社員が常駐して徹底した品質管理を行っている。また、編み・織布・染色・縫製などの各分野で経験30年以上という熟練した職人たちを中国に派遣し、中国人技術者の育成を図る「匠プロジェクト」なるものも存在する(※4)。

 商社の活用についても、通常のアパレルメーカーのように、商社に任せきりにすることはない。もともと、生地やボタン、糸などの素材の選定から調達の過程は、商社の独壇場である。商社は世界中に張り巡らせた情報網を通じて、最も安く最も適切な素材を海外の工場に集める。工場で生産された製品は、検品後に一旦商社の現地倉庫に納入され、その後国内の物流センターに運ばれる。

 ここまでの表面上のプロセスは、通常のアパレルメーカーと同様である。ところが、ユニクロが決定的に違うのは、各プロセスにおいて必ず同社の現地スタッフが決定権を持ち、彼らが最終的なゴーサインを出さないと動かないようになっている点だ。商社が持ってきた素材の採用の可否や、工場で製造した製品の品質管理、倉庫に納入された製品の搬出スケジュール・搬出量などを決定するのは、ユニクロの社員なのである(※5)。

 ユニクロとは全く異なる方法でSPAを実現しているのがしまむらである。実のところ、しまむらは製造機能を持っていないので、厳密に言えばSPAには該当しないかもしれない。しかし、取扱製品のほとんどはしまむらの専売品やPB製品であり、しまむらが完全買取を実施し、さらに価格決定権を握っている。

 また、同社のバイヤーは素材メーカーと直接商談し、同社が素材を押さえた上で、複数の製品メーカーに割り振って製品化を行う(決済は素材メーカーと製品メーカーが直接行う)。以上の点を踏まえると、しまむらは事実上メーカーと変わらない(※6)。

 逆にしまむらは、ユニクロが自社では持っていない物流機能を持っている。「自前でやるから宅配便の4分の1のコストでできるのだ」というのがしまむらの考え方のようである(※7)。

【考えられるCSF(Critical Success Factor:最重要成功要因)】
 事例から見えてくるCSFはこんな感じだろうか?

 ・需要変動に応じて生産量、在庫量を柔軟に変更できるSCM(サプライチェーンマネジメント)
 (ユニクロの強みそのもの。また、事例では触れていないが、垂直統合型産業の典型である自動車業界において、SCMに最も強いのは言うまでもなくトヨタ。)

 ・販売現場から製品企画・製造へ顧客ニーズを迅速にフィードバックする仕組み
 (2000年代初頭に、ユニクロはABC(オールベターチェンジ)改革と呼ばれる運動を進めた。これは、「本部主導型経営から店舗自立型経営への移行を目的とした全社的な意識変革の活動であり、顧客接点である店舗を重視する組織運営に注力したものである。返品・交換などで店頭から得られる顧客の声や、社外モニター、メールなどを通じて判明した顧客のニーズを、製品開発に反映させている(※8)。)

 ・各プロセスに関する高い専門知識・スキルを持った人材の育成
 (ユニクロもしまむらもそうだが、バリューチェーンの全てのプロセスを完全に自社で行っているわけではなく、部分的にアウトソーシングを活用している。ただ、委託先と対等に渡り合えるよう、委託先の企業の社員と同じくらいの専門知識・スキルを自社社員にも習得させている。しまむらが年4回〜6回のペースでバイヤーをヨーロッパに派遣し、ヨーロッパ各都市のトレンドを学習する機会を与えているのがその一例。)

 ・専門性パワーを活用したアウトソーシング先へのコントロール強化
 (委託先をあたかも自社社員であるかのようにコントロールするためには、単なる契約を超えたパワーが必要である。そのパワーの源泉となるのが、前述の人材育成を通じて獲得された専門性であろう。専門性パワーがあるからこそ、ユニクロの社員は中国の工場に常駐して品質管理ができるし、しまむらの社員は素材メーカーとアパレルメーカーの間に入って主導権を握ることができる。)

(※1)柳井正著『一勝九敗』

柳井 正
新潮社
2006-03
おすすめ平均:
■経営者の苦しみがリアルに伝わってきました
MBAでも裸一貫でもない普通の経営者の成功哲学がここにあります
カリスマ経営者も普通の人?!
posted by Amazon360

(※2)「ユニクロ、1月売上高10.7%増 6カ月ぶりにプラス」(SankeiBiz、2011年2月22日)
(※3)「伊藤忠「中国消費」深掘り――ユニクロ商品配送、物流に強み、650都市網羅。」(リテールハックJAPAN、2010年11月8日)
(※4)「「匠」から生まれる、ハイクオリティカジュアル」(ユニクロHPより)
(※5)「低価格高利益システム」(青山学院大学 田辺ゼミナールHPより)
(※6)「しまむらが磨きをかけるバーチャルSPA(製造小売)」(ファッション流通ブログde業界関心事、2010年6月28日)
(※7)「物流産業は何を売るのか」(ロジスティクスマネジメント研究所、2008年1月21日) 月泉博著『ユニクロvsしまむら』(日本経済新聞出版社、2009年)に同様の記述あり。

月泉 博
日本経済新聞出版社
2009-11-03
おすすめ平均:
読んだほうがいいよ。 すぐに読めると思うよ。経営書としても素晴らしい本。アパレル業界以外の人にもお薦めしたい。
posted by Amazon360

(※8)「快進撃支える新マスマーケティング戦略」(社団法人日本マーケティング協会発行 マーケティングホライズン 2000年7月号)

>>【シリーズ】ビジネスモデル変革のパターンの一覧へ
May 01, 2011

【第13回】プロセスを分解して特定プロセスに特化する―ビジネスモデル変革のパターン

拍手してくれたら嬉しいな⇒
【パターンの概要と適用できるケース】
 この連載の更新がまたしても1ヶ月ほど滞ってしまった・・・。何だかんだで残り8回なので、何とか6月中には終わらせるぞ!

 今回の「プロセスを分解して特定プロセスに特化する」と、次回の「プロセスを垂直統合する」はセットで捉えた方がよい。たいていの産業に当てはまることだが、ある特定の時期でスパッと切って産業の構図を描いてみると、

 (A)川上から川下までのバリューチェーンのほぼ全てを自社でまかなっているプレイヤーが多いか、
 (B)バリューチェーンを構成するそれぞれのプロセスに特化したプレイヤーが多いか、

のどちらかになる。例えば自動車業界は前者に、食品業界は後者に該当する。自動車業界ではメーカーを中心とした系列が形成されているのに対し、食品業界には農家、卸、仲卸、食品加工、小売といった多様なプレイヤーが存在する。

 (A)(B)いずれのケースであっても、時の流れとともに業界全体が非効率になることがある。(A)の場合、各プレイヤーがバリューチェーンの全てのプロセスに強くなるというのは稀であって、プレイヤーによって強いプロセスと弱いプロセスが分かれていく。各プレイヤーの弱いプロセスが業界内に散在することで、業界全体の非効率につながる。

 また、(B)の場合、プレイヤー間の連携が複雑になるにつれて、業界全体が非効率になる。食品業界の流通プロセスにいろんな問題があるのはよく知られた話だ(以前、「現在のフードシステムでは誰も得をしていないんじゃないか?」という記事で少し触れた)。

 業界全体の非効率が深刻になると、ビジネスモデルを変革するプレイヤーが登場する。(A)の業界では今回取り上げる「プロセスを分解して特定プロセスに特化する」プレイヤーが、(B)の業界では次回紹介する「プロセスを垂直統合する」プレイヤーが現れるのである。

【パターンが当てはまる事例】
《デル》
 「プロセスを分解して特定プロセスに特化する」というのは、いわゆる「アンバンドリング」、「デコンストラクション」のことであり、デルはその代表例。もう図を描くのも面倒になってきたので省略(汗)。きっとネット上で他の誰かが描いてくれているよ。

 1980年代、IBMなどの大手PCメーカーは、CPU、メモリ、OS、ハードウェア、ソフトウェアを全て自社開発し、部品製造から最終組立まで一貫して自社で行っていた。これに対してマイケル・デルは、1984年に「最終組立と販売のみに特化したプレイヤー」としてPC市場に参入した(創業時の会社名は「PC's Limited」、創業時のマイケル・デルは何と19歳)。デルは、取引先に組立が容易になるよう部品の改良を求めるとともに、様々な部品を自社工場内で素早く組立てるための特許を多数取得している。

《シティバンク[日本参入時]》(※1)
 シティバンクは日本でいろいろとやらかして金融庁から何度も制裁を食らっているので、あまりいい事例とは言えないかもしれないが、シティバンクが規制緩和後の日本市場に参入した際に採用したビジネスモデルも、一種のアンバンドリング(デコンストラクション)である。

 規制緩和前の日本の金融機関は、金融サービスや支店・営業所、営業担当者など、事業に必要な要素を全て自前で揃え、顧客に対して均一なサービスを提供していた。ところが、シティバンクは極力店舗を持たず、基本的には電話やパソコンで取引が完結できるようにした。さらに、提携先の都銀や郵貯のATMを活用することで、ATMに対する投資も抑制した。

 販売チャネルを電話やパソコンに限定したからといって、シティバンクが顧客サービスの質を落としたわけではない。むしろ、何かと要望の多い富裕層をターゲットに定め、懇切丁寧にサービスを提供していたのである。オペレータのトレーニングにはコストがかかるけれども、富裕層は利幅の大きい金融サービスを買ってくれるし、全体で見れば販売チャネルやシステムにそれほど投資をしていないので、十分すぎるほどにペイできるというわけだ。

《ヴァージン航空》(※1)
 航空業界も典型的な垂直統合型の業界である。第1回で紹介したサウスウェスト航空は、低価格路線に特化することでビジネスモデルを変革したが、サウスウェスト航空自体はバリューチェーンの全てのプロセスを自前で取り揃えているので、今回のパターンとは異なる(最近、サウスウェスト航空の保有機材に穴が開くというトラブルが頻発し、同社の安全神話がダメージを受けたことは記憶に新しい)。

 これに対してヴァージン航空は、機材はリースで調達し、整備なども自社要員は最小限にして、大半はアウトソーシングに頼っている。ヴァージン航空は「フライトサービス」というプロセスのみに特化して、残りは外部のリソースを活用したのである(ただ、最近では自社で機材を購入するようになってきているようだ(※2))。

【考えられるCSF(Critical Success Factor:最重要成功要因)】
 事例から見えてくるCSFはこんな感じだろうか?

 ・全方位戦略をとらずに、ターゲット顧客を絞る
 (3社に共通するのは、ターゲット顧客を絞っているという点である。垂直統合型のビジネスは、日本の金融機関や自動車メーカーを見れば解るように、基本的にあらゆる顧客層をターゲットにしている。

 一方、当初のデルは法人顧客のみを相手にしていた。法人顧客は個人顧客よりもPCの知識があるから、注文時に自力で仕様を決められるし、多少のトラブルなら独力で解決できる。すると、デルが販売やアフターサービスに割くリソースを節約することが可能になる。

 また、シティバンクは富裕層にターゲットを絞っている。それが明確に解るのは、シティバンクが口座維持料として月額2,000円を請求したからである。口座を持つだけで年間24,000円も支払わなければいけないとなると、少額の預金や引き出しのために口座を使っている一般人はシティバンクを相手にしなくなる。下世話な言い方をすれば、シティバンクは「たくさんお金を持っていない人は、うちに来てもムダですよ〜」という暗黙のメッセージを発しているのである。

 ヴァージン航空のターゲットはビジネス客と若い観光客である。ヴァージン航空はロンドン―ニューヨーク、ロンドン―東京といった大都市間の路線に限定し、ファーストクラスも撤廃した。その代わりに機内設備を充実させることで、ビジネスクラスの料金でファーストクラス並みのサービスが受けられるようになっている。ビジネス客は喜んでヴァージン航空のビジネスクラスに飛びついたというわけだ。

 この3社がターゲットを絞っているのはなぜか?確かに、マーケティングの定石として、ターゲットを絞ることで垂直統合型の他社と差別化を図っているという側面はある。ただそれよりも重要なのは、この3社は少ない経営資源で事業をスタートさせているから、ターゲット顧客を絞り込んでも十分に事業として成り立つという点の方が大きいように思える。逆に、既存の垂直統合型のプレイヤーは、たくさんの経営資源を抱えた高コスト体質になっているから、思い切ったターゲット顧客の絞り込みがしにくい。)

 ・自社が特化したプロセスにおける圧倒的な優位性の確保
 (デルが製品組立のリードタイム短縮に、シティバンクが富裕層へのきめ細かいサービスに、ヴァージン航空がファーストクラス並みのサービスに力を入れていることがその例。業界全体の非効率を突いて参入してくるプレイヤーは、自社の製品・サービスが既存のものよりもはるかに効率的で利便性が高く、コストパフォーマンスに優れていることを顧客に訴求する。)

 ・アウトソーシング先との良好な関係構築の能力・ノウハウの獲得
 (これは、自社の経営資源とアウトソーシング先の経営資源を効率的に結合させるという”技術的な能力”と、アウトソーシング先にもメリットがあるようにうまく利害調整を行うという”ソフトな能力”の両方を指している。デルは自社工場での組立が容易になるよう取引先に対して部品の技術的な改良を求めるが、同時にデルの要求通り改良してもらえれば、その取引先にまとまった量の発注ができるというメリットを示している。)

(※1)シティバンク、ヴァージン航空の事例は、元BCGの内田和成氏の書籍を参考にしている。

内田 和成
日本能率協会マネジメントセンター
1998-11
おすすめ平均:
読みやすい本
変化に備える心の準備、新しい一歩。
posted by Amazon360

(※2)「ヴァージン・アトランティック航空|Wikipedia」を参照。

>>【シリーズ】ビジネスモデル変革のパターンの一覧へ
April 05, 2011

【第12回】販売チャネルを絞り込む―ビジネスモデル変革のパターン

拍手してくれたら嬉しいな⇒
【パターンの概要と適用できるケース】
 前回の「販売チャネルを拡大する」とは逆のパターン。販売チャネルを自ら制限するのは売上を捨てるような行為にも見えるけれども、敢えて販売チャネルを限定することで、自社が顧客に訴求したい価値を的確に伝えられる場合もある。

