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新ブログ 谷藤友彦ー本と飯と中小企業診断士
April 28, 2011
(補足)業務プロセス整理に役立つ本を2冊ほど
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今週は『上流モデリングによる業務改善手法入門』に関する記事を2本書いたけれども(「QCサークルを工場以外の業務にも広げたいんだよね」、「業務デザインの”定石”+組織の”価値観”=模倣困難な業務プロセス」)、もう少し細かい粒度で業務プロセス整理を行いたい場合に役立つ本を2冊ほど載せておくよ。ご参考までにどうぞ。
本の内容そのものは特段難しいものではなくて、情報システム部門の社員やITベンダーのSE、さらには社内業務をドキュメント化しなければならない内部統制プロジェクトのメンバーならば必須の内容であろう。それよりも、情シスやITベンダー、内部統制プロジェクトから”業務ヒアリングを受ける現場の方々”に読んでいただくといいかもね。
そうすると、彼らがどんな資料を作るためにヒアリングをしているのかが解るし、質問の意図もつかみやすくなるように思える。少なくとも、「何でそんな細かいことまで聞かれるんだ?」とか、「何で杓子定規に自分の仕事を整理して説明しなければならないんだ?(何と融通の利かない奴らなんだ!)」などといった些細な不満を抱かなくて済むようになるんじゃないかなぁ?
posted by Amazon360
本の内容そのものは特段難しいものではなくて、情報システム部門の社員やITベンダーのSE、さらには社内業務をドキュメント化しなければならない内部統制プロジェクトのメンバーならば必須の内容であろう。それよりも、情シスやITベンダー、内部統制プロジェクトから”業務ヒアリングを受ける現場の方々”に読んでいただくといいかもね。
そうすると、彼らがどんな資料を作るためにヒアリングをしているのかが解るし、質問の意図もつかみやすくなるように思える。少なくとも、「何でそんな細かいことまで聞かれるんだ?」とか、「何で杓子定規に自分の仕事を整理して説明しなければならないんだ?(何と融通の利かない奴らなんだ!)」などといった些細な不満を抱かなくて済むようになるんじゃないかなぁ?
March 25, 2011
クラウド導入を見送る本当の理由はセキュリティ面の不安じゃないと思うね
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何気なく情報通信総合研究所の『情報通信データブック2011』を読んでいたら、クラウドに対するITベンダーとユーザ企業の温度差がかなりあって興味深かった。IT業界では数年前からクラウドという言葉が出てきて、「次はクラウドだ」、「来年”こそ”はクラウドだ」なんてもてはやされているけれど、ユーザ企業にはまだほとんどそんな気がないみたい。
情報通信総合研究所にはおそらく事情があって、「クラウドが来るのは先かもしれない」なんて書けないものだから、「クラウドが徐々にユーザ企業に浸透しつつある」なんて書き方をしているが、「どう見たって強がりだろ?」っていうぐらい、ユーザ企業の導入意欲が低かった・・・。
同書が言及しているJUAS(日本情報システム・ユーザー協会)の「企業IT動向調査2010」から、関連グラフを引用。他のトレンドテクノロジと比べてみても、クラウドに対する関心の低さが際立つんだなぁ。JUASはまだ冷静な立場を保っている方で、p22で「クラウド・コンピューティングは話題先行の感」と正直に書いてしまっている(まぁ、この調査自体が2010年4月に発表されたものだから、来月まで待って「企業IT動向調査2011」を見れば、多少は違う結果が出ているのかもしれないけど)。
クラウドを、一般的なインターネットを通じて提供される「パブリック・クラウド」と、企業内・業界内に閉じた環境で提供される「プライベート・クラウド」に分けて、ユーザ企業の規模別・業種別に導入状況を尋ねたのが下のグラフ。いずれも大企業ほど導入が進んでおり、かつ大企業ではパブリック・クラウドよりもプライベート・クラウドの方が好まれていることが解る。
