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June 20, 2011

【第18回】プロセスを分解して特定プロセスを独占する(1)―ビジネスモデル変革のパターン

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【パターンの概要と適用できるケース】
 今回のパターンは、以前の「【第13回】プロセスを分解して特定プロセスに特化する―ビジネスモデル変革のパターン」とも関連している。業界全体が成熟してくると、バリューチェーンを構成する各プロセスに特化した専門プレイヤーが現れやすくなるのだが、自社は最終顧客との接点に特化し、他のプロセスは外部企業との提携でカバーするのが【第13回】のパターンであった(デル、ヴァージン航空など)。

 最終顧客との接点に特化する企業がいるということは、バリューチェーンのもっと上流のプロセスを専門とする企業も存在することを意味する。それが今回のパターンである。そして【第13回】と今回の大きな違いは、川上のプロセスではしばしば寡占や独占に近い状態が見られるということである。

 岡山のメーカーで、地元大学から多くの学生を研究職として採用していた「林原」は、経営陣が滅茶苦茶な不動産投資をやったせいで倒産してしまったが、本来は甘味料などに使われる糖質「トレハロース」や抗がん剤「インターフェロン」を量産する世界的なメーカーであり、トレハロースの世界生産をほぼ独占している。トレハロースの取引先は全国で約7000社、製品は約2万品目にのぼる。だから、林原が倒産した時には、全国の菓子メーカーが生産不能に陥るのではないかと危惧されたぐらいである(※1)。

 バリューチェーンの上流で寡占が進んでいることは、最近のタブレットPCの急速な広まりからも見て取れる。アップルがiPadを発表してから、世界中のメーカーがこぞってタブレットPC市場に参入した。各社が迅速に製品を開発できたのは、タッチパネルの製造に長けたメーカーが限られているからとも考えられる。要するに、メーカー各社は製品企画こそ自社でするものの、重要なパーツはそれらのタッチパネルメーカーに頼っているのである(その結果、どのメーカーのタブレットPCも、外観は似たようなものになってしまうわけだが)。

 バリューチェーンの上流で寡占が進んでいることを示すもう1つの象徴的な出来事が、実は東日本大震災の直後にあった。部品供給元が被災した自動車メーカー各社は、一時的に生産ラインをストップせざるを得なかった。しかし、復旧は時間の問題と考えられていた。

 一般的に、自動車業界は、最終組立メーカーを頂点として、川上(1次サプライヤ、2次サプライヤ、3次サプライヤ・・・)に行けば行くほどプレイヤーの数が多くなる「ピラミッド構造」になっている(※2)。これは、供給面ではリスク分散のメリットがある。つまり、2次、3次あたりのサプライヤで一時的に供給が途絶えても、他のサプライヤから部品を調達することが可能になるからだ。

 ところが、生産ラインの復旧には予想以上の時間がかかった。なぜならば、一般的な理解とは異なり、電子部品やゴムや樹脂といった材料は、むしろ供給企業数が集約されており、1社の被災が大きく影響することが解ったからである。言い換えれば、ピラミッド構造ではなく、「ひょうたん型の構造」になっていたというわけだ。

 電子部品の代表例であるマイコンを例に挙げてみよう。デンソーや日立オートモティブシステムズ、ケーヒンなどECU(電子制御ユニット)を供給する部品メーカーは多くありますが、その内部に使われているマイコンは、ルネサスエレクトロニクスや富士通セミコンダクターなど何社かに絞られている(※3)。だから、ルネサスの工場が被災すれば、デンソーの工場はストップし、デンソーから部品供給を受けているトヨタも身動きが取れなくなってしまうのである。

【パターンが当てはまる事例】
《インテル、マイクロソフト》
 PC業界では、インテルがCPUを、マイクロソフトがOSをほぼ独占している。ここで重要なのは、インテルの新しいチップやMSの新しいOSが、どのメーカーの機器に搭載されても問題なく動作するかどうかである。しかしながら、PCの周辺機器の数は非常に多く、動作保証が容易ではない。また、半導体の技術革新のスピードは非常に速い(「ムーアの法則」)。よって、インテルが新しいチップを開発してから、それに合わせて顧客企業が新しい周辺機器を開発したとしても、周辺機器ができあがる頃にはインテルが次世代チップの開発を終えているかもしれない。