 ブランド品や高級品はその典型例であり、限られたチャネル(多くは直営店など自前のチャネル)の中で、顧客との深いリレーション構築に努める。無理に販売チャネルを拡張すれば、自社製品の知識や顧客ニーズの理解が不十分な販売スタッフが増え、ブランドイメージを損なう結果になりかねない。ただ、ブランド品でなくても、販売チャネルの絞り込みが有効なケースもある。それを以下の事例で見ていきたいと思う。

【パターンが当てはまる事例】
《レクサス[トヨタ自動車]》
 トヨタがレクサスを従えて高級車市場に進出した時、既存のディーラー網とは全く異なるチャネルを一から構築したのは有名な話。レクサスの高い収益性に魅せられてレクサスを売りたがるディーラーは多かったが、トヨタはディーラーの選定にあたって極めて厳しい基準を適用した。レクサス自体が訴求する価値、そしてその価値に反応する顧客が期待する高水準の接客・アフターサービスを一貫して提供することをディーラーに要求したわけだ。その結果、アメリカでは1万件の応募に対し、レクサスの販売を認められたディーラーはわずかに130にとどまったという。

 さらにレクサスは、各ディーラーの社員と顧客に定期的にヒアリングや調査を行い、ディーラーのパフォーマンスをモニタリングしている。パフォーマンスが悪い場合には、トヨタの社員が直接ディーラーに出向いて、問題の解決に当たる。こういった一連のマネジメントがしっかりと仕組み化されているのはいかにもトヨタらしい。(※1)

 もともとアメリカのディーラーは接客やサービスに無頓着なことが多いようで、レクサスの「おもてなし」精神はアメリカ人に新鮮に映ったらしい。トヨタが出す車なら品質は間違いないし、その上サービスも優れているというのなら、もうこれは買わない手はないよね?ってな具合で、レクサスはアメリカでそれなりの成功を収めた(まぁ、日本におけるレクサスの実績については、成功だの失敗だのいろんな見方があるわけだが・・・日本だと、普通のディーラーでも丁寧なサービスをしてくれるから、レクサスのサービスが差別化要因にならなかったというのも一因)。

《キャロット[カゴメ]》
 今では当たり前に売られているニンジンジュースだが、カゴメが「キャロット」を上市する際には、非常に慎重な戦略をとった。顧客が飲み慣れていない飲料であり、単に店頭に並べただけではうまく売れないと判断したカゴメは、首都圏のスーパーで1店ずつエンド陳列(=陳列棚の両端であるゴンドラエンドで行われる陳列)をすることにした。そして、いかに「キャロット」が身体によいかを説明し、いかに飲みやすいかを試飲してもらって、その販売実績に基づいて1店ずつ配荷を増やしていったそうだ。

 陳列棚での露出率が売れ行きを左右すると言われる食品業界において、カゴメはコンビニエンスストアという重要なチャネルを捨て、さらにスーパーでもエンド陳列だけに販売を限定した。しかしそこには、情報発信ができないコンビニよりも、スーパーのエンド陳列の方が製品価値を顧客に正しく伝えられるというカゴメ流の考えがあった。(※2)

《1,000円カット[QBハウス]、てもみん[グローバルスポーツ医学研究所]》
 これも高級品ではないが、販売チャネルを限定している例である。いずれも、メインは駅構内の店舗であり、サービス業の店舗としては非常に限定的である(最近は商業施設への出店も増えているが)。JRの駅構内にある店舗は、キオスクなどを展開している「JR東日本リテールネット」というJR東日本の子会社によるフランチャイズ店である。

 もちろん、安価なサービスなので低コストで出店したいというQBハウスらの思惑と、駅構内の空スペースを有効活用したいというJR東日本リテールネットの思惑が一致したという側面はある。ただ、敢えて駅構内に(しかも改札”内”に)店舗を設けることによって、「通勤途中や空き時間にさくっとサービスを受けられる」という点が強調されたことの方が大きいと個人的には考える。改札内にあるのは若干不便であるものの、定期券の区間内であれば問題なく出入りできるから、来店を阻害する要因にはなっていないと思う。

《村田機械》
 これは失敗事例。村田機械がかつてファクシミリ「エフ・ジャン ムーラ」を市場に出した際、家電量販店での販売を避けて、百貨店のそごうにチャネルを絞ったことがある。ファクシミリが若者向けだったことと、当時のそごうがターゲット顧客として若者に狙いを定め始めていたこともあって、この異色のコラボレーションは実現した。

 ところが、結局はそごうが「メインターゲット=40代」という考えから抜け出すことができなかったために、両者とも思い通りの成果を上げることができなかった。村田機械の事例に限らず言えることであるけれども(前回紹介した「航空会社による自動車の販売」というアイデアもそうだ)、製品が持つイメージと販売チャネルが持つイメージが一致していないと、顧客に対して一貫した購買経験を提供することができない。販売チャネルを絞ると、チャネルのイメージがなおさら際立つから、顧客が味わう経験価値をブレなくデザインすることがより重要になる。(※2)

【考えられるCSF(Critical Success Factor:最重要成功要因)】
 事例から見えてくるCSFはこんな感じだろうか?

 ・顧客価値と矛盾しない適切な販売チャネルを選定する基準の確立
 ・販売チャネルにおいて、顧客価値を的確に訴求できる人材の育成
 ・各チャネルが想定通りの顧客価値を提供できているかどうかをモニタリングし、チャネルにフィードバックするする仕組みの構築
 (レクサスの事例より)
 ・収益性を厳格にシミュレーションした上で、新規出店の判断を行う意思決定メカニズム
 (言うまでもなく、どんなビジネスでも新規出店時に収益性を検証することは不可欠だ。ただ今回のように、最初から販売チャネルを限定する場合は、収益源を自ら制限することになるので、各チャネルの収益性検証の重要度が高まる。カゴメがエンド陳列での売れ行きを見ながら、食品スーパー別の配荷数を決定していったのが好例だと思う)

《参考文献》
(※1)スティーブン・ウィーラー、エバン・ハージュ著『チャネル競争戦略』(東洋経済新報社、2000年)
(※2)住谷宏著『利益重視のマーケティング・チャネル戦略』(同文館、2000年)

>>【シリーズ】ビジネスモデル変革のパターンの一覧へ
April 02, 2011

【第11回】販売チャネルを拡大する―ビジネスモデル変革のパターン

拍手してくれたら嬉しいな⇒
【パターンの概要と適用できるケース】
 販売チャネルを拡大するといっても、単純に新規店舗を増やすとか、営業組織を新設するといった話ではない。そうではなくて、表面上の機能や性質は同じ製品を、複数の異なるチャネルで販売してビジネスを拡大する、というのが今回のパターンである。

 この点で、以前紹介した「【第7回】製品を増殖させる」とも近いところがある。例えば日能研は、「中学入試の学習コンテンツ」という製品を、小学生向けには学習塾というチャネルで、大人向けにはゲームショップというチャネルで販売している(NintendoDSの『シカクいアタマをマルくする』シリーズなど)と言える。

 敢えて「製品を増殖させる」パターンと今回のパターンの違いを挙げるとすれば、前者がどちらかというと製品のコピーありきのプロダクトアウト的な発想であるのに対し、後者は同一の製品に複数の異なるタイプの顧客が反応することを発見し、セグメント別に多様な販売チャネルを用意するというマーケットインの発想が強い、という点である。

【パターンが当てはまる事例】
《コカ・コーラ》
 コカ・コーラを購入できる場所は非常にたくさんある。スーパー、自動販売機、コンビニエンスストアはもちろんのこと、マクドナルドやドミノ・ピザのドリンクメニューにもコカ・コーラは入っているし、映画館や野球場といった娯楽施設でも販売されている。そういう意味では、マクドナルドや映画館などもコカ・コーラの重要な販売チャネルである。

 どこで買ってもコーラがコーラであることに違いはないのだけれども、販売チャネルによってコーラが顧客に訴求する”価値”は微妙に変わってくる。思いつくままに書いてみると、

 ・スーパー(2Lペットボトル)=自宅ですぐに飲めるジュースのストックを用意しておく。
 ・自動販売機=夏場に道を歩いていて暑さに耐えられなくなった時に、すぐに爽快感を味わえる。
 ・コンビニ(500mlペットボトル)=仕事帰りに買って、家で飲みながら1日の疲れを癒す。
 ・飲食チェーン=脂っこいものを食べた後の口の中をすっきりさせる。
 ・映画館=大画面のスクリーンをリラックスした気持ちで観られるようにする。
 ・野球場=贔屓のチームをより熱心に応援するために、アドレナリンを放出させる(本当にコーラにそんな効果があるのかどうかは知らないけどね・・・)。

 こんな感じかな。コカ・コーラが単にビン入りのコーラだけを小売店で販売していたら、世界的な企業にはならなかっただろう。コーラが日常生活のありとあらゆる場面で飲まれることを認識し、それぞれのケースにマッチした販売チャネルを構築していることが、同社の成長を支える要因の1つであるように思える(※1)。

 2008年、コカ・コーラは1年がかりで大型のキャンペーンに取り組んだ。同社は大規模なモニター調査から得られた膨大な購買データを分析して、購買行動を「日々の買い足し」、「外食時の食事やスナック」、「急ぎの買い物」、「今晩の食事」、「まとめ買い」、「スペシャルオケージョン」、「ノングロッサリー」という7つに分類した。そして、各グループの購買者特性に合わせて、販売チャネルや販売施策を改善している。この一連の取り組みは「SBL」(Shopper Behavioral Landscape:ショッパー・ビヘイビアル・ランドスケープ)と呼ばれる。

 SBLの枠組みから明らかになったのは、「外食時の食事やスナック」、「今晩の食事」という食事関連のカテゴリで全体の4割を占めていることだ。「外食時の食事やスナック」が多いのは、先ほども述べたようにマクドナルドなどでコーラが販売されていることからも理解できるが、「今晩の食事」というのは、具体的には「主婦がスーパーでコーラを買って、家族に夕食と一緒にコーラを出す」といったケースを指している。

 こうした”家庭内の消費”が重要であることを発見したコカ・コーラは、スーパーで主婦をターゲットとした施策を展開した。2008年2月は「子供の受験」をテーマに掲げ、「あったかメニューとコカ・コーラの刺激で受験生を応援」というメッセージを込めて、1.5ℓペットボトルのコカ・コーラに日清食品の「チキンラーメン」の小型版を添付。同年5月は「スタミナ料理とコカ・コーラの刺激で5月病を吹き飛ばせ」として、キッコーマンの焼肉のたれ「わが家は焼肉屋さん」を付けたそうだ。スーパーという販売チャネルを通じて提供されるコカ・コーラが、「誰にとって、どのような価値を持つのか?」を深く理解しているからこそ、こういう面白い企画ができるんだな。(※2)

《航空会社が自動車を販売??》
 これは今回のパターンにあてはまる事例というよりも、個人的に「はぁ?」と思った話(もう、ずいぶん前のことだけど・・・)。航空会社は本業のフライトサービスに加えて、マイレージ会員向けに物販サービスをやっているが、あるコンサル会社の人が「マイレージ会員は通常の顧客に加えて高収入で高級品を消費する傾向があるから、単価が大きい住宅や自動車も売ったらいいのではないか?」と言っていた(直感で言っていたのではなく、それなりの分析根拠を持って言っていた)。

 そりゃあんた、住宅や自動車は単価が高いし市場規模も大きいから、既存の物販で提供しているラグジュアリーよに比べればはるかに魅力的な市場なのかもしれないけれど、航空会社が自動車を販売しても、顧客の目には不可解にしか映らないんじゃない??

 顧客が通常のディーラーからではなく、航空会社から自動車を購入するには、顧客側にそれなりの理由が必要だ。別の言い方をすると、メーカー系の販社では味わえない購買体験を、航空会社が提供できなければいけない。しかも、その購買体験は、航空会社のブランドイメージとリンクさせることが肝要である。

 私はその辺りがどうもピンとこなかったのだけれども、仮に航空会社が新しい購買経験を提供できるとしても、その購買経験に共感する一定の顧客層が存在することを示さなければならないし、さらにその顧客層は自動車メーカーの既存ターゲットと重複しない新規のセグメントであることも求められる(そうでなければ、メーカーは販社から反発を食らうし、販社と航空会社でカニバリゼーションを起こすだけ)。その辺りの検討をすっ飛ばして、市場規模と会員属性の数的分析だけからそういう結論を導いちゃいけないよね・・・。

【考えられるCSF(Critical Success Factor:最重要成功要因)】
 事例から見えてくるCSFはこんな感じだろうか?

 ・単一の製品が持つ複数の顧客価値を再発見する洞察力
 ・それぞれの顧客価値に反応するセグメントの特定
 ・各セグメントに的確にリーチできる販売チャネルの構築
 ・顧客価値と整合性の取れたチャネルのトータルデザイン(店舗の内装、HPのデザイン、スタッフによる接客、顧客が感じる購買体験など)


《2012年5月6日追記》
(※1)井上達彦氏『模倣の経営学』に興味深い事例があったので紹介。最初にコーヒーを清涼飲料として缶コーヒー化したのはUCCで、発売から20年経った1989年当時でも、消費者10人のうち8人から9人はUCCコーヒーのブランドを好んでいたという。

 だが、売れ行きの面では、当時から日本コカ・コーラのジョージアが勝っていた。それは、日本コカ・コーラが全国に自動販売機網を整備していたからだ。自動販売機の台数を比べると、コカ・コーラの70万台に対して、UCCは16万台(1989年当時)にすぎなかった。その製品が提供する顧客価値を、顧客はいつ、どの場所で最も欲しがるか?を探求した差がこの数字に表れているのではないだろうか?