パブリック・クラウドに関して言えば、導入が従来のシステムに比べてはるかに容易であることから、中小企業の導入が一気に進むと予測されていた。だが、実際はそうなっていない。同レポートのp33を読むと、パブリック・クラウドを導入しない理由として、「セキュリティ面の不安」を挙げるユーザ企業が圧倒的に多いことが解る(ただし、この設問については、ユーザ企業の規模別に見たクロス集計がないので、中小企業特有の理由は不明)。
思うに、中小企業がパブリック・クラウドを見送る理由は、セキュリティ面の不安などではない。中小企業は大企業ほどセキュリティが厳しくないから、会社のPCを自由に社外に持ち出して仕事をしたり、個人のスマホで会社のメールを見たりといったことが普通に行われている。中小企業にとってパブリック・クラウド導入のカギを握るのは、(1)その企業のITリテラシーと、(2)ITに業務を合わせられる柔軟性の2つであろう。
パブリック・クラウドは、自社の業務に合わせて入力項目や入力手順、レポート形式や集計ロジック、メール配信スケジュール、権限付与など、ほとんど全ての設定をユーザ企業側で実施しなければならない。この点でそれなりのITリテラシーが要求される。しかも、大企業に比べてアドホックで属人的な業務が多いカオスな中小企業は、業務とクラウドの機能を結びつける作業が非常に煩雑だ。
さらに、いくらパブリック・クラウドが柔軟なカスタマイズを売りにしていると言っても、基本的にはITベンダー側が想定する標準業務プロセスに沿って設計されているので、ユーザ企業の思い通りにいかない部分も決して少なくない。その場合、カスタマイズを諦めて「ITに業務を合わせる」という、システム導入の定石からは外れた選択肢を選ばないといけない。そういう決断に自信がない中小企業は、パブリック・クラウドの使い勝手の悪さ(厳密に言えば、ユーザ企業が勝手に「使い勝手が悪い」と思っているだけなのだが)を敬遠して、導入を見送るだろう。
本来であれば、ITベンダーが中小企業のITリテラシー向上や利用サポートを行うべきなのだろうけれども、パブリック・クラウドそのものが単価の低いサービスである上に、多種多様な中小企業の支援には莫大なコストがかかる。よって、ITベンダーはそこまで手を出そうとしない。
NRI(野村総合研究所)は、JUASとは別にクラウドについて独自の調査を行っており、やはり同じように中小企業の導入意欲が低いことを指摘している。NRIはその理由を次のように述べている。
じゃあ、中小企業のパブリック・クラウド導入は、誰がサポートすればいいんだろう?こういう時こそ中小企業診断士の出番なのかい?ただね、中小企業診断士って人によって得意分野がテンでバラバラだし、ITリテラシーにかなりバラツキがあるから、中小企業診断士を組織的に動かすのは難しいかもなぁ。中小企業庁や中小企業診断協会に何か策はあるんかな?
posted by Amazon360
情報通信総合研究所にはおそらく事情があって、「クラウドが来るのは先かもしれない」なんて書けないものだから、「クラウドが徐々にユーザ企業に浸透しつつある」なんて書き方をしているが、「どう見たって強がりだろ?」っていうぐらい、ユーザ企業の導入意欲が低かった・・・。
同書が言及しているJUAS(日本情報システム・ユーザー協会)の「企業IT動向調査2010」から、関連グラフを引用。他のトレンドテクノロジと比べてみても、クラウドに対する関心の低さが際立つんだなぁ。JUASはまだ冷静な立場を保っている方で、p22で「クラウド・コンピューティングは話題先行の感」と正直に書いてしまっている(まぁ、この調査自体が2010年4月に発表されたものだから、来月まで待って「企業IT動向調査2011」を見れば、多少は違う結果が出ているのかもしれないけど)。
クラウドを、一般的なインターネットを通じて提供される「パブリック・クラウド」と、企業内・業界内に閉じた環境で提供される「プライベート・クラウド」に分けて、ユーザ企業の規模別・業種別に導入状況を尋ねたのが下のグラフ。いずれも大企業ほど導入が進んでおり、かつ大企業ではパブリック・クラウドよりもプライベート・クラウドの方が好まれていることが解る。