 そこでインテルは、複数の顧客企業をネットワーク化し、インテルのチップと周辺機器とをつなぐインターフェースを細かく調整しながら、互換性のある製品をセットで同時に市場へ投入できる体制を作り上げている(※4)。おそらくMSも、同じようなネットワークを形成しているものと思われる。

 ちょっと話が逸れるけれども、携帯電話のOSは、今のところアップルのiOSとグーグルのAndroidの一騎打ちのような構図になっている。iOSはMSのWindowsと同じように完全にブラックボックス化されているのに対し、Androidは携帯メーカーによるカスタマイズが可能だ。

 だが、ここにはセキュリティの問題が潜んでいる。MSはWindows Updateを通じて、セキュリティパッチをあらゆるPCに一斉に配布する仕組みを既に10年以上続けている。しかし、Android搭載の携帯電話にセキュリティ上の欠陥が生じた場合、果たしてグーグルはどこまで対策を講じることができるのだろうか?

 逆に言うと、MSのWindows Phone 7は、現時点ではアップルとグーグルに押されて注目度が低いけれども、セキュリティ面に関してはPCのOSで培った能力を活用することで、最もセキュリティの高い携帯電話に化ける可能性がある。さらに言えば、アップルが基本的に自前主義であり、製造のアウトソーシング先が限定的であるのに比べると、MSはメーカーとの広いネットワークを有している。だから、MSが本気を出せば、ハイセキュアでかつバリエーションに富んだスマートフォンを次々と市場に投入し、市場の構造をがらりと変えてしまうことだってできるかもしれないのである。

 (続く)

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(※1)「トレハロース生産危機、大企業「林原」が会社更生法申請」(総合ビジネスニュースSpotlight、2011年2月11日)
(※2)「Part4 自動車メーカー編(1)――CTO販売が特徴,新車開発プロセスをPLM/SCMシステムが支える」(ITPro、2007年12月13日)
(※3)「ピラミッド型でなかった部品サプライチェーン」(日経Automotive Technology、2011年6月7日)
(※4)リチャード・K・レスター著『イノベーション―「曖昧さ」との対話による企業革新』(生産性出版、2006年)

リチャード・K. レスター
生産性出版
2006-03
posted by Amazon360
June 14, 2011

【第17回】プロセスの時間を大幅に短縮する(2)―ビジネスモデル変革のパターン

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 (前回からの続き)

 ただここで1つ付け加えておきたいのは、何でもかんでも早ければよいというわけではない、ということである。重要なのは、「顧客のニーズに合致した製品」、あるいは「顧客のニーズを先取りした製品」を素早く投入することであるのを忘れてはいけない。

 先ほどのホンダの事例に関して言うと、今では自動車の製品開発リードタイムも随分と短くなっている。しかし、だからといって、必ずしも「売れる自動車」が生まれるとは限らない。日産からアウディに転職したデザイナーのインタビューで、興味深いくだりがあったので紹介したい(※2)。
 日本の企業でデザインしていると、デザインした車が世の中に出ないうちに、もう次のモデルのデザインを始めなければなりません。非常に高い瞬発力を要求されるのです。個人的にはそれが美しいものをつくる環境を壊しているのではないか、本質的なものから遠ざかっているのではないかと思うようになったのです。
 アウディの場合、7〜10年の周期で、できるだけ完成度の高い車を出そうと考えます。アウディのデザイナーに比べると日本のデザイナーは倍の時間働いていると思う。しかし出てくる車の効果はたった数ヶ月なのです。アウディでは、働く時間は日本企業に比べれば比較にならないほど少ないですし休暇もたっぷりあります。でも出てくるクルマは1.5倍の値段がつき、2倍の期間新鮮さを保つのです。アウディはいま、デザイナーにとって最高の環境にあります。それだけに自分の仕事に対しても、逃げ道がないのも事実です。
 「とにかく早く製品開発すればいい」という強迫概念に取りつかれている代表的な企業は、おそらく携帯電話メーカーであろう。携帯電話業界では、1年間に100種類を超える新しい機種が登場する(※3)。1機種あたりの開発費は100億円程度と言われるが、果たして開発費を回収できるほど新機種は売れているのだろうか?(※4)

 携帯電話の買い替えサイクルは、約3.5年である(※5)。携帯電話の普及台数は人口とほぼ等しい1億2,000万台だとすると、年間の市場規模は1億2,000万台÷3.5年=約3,500万台となる。これを100機種で割れば、1機種あたりの売上台数は平均して35万台と推計される。