模倣の経営学―偉大なる会社はマネから生まれる―模倣の経営学―偉大なる会社はマネから生まれる―
井上達彦

日経BP社 2012-03-08

Amazonで詳しく見るby G-Tools

(※2)SBLについては以下のサイトを参考にした。
 各地販売士協会だより 新企画!ワークショップ形式が大好評|社団法人日本販売士協会
 日本コカ・コーラ 「購買行動」を7つに分類、販促策の成功事例が相次ぐ|IT Pro

>>【シリーズ】ビジネスモデル変革のパターンの一覧へ
March 18, 2011

【第10回】製品を売るのではなく貸す―ビジネスモデル変革のパターン

拍手してくれたら嬉しいな⇒
【パターンの概要と適用できるケース】
 BtoCの世界では自動車、CD、DVD、ウェディングドレスなどのレンタルビジネスがずっと前から存在するし、BtoBにおいても「所有からサービスへ」、「資産を持たない経営」といったキャッチフレーズとともに、リースやSaaSなどのビジネスが急速に拡大している。個人にしても企業にしても、身の回りにモノがあふれてくると、それらの管理が非常に煩雑になる。そこで、使いたい時だけ使えればいいモノに関しては、「買う」のではなく「借りる」という判断を下すようになってきている。

【パターンが当てはまる事例】
 この変革パターンに該当する事例は前述のように日常的によく知られたものが多く、ここで改めて紹介するのもナンセンスなので、今回の記事はレイチェル・ボッツマン著『シェア <共有>からビジネスを生みだす新戦略』を基に、ちょっと違う視点から書いてみたいと思う。

レイチェル・ボッツマン
日本放送出版協会
2010-12-16
おすすめ平均:
SNSが「共有」という古くて新しい活動をつむぎだしている
新しい経済社会の出現を実感させてくれる
進化した”お裾分け”
posted by Amazon360

 著者は20世紀が過剰な消費社会であったことを述べた上で、我々は必要以上にモノを所有しすぎていると指摘する。そんな中、極めてシンプルなニーズを持った人たちが登場する。「余っているモノを他人に貸したい」というニーズである。一昔前であれば、借り手を見つけようとしても、知人のつてなどを使うしか方法がなかった。しかし、インターネットによって、貸し手と借り手を迅速にマッチングすることが可能になっている。

 こうしたシェアビジネスは、最初は「余っているモノを貸したい」という個人的なニーズが発端ではあったが、社会全体の価値観が大量生産・大量消費に対する反省、環境保護や地球資源の節約を重視する方向に傾くにつれて、急速に拡大している。同書で紹介されているシェアビジネスの一部を以下にまとめておこう。

《エアビーアンドビー》
 「余っている部屋(または部屋の一部)を特定の期間だけ貸したい」という貸し手が集まっている。借り手となるのは、観光シーズンでホテルに泊まれなかった人や、ホテルよりも安い料金での宿泊を望む人が中心。

《ビクシー(BIXI:バイクとタクシーを組み合わせた造語)》
 モントリオールの自転車シェアサービス。地下鉄の近くにセルフサービスステーションを配置し、住民が自宅と駅の往復に自転車を使えるようにしてある。スマートフォーンやインターネットを使えば、自転車の空き具合や乗降ステーションの場所をリアルタイムで確認することも可能。

《テックショップ》
 カリフォルニアにある「作業場」。製品開発をする人や趣味でモノ作りをする人、アーティスト、カーマニア、エンジニアたちに必要な場所と道具や材料を貸し、専門家のサポートも提供する。創業者のジム・ニュートンは、モノを作りたくても道具や設備を買う余裕がなかったり、それをしまう場所がない人が多いことに着目してこのビジネスを始めたという。

《ヤードシェア》
 農作物を育てたくても土地がない人と、農地は持っているが休耕地となって困っている人とをマッチングする。地主からは「庭を持っているのですが、ただの荒地になりつつあります。野菜やその他何か育てたい方はいませんか。できたものを分けていただければそれで結構です」といったメッセージがサイトにアップされる。

 シェアビジネスは、インターネットを活用した新しいビジネスのように見えるけれども、その原動力となっている原則は非常にアナログなものである。一昔前であれば、余ったモノを近所の人におすそ分けしたり、1つのモノをみんなで共有したりするということは、コミュニティの中で当たり前に行われていた。実際、同書では、シェアビジネスに対して両親世代は当惑した表情を見せるが、祖父世代は特に抵抗を示さない、といった話も出てくる。昔のコミュニティを支えていた共有意識が、単に場所を変えて復活しただけなのである。

 私が知りうる限りの情報で話を一般化するのは乱暴かもしれないが、アメリカでは「コミュニティの復興」を目的として新しいビジネスが立ち上がるケースが少なくないように思える。すでに何十年も前から、アメリカはコミュニティの分裂という問題を抱えていた。70年代のメディアは、国家から家族に至るまで大小様々なコミュニティが分断されているアメリカの現状を憂い、次代のリーダーにコミュニティの回復を強く期待していた。

 よく知られているように、スターバックスのビジネスモデルは、ハワード・シュルツがイタリアを訪れた際に、現地のカフェが地場のコミュニティの役割を担っていることに着想を得たものである。また、アメリカはNPOが多いことでも有名であり、政府や企業の手が十分に行き届かないコミュニティの領域をNPOがカバーするという構図ができ上がっている。

 NPO=非営利団体は、決して利益の追求を放棄しているわけではない。エイズ患者の救済、薬物中毒者の社会復帰支援、離婚を経験した母子家庭のサポートなどといった社会的な使命を第一とするのはもちろんだが、同時に組織の存続要件として利益を確保することは、むしろ合理的であると見られている。

 スターバックスやNPOがリアルの世界で人と人とをつないできたのに加え、最近ではfacebookに代表されるように、インターネットがバーチャルの世界に続々とコミュニティを誕生させている。しかも、そのスピードは爆発的だ。コミュニティ復興の道をずっと模索してきたアメリカが、インターネットという最強の武器を得て、積年の課題を一気に解決しようとしているようにも感じる。

 翻って日本に目を向けてみると、本書で紹介されているようなビジネスはそれほど多くない。ただ、アメリカとは別の意味でコミュニティの危機を抱えているのは事実だろう。子育てに対する不安から子どもを生まないことを選択する夫婦が増加し、過疎化の影響で住民サービスを十分に受けられない地域も出てきている。

 これらのコミュニティの危機は、「ちょっとした需給バランスの崩れ」によって引き起こされている。子どもを生まない夫婦は、もしかしたら、子育てに疲れた時にちょっと家事を手伝ってくれる人がいたり、保育園への送り迎えをしなくても子どもの面倒を見てくれる人がいたりすれば、子どもを生んでもいいと考えるかもしれない。こうしたニーズはどれも突発的で些細なことであるから、自治体や企業はどうしても軽視しがちだ。とはいえ、些細なことでも積み重なっていけば、やがてはコミュニティの崩壊という大きな問題になってしまう。

 先日の東日本大震災の際には、海外メディアがこぞって日本の協調性、譲り合いの精神を賞賛した。もしこの精神が一過性のものではなく本物であるならば、日本にも今後こうしたシェアビジネスが根づいていくのかもしれない(だいぶ話が脱線しちゃいました・・・)。

【考えられるCSF(Critical Success Factor:最重要成功要因)】
 同書では、シェアビジネスを成り立たせるための条件として、(1)クリティカル・マスの存在、(2)余剰キャパシティの活用、(3)共有意識の尊重、(4)他者との信頼という4つを指摘している(「クリティカル・マスの存在」とは、例えば前述の《ビクシー》であれば、提供される自転車やセルフサービスステーションの数が一定規模を超えないと、借り手にとっては魅力的なサービスに映らないことを指す)。ただ、この4つはあくまでもビジネス”そのもの”を成立させる要件である。ビジネスに参加するプレイヤー、とりわけ、貸し手と借り手の仲介をするプレイヤーにとっての成功要件を列挙してみるとこんな感じだろうか?

 ・リアルタイムで貸し手と借り手をきめ細かくマッチングする仕組みの構築
 (例えば一般的な賃貸マンションの仲介ビジネスでは、契約時期・年数に従って部屋の空き状況がある程度読めるのに対し、この手のシェアビジネスでは、貸し手のニーズも借り手のニーズも突発的に発生する。両者のニーズを素早く組み合わせる仕組み[たいていはネット]が重要)

 ・借り手も貸し手も信頼に足る人物であることを証明する仕組みの構築
 (「(4)他者との信頼」を充足するもの。ヤフーオークションで入札者、落札者を互いに評価する仕組みが市場の信頼性を高めるのに役立っている点をイメージすると解りやすい)

>>【シリーズ】ビジネスモデル変革のパターンの一覧へ
March 09, 2011

【第9回】製品を分解する―ビジネスモデル変革のパターン

拍手してくれたら嬉しいな⇒
【パターンの概要と適用できるケース】
 前回の「製品をまとめてパッケージ化する」が思いのほか長くなっちゃったんで(汗)、今回は手短にいくよ。前回のパターンは、多種多様な製品をバラバラに販売することが当たり前になっている業界でよく見られるものだったが、今回は逆に、パッケージ販売が当たり前になっている業界でしばしば起こるパターンである。

【パターンが当てはまる事例】

(9)製品を分解する

 図にするほどの内容でもないんだけど、アップル(iTunes+iPod)とはなまるうどんのビジネスモデルを描いてみた。どちらも、「自分好みのパッケージを作成する楽しみ」を顧客に提供している。

 まぁ、私なんかは結構古いタイプの人間で、アルバムはアルバムとして曲のつながりや全体を貫くイメージを楽しみたいという性格だし、ジャケットや歌詞カードのデザイン・感触も作品の一部だという意識が強いので、iTunesとかはイマイチ魅力を感じないんだけどね。一応iPodも持っているけど、曲を聞くためのものとしてはほとんど使っていないし。これも、人による好みの違いなんだろうな。

 あと、このパターンに該当する事例としては、最近の葬儀業界における価格明細の開示が挙げられるかもしれない。葬式は突発的に発生する出来事であり、顧客があれこれと選んでいる暇がないという理由で、パッケージ化された製品が一般的だ。しかし、生きているうちに自分の葬式を好きなようにデザインしたいという人も増えていることから、パッケージの分解が見られる(単純に、「葬儀の価格が不透明だ」という顧客側の声に対応している、という側面もあるが)。

 パッケージ売りが当たり前になっている業界の1つに、マンションがあると思う。マンションは、部屋の間取りやタイプ(洋室・和室)、フローリングや壁の色・種類などがセットになったパッケージ製品であると言える。私の家にも新築マンションの広告が頻繁にポスティングされているけれども、マンションをカスタマイズできるという物件は見たことがない。

 実は、1990年代の後半には、カスタマイズ可能な物件が販売されていた時期があったみたいだ。ところが、不動産市場の先行きが不透明になったことも影響して、本来ならば建築確認取得時から販売をスタートできるところを、市況を見ながら販売を遅らせたり、販売スタートを竣工後に行ったりするケースが増加したようである。販売期間が短くなれば、マンションをカスタマイズする余地はどうしても少なくなり、顧客は出来合いの部屋をそのまま購入するしかなくなる。
http://allabout.co.jp/r_house/gc/29987/

 ただ、「自分が長く住む空間は自分好みにアレンジしたい」という顧客は決して少なくないはずだ。私は(前回の記事でもちょっと書いたが、)ファッションに関しては非常に面倒くさがりなのだが、家に関してはまず書斎がないとダメだし、浴槽やキッチンも一般的なサイズや配置では非常に使いづらいので、もし家を買うならとことんオリジナルにデザインしてやろうと思っているよ。

 ディベロッパーがパッケージ化されたマンションにこだわるのは、収益モデル上の理由が大きいのかもしれないけれど、この変革パターンにチャレンジする企業が出てきてくれないかなぁ(ちなみに、先ほどのリンク先では、実際にセミカスタマイズが可能なマンションが紹介されている)。

【考えられるCSF(Critical Success Factor:最重要成功要因)】
 事例から見えてくるCSFはこんな感じだろうか?

 ・多数の選択肢から選ぶことを楽しいと感じる顧客セグメントの抽出
 (このパターンを成り立たせる大前提)

 ・多数の選択肢を素早く検索できる仕組み
 (たくさんの選択肢を比較検討したいという顧客にとって、この仕組みは重要である。今回のパターンには直接該当しないが、「顧客の購買意思決定を助ける」ことをコンセプトとしているアマゾンは、検索結果が返ってくるまでの時間がわずか0.01秒変わるだけで、購入率や購買単価が大きく変動することを理解している。だから、アマゾンは検索エンジンのレスポンス改善に余念がない)

 ・パッケージを構成する各種製品の新陳代謝
 (葬儀やマンションのように購入回数が少ない製品は別として、購入頻度が高い製品の場合は、顧客の興味や好奇心を刺激し続けるために、パーツとなる各種製品を常に入れ替えていく必要がある。

 事例では言及しなかったが、iPhoneのアプリストアは、言ってみれば自分が好きなアプリを自由にインストールして、自分好みのiPhoneに仕立てる仕組みである。しかし、iPhoneユーザに話を聞くと、たまに「アプリストアのランキングの上位がほとんど変わらないのでつまらない」という人に出くわす。本当にアプリが好きな人にとっては、常に新しいアプリがないと満足できないようだ[もちろん、アプリ利用者の中には、「アプリがたくさんありすぎて、何を使ったらいいのか解らない」という人がいるのも事実]。)

>>【シリーズ】ビジネスモデル変革のパターンの一覧へ
March 08, 2011

【第8回】製品をまとめてパッケージ化する―ビジネスモデル変革のパターン

拍手してくれたら嬉しいな⇒
【パターンの概要と適用できるケース】
 しばらくこの連載が滞りました…。今回の「製品をまとめてパッケージ化する」パターンと、次回の「製品を分解する」パターンは、実は密接に関連している。というのも、多種多様な製品をバラバラに販売することが当たり前になっている業界では、前者のパターンで切り込んでくる新規プレイヤーが現れるし、逆にパッケージ販売が当たり前になっている業界では、後者のパターンで競争のルールを変えてしまうプレイヤーが現れるものである。

 また別の見方をすると、人間というのは、ある時は製品の種類が多すぎて選ぶのが面倒だと思う一方で、ある時は幅広い選択肢の中から選ぶことを楽しいと思う、非常に気まぐれな動物である。そして、選択を面倒に感じる場面と楽しいと感じる場面は、人によって全く異なる。だから、いろんな業界で両パターンは共存しうると考えられる(もちろん、時代によってどちらかのパターンが主導権を握ることが多いのだが…)。

