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August 09, 2005

裁量労働制の問題〜知識労働者の「裁量」は、法律が想定するよりも実は狭い

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 7月下旬に裁量労働制について何度か言及しましたが、もう一度この制度について私なりの見解を書きたいと思います。

 裁量労働制には、システムコンサルタント、プロデューサー、公認会計士、弁護士、建築士などの専門的業務を対象とした「専門業務型裁量労働制」と、経営企画担当部署や財務・経理担当部署など「事業運営上の重要な決定が行われる事業場」において行われる業務を対象とした「企画業務型裁量労働制」の2種類があります。

 いずれの業務も、「当該業務の性質上これを適切に遂行するにはその遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要があるため、当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をすることが困難な業務/指示をしない業務」であるという点で共通しています。

 裁量労働制はいわゆるホワイトカラーの業務形態に即した労働時間規制であるといわれています。労働時間に比例して生産量が増大する肉体労働と異なり、ホワイトカラーの仕事の成果は時間に比例するとは限りません。

 これまでの労働法は、賃金は労働者が使用者に提供する労働時間に対する対価であると考えてきました。肉体労働が主流であった時代であれば、使用者は労働者が提供する労働時間の合計から得られる生産量を予測することができたので、こうした賃金の考え方は経営合理性にも適うものでした。(日本の労働基準法が制定された昭和20年代には、1日8時間労働の規定や、割増賃金の規定は、肉体労働に従事しない者には逆に適用すべきではないとの主張も見られました。)

 しかしながら、ホワイトカラーの成果は時間で測ることができません。長時間をかけてもわずかな成果しか上げられないこともあります。もし、労働時間に対して賃金を払い続けるならば、使用者はコスト増大と生産性の低下というリスクを負担することになります。

 そのため、使用者としては経営の合理性を確保するため、労働時間ではなく、仕事の成果に対して賃金を支払いたいと考えるようになりました。現在の裁量労働制はこのような使用者の希望を担保するための制度なのです。労働者には大幅な裁量を与えるというのは、成果給を正当化するために使用者が労働者に与えたアメであると考えられます。

 少なくとも使用者にとっては利点の多い制度であるため、導入を検討している企業も少なくないようです。

 しかし、本来であれば、裁量労働制を適用することができる業務はごくごく一部に過ぎないはずなのです。

 知識労働者(ここからはこの言葉を使わせてもらいます。ホワイトカラーは知識を適用して仕事を行う知識労働者です。ホワイトカラーというとどうしても階級という社会的身分を想像してしまうので、私はあまり使いたくありません。)の特質については以前に言及したことがあります。

 知識労働の生産管理は製造現場の生産管理に比べて不十分

 知識労働者の大半はチームで仕事をします。チーム内ではそれぞれ知識労働者の役割が明確にされ、それぞれが専門とする分野に携わることになります。しかし、彼らは完全に独立したアクターとして行動するわけではありません。チームである以上、仕事は相互依存の関係にあるのです。

 細部の仕事については時間配分や仕事の方法を知識労働者個人で決定することも可能です。しかし、全体の業務に関しては、チームのルール、方針、方法に従わなければなりません。そこには、裁量労働制が要件とするような、個々のメンバーの裁量は認められません。

 チームである以上、チームや他の知識労働者に時間的その他諸々の点で制約を受けるという事態も十分に想定されます。これは、肉体労働の時代となんら変わりありません。賃金は労働時間に対して支払うという考え方は現代でも十分に通用します。

 裁量労働制が適用されるのは、仕事が非常に少人数で完結する場合でしかありえません。法律が規定する特定の業務に従事する知識労働者のうちでもほんの一握りしか該当しないでしょう。(奇跡的に仕事フリークが集まったチームならば別でしょうが…)

 裁量労働制を採用するためには、所轄の労働基準監督署への届出が必要ですが、監督署では、本当に労働者に大幅な裁量が認められているかどうかといった業務の実態まで調べることはありません。届出にある業務が法律に列挙されているものに該当するかどうかの形式的な審査しかしていないのが現状です。

 現在、裁量労働制の適用範囲を拡大しようとする動きがある(もちろん使用者側からですが)ようですが、闇雲な拡大運動は、知識労働者の労働に対する経営陣の理解不足を露呈するだけのような気がします。

 時間に見合った成果が上がっていないときに、経営者が「もっと長時間働け」というシグナルを発するのは誤りとは言えないが、適切ではありません。

 生産性が芳しくないのは、そもそも職務の設計を誤っているか、業務のプロセスが非合理的であるか、不適切な人材を配置してしまったか、業務の遂行に必要な能力の開発が不十分であったか、社内の規則・手続その他の社内環境が業務の障害になっているか、どこかに原因があるからです。症状ではなく、原因に目を向けなければなりません。

 知識労働者の仕事を誤解したまま、コスト削減という使用者側の利点だけに目が眩んで裁量労働制を導入しても、生産性向上というメリットは決して得られません。実態に合わない制度は、事態を悪化させる効果しか持たないのです。
July 25, 2005

IT業界の偽装派遣(3)―法的な問題&マネジメント上の問題

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 偽装派遣が法的に問題となるのは、不当な長時間労働や、賃金の不当な削減といった労働者の権利侵害の温床となりやすいからです。

 加えて、偽装派遣にはマネジメント上の大きな欠陥が存在します。

 一つは人事システムが必ず失敗することです。

 従業員を評価するのは、彼の仕事ぶりを最もよく理解する者であり、通常それは、彼の仕事に対して責任を負う立場にある同じ会社の上司です。しかし、偽装派遣が行われると、偽装派遣元の従業員は、偽装派遣先の従業員の元で働くわけですから、適切な人事考課ができなくなります。

