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March 08, 2012

【ドラッカー書評(再)】『経営者の条件』―「強みに集中せよ」と言っても、エグゼクティブに求められる能力は広く深い(2)

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ドラッカー名著集1 経営者の条件ドラッカー名著集1 経営者の条件
P.F.ドラッカー

ダイヤモンド社 2006-11-10

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 前回の記事「【ドラッカー再訪】「強みに集中せよ」と言っても、エグゼクティブに求められる能力は広く深い(1)―『経営者の役割』」では、エグゼクティブが知識労働者たりうる所以であるところの専門知識は、いくら「強みに集中せよ」とは言え、幅広いものが求められることを書いた。だがそれに加えて、ドラッカーが指摘する「成果を上げるための5つの能力」が、エグゼクティブに対しさらに高い要求を突きつける。解りやすいところから言えば、1番目は「時間管理」であり、4番目は「優先順位づけ」の能力である(※)。

 2番目の「貢献(成果)に焦点を当てる」は、成果は組織の外部にしか存在しない、すなわち顧客が成果を規定するという点を踏まえると、顧客のニーズを的確に捉え、それに適切に応えることを意味するから、一言で言えば「マーケティングの能力」である(顧客と直接接する機会が少ないスタッフ部門に関しては、スタッフ部門の成果は、スタッフ部門の外にあるライン部門という”社内顧客”が規定する、と考えればよいだろう)。

 3番目は、「強みに集中する」という部分もさることながら、「上司、同僚、部下の強みを活かさなければならない」という点も非常に重要である。つまり、エグゼクティブの仕事は個人単位では完結せず、必ず他者との協業を必要とする。したがって、対人関係能力やコミュニケーション能力、チームビルディングの能力、動機づけの能力などといった、複合的なヒューマンスキルが必須となる。

 5番目は意思決定について述べられているが、意思決定の大部分は会議を通じて下されるから、「会議を運営する能力」と言い換えられるだろう。だが一口に会議を運営する能力と言っても、以下に示す通り、実に幅広い行動とマインドをエグゼクティブは習得しなければならない。

 ・会議の適切な目的、アジェンダを設定する。
 ・意思決定によって影響を受ける社内外の利害関係者を特定する。
 ・利害関係者をモレなく会議に出席させる。
 ・議論に必要な情報を前もって準備する。
 ・会議の出席者から、追加的な情報を引き出す。
 ・情報の意味や解釈をめぐって、出席者の見解を擦り合わせる。
 ・下準備した情報と、会議の場で出た情報に基づいて、選択肢を形成する。
 ・選択肢を取捨選択する際の基準を設定する。
 ・上記の基準に従って、それぞれの選択肢のメリット、デメリットを十分に検討する。
 ・リスクを伴う選択肢の場合は、リスクを低減する補完的な施策も検討する。
 ・最終的に選択肢を絞り込み、それを現場でのアクションに落とし込む。
 (誰が、何を、いつまでにするのか?そのタスクの成否は何によって判断するのか?)
 ・(会議全体を通じて、)出席者からモレなく公平に意見を引き出す。
 ・(会議全体を通じて、)各出席者の意見を尊重して最後まで聞く。反対意見を歓迎する。また、エグゼクティブ自身だけでなく、出席者全員にも同じマインドで会議に臨んでもらうよう要請する。
 ・(会議終了後、)会議で意見が採用されなかった出席者、他の出席者から批判を受けた出席者を心理的にフォローする。
 ・(会議終了後、)選択肢の実行によって、不利益や負担を被る利害関係者を事後フォローする。

 この5つの能力を全て身につけよというのは、ものすごくハードルが高い。ところが、恐ろしいことに、5つの能力の一部にでも著しい欠陥があると、いくら優れた専門知識を有していても、それが無価値になる。あるコンサルティングファームの方から聞いた話を紹介すると、そのファームには「顧客満足度」を専門とするコンサルタントがいたそうだ。彼の専門知識は非常に高度で、何の下準備もなしに半日程度のセミナーを難なくこなせるほど卓越していた。

 しかし皮肉なことに、彼が手がけるコンサルティングプロジェクトの顧客満足度は、社内でも最低ランクだったという。彼は、顧客満足度とは何たるかを誰よりも深く知っていたのに、実際に自分のクライアントの満足度を上げることができなかった。おそらくは、ヒューマンスキルの面で何らかの重大な欠陥があったのだろう。

 もう1つ、私が以前取引をしていた別の企業の話をしよう。この企業は、「時間管理」と「会議を運営する能力」が不足しており、一緒に仕事をしていて随分と悩まされた(もうその企業とは取引していない)。時間管理に関しては、「単位作業」あたりの必要時間を理解している人間があまりに少なすぎて驚いた。「単位作業」とは、平たく言えば「パワポ1枚を書き上げる作業」などのことである。より具体的な話をすると、