【パターンが当てはまる事例】

(8)製品をまとめてパッケージ化する


《旅行代理店》
 旅行代理店のパッケージプランは解りやすい例である。旅行代理店は、交通機関や宿泊施設から切符と空室を大量に仕入れ、周辺の観光施設の入場券やお土産屋めぐりをセットにしてパッケージ化する(旅行代理店が観光客をお土産屋に連れて行くと、キックバックのマージンが得られる)。そして、このパッケージを販売することで成り立っているビジネスモデルである。

 こうしたパッケージプランがターゲットとしているのは、社員旅行や慰安旅行に参加する団体旅行客、さらには自分ひとりで旅行プランを立てるのが苦手な個人旅行客である。しかし、最近は福利厚生を縮小する動きの中で社員旅行も減ってしまい、旅行代理店は大きなダメージを被っている。また、インターネットで個人が代理店を介さずに簡単に切符購入や宿泊予約ができるようになったことも、大手旅行代理店の業績を押し下げる要因となっている(業界第1位のJTBと第2位の近畿ツーリストは、10年度3月期の連結決算でそれぞれ145億円、84億円の赤字[最終損益ベース]を出している)。

 社員旅行のニーズを取り戻すことは難しいかもしれないけれど、個人顧客に目を向けると、今でも旅行プランを自分で考えるのが億劫だという人はそれなりに存在するはずだ。聞くところによると、添乗員付きのパッケージプランを利用する個人顧客の大半は中高年であるらしい。

 逆に、若い人たちは添乗員や他の旅行客と一緒に行動するのを嫌がるので、切符と宿泊施設だけがセットになった添乗員なしの割安なパッケージプランを利用することが多いわけだが、若い人の中にも自分で行きたい所や食べたい所を決められる人と、そういうのを面倒に思う人がいるに違いない。

 後者に対しては、切符と宿泊施設だけを提供するのではなく、例えば旅行代理店が観光施設やレストランをネットワーク化して、ネットワーク内で自由に使える”3万円クーポン”みたいなのを発行することで、パッケージの単価を上げるというのも一つの手かもしれない(ビジネスモデルとしては、観光客がレストランでクーポンの中から5,000円分を利用すると、そのデータがレストランから旅行代理店に送信され、旅行代理店は5,000円から一定の手数料を抜いた金額をレストランに支払う、という仕組みになる)。

《大手SIer》
 90年代にIBMがルイス・ガースナーの下で業績回復を成し遂げたのは、まさにこの変革パターンを適用したからであると言えそうだ。当時のIT業界では、技術の進歩に伴って一部のハードウェアやソフトウェアに特化する専門企業が大量に出現しており、顧客企業はニーズに応じて好きな製品を組み合わせて利用すればいいようになると考えられていた。

 これに対してIBMは、ありとあらゆるハード、ソフトを自社で取り揃えていたため、企業規模が大きすぎるという批判を受けていた。事実、IBMを再建するには、ハード、ソフトなどの各部門を分社化するしかないという見解が投資家の間には広がっていた。

 ところが、ガースナーはIBMを分社化するどころか、「顧客企業に合ったシステムをIBMが一貫して構築するサービスを展開する」という、全く違う戦略を打ち出した。そして、顧客企業が望むのであれば、自社製品ではなく他社製品を導入することも厭わないと宣言したのである。今でこそ多くのITベンダーがこうしたインテグレーションサービスを提供しているが、当時のIBMが置かれていた状況を考えれば、この戦略が非難轟々だったのは明白である。

 ガースナーに先見の明があったということもあるけれども、この戦略はガースナー自身の経験にも根ざしているように思える。というのも、アメリカン・エクスプレス時代にIBMのシステムを利用していたガースナーは、IBMが自社のニーズを深く理解して、一貫したサービスを提供してくれることを強く期待していたからだ(実際は、IBMが傲慢で対応が遅いことにかなり苛立っていたようだ)。

 たとえ市場に高度な専門製品があふれることになっても、顧客企業が自ら製品を選定できるようになることとは別の話である。むしろ、製品が多様化すればするほど、顧客企業はそれらの製品をうまく統合してくれるサービスをより一層求めるようになる、というのがガースナーの考えであった。

 ただ、どのベンダーの製品でもOKというのではIBMの利益を圧迫してしまうし、他ベンダーの製品同士を機能面でうまく連携させることができなければ、そもそもシステムとして破綻してしまう。そこでガースナーは、IBMが特に強みとしてたミドルウェアに着目し、IBMのミドルウェアを介して他ベンダーのハードやソフトをネットワーク化するというサービスを展開した。IBMは、ミドルウェアを核として顧客企業と中長期的にビジネスを継続する仕組みを確立して、業績と信頼を回復させたのである。

ルイス・V・ガースナー
日本経済新聞社
2002-12-02
おすすめ平均:
リーダー一般、またはITビジネス関係者に
すごい
IBMの再建を託された男
posted by Amazon360

 他にも「製品をまとめてパッケージ化」している事例はたくさんある。例えば、家電メーカーや家電量販店は、一人暮らしに必要な家電一式をまとめて「新生活スタートパッケージ」を販売している。また、ニッチな市場ではあるけれども、特定分野の新聞記事をまとめてクリッピングするというサービスもある。さらに、最近私の手元に届いた広告の中には、「毎月、重要なビジネス書を何冊かピックアップして、その要約を配信する」というサービスもあった(これは、忙しくて1ヶ月に何冊も本を読む時間がない経営者などをターゲットにしていたようだ。残念ながら、私はターゲット外でした(笑))。

 あと、私は洋服を選ぶのが非常に面倒くさい性格(というか、ショップで店員といちいち話をするのが苦痛)なので、こういうサービスは非常に魅力的なんだな。
 http://www.lookup-fun.jp/

【考えられるCSF(Critical Success Factor:最重要成功要因)】
 事例から見えてくるCSFはこんな感じだろうか?

 ・選択を面倒だと感じる顧客セグメントの特定
 (このパターンを成り立たせる大前提)

 ・パッケージの中核となるコア製品
 (IBMの事例で言うところのミドルウェア。複数の周辺製品をつなぐコア製品を押さえていることが重要。そのコア製品を自社で製造可能であれば、より有利)

 ・パッケージを貫くコア・コンセプト
 (当たり前と言えば当たり前だが、「なぜそれらの製品を束ねる必然性があるのか?」という問いに答えられなければ、顧客に対する訴求力を持たない)

 ・顧客のニーズに合わせて製品を組み合わせる提案力
 ・(自社製品、他社製品を問わない)幅広い製品知識
 (選択が面倒だと感じる顧客は、「自分のニーズは解っているが、どの製品が一番ニーズを充足してくれるのかが解らない」か、「そもそも自分が何を欲しているのかが解らない」顧客である。こうした顧客と接する営業・サービス担当者には、強い提案力と深い製品知識が必要)

>>【シリーズ】ビジネスモデル変革のパターンの一覧へ
February 15, 2011

【第7回】製品を増殖させる―ビジネスモデル変革のパターン

拍手してくれたら嬉しいな⇒
【パターンの概要と適用できるケース】
 過去6回は「顧客」に焦点を当てたビジネスモデル変革を取り上げてきたが、今日からは「製品」に焦点を当てたパターンを数回に渡って書いていきたいと思う。今回は、同じ素材をうまく活用して、類似の製品を多数生み出すパターンである。

【パターンが当てはまる事例】

(7)製品を増殖させる

《出版社》
 一番解りやすいのは、出版社の小説やマンガがドラマ化・映画化されるケースである。小説やマンガという素材から、ドラマ、アニメ、映画、DVDといった具合に、様々なコンテンツが派生する。そういえば、昨年最も売れた書籍である『もしドラ』も、今年はアニメ化、映画化されることが決まっているね。

posted by Amazon360

 また、3月に4年ぶりの新作が放送されるHTB(北海道テレビ)の「水曜どうでしょう」も、10年以上前の番組が未だにDVDとなって販売されているし(それでもコンスタントに10万枚ほど売れるという、とんでもないお化けコンテンツ)、番組の中に登場する個性的なキャラクターは、フィギュアなどのグッズにもなっている(「ディレクターの顔をした犬のぬいぐるみ」なんて作っているのは、おそらくこの番組だけだ)。

 このケースでしばしば起こるのが、「原作とドラマ・映画がかけ離れてしまっている」という問題である。好きな作家の小説が映画化されるので期待して映画館に足を運んだら、原作とあまりに違う内容になっていて失望したという経験がある人は少なくないだろう。

 途中で展開が解らなくなったら読み返せばいい小説とは違い、映像が次から次へと流れていってしまうドラマや映画は、シーンによってはどうしても展開を簡素化しなければならない。また、文章ならば読者の空想力に任せて自由に表現できるけれども、ドラマや映画の場合は、技術的に映像化が困難ならば別の表現で補うしかない。さらに、小説の作り手にその人なりの意図があるように、映像の作り手にもその人なりの意図がある。だから、両者が異なる作品になるのは、ある意味で必然である。

 よって、そもそも見る側の姿勢として、原作とドラマ・映画がほとんど同じになるのを想定すること自体が無茶な話なのかもしれない。こうした思い込みを顧客に抱かせないように、原作の売りとドラマ・映画の売りが異なるものであること、そしてその差異がどのようなものであるかということを、(物語の展開が先読みできない程度に)うまくプロモーションする術が供給側には必要なのだろう。

《日能研》
 こうした「製品増殖型」のビジネスモデルは、出版社やテレビ局の専売特許ではない。「シカクいアタマをマルくする」のキャッチコピーで知られる学習塾の日能研も、この変革パターンに該当する。少子化の影響により、大手の学習塾が統合・合併を繰り返している中で、「中学受験」だけに特化している日能研がそれなりにうまくやっているのは、この変革パターンを使っているからだと思う。

 学習塾が自社のコンテンツを活用して参考書などの書籍を販売するというのは、どこの学習塾でもやっている。日能研はさらに一歩進んで、IEインスティテュートというゲームソフト制作会社にコンテンツを提供し、NintendoDSのソフトも何本か出している。日能研はIEインスティテュートを通じて、ある程度のライセンス収入を得ている(販売数に応じた変動制になっているのか、最初の使用許諾の段階でまとまった金額をもらう契約になっているのかは定かではないが…)。

アイイーインスティテュート
2006-09-28
posted by Amazon360

 さらに、今年の正月にはフジテレビの特番である「平成教育委員会」のコンテンツ監修も手がけており、ここからもライセンス収入があったと考えられる(ただし、日能研にとっては自社の名前がゴールデンタイムに使われることで結構な宣伝効果があるから、ライセンス料は多少値引かれている可能性はある)。

 大人のちょっとした学習意欲を刺激するには、小難しい専門用語や公式を使わずに、頭を少しひねれば解けるレベルの問題がちょうど適している。大学受験に強い河合塾や東進ゼミナールなどの予備校だと、こうした問題は出しにくい。ごくまれに、東京大学などの数学の入試問題で、高校の学習内容を一切使わずに解ける”超”エレガントな問題があるけれども、そんな問題に食いつくのは一部の数学好きぐらいである(それこそ、数学が好きなビートたけし本人とか)。

 そういう意味で、「中学受験の問題」というのは、大多数の大人をターゲットとするのにうってつけであり、日能研が敢えて中学受験だけに絞って事業を展開している理由も合点がいくように思える。

《SHOICHI》
 出版社や日能研のビジネスモデルは、「コンテンツ」という複製が容易な製品だからこそできるのではないか?という疑問が聞こえてきそうなので、有形の製品でこの変革パターンを使っている事例を1つ取り上げたいと思う。

 流行の影響を受けやすいアパレルは、需要の読みを間違えるとたちまち大量の在庫を抱えてしまう。百貨店などでは、売れ残った製品を倉庫で保管しておき、初売りやプロ野球の優勝セールの時に店頭に並ぶ福袋に詰め込んで販売する、という方法をとっていることがある。

 まぁ、形を変えた在庫処分になるわけだが、単なる洋服から福袋を生み出している点では、製品を増殖させていると言えなくもない。だが、大阪にある有限会社SHOICHIという企業は、もっと面白いビジネスモデルを採用している。

 同社は、アパレルメーカーから売れ残った大量の在庫を買い取り、在庫品を組み合わせて新しいコーディネートを発案する。コーディネートした在庫品を人気モデルに着せて撮影し、インターネットで販売するという仕組みである。コートに使う秋冬用のベルトも、夏用のワンピースと組み合わせれば、ワンポイントアイテムとして販売可能だという。全く同じ製品であっても、組み合わせや活用シーンを変えることで、別の価値を訴求できるようになるというわけだ。

 有限会社SHOICHI
 LOVE FASHION OUTLET
 (同社が楽天市場に出店しているサイト)

【考えられるCSF(Critical Success Factor:最重要成功要因)】
 事例から見えてくるCSFはこんな感じだろうか?