 携帯電話1台あたりの売上・利益はどのくらいだろうか?ドコモの機種の場合は、ドコモの決算資料から推測すると、携帯電話メーカーが得られる売上は1台あたり4.5万円のようである。ここでは便宜的に、他のキャリアに関しても、メーカーの1台あたり売上は4.5万円である仮定する。また、製造原価については、全メーカーを平均すれば約70%になるそうなので、1台あたりの粗利は、4.5万円×30%=1.35万円ということになる。

 よって、1機種あたりの総粗利は、35万台×1.35万円=約47.3億円となり、携帯電話メーカーは開発費の半分しか回収できない計算になる。そこで、キャリアが残りの開発費を負担することになるのである。ソフトバンクの孫社長が、「SIMロックを解除してキャリアが開発費の負担をやめれば、端末価格は4万円ほど上がってしまう」と発言したことがあったが、この数字はあながち嘘でないようだ。なぜならば、メーカーは開発費を自力で回収するために1台あたりの販売価格をほぼ倍にし、キャリアは値上がり分をそのままユーザーに転嫁するからである。

 ここでもう少しよく考えたいのだが、根本的な問題は、売れるかどうかもよく解らずに、むやみやたらに新機種を投入している携帯電話メーカー(とキャリア)の姿勢にあるのではないだろうか?消費者側から見れば、「とにかく競合が新機種を出すから、うちも新機種を出そう」という考えで新機種を出しているに過ぎない感じがする。

 その結果、確かに製品開発リードタイムそのものは短くなったけれども、メーカーの利益は出ない。国内の携帯電話メーカーの営業利益率は数パーセント台にとどまっており、ノキアやモトローラよりも低いと言われる。まして、営業利益率30%台を誇るiPhoneには、まったく及ばない(※6)。

【考えられるCSF(Critical Success Factor:最重要成功要因)】
 バリューチェーンの各プロセスの時間を短縮する方法の多くは技術的なものである。例えば、設計リードタイムを短くしたければ、過去の設計図を流用できるCAD/CAEシステムを導入すればよい。物流リードタイムを短くしたければ、高性能の物流管理システムを構築すればよい。悲しいかなこうした技術的な方法は、競合他社に簡単に真似されてしまうものだ。

 「顧客のニーズに合致した製品」、あるいは「顧客のニーズを先取りした製品」を素早く投入するためには、「顧客の潜在ニーズを素早く察知する『判断能力』」と、「キャッチした潜在ニーズを、製品の機能やデザインに迅速に反映させる『意思決定のメカニズム』」こそがカギを握る。これらは人に依存している部分が大きく、競合他社が模倣するのは困難である。逆に言えば、タイムベース競争のCSFは、この2つの属人的な要素にあると考えられる。

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(※2)一條和生著『MBB:「思い」のマネジメント−知識創造経営の実践フレームワーク』(東洋経済新報社、2010年)

一條 和生
東洋経済新報社
2010-06-18
おすすめ平均:
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posted by Amazon360

(※3)「検証用の携帯電話自営コストを大幅に削減するための新サービス「オンデマンドサポートサービス」を提供開始。」(株式会社ケータイラボラトリー、2008年11月30日プレスリリース)
(※4)これ以降の試算は、人力検索はてなの「日本の携帯電話の製造費ってどのくらいか、開発費はどのくらいかかるのか、教えてください。また、iphoneの開発費・製造費もご存知でしたらお願いします。」の数値を参考にしている。
(※5)「長持ち志向鮮明に!−耐久消費財 買い替え年数一覧表。」(CostDown、2009年9月10日)
(※6)「iPhoneの利益率、市場で突出」(VILLAGE Newspaper、2010年9月27日)
June 13, 2011

【第17回】プロセスの時間を大幅に短縮する(1)―ビジネスモデル変革のパターン

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【パターンの概要と適用できるケース】
 今回のパターンは、もうかなり昔の本になってしまうけれど、BCGの『タイムベース競争―90年代の必勝戦略』を参考にしている(※1)。タイムベース競争とは、端的に言うと、「バリューチェーンを構成するプロセスの時間を大幅に短縮することで、競合優位性を獲得する」という戦略である。全てのプロセスを短縮する必要はないが、一部のプロセスでも短くすることができれば、競合に先駆けて市場のチャンスをつかむことが可能になる。しかも、単なる改善によって微々たる時間短縮を実現するのではなく、圧倒的な差異を生み出すことが肝要である。