パブリック・クラウドに関して言えば、導入が従来のシステムに比べてはるかに容易であることから、中小企業の導入が一気に進むと予測されていた。だが、実際はそうなっていない。同レポートのp33を読むと、パブリック・クラウドを導入しない理由として、「セキュリティ面の不安」を挙げるユーザ企業が圧倒的に多いことが解る(ただし、この設問については、ユーザ企業の規模別に見たクロス集計がないので、中小企業特有の理由は不明)。
思うに、中小企業がパブリック・クラウドを見送る理由は、セキュリティ面の不安などではない。中小企業は大企業ほどセキュリティが厳しくないから、会社のPCを自由に社外に持ち出して仕事をしたり、個人のスマホで会社のメールを見たりといったことが普通に行われている。中小企業にとってパブリック・クラウド導入のカギを握るのは、(1)その企業のITリテラシーと、(2)ITに業務を合わせられる柔軟性の2つであろう。
パブリック・クラウドは、自社の業務に合わせて入力項目や入力手順、レポート形式や集計ロジック、メール配信スケジュール、権限付与など、ほとんど全ての設定をユーザ企業側で実施しなければならない。この点でそれなりのITリテラシーが要求される。しかも、大企業に比べてアドホックで属人的な業務が多いカオスな中小企業は、業務とクラウドの機能を結びつける作業が非常に煩雑だ。
さらに、いくらパブリック・クラウドが柔軟なカスタマイズを売りにしていると言っても、基本的にはITベンダー側が想定する標準業務プロセスに沿って設計されているので、ユーザ企業の思い通りにいかない部分も決して少なくない。その場合、カスタマイズを諦めて「ITに業務を合わせる」という、システム導入の定石からは外れた選択肢を選ばないといけない。そういう決断に自信がない中小企業は、パブリック・クラウドの使い勝手の悪さ(厳密に言えば、ユーザ企業が勝手に「使い勝手が悪い」と思っているだけなのだが)を敬遠して、導入を見送るだろう。
本来であれば、ITベンダーが中小企業のITリテラシー向上や利用サポートを行うべきなのだろうけれども、パブリック・クラウドそのものが単価の低いサービスである上に、多種多様な中小企業の支援には莫大なコストがかかる。よって、ITベンダーはそこまで手を出そうとしない。
NRI(野村総合研究所)は、JUASとは別にクラウドについて独自の調査を行っており、やはり同じように中小企業の導入意欲が低いことを指摘している。NRIはその理由を次のように述べている。
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一般的には、パブリック・クラウドの場合・・・大規模なIT投資を行うことが困難で、専任のサーバー管理者を配置することができない中小企業から利用が進むと考えられていた。しかし、本アンケート結果を見るかぎりは、まったく逆の傾向であることがわかった。これは、クラウド・コンピューティングという新たなトレンドに対し、メリットもデメリットも十分理解した上で採用に踏み切った大企業に比べ、中小企業の場合、「どこから利用すべきか判断ができない」、あるいは、そもそも「クラウド・コンピューティングとは何なのか」がきちんと理解できていない可能性が高いと考えられる。この手の話は、実はASPが登場した時もあった。私の知り合いで、ASP黎明期に中小企業向けのASPサービスを立ち上げたという人がいる。その人曰く、「中小企業はニーズがばらばらだし、手間はかかるし、全然お金にならなかった」と振り返っている。ASPと同じことが、パブリック・クラウドで再び繰り返されようとしているのかもねぇ・・・。
じゃあ、中小企業のパブリック・クラウド導入は、誰がサポートすればいいんだろう?こういう時こそ中小企業診断士の出番なのかい?ただね、中小企業診断士って人によって得意分野がテンでバラバラだし、ITリテラシーにかなりバラツキがあるから、中小企業診断士を組織的に動かすのは難しいかもなぁ。中小企業庁や中小企業診断協会に何か策はあるんかな?