 ・元の製品との価値の違いを訴求するプロモーション
 これは、出版社やSHOICHIの事例で見てきた通り。

 ・増殖させた製品を販売するチャネルの開拓
 出版社の事例のように、製品を増殖させてくれる外部企業が既に販売チャネルを持っているならば問題にならないが、自社で製品を増殖させる場合は、増殖させた製品に合ったチャネルを独自に構築することが求められる。

 次の例は実現性がどのくらいあるか解らないけれど、仮にあるアパレルメーカーが複数のアパレルメーカーと協力してSHOICHIのようなビジネスを始めたとする。このアパレルメーカーは、既存の販売先とは全く異なる販売チャネルを自ら開拓しなければならない(なぜなら、既存の販売チャネルで売れなくて在庫になるのだから)。自社でWeb通販サイトやリアル店舗といったチャネルを持ったり、アウトレット専門の販売チャネルと連携したりする必要があるだろう。

>>【シリーズ】ビジネスモデル変革のパターンの一覧へ
February 05, 2011

【第6回】顧客のライフステージを押さえる―ビジネスモデル変革のパターン

拍手してくれたら嬉しいな⇒
【パターンの概要と適用できるケース】
 これは前回取り上げた「【第5回】顧客の隣接する消費行動を押さえる―ビジネスモデル変革のパターン」と似ているが、前回よりも時間軸がぐっと長くなるのが特徴である。顧客を言わば「一生の間」追い続けて、その時々に応じた最適な製品やサービスを提供するというものである。

【パターンが当てはまる事例】
《銀行(リテール部門)[スルガ銀行、横浜銀行など]》
 銀行のリテール部門は、かつては預金や住宅ローンぐらいしかなかったのだが、規制緩和のおかげで保険や証券など様々なサービスを提供できるようになった。つまり、顧客のライフステージにマッチした金融商品を販売することが可能になったわけだ。

(6)顧客のライフステージを押さえる

 数年前から銀行の新しいマーケティング手法として、EBM(Event Based Marketing)が注目されている。EBMとは、顧客に起きる重要なイベントを推察し、最適な製品やサービスを最適なタイミングで提供して収益向上につなげるマーケティングのことである。(※1)スルガ銀行や横浜銀行などがEBMの導入事例として知られている。(※2)(※3)

 銀行は、預金口座の金額の変動から、顧客の身に起こったライフイベントを推測する。解りやすい例で言えば、「50~65歳」の顧客の口座に一千万円単位の入金があった場合は、退職金が振り込まれたと考えられる。イベント情報をつかんだ行員は、顧客に対して退職金の資産運用を提案することができる。

 もう少し複雑になると、「40~65歳で流動性預金残高100万円超」というセグメント条件で、「普通預金残高の増加傾向」(「どのくらいお金が増えれば増加傾向と言えるのか?」については、定量的な定義が別途必要)というイベントが発生した場合は、資産運用ニーズが高まっていると推測して運用のオプションを提示する、といった感じになる。

 横浜銀行などは、こうしたイベントと提案内容の組合せパターンをあらかじめ複数用意しておいて、口座残高の変動に応じてパターンを自動識別し、行員に対して取るべきアクションを通知するシステムを構築している。

《自動車メーカー、自動車ディーラー》
 あまりに古い事例になってしまうが、20世紀の始めにフォードが黒色ボディの「Tフォード」という画一モデルで大きな市場シェアを維持していたところに(ヘンリー・フォードは、「Tフォードはあらゆる色を取り揃えている…それが黒である限りは」と語っていた)、GMが「顧客のライフステージに応じた様々な車種」を投入してフォードのシェアを切り崩した、というのは有名な話である。

 トヨタも(もう最近はあまり聞かなくなってしまったが)、「いつかはクラウン」をキャッチフレーズに、顧客が年齢を重ねるにつれて徐々に高いグレードの自動車を購入することを想定した製品ラインナップを揃えていた。今ではどの自動車メーカーも、このようなビジネスモデルをごくごく自然に採用しているような気がする。

 もっとも、メーカーだけが頑張ってライフステージに応じた製品を揃えても、ディーラーがそれを売ってくれないことにはどうしようもない。ディーラーの営業担当者には、自分が担当している顧客のライスステージの変化を察知し、適切なタイミングでお勧めの自動車を提案することが求められる。

 例えば、若い夫婦に子どもが生まれたらミニバンを勧め、子どもが成長してあちこち旅行に出かける年齢になったらステーションワゴンを勧め、子どもが独立して夫婦二人に戻ったらセダンを勧め、さらに夫婦のうち一方しか車に乗らなくなったら思い切って軽自動車を勧める、といった感じだ。

 顧客のライフステージの変化を察知するには、営業担当者が定期的に顧客の自宅に足を運び、たわいない世間話の中から情報をつかんだり、顧客が修理や点検で販売店を訪れた際に、顧客の待ち時間を利用して近況を伺ったりする。銀行と違って入金情報などの明確なイベントを感知することができないディーラーの場合は、結構泥臭くて地味な活動が必要だ。

 ただし、ここまで徹底的にやっているディーラーってどのくらいあるんだろう??(いい事例があったら教えてください…)。ディーラーの営業担当者は離職率が高いので、担当顧客の情報を継続的にモニタリングすることが困難になっている可能性が高い。

《SIer(システムインテグレーター)》
 「顧客のライフステージを押さえる」というパターンは、BtoCに限られたものではなく、BtoBであっても可能である。例えば、SIerであれば、顧客企業の規模の変化や成長ステージの移行、事業の多角化・リストラクチャリングなどに応じて最適なシステムを提案するというビジネスモデルが考えられる。

 もちろん、大手のSIerであれば大手企業向け、中堅企業向け、中小企業向けのサービスをフルラインナップで用意している。ただ、「顧客企業の成長に伴ってどのように新たなシステムを提案していけばよいか?」という視点でプロモーションを行っている企業は少ないように感じる。その証拠に、SIerの組織は顧客企業の「規模別」に事業部が分かれていることが多い。

 もしSIerが「顧客のライフステージを押さえる」という変革パターンを採用するならば、例えば顧客企業の「エリア別」に事業部を分けて、顧客企業ごとに10年単位(!)で中長期的にお付き合いをすることを前提とした担当営業を割り当てる。営業の下には、大手企業向け、中堅企業向け、中小企業向けの各種製品・サービスを担当する専門SEや技術支援部隊をプールしておき、顧客企業の成長ステージの変化などに応じて、彼らを自由に活用できるようにしておく、という体制になるように思われる。

【考えられるCSF(Critical Success Factor:最重要成功要因)】
 今回は事例から直接CSFを探ることはちょっと難しいのだが、私なりにCSFを推測するとこんな感じだろうか?

 ・顧客のライフイベントの変化を捉える仕組み
 (これはスルガ銀行や横浜銀行の事例から直接読み取れる)

 ・既存顧客のリテンションのためのマーケティング投資
 今回の変革パターンの場合、顧客とのリレーションは一生続くが、実際に購買機会が発生するタイミングは限られている。顧客が自社のことを忘れてしまわないように、直近の購買行動から次の購買機会までの長期間にわたり、顧客をつなぎとめておくプロモーションが必要になる。

 スルガ銀行や横浜銀行も、顧客が40代になった頃に資産運用の提案をした後、退職金が振り込まれるまでの10数年間は顧客をほったらかしにしているとはさすがに考えにくい。イベントとイベントの間をつなぐ様々な施策も合わせて実施しているはずだ。

 ・顧客接点の社員の離職率を押さえる取り組み
 顧客の立場からすれば、企業と中長期的な関係(時に数十年に及ぶ関係)を結ぶならば、できるだけ同じ営業に自分を担当してほしいと思うものだろう。となると、企業側には、営業担当者の離職率を抑制する努力が求められる。

 もちろん、離職率をゼロにすることは現実的ではないし、「たまには違う顧客を担当してみたい」という営業担当者も出てくるだろう。だから、離職率を押さえる取り組みと同時に、仮に担当営業が変わったとしても、それまで蓄積されてきた顧客情報が切れ目なく次の営業担当者に引き継がれる仕組みを構築することも重要である。

 ・顧客生涯価値(CLV)の算出の仕組み
 CLVの重要性はいろんな論文でも指摘されているが、CLVの管理が本当に必要なのはこの変革パターンだと思う。なぜならば、顧客との取引が発生しない期間のマーケティングコストや営業コストは、言わば顧客に対する投資であり、その投資から本当にリターンが得られるかどうかは、CLVを把握していなければ判断できないからだ。

 ・顧客生涯価値や継続取引期間など、顧客とのリレーションの強さを重視した人事評価制度
 どの営業組織でも、営業部門の業績評価や営業担当者の人事評価は何かと揉めるポイントである。私の限られた経験の範囲内での話である点はご容赦いただきたいが、たいていの営業組織は「その年の売上か利益」で評価を行っているものだ。

 これだと、すぐにはお金にならない新規顧客を時間をかけて開拓しようとする意欲が失せ、既存顧客に押し売りをした者が勝つ、といった事態になりやすい。ならば、こうした弊害を避けるために「中長期的な活動も評価する制度にしよう」という話になるのだが、「中長期的」とはどのくらいのスパンを指すのかがこれまた難しい。

 ただし、今回の変革パターンに限って言えば、CLVの算出の仕組みがある程度しっかり整備されていれば、それぞれの営業部門・担当者CLVの増減に応じて評価を行うことが可能になる。こうした評価制度もCSFになりうると考える。

>>【シリーズ】ビジネスモデル変革のパターンの一覧へ

《参考》
(※1)「EBM とは - 知っておきたいIT経営用語:ITpro
(※2)「CRMを活かす企業戦略 ~スルガ銀行におけるCRM~
(※3)「横浜銀行 顧客ニーズが“変化する瞬間”を とらえよ!
January 22, 2011

【第5回】顧客の隣接する消費行動を押さえる―ビジネスモデル変革のパターン

拍手してくれたら嬉しいな⇒
【パターンの概要と適用できるケース】
 今回のパターンは、アンゾフの成長ベクトルで言えば「新製品開発戦略(=既存の顧客に新製品やサービスを提供する戦略)」に該当する。「隣接する消費行動」という表現がやや解りにくくて恐縮だが、要するに顧客が既存の製品やサービスを利用する際の「前後の行動」に着目し、その中で生じているニーズ、あるいは顧客が潜在的に抱えているニーズを特定する。そして、それらのニーズに合わせて、新製品やサービスを追加するというものである。

【パターンが当てはまる事例】
《CCC(TSUTAYA)のTポイント事業》
 多くのポイントサービスは、顧客の囲い込みを目的として、その企業でしか貯められない・使えないようになっている。しかし、顧客の側から見るとこれではなかなかポイントが貯まらないし、複数のポイントサービスを利用しようとすると、そのたびにカードが増えていってしまうというデメリットがあった。

 Tポイントは、TSUTAYAでDVDをレンタルする顧客の日常的な行動に着目し、顧客がTSUTAYA以外で頻繁に利用する企業でもTポイントが貯められる・使えるようにした点で画期的だったと思う。

 参考までに、Tポイント事業のビジネスモデルを図示してみたいと思うが、その前に「参考の参考」として(くどくてスミマセン…)Tポイント事業と非常によく似ているクレジットカードのビジネスモデルを図でまとめてみた。

クレジットカードのビジネスモデル

 カード会社は個人に対してカードを発行し、年会費をもらう。その一方で、加盟店にはカード決済インフラ(カードリーダーなど)を提供し、加盟店登録料を受け取る。カード会員が加盟店で買い物をすると、カード会社が会員に代わって代金を加盟店に支払う。その際に、カード会社は代金の一定割合を手数料として差引く。この手数料が、カード会社の収益の柱となっている。

 カード会員は、購入から1ヶ月~2ヶ月後ぐらいに、カード会社からの請求に従ってカード利用額を払い込む。このタイムラグがあるおかげで、加盟店にとっては、高額の販売があっても比較的早くキャッシュが回収できるというメリットが生まれる。

 加盟店からの手数料の一部は、カード会員のポイントの原資となる。カード会員がポイントを使ってキャッシュバックなどを行った場合は、原資からポイント分のお金が消化されるという仕組みになっている。

Tポイント・Tカードのビジネスモデル

 Tポイント事業もクレジットカードとよく似た構造になっているが、CCCが最初の段階で加盟店に対しポイントを販売する点が異なる。Tカード会員が加盟店で買い物をする際に「ポイントを貯める」ことを選択した場合は、加盟店はポイントのプールからポイントを付与する。逆に、Tカード会員が「ポイントを行使する」ことを選択した場合には、会員が持っていたポイントが加盟店側に移動する。

 加盟店は、Tカード会員から受け取ったポイントをCCCに現金化してもらう。CCCが加盟店に販売する際のポイントのレートと、加盟店のポイントを現金化する際のレートの差が、CCCの収益となる。

 お金の流れの仕組みは異なるが、クレジットカードもTポイント事業も、「どこでもカードが使える」というのがミソである(この点は図中には書いていないんだけどね…「何で肝心な点を書かないんだ!?」と怒らないでね)。カードビジネスは、会員の日常生活に注目し、会員が頻繁に利用する企業を加盟店としてネットワーク化できるかどうかがポイントとなる。

 Tポイント事業は今のところ加盟店を増やすことに注力しているようだが、加盟店が一定規模に達し、顧客の購買履歴が蓄積されてくれば、顧客の属性ごとに特徴的な消費行動を分析することが可能になる。実際、CCCは、「データベース・マーケティング」を掲げている企業であるから、おそらくそのような分析にすでに着手しているはずだ。

 例えば、「20代女性のTカードヘビーユーザーは、1ヶ月のうちにAコンビニでP円買い物をし、インターネットのコスメサイトBでQ円買い物をし、CレストランでR円食事をし…トータルで平均Xポイントを蓄積している」という結果が出たとする。すると、Aコンビニ、コスメサイトB、Cレストランなどと共同で、20代の女性向けに「Tカードをこういう風に使うと、こんなにポイントが貯まるよ!」といったプロモーションの展開が可能になると考えられる(CCCは、Aコンビニ、コスメサイトB、Cレストランから一定の広告収入を受け取る)。

《異なる業態を抱える外食チェーン》
 大手の外食チェーンは、複数の異なる業態を傘下に収めていることが多い。例えば、レインズインターナショナルは牛角、しゃぶしゃぶ温野菜、かまどか、土間土間という4つのブランドを展開しているし、ゼンショーグループにいたってはすき家、なか卯を始め、ココス、ビッグボーイ、華屋与兵衛など20以上の業態を抱えている。

 同じ飲食店に何度も通うコアなファンがいるのも事実だが、大多数の人は「その時々の気分や状況に応じて、行きたいお店を決めたい」と思っているのではないだろうか?レインズは「いろんな飲み屋に行ってみたい」というニーズに応えるために4つのブランドを持ち、ゼンショーは「同じ外食ばかりでは飽きてしまう」という顧客を逃がさないために20以上の業態を持っていると考えられる。

 ただ実際には、複数の業態を持つことでリスク分散を図っているという側面の方が大きいのかもしれない。つまり、ある地域に競合他社が類似業態の店舗を出してきて、それが原因で既存店舗の収益が悪化した場合に、すぐに別の業態に変えられるようにしている、ということである(「《おしえて!編集長》 増える外食店の「業態転換」」を参照)。

 だから、外食チェーンには「業態横断的に顧客を囲い込もう」という意識がそれほど高くない可能性もある。例えば、レインズやゼンショーがグループ全体で顧客情報を管理し、複数の業態にまたがるプロモーションを実施しているという話はほとんど聞かない。レインズの4つのブランドのうち、Tカードが使えるのは牛角だけ(2011年1月時点)という事実をとってみても、レインズがTカードを活用してブランド横断的に顧客を攻めようという意図があまりないように感じられる。