【パターンが当てはまる事例】
《本田技研工業》
 先ほどの『タイムベース競争』で紹介されていた事例で、「へぇ〜」と思ったものを1つ引用。
 オートバイメーカーがなぜ自動車でも成功したか、その勝因はまさにタイムベース競争にある。そもそもオートバイという乗り物は、不要不急の商品である。重要なのは本来の機能性より、ファッション性である。流行はすぐに変化するから、素早く商品開発に取り入れなければならない。したがって、普通、オートバイメーカーは1台のオートバイを1年半で開発する。そして、1年半で開発されたオートバイは1年で売れなくなる。これがオートバイという商品のサイクルである。

 一方、自動車メーカーは4年から5年の開発期間をとっていた。しかも、新しい車種を開発したら、金型の償却などの関係で最低4年は売らないとコストが合わない。少々乱暴な言い方をすれば、新車の開発にあたっては8年後、9年後にも売れる車をつくらなければならない。

 今日の社会では、8年後や9年後に売れる車はおろか、5年後がどういう世の中になっているかさえ予測できない。だから、当然、新車の開発は予測はずれが多くなる。

 そこへ本田技研工業が進出し、1年半で新車を開発するというオートバイメーカーの迅速性を活かして、開発期間をトヨタや日産より短縮したのである。開発期間が短くなった分だけ、ホンダの車はユーザーのもっとも新しいニーズを組み込むことができるから、カッコいい、ナウいと評価される。
 「ナウい」という表現がすでに古臭いが、もう20年ぐらい前の事例なのでその辺は勘弁してくださいな(汗)。製品開発リードタイムの短縮は、今回のパターンの典型例である。売れる製品を競合よりも早く市場に投入すれば、市場シェアを一気に獲得できるのは自明である。

 「ムーアの法則」が通用していた半導体業界も、製品開発リードタイムをいかに短縮するかが重要な経営課題であったが、インテルはまさにこの課題をクリアして王者に君臨したメーカーであると言える。

《オフショア開発》
 システム開発では、海外の時差を活用して、事実上24時間の開発体制を実現しているところが多くなってきている。例えば、日本とブラジルでは12時間の時差があるから、日本で仕様書を起こしてブラジルに送り、日本人が眠っている間にブラジルで開発を進めることが可能になる。ブラジル人はでき上がったソースコードを日本に送り、今度はブラジル人が眠っている間にそれを日本人がチェックして、修正点をブラジルにフィードバックする。こうすると、理論上は日本国内だけで開発をする場合に比べて、半分の時間で開発が完了する計算になる(もちろん、こんなにスムーズに事が進むわけではないが・・・)。

 他にも、部品の調達リードタイムや製品の納入リードタイムを短縮することで、競合優位性を獲得しているのが、GAPやユニクロなどに代表されるSPAのビジネスモデルである(「【第14回】プロセスを垂直統合する―ビジネスモデル変革のパターン」を参照)。ただ、このモデルにもまだまだ改善の余地はある。というのも、SPAモデルは基本的に、「需要予測が可能」という前提に立っているからである。その需要予測を競合よりも頻繁に行うことで、予測と実績の乖離を防ごうとしているわけだ。

 ユニクロが需要予測に頼っていることは、昨年末から今年初めの気温が比較的高かったせいで、ユニクロの冬物が不振に陥ったことからもうかがえる。つまり、ユニクロの需要予測が外れたのである。また、需要予想が外れたと解った後で生産計画を変更し、素材の種類や量を変えて、生産ラインを組み替えるというプロセスにも、まだ不十分な点があることを示している。

 「需要予測が可能」という前提そのものをひっくり返し、「需要予測はしなくてもいい」と言い切っているのが、制約理論(TOC:Theory of Control)で知られるエリヤフ・ゴールドラットである(「「需要は予測すべき」という前提を大胆にも捨てたゴールドラット−『ザ・チョイス』」を参照)。ゴールドラットの主張は、一言でまとめると「売れた分だけ作って補充する」ということになる。しかしながら、ゴールドラットによれば、ここまでのサプライチェーンを実現している企業はほとんどないという。

 (続く)

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(※1)ボストン・コンサルティング・グループ著『タイムベース競争−90年代の必勝戦略』(プレジデント社、1990年)