November 08, 2010
4種類の学習モデルをまとめておいた(メモ書き)
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ここ1ヶ月で何度か「学習モデル」に関する記事を書いたのだが、せっかくなので代表的な4つの学習モデルを備忘録程度にまとめておこうと思う。なお、参考にしたのは中原淳他『企業内人材育成入門』(ダイヤモンド社、2006年)
コルブの経験学習モデルの欠点を補った実証研究−『経験からの学習』(経験学習モデル)
ナレッジマネジメントシステムの話は一切出てきません−『経験知を伝える技術』
(学習転移モデル+経験学習モデル)
「状況に埋め込まれた学習」というより、単なる「状況判断」のことじゃない?−『仕事の中での学習』
(正統的周辺参加モデル)
反省的実践家は行為しながら考える(副題より)−『専門家の知恵』
(経験学習モデル+批判的学習モデル)
以下に凡例を示す。
(1)学校や研修といった教育プログラム内で修得した知識・スキルを、ビジネス等の実務現場に転移する、というモデル。具体的には4つのプロセスで学習が構成される。
【知識創造】研究者が伝達可能な知識を創造する。
【知識伝達】創造された知識を教育プログラム内で教員(講師)が伝達する。
【知識修得】伝達された知識を学習者が習得する。
【知識応用】修得した知識を学習者が現場で応用する。
(2)知識とは限定された状況のみで効果を発揮するものではなく、状況の境界線を越えて、多くの(場合によっては普遍的な)状況で適用可能である。
(3)理論体系が構築されているアカデミック(抽象的)な知識の学習。
(4)「知識応用」は現場に任されているため、教育プログラムの中で「知識応用」までを見据えた学習プロセスの全体像を示す必要がある。なお、このモデルでは、職人技のように、限られた文脈に依存した"経験的知識"や、特定の個人・場面に規定される"事例的知識"のような暗黙的な知識・スキルは対象外となる。
(5)アカデミックな知識を伝達する教師。
B.経験学習モデル(experiential learning model)
(1)知識を受動的に覚えるのではなく、自らの経験から独自の知見(マイセオリー)を紡ぎ出す、というモデル。具体的には4つのステージで学習が構成される。
【具体的経験】その人自身の状況下で、具体的な経験をする。
【省察】自分自身の経験を多様な観点から振り返る。
【概念化】他の状況でも応用できるよう、一般化、概念化する。
【試行】新しい状況下で実際に試してみる。
(2)現場で必要なのは、アカデミックな研究の蓄積から体系的に構築された専門知識を適用することではなく、混沌とした活動の中で限定的・一時的な対処法を次々と即興的に生み出していくことである。ただし、そのような経験知は断片的なものであるから、マイセオリーの次元まで高めるために「学び方を学ぶ」必要がある。
(3)学習転移モデルでは対象外となっていた学習、すなわち"経験的知識"や"事例的知識"のような暗黙的な知識・スキルの修得。
(4)省察、概念化のステージでは、自分自身が埋め込まれた状況=経験から一歩抜け出すという、非常に難しい行為が求められる。なお、アカデミックな知識が全く役に立たないというわけではなく、概念化のステージにおいてはむしろ積極的に活用する余地がある。
(5)学習者とは違った視点から多角的な問いかけを行い、学習者が現実の状況や経験の束縛から離れて省察するのをサポートするファシリテータ。
C.批判的学習モデル(critical thinking model)
(1)自分の置かれた状況を無批判に"当たり前"とする姿勢を問題視し、自分の行動や考え方について、「本当に望ましい姿とは何か?」を問い、現状に対する問題意識を育む、という学習モデル。
学習移転モデルと経験学習モデルは、対象としている知識が形式知か暗黙知かという違いはあるものの、総じて"学び方(how to learn)を学ぶ"モデルであるのに対し、批判的学習モデルは"何を学ぶか(what to learn)を学ぶ"ものである。
批判的思考には以下の3つのモードがある。
【手段探求モード】活動の背後にあるモノの見方・考え方と、そこから導かれる具体的な活動目的を所与とし、目的達成のために効果的・効率的手段を採用しているかを省察し、「望ましい手段」を再設定する。
【目的合意モード】活動の背後にあるモノの見方・考え方を所与とし、そこから導かれる具体的な活動目的が、他者の視点からも納得できる合理性を持っているかを省察し、「望ましい活動目的」を再設定する。
【背景批判モード】活動の背後にあるモノの見方・考え方そのものを省察し、望ましい「モノの見方・考え方」を再設定する。
(2)学習とは、日常の中で複合的・継続的に進行する組織・個人の行動や考え方が変化していくプロセスであるから、何が望ましい行動・考え方なのかは状況に応じて流動的に変化する。よって、学習のスタートとして、あるべき姿をその都度設定しなければならない。