《中小工務店のリフォーム事業進出?》
 大手の工務店であればすでにリフォーム事業を展開しているところもあるが、中小工務店でも収益源の多角化を狙ってリフォーム事業を立ち上げる企業が出てきているという(中小企業診断士としてのごく狭い情報に頼っている点はご容赦ください…)。住宅を建てた後のリフォーム需要を捉えるという意味で、やはりこれも「顧客の隣接する消費行動を押さえる」パターンである。

 しかし、大手工務店と中小工務店の間には決定的な違いがある。大手工務店は、新築住宅の建築時点で家主の情報を入手できるため、その情報を活用してリフォームの提案を持ちかけることができる。だが、大手工務店からの下請でビジネスをやってきた中小工務店の場合は、家主の情報を持っていない。だから、リフォーム事業をやるにしても、一から顧客を開拓する必要がある。

 既存事業と新規事業の営業チャネルの違いを克服するのは容易ではない。顧客の消費行動に合わせた新しい製品やサービスの展開にあたっては、既存事業の組織能力(ケイパビリティ)との親和性を考慮する必要がある。新たに求められる組織能力が多ければ多いほど、このパターンの変革は困難になる。

《自動車メーカーのアフターマーケット市場進出?》
 同じことが自動車メーカーから見たアフターマーケット市場についても言える。自動車の購入後には、車検や定期点検、修理サービス、カー用品など、多様な製品・サービスの需要がある。これらアフターマーケットの市場規模は、新車販売市場の約4倍にも上ると言われる。国内の新車販売の金額は約9~10兆円であるから、アフターマーケット市場は約40兆円という超巨大産業なのだ。

 この魅力的な市場に自動車メーカーが目をつけない訳がないのだが、実際にアフターマーケット市場に本格的に参入している自動車メーカーはほとんどないと言ってよい(もちろん、ディーラーを通じた純正品の販売という形では部分的に参入している)。

 これは、自動車メーカーが地場のディーラーを取り込みながら販売網を構築してきたという背景がある以上、直販のチャネルを展開するとチャネルコンフリクトが起こるからという理由もあるが、自動車製造とアフターマーケットで求められる組織能力が大きく乖離しているのが最大の要因であると考えられる。

 自動車製造は資本集約型であるのに対し、アフターマーケット産業は労働集約型である。また、自動車製造と違って、アフターマーケット市場では1人1人の顧客を長期間にわたってきめ細かくフォローし、その都度顧客に合った製品やサービスを提供する必要がある。こうした組織能力の違いが、自動車メーカーがアフターマーケット市場へ参入するのを困難にしていると言える。

【考えられるCSF(Critical Success Factor:最重要成功要因)】
 事例から見えてくるCSFはこんな感じだろうか?

 ・顧客が既存製品やサービスを使う際の「前後の行動」をじっくりと観察する
 ・既存製品やサービスを支えるケイパビリティ(組織能力)と関連性が深い領域の見極め
 ・顧客の一連の消費行動を記録・分析し、プロモーションへと活用する仕組み

>>【シリーズ】ビジネスモデル変革のパターンの一覧へ
January 16, 2011

【第4回】全く異なる属性の顧客を狙う―ビジネスモデル変革のパターン

拍手してくれたら嬉しいな⇒
【パターンの概要と適用できるケース】
 前回の「(3)水平展開で事業エリアを拡大する―ビジネスモデル変革のパターン(第3回)」が「類似のニーズを持つ顧客を狙うパターン」であるとすれば、今回は「全くの非顧客を狙うパターン」である。

 ドラッカーは複数の著書の中で、「どんな企業であっても、顧客の数よりも非顧客の数の方が多いのだから、事業を拡大するためには非顧客のニーズに耳を傾けるのが効果的だ」といった主張を繰り返している。昨年末から始めたこの連載「ビジネスモデル変革のパターン」は、広い意味ではいずれも非顧客の取り込みを目的としているのだが、今回のパターンは「既存顧客の属性とはかけ離れた顧客層(=常識的には、その製品を購入するとは考えられない顧客層)」をターゲットとする点で、最も極端なパターンであると言える。

【パターンが当てはまる事例】
《グラミン銀行》(※1)
 バングラデシュのグラミン銀行は、通常の金融機関が相手にしなかった貧困層向けの小額融資(=マイクロファイナンス)で有名である。融資を希望する人は、5人1組となって融資を受ける。借り手は融資を元手に、農畜産物の生産・販売といった事業を起こす。グラミン銀行は、融資を行った後も、借り手の事業が軌道に乗るように様々なサポートを行う。借り手が融資額以上の利益を上げられれば、貧困から脱出することも決して夢ではない。

 貸倒リスクを低減するための仕組みはユニークである。グループの各メンバーは連帯責任を負っており、特定のメンバーの返済が滞ると、他のメンバーへの追加融資がストップする。それぞれのメンバーには、「他のメンバーに迷惑をかけてはいけない」というピア・プレッシャーがかかり、返済の動機づけになるのだ(ちなみに、連帯「保証」責任は負っていないので、他のメンバーが抱えている債務に対する支払義務はない)。

 マイクロファイナンスに近いビジネスとしては消費者金融が挙げられるが、マイクロファイナンスは消費者金融とも異なるビジネスモデルになっている。消費者金融の場合、書面審査によって手軽に融資を受けられるものの、返済が滞れば法的措置が取られることもある。これに対して、マイクロファイナンスが採用している審査方法は人物重視であり、かつ返済が滞ったとしても法的手段に出ることはない。マイクロファイナンスは、借り手と貸し手の信頼関係に基づいたビジネスとなっている。

《任天堂》(※2)
 Wiiがこのパターンに当てはまることは特段の説明を要しないだろう。任天堂は、それまで子供向けであったゲームを家族向けに再構築した。ソニーとマイクロソフトが、プラットフォームの性能向上やゲームシナリオの複雑さを追求していたのとは対照的である。

 国内のゲーム市場の縮小に直面していた任天堂は、「なぜゲーム人口が減っているのか?」をリサーチすることにした。その結果、「子どもがゲームをしていても、母親は一緒にゲームをしない」、「大人になるとゲームをやる時間がなくなる」などといった現状が明らかになった。「家族が気軽に遊べるゲーム」というWiiのコンセプトは、これらの地道な調査に基づいている。

 「全く異なる属性の顧客を狙う」というパターンは、頭の中で意外と簡単にシミュレーションできるように思える。例えば、自社の製品について次のような問いを立てて答えてみると、今まで見落としていた意外な市場が見つかるかもしれない。

 ・「富裕層」向けの製品を「大衆層」に販売するにはどうすればよいか?
 (例:先進国の企業が新興国に進出した場合は、新興国内の富裕層をある程度獲得した後に必ずこの問いに直面する)
 ・「若者」向けの製品を「高齢者」に販売するにはどうすればよいか?
 (例:ゲームセンター(※3))
 ・「中小企業」向けの製品を「大企業」に販売するにはどうすればよいか?
 (例:Salesforceに代表されるようなSaaS)
 ・「男性」向けの製品を「女性」向けに販売するにはどうすればよいか?
 (例:「歴女」向けの製品)
 (もちろん、上記のいずれにおいても、逆の問いを立てることが可能)

【考えられるCSF(Critical Success Factor:最重要成功要因)】
 このパターンの場合、企業によって非顧客に訴求する新しい顧客価値が異なるため、その価値を提供する事業構造も多様なものになる。よって、これといったCSFを特定することが結構難しい。ただ、1つ確実に言えるのは、このパターンでは既存事業に染みついている常識とは180度異なる価値観を組織内に醸成する風土改革が、他の変革パターンよりもはるかに重要になるということだ。

 仮に既存の銀行がマイクロファイナンスに進出する場合には、「収入の低い人には融資をしない」、「確実に融資を回収するためのルールを固めておく」といった、通常の金融業であれば当然とされる価値観を捨て去らなければならない(※4)。任天堂は、「ゲームのクオリティ向上こそがゲーマーの心をつかむはずだ」という従来の価値観に別れを告げている。これは、スペックの改善やグラフィックの高度化にやりがいを感じていたエンジニアにとっては苦渋の決断だったはずだ。

 任天堂の岩田社長はWiiを開発するにあたり、キーパーソンとなる宮本専務、竹田専務の2人を巻き込むのにかなりの時間を割いたようだ。宮本専務は比較的早い段階で岩田社長に共感したが、竹田専務は技術のロードマップを外れた製品開発には難色を示していたらしい。しかし、岩田社長の粘り強い説得により、トップの3人が同じ方向を向くことができた。このことが、後に現場社員の意識改革を推進する上でも非常に重要であったという。(※2)
 
>>【シリーズ】ビジネスモデル変革のパターンの一覧へ

《参考》
(※1)菅正広著『マイクロファイナンスのすすめ―貧困・格差を変えるビジネスモデル』(東洋経済新報社、2008年)

posted by Amazon360

(※2)安部義彦、池上重輔著『日本のブルー・オーシャン戦略 10年続く優位性を築く』(ファーストプレス、2008年)

posted by Amazon360

(※3)「「ゲーセン」お年寄り囲い込みへ 交流、心のスイッチオン」(産経新聞、2011年1月11日)

《2012年5月6日追記》
(※4)井上達彦著『模倣の経営学』によると、グラミン銀行の創業者であるムハマド・ユヌス氏は、グラミン銀行のアイデアをどのようにして思いついたのか尋ねられた時、こう答えたそうだ。

 「一般の銀行のやり方をよく見て、あらゆることを逆にしてみたんですよ」


模倣の経営学―偉大なる会社はマネから生まれる―模倣の経営学―偉大なる会社はマネから生まれる―
井上達彦

日経BP社 2012-03-08

Amazonで詳しく見るby G-Tools
January 08, 2011

【第3回】水平展開で事業エリアを拡大する―ビジネスモデル変革のパターン

拍手してくれたら嬉しいな⇒
【パターンの概要と適用できるケース】
 これはアンゾフの成長ベクトルで言うところの「新市場開拓戦略(=既存の製品・サービスを新市場に向けて提供する戦略)」であり、「モデルの変革」とまで言えるかどうかやや微妙ではあるが、敢えてパターンの1つとして挙げた。なぜならば、既存の製品・サービスをそのまま新市場に投入すればよいという簡単な話ではなく、既存市場と新規市場の差異に着目して、差異を克服するべく既存のビジネスモデルを変革する必要があるからだ。

【パターンが当てはまる事例】
 グローバルで事業を展開する企業は、多かれ少なかれこのパターンのビジネスモデル変革を経験しているはずだが、一番解りやすいのはマクドナルドだと思うので、今回の記事ではマクドナルドを取り上げよう(今回の記事を書くにあたり、パンカジ・ゲマワットの著書『コークの味は国ごとに違うべきか』を主に参照した。それ以外の参考文献は末尾に記載)。

パンカジ・ゲマワット
文藝春秋
2009-04-23
おすすめ平均:
地に足が付いている分析。
「フラット化する世界」との違い
セミ・グローバリゼーションの下での経営戦略を学ぶ
posted by Amazon360


 水平展開で事業エリアを拡大する際の最大のポイントは、「標準化とカスタマイズのバランスを取ること」である。事業を効率的に拡大し、規模の経済を追求するためには標準化が欠かせない。しかしその一方で、地域によって微妙に異なる顧客ニーズや地域に根付いている文化、社会的・政治的な制度の違いを取り込んだカスタマイズも求められる。コカ・コーラでさえ、国によって微妙に味は違うのである。

 ここで言う標準化やカスタマイズは、製品やサービスの機能・品質だけにとどまらず、各エリアで展開されるマネジメントにも及ぶ。マクドナルドがどのようにして標準化とカスタマイズのバランスを取っているのか、簡単なプロセス図で表現してみた。

(3)水平展開で事業エリアを拡大する

 基本メニューやグローバル規模のキャンペーンは、本社主導で決定される。最近で言えば、「マックカフェ」はグローバル規模のキャンペーンの一環である。これに対して、各国での出店にあたっては、直営店だけでなく現地のフランチャイズを活用することが多い。フランチャイズは事業のスピーディーな拡大を後押ししてくれるが、それ以上に、現地の顧客ニーズや消費習慣をよく理解した地場企業を取り込むことで、ローカライゼーションを達成することができるというメリットがある。

 さらに、本社が見過ごしていた現地固有のニーズが本社にフィードバックされ、新しい標準製品を生み出すこともある。マクドナルドのビッグマックやエッグマフィンは、実は本社が開発したものではなく、フランチャイズのアイデアが基になっている。

 フランチャイズの活用のように、他地域における販売チャネルの拡大を目的として、現地のパートナー企業を活用するという手法は実によく採られる。例えば、日本のメーカーがかつてヨーロッパに進出し始めた頃には、いきなり子会社を設立せずに、現地の販売会社をパートナーとするのが普通であった。そして、ヨーロッパのビジネスが成長してキャッシュがたまってくると、今度は販売会社を買収して自社の傘下に収めてしまうのである。

 話をマクドナルドに戻そう。マクドナルドの効率的なマネジメントを統制する様々なルールのうち、約20%は現地独自のルールであり、残りの約80%がグローバル・ルールとなっている。現地ルールの適用の表れの1つが、ローカルメニューの開発である。てりやきバーガーが日本独自のものであることはよく知られているが、フィリピンには甘いバーガーやスパゲティがあり(ちなみに、イタリアにはスパゲティメニューはない)、インドではヒンドゥー教徒に配慮して羊肉バーガーが販売されているという。

 また、マスコットのイメージを各国の文化と調和させるため、プロモーション内容もカスタマイズする余地が与えられている。ドナルド・マクドナルドは、フランスではマクドナルドワインを、オーストラリアではフィレオフィッシュの販促を行う。そして、北アメリカではクリスマスを祝い、香港では旧正月を祝う。

 原材料調達と店舗オペレーションはグローバル・ルールの世界である。原材料を安定的かつ低価格で仕入れることを目的に誕生したのが「世界共同仕入(グローバル・サプライチェーン)」だ。これは、それぞれの国が単独に調達を行うのではなく、複数の国と情報交換を行い、世界中から調達を行うものである。