 私のいた会社の場合、組織図上では上司がいました。しかし、その上司と一緒に仕事をしたことはありません。ですから、私と一緒に仕事をしていた親会社の社員から上司が話を聞いて評価を決めざるを得ませんでした。

 大半の上司が、同じように「又聞き」によって自分の(組織図上の)部下の評価を決めていました。中にはいい加減な上司もいましたから、ずさんな評価もまかり通っていたと聞きます。

 評価が適正でなければ、その後に続く人員配置や能力開発の計画もうまくいくはずがないのは目に見えています。

 もう一つはナレッジマネジメントが成功しないということです。まして知識創造活動など絶対に行うことができません。

 指揮命令ができないということは、仕事の上でイニシアティブを取れないということです。請負ならば(少なくとも偽装派遣よりは)イニシアティブを発揮することができます。そして、イニシアティブの源泉となっているのは、紛れもない自社の強みです。強みがあるから仕事を任せられるのです。

 しかし、偽装派遣は、派遣先の言いなりです。舵をとることが許されないのです。組織の進む方向などあったものではありません。その日暮らしの仕事に明け暮れるのが関の山です。マイオピア(近視眼)に陥った仕事に対して、ノウハウを蓄積しよう、知識を全社で活用しようというインセンティブが働くはずがありません。

 個人単位ならば、そういった状況でも多少はスキルを磨いたり、新しい知識を吸収したりすることができるでしょう。しかし、組織単位ではそれが全くできません。そして、知識の蓄積のないところに、新しい創造的な知識の創出などあるはずがないのです。
July 24, 2005

IT業界の偽装派遣(2)―私がいた会社の場合

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 派遣と労働の違いは、指揮命令系統の違いにあると書きました。

 「指揮命令」とは何か?ということが問題になりますが、これについて、公共職業安定所(ハローワーク)が参考にすべき行政解釈には次のように書かれています。

 「労働者を指揮監督する」とは、自己の責任において労働者を作業上及び身分上直接指揮監督することをいう
 「指揮監督」とは、作業に従事する労働者について身分上及び作業上指揮監督することをいうのであるが、殊に作業上の監督は仕事の割付け、順序、緩急の調整、技術指導等を内容とし、作業の成否に重大な影響をもたらすものであるから、請負者に対する信用が充分でない場合は往々にして注文主が自らその指揮監督に介入する例が少なくない。注文主がその発注した作業に介入する範囲にはおのずから一定の限度があるべきで(イ、請負者又はその代理者に対する注文上の限られた要求又は指示の程度を超えるものではないこと。ロ、請負者側の監督者が有する労働者に対する指揮監督権に実質上の制限を加えるものではないこと。ハ、作業に従事する労働者に対して直接指揮監督を加えるものではないこと。)、その限度を超えて干渉を行う場合には請負者が「自ら指揮監督するもの」とは解し難く、且つ、第1号の請負業者としての責任能力にも欠くるところがあり、又第4号の企画、技術、経験等を必要とする作業を行うものでないと認められる場合も多い(27・7・23職発502の2)。


 つまり、指揮命令とは、どの仕事をするか、どういう時間配分でするか、どのような手段で仕事をするか、などに関して具体的な指示を与えることであると考えてよいと思います。

 これを踏まえて、私がいたX社のケースを考えてみると(具体的なケースについてはSIerの労基法違反の疑いをめぐって労基署の労働相談に行ってきたを参照して下さい)、形式的には親会社であるY社との間で請負契約を結んでいましたが、実質的には、X社とY社の社員が混合でプロジェクトを形成しており、しかも、X社の社員はY社の社員からいろいろと指示を受けていました。

 また、両者の間で結ばれていた請負契約の内容は、X社からY社に対して提供するシステムエンジニアの数を月単位で定め、人数×単価で契約金額を決定するものであったとも聞いています。すなわち、本来的に労働者派遣を前提とした契約内容になっていたとも考えられるのです。

 もちろんX社は労働者派遣業の許可も届出もありませんから、偽装派遣の疑いがあると言えるように思います。

 ちなみに偽装派遣は職業安定法、労働者派遣法の両方に違反します。労働者派遣法により労働者派遣事業を行う道があるにもかかわらず、それすら行わず違法に労働者供給事業を行ったとなれば、責任は重大になります。

《職業安定法》
第2条(用語の定義)
 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
(中略)
4.一般労働者派遣事業
特定労働者派遣事業以外の労働者派遣事業をいう。
5.特定労働者派遣事業
その事業の派遣労働者(業として行われる労働者派遣の対象となるものに限る。)が常時雇用される労働者のみである労働者派遣事業をいう。

第5条(一般労働者派遣事業の許可)
 ^貳模働者派遣事業を行おうとする者は、厚生労働大臣の許可を受けなければならない。(以下略)

第16条(特定労働者派遣事業の届出)
 ‘団袁働者派遣事業を行おうとする者は、第5条第2項各号に掲げる事項を記載した届出書を厚生労働大臣に提出しなければならない。この場合において、同項第3号中「一般労働者派遣事業」とあるのは、「特定労働者派遣事業」とする。(以下略)


 第5条に違反した場合、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処せられます(労働者派遣法59条)。また、第16条に違反した場合、6月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処せられます(同60条)。この場合、罰則が適用されるのは供給元のみです。


《職業安定法》
第44条(労働者供給事業の禁止)
 何人も、次条に規定する場合を除くほか、労働者供給事業を行い、又はその労働者供給事業を行う者から供給される労働者を自らの指揮命令の下に労働させてはならない。


 同条に違反した場合、供給元(労働者供給罪)だけでなく、供給先も処罰の対象となります(労働者受供給罪)(職業安定法64条)。