(3)(同書では言及されていないが、)既存の見方・考え方や目的、手段に従って行動しても望ましい結果が得られない場合。あるいは、既存の見方・考え方や目的、手段に従えば結果はある程度ついてくるが、自らの行動が惰性に陥っている場合。
(4)批判の対象は他者ではなく、自己に向けられる必要がある。加えて、(同書では言及されていないが、)組織全体を批判的に省察する場合には、自己と組織を切り離して「会社の・・・という点が問題だ」と批判するのではなく、「われわれの・・・という点が問題だ」という批判をしなければならない。
(5)(同書では言及されていないが、)現実を無批判に受け入れる代わりに、様々な判断を一旦留保し、現場で起こっている事象をつぶさに観察しながら、「本当にそれでよいのか?」、「もっと別の選択肢があるのではないか?」などと問いかける懐疑主義者。
D.正統的周辺参加モデル(legitimate peripheral participation model)
(1)学習は仕事の中の日常的行為に埋め込まれており、学習者は学習と仕事を分離して意識しているわけではないとする考え方。この考え方においては、個人の学習成果と共同体の活動成果は一体不可分の関係にあるとされる。
(2)学習転移モデル、経験学習モデル、批判的学習モデルのいずれも、「個人としての学習成果をいかに組織としての仕事に結びつけるか」という「学習転移問題」を抱えていた。これに対して正統的周辺参加モデルは、この問題の背後にある「学習VS仕事」、「個人VS組織」という二項対立そのものを否定している。
(3)組織における日常業務のあらゆる場面。
(4)正統的周辺参加モデルの考え方は非常に多岐に渡っており、研究者の間でもこれといった明示的なモデルが確立されていない。また、このモデルでは、新しい研修プログラム、効果的な教授法、解りやすい教材といった処方箋が示されておらず、処方箋レベルの解決策の限界を示している。
(5)仕事そのものが学習となるようなワークプレイスのデザイナー。一例として、社内で新規事業プロジェクトを立ち上げ、複数部門から人材を集めてクロスファンクショナルチームを形成し、必要な予算や権限を獲得して、メンバーの潜在能力を引き出しながらプロジェクトを完遂するような社内インキュベータ。
コルブの経験学習モデルの欠点を補った実証研究−『経験からの学習』(経験学習モデル)
ナレッジマネジメントシステムの話は一切出てきません−『経験知を伝える技術』
(学習転移モデル+経験学習モデル)
「状況に埋め込まれた学習」というより、単なる「状況判断」のことじゃない?−『仕事の中での学習』
(正統的周辺参加モデル)
反省的実践家は行為しながら考える(副題より)−『専門家の知恵』
(経験学習モデル+批判的学習モデル)
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以下に凡例を示す。
学習モデルの名称A.学習転移モデル(learning transfer model)
(1)概要
(2)前提となる知識観・学習観
(3)モデルが有効なケース
(4)モデルの活用にあたっての注意点
(5)人材育成担当者の役割(※人事部門・人材育成部門の担当者に加えて、研修講師、現場でメンバーの学習をサポートする上司・先輩なども含まれる)
(1)学校や研修といった教育プログラム内で修得した知識・スキルを、ビジネス等の実務現場に転移する、というモデル。具体的には4つのプロセスで学習が構成される。
【知識創造】研究者が伝達可能な知識を創造する。
【知識伝達】創造された知識を教育プログラム内で教員(講師)が伝達する。
【知識修得】伝達された知識を学習者が習得する。
【知識応用】修得した知識を学習者が現場で応用する。
(2)知識とは限定された状況のみで効果を発揮するものではなく、状況の境界線を越えて、多くの(場合によっては普遍的な)状況で適用可能である。
(3)理論体系が構築されているアカデミック(抽象的)な知識の学習。
(4)「知識応用」は現場に任されているため、教育プログラムの中で「知識応用」までを見据えた学習プロセスの全体像を示す必要がある。なお、このモデルでは、職人技のように、限られた文脈に依存した"経験的知識"や、特定の個人・場面に規定される"事例的知識"のような暗黙的な知識・スキルは対象外となる。
(5)アカデミックな知識を伝達する教師。
B.経験学習モデル(experiential learning model)
(1)知識を受動的に覚えるのではなく、自らの経験から独自の知見(マイセオリー)を紡ぎ出す、というモデル。具体的には4つのステージで学習が構成される。
【具体的経験】その人自身の状況下で、具体的な経験をする。