 この調達を支えるシステムが、アメリカで開発されたデータベースソフト・GPIAである。GPIAは、90年代初頭に日本を含めた世界中の担当者が中心となって開発が進められた。GPIAを活用すると、産地別の原料価格、関税、輸送費などが一目で解るため、調達担当者は最もよい条件で大量仕入を行うことが可能になるというわけである。(※1)

【考えられるCSF(Critical Success Factor:最重要成功要因)】
 事例から見えてくるCSFはこんな感じだろうか?
 ・製品・サービスのうち、標準化する部分とカスタマイズする部分の明確な区別
 ・マネジメントの方法のうち、標準化する部分とカスタマイズする部分の明確な区別
 ・カスタマイズ可能な部分については、各地域に権限を委譲し、実行に必要な経営資源を付与
 ・各地域のニーズや文化、習慣などに精通した外部パートナーとの提携
 ・各地域の個別ニーズを本社にフィードバックし、グローバル規模で標準化できそうなものとそうでないものを識別する仕組みの構築
 ・地域間の違いを学習する機会の提供
 (マクドナルドにおけるGPIAの開発は、各国のニーズやオペレーションの違い、さらには文化的背景の違いを学習する絶好の機会になったと思われる)
 ・特定の地域に依存しないリスク分散の仕組みの構築
 (マクドナルドの事例では特に触れなかったが、特定の地域に依存した収益モデルになってしまうと危険である。リーマンショック以降にトヨタの業績が著しく落ち込んだのは、北米市場への依存度が高すぎたためでもある。渡辺捷昭前社長は、経営陣の中で北米市場の強化を推進していた一人であると言われており、逆にBRICsへの進出には慎重であった(※2))

 ちなみに、今回の記事ではグローバル規模での水平展開について触れたが、同一国内の他地域に進出する場合でも、類似のCSFが当てはまると考えられる。例えば、ウォルマートはどの店舗でも全く同じオペレーションを実施していると思われがちだが、アメリカ国内でも地域によって微妙に違うニーズに適応するために、品揃えやサービス、オペレーションをセミカスタマイズする方法を模索しているという。(※3)

>>【シリーズ】ビジネスモデル変革のパターンの一覧へ

《参考》
(※1)「~新世紀到来!~マクドナルドの新たな挑戦
(※2)渡辺捷昭「トヨタのものづくり哲学」(DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー2007年8月号)

posted by Amazon360

(※3)ダレル・K・リグビー「「脱」標準化のマーケット戦略」(DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー2007年7月号)

posted by Amazon360
December 18, 2010

【第2回】高級志向の顧客を狙う―ビジネスモデル変革のパターン

拍手してくれたら嬉しいな⇒
【パターンの概要と適用できるケース】
 いわゆる高付加価値戦略。価格競争力のある競合製品が市場のパイを侵食し始めると、企業はプレミアム価格を支払ってくれる顧客をターゲットとして、製品やサービスに付加価値をつけて差別化を図る。海外企業の低価格製品による脅威を特に受けやすい中小企業は、こうしたビジネスモデル変革を行うことが多い。ちなみに、中小企業庁が毎年発行している『中小企業白書』には、ここ数年必ずといっていいほど「高付加価値戦略」というキーワードが登場する。

 プレミアム価格を支払うことができる顧客層は、市場の一部に限定される。前回の「(1)低価格志向の顧客を狙う」は、「提供する製品機能やサービス内容をぐっと絞る」パターンであったが、高付加価値戦略の場合は、「ターゲット顧客をぐっと絞る」パターンであると言える。

 当然のことながら、ここには1つのリスクが潜んでいる。ターゲットを絞り込むことによって、自社の成長余地を削ってしまうかもしれないからだ。単に品質を上げて高い価格を設定し、突発的な贅沢消費を刺激するだけの安易な方策では、すぐに行き詰まってしまう。こうしたリスクを回避するには、「自社が『継続的に』提供できる顧客価値」を再定義し、「一部の顧客と太く長く続く」ビジネスをデザインする必要がある。

【パターンが当てはまる事例】
《あわじ島の香司(兵庫県線香協同組合)》(※1)
 「あわじ島の香司」とは線香のブランドである。線香は日本では完全にコモディティであり、さらに中国などから安価な線香が輸入されているため、どうしても価格競争に陥ってしまう。兵庫県線香協同組合は、新たな収益源を求めて海外展開を図ることにした。

 とはいえ、「仏事のための線香」というニーズは日本独特のものであるから、そのままでは海外に持ち込むことができない。そこで兵庫県線香協同組合は、線香を「アロマテラピー」として再定義した上で、アロマテラピーの本場であるフランスに進出することに決めた。

 「あわじ島の香司」は、「より上質の香りにあふれた生活空間を提供する」というワンランク上の顧客価値を提供している。線香のままでは非常に限られた購入機会しか捉えることができないが、アロマテラピーであれば顧客が日用品として継続購入してくれることが期待できる。まさに、「自社が『継続的に』提供できる顧客価値」を再構築した事例であると考えられる。

《ハーレー・ダビッドソン》(※2)
 「一部の顧客と太く長く続く」ビジネスへと進化する企業は、顧客との接点を重視する価値観をベースに、顧客志向が色濃く表れた業務プロセスや組織をデザインする。1983年に倒産の危機に瀕していたハーレー・ダビッドソンは、85年にLBOを実施した後、「顧客に密着する戦略」へとシフトして再生を遂げた。

(2)高級志向の顧客を狙う

 私はバイクに乗らないのでよく解らないが、バイク好きの人たちは非常に強い仲間意識を持っていて、ある種のコミュニティを形成するようだ(ツーリングをするにとどまらない強い絆が生まれるみたい)。ハーレーは、「ちょい悪」(もうこの言葉は古いか?)なライフスタイルを提供するだけでなく、ハーレーを通じて生まれるコミュニティそのものに深く入り込み、コミュニティの形成・発展を手厚くサポートしているのである。

《アンテノール》(※3)
 企業の活動の中で、最も重要な顧客接点はやはり「製品販売やサービス提供の瞬間」である。販売チャネルが顧客志向の価値観を踏み外さないようにコントロールすることは、高付加価値戦略においてとりわけ重要だ。そうなると、代理店やフランチャイズを活用するよりも、自社でチャネルを整備する方が得策である。

 スターバックスのように、創業時から直営店のみで事業を拡大してきた企業ならば、チャネルへの影響力を一貫して保つことができる。しかし、もともと大衆路線であった企業が高付加価値路線に切り替える場合は、販売チャネルの切り替えという痛みを伴うことになる。

 洋菓子の製造・販売を行うアンテノールは、かつてマスマーケットを対象にケーキを販売していた。保存が効くデコレーション用の生クリームを開発し、自社工場で大量生産してコストを下げ、フランチャイズを含む多くの店舗で安価なケーキを提供していた。ピーク時には150店舗で50億円の売上があったという。

 しかし、コンビニの台頭により、安価なケーキでは勝負できないと判断した同社は高級路線へと転換し、フランチャイズから撤退するという意思決定を下した。販売チャネルは全て、製造設備も併設された直営店舗へと切り替えられたのである。

《ティファニー》(※4)
 高付加価値戦略へシフトする際には、製品にサービスをくっつけて、トータルで価値を高めるという方法がよく取られる。ただ、このサービスというのは非常に厄介で、製品と違って在庫が持てないから需要変動に柔軟に対応できないし、さらにサービスを提供する人材のスキルにクオリティが左右されるため、マネジメントがとても難しい。

 通常のサービスであれば、需要を平準化するために「予約制度」を取り入れたり、標準的なサービスプロセスを定義して品質のばらつきを抑えたりしようとするものだ。ところが、高付加価値戦略が相手にしているのは、極端な言い方をすれば、「高いお金は払ってくれるが、その分要求水準も高く、特別扱いを望んでいる顧客」である。こうした顧客に、平準化という概念はなじみにくい。

 ティファニーには、サービスの平準化という誘惑に駆られて手痛いしっぺ返しを食らった経験があるようだ。2001年当時、大衆富裕層と呼ばれる急成長市場でティファニーブランドに火がつき、店舗に大勢の顧客が殺到するようになった。その結果、顧客に対する接客サービスが疎かになり始めた。

 この時にティファニーがとった対策は、顧客に「ポケベル」(2001年当時なので)を持たせることであった。来店時に顧客にポケベルを手渡し、順番が来たらポケベルを鳴らすという仕組みである(要は、銀行や郵便局の順番待ちと同じ。これ、日本でもやってたのかなぁ??)。

 ティファニーは、どの来店客にも均質のサービスを提供するために、よかれと思ってポケベルを導入したわけだが、「自分のペースでゆっくりと買い物をしたい」と考える顧客にとっては、経験価値が損なわれる結果になってしまったのである。

 では、ティファニーはどうすればよかったのか?という問いに答えるのは容易ではないが、1つ考えられるとすれば、大衆富裕層の中には、純粋にティファニーブランドに憧れているだけで、とにかく店舗で早く製品が購入できればよいと考えていた顧客が相当数いたことが予想される。ティファニーの店舗は、こうした顧客をターゲットとした空間ではない。

 店舗では、充実した接客サービスを望む従来からの顧客を相手に、従来通りホスピタリティあふれる接客を実施し続ける。すると、先ほどのような「せっかちな顧客」は、ティファニーの店舗ではすぐに買い物ができないから、行くのを諦めようと考え始める(何を隠そう私自身もかなりせっかちな顧客なので、たまーにティファニーの店舗に入ると耐え難い苦痛を感じるのだ、汗)。

 ティファニーにとっては新規の顧客を失うことになるものの、そもそもティファニーがターゲットとする顧客ではないのだから気にしない、という判断もできる。「それでもティファニーを買いたい」という顧客に対しては、「じゃあ、どうぞWebで買ってください」ということで、直販サイトを用意しておけばよい(現在は直販サイトが存在する)。

【考えられるCSF(Critical Success Factor:最重要成功要因)】
 事例から見えてくるCSFはこんな感じだろうか?

 ・「自社が『継続的に』提供できる顧客価値」を再定義すること
 (もちろん、どんなビジネスでも顧客価値の定義は重要であるが、市場の先細りリスクがあるこのパターンの場合は、とりわけ顧客価値を慎重に定義し、事業の継続が見込めるマーケットを選択することが必須)
 ・ロイヤリティの高い顧客のネットワーク・コミュニティを形成・発展させる仕掛け
 ・顧客に密着し、顧客のニーズを製品やサービスに迅速にフィードバックする仕組み
 ・販売チャネルに対する強いコントロール力
 ・サービスの平準化への誘惑を断ち切ること

>>【シリーズ】ビジネスモデル変革のパターンの一覧へ

《参考》
(※1)「兵庫県下中小企業の海外進出の成功と失敗の考察」(社団法人中小企業診断協会 兵庫県支部)
(※2)スーザン・フォルニエ、ララ・リー「ブランド・コミュニティ 7つの神話と現実」(『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』2010年10月号)
(※3)「神戸スイーツ年代記 アンテノール 比屋根 毅(ひやね・つよし)72歳」(産経関西)
(※4)フランシス・X・フライ「顧客サービスの問題解決法」(『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』2007年7月号)
December 12, 2010

【第1回】低価格志向の顧客を狙う―ビジネスモデル変革のパターン

拍手してくれたら嬉しいな⇒
 先日予告した通り、初の連載物(?)として、今日から週1回ぐらいのペースで「ビジネスモデル変革のパターン」についてまとめていきたいと思う。記念すべき第1回は、ターゲット顧客層をがらりと変えるものとして、「低価格志向の顧客を狙う」というパターン。

【パターンの概要と適用できるケース】
 読んで字のごとく、価格に敏感な顧客層をターゲットとするモデル。一般的に、市場が成熟フェーズに入ってくると、各社の激しい模倣合戦の末に、似たような製品ばかりがあふれ返るようになる。そこで今度は、他社との差別化を行うために、「顧客主義に立つ」という大義名分のもと、(通常の顧客よりも口うるさい)優良顧客のきめ細かいニーズを吸い上げて製品を改良し始める。

 こうした改良は、ロイヤリティが高い一部の顧客にとっては重要かもしれない。ところが、大半の顧客にとっては「どうでもいい機能の高度化」に映るものだ。彼らは、追加された機能に対してプレミアム価格を支払う気が失せている。それよりも、「もっと簡素な製品でいいから、安くしてくれ」と考えている。

 このような「満たされすぎた顧客」が一定の規模を超えると、ビジネスモデルの変革のチャンスが生じる。彼らにターゲットを絞って、大胆に機能を絞り込んだ製品を低価格で提供するのである。

【パターンが当てはまる事例】
《サウスウェスト航空》
 この変革に最も鮮やかに成功したのは、格安航空会社のサウスウェスト航空だろう。サウスウェスト航空は、出張などで頻繁に飛行機を利用するビジネスパーソンにターゲットを絞り込んだ。彼らは、できるだけ早く、かつ(会社の経費申請の際に、経理担当から白い目を向けられないよう)安い値段で目的地に着くことができれば十分であった。

 ビジネスパーソンのニーズに応えるために、サウスウェスト航空は、従来の航空会社が当たり前のように提供してきたサービスの大半を省略した。座席変更を受け付けない、空港利用料が高い大都市の空港は避けて、地方空港のみを利用する、機内食は出さない、手荷物は乗客に持たせる、などといった具合である。サービスメニューをばっさりと削り、「中距離都市間のフライト」のみに特化することで、従来の航空会社がなしえなかった低価格でのフライトを実現できるようになった。

(1)低価格志向の顧客を狙う

《サイゼリヤ》
 サウスウェスト航空は一からビジネスモデルを構築した事例であるが、多くの企業にとって重要な論点は、「成熟した既存事業の上に、低価格志向の顧客をターゲットとした新事業を構築することは可能なのか?」ということではないだろうか?

 これは実のところ非常に難しいと思われる。サウスウェスト航空のビジネスモデルを真似して、JALやANAも低価格ブランドを立ち上げようとしているが、その先行きは何とも言えない。一番のネックは、一定の優良顧客を抱える既存事業と低価格志向の顧客をターゲットとした新規事業との間に存在する「コスト構造の違い」である。表面的なオペレーションを真似することは比較的容易であるものの、既存事業に染み付いているコスト構造を変えることは一筋縄ではいかない。

 既存事業の上に低価格ブランドを構築した事例はなかなか見つからないが、一つ挙げるとすれば、サイゼリヤの新業態「サイゼリヤEXPRESS」ではないだろうか?これは、もともとパスタを強みとするサイゼリヤが、100円台という低価格でパスタを提供している新業態である。サイゼリヤEXPRESSには、ただでさえローコストなファミレスよりもさらに効率的な店舗運営を実現する様々な工夫が施されている。

 ・メニューをパスタ中心に絞り込み
 ・セルフオーダーレジを導入
 ・「超」スピーディーな調理プロセス
 (顧客がレジで精算を済ませ、受け取りコーナーへ到着する頃には、食事ができあがっている)
 ・スパゲッティは自社工場で途中まで加工し、店舗では簡単に調理できるようにしておく
 ・通常は1人、ピーク時でも2人のスタッフで対応できる体制を確立
 (スタッフは常に奥の調理場にいるため、店頭にはスタッフの姿がない)

 ただ、サイゼリヤの場合は、もともとファミレスで培ったローコストオペレーションのノウハウがあり、さらにアルバイト中心の店舗運営で長年やってきた事実がある。この点を踏まえると、既存のファミレスとサイゼリヤEXPRESSとの間には、それほど大きなコスト構造の差がなかったとも考えられる。

【考えられるCSF(Critical Success Factor:最重要成功要因)】
 事例から見えてくるCSFはこんな感じだろうか?

 ・ターゲット顧客が最低限必要とする機能やサービスを「大胆に」絞り込むこと
 (大胆に絞り込むことで、顧客が本当に欲している機能やサービスの価値を際立たせることができる)
 ・絞り込んだ機能やサービスについては、品質を落とさないこと
 (絞り込んだ上に品質まで落としてしまえば、ただの「安かろう、悪かろう」になってしまう)
 ・絞り込んだ機能やサービスを効率的に提供する標準オペレーションを確立すること
 ・既存事業のコスト構造とは全く違うコスト構造の組織を構築すること
 ・オペレーションの効率化に貢献するITには積極的に投資すること

>>【シリーズ】ビジネスモデル変革のパターンの一覧へ
December 04, 2010

【シリーズ】ビジネスモデル変革のパターン(全20回予定)

拍手してくれたら嬉しいな⇒
 このブログでは初となる長期のシリーズものをやってみようと思う。今回のテーマは、タイトルの通り「ビジネスモデル変革のパターン」。今まで、ビジネスモデルに関する書籍を何度か紹介してきたが、いずれもビジネスモデルのパターンを「静的」に捉えるものが多かった。つまり、「世の中にはたくさんの企業があるけれど、ビジネスモデルを図で描いてみるといくつかのカテゴリに分類できるよね」というものである。

 エイドリアン・スライウォツキー『ザ・プロフィット』
 スライウォツキーの戦略論は面白くて好きだ-『プロフィット・ゾーン経営戦略』
 スライウォツキーの簡略版みたいな感じ-『ビジネスモデルを見える化するピクト図解』
 (※この本の後半では、ビジネスモデル変革のパターンが論じられている)

 しかし、実務で求められているのは、ライバルとの競争に打ち勝ち、顧客を創造し、持続的な成長を遂げるためのビジネスモデルの「変革」である。その「動的」なパターンを整理することは、戦略を策定する上で重要なヒントになるのではないだろうか?

 なにぶん、初めての試みである上に、思いつく限りの変革パターンをつらつらと書いていくため、支離滅裂な点や論理の飛躍があるかもしれない点はご容赦ください。もしおかしな点を発見された方は、コメント欄で指摘していただけると非常にありがたいです。

 今回はイントロダクションということで、紹介する予定の20のパターンを列記しておこう(カッコ内は企業・製品例)。なお、一応週に1本ずつ紹介するつもりなので、連載終了は5ヶ月後(!)になるかも。

<ビジネスモデル変革の20パターン>
 顧客を変える
  1.低価格志向の顧客を狙う(サウスウェスト航空、サイゼリア)
  2.高級志向の顧客を狙う(ハーレー・ダビッドソン、アンテノール)
  3.水平展開で事業エリアを拡大する(マクドナルド、自動車メーカー、ウォルマート)
  4.全く異なる属性の顧客を狙う(グラミン銀行、任天堂[Wii])
 製品を変える
  5.顧客の隣接する消費行動を押さえる(TSUTAYA[Tカード]、外食チェーン、工務店[リフォーム事業])
  6.顧客のライフステージを押さえる(自動車メーカー、銀行)
  7.製品を増殖させる(出版社、日能研、SHOICHI[アパレル])
  8.製品をまとめてパッケージ化する(旅行代理店、大手SIer)
  9.製品を分解する(アップル[iTunes]、はなまるうどん、葬儀)
  10.製品を売るのではなく貸す(エアビーアンドビー[CtoCの賃貸]、ビクシー[自転車レンタル]、テックショップ[作業場・作業用具レンタル])
 チャネルを変える
  11.販売チャネルを拡大する(コカ・コーラ)
  12.販売チャネルを絞り込む(トヨタ自動車[レクサス]、カゴメ[キャロット]、QBハウス[1,000円カット])
 プロセスを変える
  13.プロセスを分解して特定プロセスに特化する(デル、シティバンク、ヴァージン航空)
  14.プロセスを垂直統合する(ユニクロ、GAP、しまむら)
  15.特定プロセスを顧客にやらせる(イケア、Salesforce.com)
  16.顧客の特定プロセスを代行する(各種アウトソーシング業)
  17.プロセスの時間を大幅に短縮する(本田技研工業、オフショア開発)
  18.プロセスを分解して特定プロセスを独占する(マイクロソフト、インテル、日本の部品メーカー)
 顧客の種類を増やす
  19.自社を介して2種類の顧客を持つ(広告ビジネス、サービス共同購入サイト[GROUPON、ポンパレなど]、ショッピングセンター)
  20.自社を介して3種類以上の顧客を持つ(mixi、twitter)
October 27, 2010

スライウォツキーの簡略版みたいな感じ−『ビジネスモデルを見える化するピクト図解』

拍手してくれたら嬉しいな⇒
板橋 悟
ダイヤモンド社
2010-02-19
おすすめ平均:
実践的でわかりやすいビジネス書
むむ、ちょっとシンプル過ぎるかな。。
ピクト図がかけるくらいに分析できれは、もう答えは自ずから出てくる。
posted by Amazon360

 タイトルの通り、ビジネスモデルの書き方を解説した本。ビジネスモデルの書籍については、エイドリアン・スライウォツキーの著書を何度か取り上げたが、本書はその簡略版といった感じだ。

 スライウォツキーの戦略論は面白くて好きだ−『プロフィット・ゾーン経営戦略』
 今年印象に残った本ベスト10(第1位→第5位)(※2008年の記事。第2位に『ザ・プロフィット』を挙げた)

 スライウォツキーが20以上のビジネスモデルを紹介しているのに対し、本書に載っているのはたったの8つ。このぐらいなら大した数じゃないから、以下にまとめてみた。
(1)シンプル物販モデル
 ビジネスの主体が商品やサービスを製造・開発し、ユーザーに提供してその対価を受けとるという、ビジネスの基本形ともいうべきモデル。

(2)小売モデル
 商品をつくらず、仕入れて売るだけのビジネスモデル。

(3)広告モデル
 商品自体の価格を抑えるかあるいは無料にして、広告で大きく利益をあげるモデル。

(4)合計モデル
 消費者を呼び込むための商品を用意し、「ついで買い」を狙うモデル。(※筆者注:スーパーマーケット、100円ショップ、ユニクロなどがこれに該当する)

(5)二次利用モデル
 商品を2度、3度と再利用するモデル。再利用する際は開発コストを抑えられるというメリットもあり、「1粒で2度おいしい」利口なビジネスモデル。(※筆者注:出版社が雑誌の連載小説を単行本化するケースなどが該当する)

(6)消耗品モデル
 商品本体の購入の敷居を下げ、付属する消耗品やメンテナンスにお金を使いつづけてもらうことで徐々に収益率を上げていくモデル。

(7)継続モデル
 商品やサービスを長期間かつ定期的に使いつづけてもらい、一定の売上を確実にあげるビジネスモデル。

(8)マッチングモデル
 商品・サービスを提供する側とユーザーとを仲介するビジネスモデル。
 本書は単なるビジネスモデルの列挙にとどまらず、ビジネスモデルの「変革パターン」にまで踏み込んでいる点が特徴的だ。パターンの詳細はここでは省略する(というか、さすがにそこまで書くのは面倒くさい、汗)が、本書の中ではアスクルの文具通販ビジネスの発展を例にとって、各パターンが解説されている。

 ただ、アマゾンのカスタマーレビューにもあるように、全体的にシンプルにまとまりすぎている印象は否めない。もちろん、ビジネス全体を俯瞰するためにはシンプルに捉えることも重要だが、モデルを細かく記述することで得られるインサイトもあることは付け加えておきたい。

 例えば、(6)消耗品モデルの代表例であるプリンタ事業のビジネスモデルを、同書の方法にならって絵にすると、左図のようになる。本体の価格を下げる代わりに、インクカートリッジの価格を高めに設定して、利益を補填していることはよく知られている。

プリンタのビジネスモデル

 このビジネスモデルの重要成功要因(CSF:Critical Success Factor)を左図から読み取るならば、「とにかくインクカートリッジは純正品を買ってもらうこと」に尽きる。プリンタメーカーは、純正品以外のインクカートリッジをセットしても本体が動かないような仕様にするなど、顧客を外に逃がさないための策を講じる。

 しかし、左図には販売チャネルが記載されていない。そこで、左図に販売チャネルを付け加えてみる。本体の主要な販売チャネルは家電量販店である。一方、インクカートリッジは家電量販店に加えて、プリンタメーカーの直販サイトでも購入できるし、アスクルのような文具販売業のサイトからも入手することができる。

 販売チャネルを加えた右図からは、消耗品モデルのもう1つのCSFが見えてくる。顧客の立場からすると、消耗品はなくなったらすぐに手に入れられないと意味がない。よって、メーカーにとっては、「消耗品の販売チャネルを幅広く確保すること」も大切なポイントとなる。

 となると、右図には販売チャネルとして重要なものが抜けてはいないだろうか?そう、コンビニである。欲しいものがすぐに買える場所となれば、コンビニに勝るものはない。自宅で年賀状を印刷している時に、突然インクが切れたとする。わざわざ家電量販店に出向いたり、商品が届くまでに最低でも1日かかるWeb通販サイトを使ったりするよりも、すぐにでもコンビニでインクを買いたいと思うに違いない。しかし、現実には、インクカートリッジを取り扱っているコンビニは非常に少ない。

 では、なぜコンビニではインクカートリッジを取り扱っていないのだろうか?1つ目の理由として考えられるのは、各メーカーのインクカートリッジを取り揃えようとするとあまりに種類が多くなるために、コンビニのような小規模店舗では在庫を抱えきれない、という理由である。

 この点については、メーカー側がどのプリンタでも使えるインクカートリッジを増やすことで、種類を抑えることができる。また、コンビニでは最新モデルのプリンタに対応したインクカートリッジを中心に販売し、古いプリンタ用のインクカートリッジはメーカー直販サイトでのみ販売する、という棲み分けも考えられる。

 上記の問題がクリアされたとしてもなお、コンビニがインクカートリッジを置かない理由があるとしたら何だろうか?もう1つ想定されるのは、コンビニが商品の「回転率」を重視するということだ。日用品を扱うコンビニは、商品を早く回転させれば利益が増加すると考える。

 インクカートリッジは頻繁に買うものではないから、他の商品に比べると回転率は劣る。しかし、割高な価格からも解るように、利幅は非常に大きい。よって、不良在庫を出さないようにうまく販売すれば、それなりに利益が出るのではないだろうか?コンビニ側が「商品の回転率」ばかりに着目せず、「売場面積あたりの利益額」も考慮すると、コンビニの陳列棚にインクカートリッジを並べる余地が生まれるようにも思える。

 と、結論がはっきりしない自分勝手な文章をつらつらと書いてきたわけだが、要するにビジネスモデルのレベル感を変えることで、違った成功ポイントが見えてくるということを最後にもう一度強調しておきたいと思う。
March 13, 2006

マイケル・デル&ケビン・ロリンズの名言

拍手してくれたら嬉しいな⇒
 ロリンズ「当社はリスクを大変嫌います。本気で推し進めたいと思う事業の場合、ゼネラル・マネジャーたちの心に思い入れが生まれることがあります。そのような時、それが本当にビジネスチャンスなのかどうか、まず実証してもらいます。我々を納得させられなければ、それ以上計画を進めることはできません。成功できるという確信が得られない分野は避けて通ります。」

 デル「…それでもデルは十分革新的です。創業して21年(注:2005年のインタビュー時)が経ちますが、一度も買収することなく500億ドルの売上を稼ぐまで成長した例はほかにありません。当社は新規事業への参入に極めて慎重ですが、有機的成長を遂げました。」
(DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー2005年11月号「デル:『勝利する組織の創造』」より)
 マイケル・デル
 1965年生まれ。1984年にデル社を設立。既存の仲介業者を介さず、注文生産のコンピュータを直接エンドユーザーへ販売するビジネスモデルで急成長した。現在は会長職を務める。

 ケビン・ロリンズ
 ベイン・アンド・カンパニーのコンサルタントを経て1996年にデルに入社。社長兼COO、副会長、デル・アメリカズの社長を務めた後、2004年7月にCEOに就任。

 現代の代表的なイノベーターの1つであり、革新的な経営で急成長を遂げたデルが、実は極めて慎重な態度でビジネスに臨んでいたことをうかがわせる一節。ピーター・ドラッカーが『イノベーションと起業家精神』の中で、「イノベーションに成功する者は保守的である。彼らは保守的たらざるをえない。」と述べたことを私は思い出した。

Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2005年 11月号Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2005年 11月号

ダイヤモンド社 2005-10-08

Amazonで詳しく見るby G-Tools