【省察】自分自身の経験を多様な観点から振り返る。
【概念化】他の状況でも応用できるよう、一般化、概念化する。
【試行】新しい状況下で実際に試してみる。
(2)現場で必要なのは、アカデミックな研究の蓄積から体系的に構築された専門知識を適用することではなく、混沌とした活動の中で限定的・一時的な対処法を次々と即興的に生み出していくことである。ただし、そのような経験知は断片的なものであるから、マイセオリーの次元まで高めるために「学び方を学ぶ」必要がある。
(3)学習転移モデルでは対象外となっていた学習、すなわち"経験的知識"や"事例的知識"のような暗黙的な知識・スキルの修得。
(4)省察、概念化のステージでは、自分自身が埋め込まれた状況=経験から一歩抜け出すという、非常に難しい行為が求められる。なお、アカデミックな知識が全く役に立たないというわけではなく、概念化のステージにおいてはむしろ積極的に活用する余地がある。
(5)学習者とは違った視点から多角的な問いかけを行い、学習者が現実の状況や経験の束縛から離れて省察するのをサポートするファシリテータ。
C.批判的学習モデル(critical thinking model)
(1)自分の置かれた状況を無批判に"当たり前"とする姿勢を問題視し、自分の行動や考え方について、「本当に望ましい姿とは何か?」を問い、現状に対する問題意識を育む、という学習モデル。
学習移転モデルと経験学習モデルは、対象としている知識が形式知か暗黙知かという違いはあるものの、総じて"学び方(how to learn)を学ぶ"モデルであるのに対し、批判的学習モデルは"何を学ぶか(what to learn)を学ぶ"ものである。
批判的思考には以下の3つのモードがある。
【手段探求モード】活動の背後にあるモノの見方・考え方と、そこから導かれる具体的な活動目的を所与とし、目的達成のために効果的・効率的手段を採用しているかを省察し、「望ましい手段」を再設定する。
【目的合意モード】活動の背後にあるモノの見方・考え方を所与とし、そこから導かれる具体的な活動目的が、他者の視点からも納得できる合理性を持っているかを省察し、「望ましい活動目的」を再設定する。
【背景批判モード】活動の背後にあるモノの見方・考え方そのものを省察し、望ましい「モノの見方・考え方」を再設定する。
(2)学習とは、日常の中で複合的・継続的に進行する組織・個人の行動や考え方が変化していくプロセスであるから、何が望ましい行動・考え方なのかは状況に応じて流動的に変化する。よって、学習のスタートとして、あるべき姿をその都度設定しなければならない。
(3)(同書では言及されていないが、)既存の見方・考え方や目的、手段に従って行動しても望ましい結果が得られない場合。あるいは、既存の見方・考え方や目的、手段に従えば結果はある程度ついてくるが、自らの行動が惰性に陥っている場合。
(4)批判の対象は他者ではなく、自己に向けられる必要がある。加えて、(同書では言及されていないが、)組織全体を批判的に省察する場合には、自己と組織を切り離して「会社の・・・という点が問題だ」と批判するのではなく、「われわれの・・・という点が問題だ」という批判をしなければならない。
(5)(同書では言及されていないが、)現実を無批判に受け入れる代わりに、様々な判断を一旦留保し、現場で起こっている事象をつぶさに観察しながら、「本当にそれでよいのか?」、「もっと別の選択肢があるのではないか?」などと問いかける懐疑主義者。
D.正統的周辺参加モデル(legitimate peripheral participation model)
(1)学習は仕事の中の日常的行為に埋め込まれており、学習者は学習と仕事を分離して意識しているわけではないとする考え方。この考え方においては、個人の学習成果と共同体の活動成果は一体不可分の関係にあるとされる。
(2)学習転移モデル、経験学習モデル、批判的学習モデルのいずれも、「個人としての学習成果をいかに組織としての仕事に結びつけるか」という「学習転移問題」を抱えていた。これに対して正統的周辺参加モデルは、この問題の背後にある「学習VS仕事」、「個人VS組織」という二項対立そのものを否定している。
(3)組織における日常業務のあらゆる場面。
(4)正統的周辺参加モデルの考え方は非常に多岐に渡っており、研究者の間でもこれといった明示的なモデルが確立されていない。また、このモデルでは、新しい研修プログラム、効果的な教授法、解りやすい教材といった処方箋が示されておらず、処方箋レベルの解決策の限界を示している。
(5)仕事そのものが学習となるようなワークプレイスのデザイナー。一例として、社内で新規事業プロジェクトを立ち上げ、複数部門から人材を集めてクロスファンクショナルチームを形成し、必要な予算や権限を獲得して、メンバーの潜在能力を引き出しながらプロジェクトを完遂するような社内インキュベータ。