 ・各種データのエクセル集計に何時間かかるか?(分析データの種類、ボリューム、分析の粒度別に)
 ・会議の議事録をまとめるのに何時間かかるか?
 ・パワーポイントの資料作成に何時間かかるか?(資料のテーマ別、ボリューム別、難易度別に)
 ・顧客向けの提案書を書くのに何時間かかるか?(製品・サービス別、カスタマイズの範囲やレベル別に)
 ・製品・サービスのカスタマイズに何日かかるか?(製品・サービス別、カスタマイズの範囲やレベル別に)
 ・製品・サービスのバージョンアップに何週間かかるか?(製品・サービス別、追加機能の種類や難易度別に)
 ・(「成果を上げる5つの能力」の5番目とも関連するが、)会議の時間枠は何時間にするべきか?(会議のタイプ別、アジェンダの難易度別に)
 ・会社HPの1ページ分の原稿を書くのに何時間かかるか?(HPの記載内容別に)
 ・新規顧客を効率的に獲得するためには、顧客訪問を何回までにとどめるべきか?
 ・既存顧客のリピート案件を効率的に受注するためには、顧客訪問を何回までにとどめるべきか?

などに対する理解が、組織の上から下まで足りていない企業であった。この仕事は、取引先の社員の方々にもいろいろと作業をお願いしながら進めるプロジェクトだったのだけれども、いかんせんこういう状態だったので、私もスケジュールの立てようがなく、相当苦労した覚えがある。

 私も決して時間管理が上手とは言えないし、最後の方に挙げた営業活動に関しては、私自身も営業の経験がほとんどないため、これといった目安は持っていない(また、業種によって営業活動ボリュームの基準は大きく異なるはず)。とはいえ、個人的に経験則で作り上げた標準作業時間の目安をいくつか持っている。

 ・顧客企業との会議や、顧客企業の社員へのインタビューの議事録作成は、会議やインタビューの実施時間以内に収める。例えば、1時間のインタビューの議事録であれば、1時間以内に作成する。
 (※ちなみに、社内会議の議事録は、基本的にとっていない。ホワイトボードに全部まとめて、ホワイトボードの写真を参加者に送るだけである。顧客企業との会議に関しても、重要度が低ければこの方法にしたいのだが、コンサルティングの成果物として正式な議事録の納品を要求されることが多く、なかなか難しい)
 ・パワポの資料は、まずは1枚=1時間で作成する(レイアウトを構想してノートに下書きする時間を含む)。その後、社内レビュー・顧客チェックを経て修正が必要になった場合、修正に費やす時間は1枚=30分を目安とする。したがって、パワポ1枚あたりの平均作成時間は、1.5時間となる。
 ・Webや雑誌に寄稿するコラムは、1,000字=1時間を目安とする。なお、この原則はこのブログにも活かされている。
 ・上記の3原則については、作業が途中で中断されないように、まとまった時間を確保する。例えば、5枚のパワポを書く場合は、まず5時間の連続した時間を確保する。2,000字程度のコラムを書く場合は、2時間の連続した時間を確保する。これは、作業を中断してしまうと、作業再開時に思考回路を元に戻すのに時間がかかるためである。
 ・原則、2時間を超える会議は設定しない。2時間を超えると、私自身の集中力が持たない。2時間を超える場合は、決めようとしているアジェンダが多すぎるから、会議を分割すべき。
 ・逆に、30分という会議も設定しない。30分で決まる内容ならば、わざわざ会議の招集・運営という事務作業を伴わずに、業務中のコミュニケーションで解決すべきである。ただし、人事考課のフィードバックのように、プライバシーに配慮しなければならない内容は例外。

 これでも、標準作業の範囲と時間がもっと細かく設定されている工場のマネジャーが見たら、一笑に付すに違いない。しかし、この程度の大まかな基準でさえ、持っている人は少なかった。だから、その人自身が製品開発から携わった製品であるにもかかわらず、カスタマイズのスケジュールがいつまで経っても引けないマネジャーがいたり、私から1,500字程度の原稿を依頼すると平気で1日を費やす中堅社員がいたり、既存顧客のリピート案件なのに、仕様の確認と納品スケジュールの調整だけで5回も6回も顧客を訪問し、挙句の果てに案件自体が延伸になる営業担当者がいたり、といったことが常態化していた。

 「会議を運営する能力」の不足に至ってはもっと悲惨だった。書き出すとキリがないので1つだけにしておくけれども、その企業には「情報共有会議」という名前がついた週次の定例会議があり、私も何度か出席させてもらったことがある。文字通り、各出席者が先週の仕事を報告し、今週の仕事の予定を発表するという、情報共有のための場である。

 だが、この会議は2つの意味で間違っている。1つは、情報共有のため”だけ”の場をわざわざ設けなければならないということは、恒常的に社員の仕事がタコツボ化しており、日常的なコミュニケーションが欠落していることを意味する。つまり、各社員の職務範囲と、社員同士の連携を前提とした業務プロセスの設計が誤っているのである。

 もう1つの誤りは、この会議が意思決定を行う場ではなかった、ということである。情報共有会議の後に、何か具体的なアクションが各社員に割り振られたことはなかった。仮にこの会議が、お互いの仕事の生産性をチェックして改善点を指摘し合うとか、各社員が今の仕事で感じている課題をどんな些細なものでもいいから正直に告白し、その課題解決の支援者を特定するといった会議であったならば、まだ開催する意義もあっただろう。もっとも、こういった根深い問題を認識していながら、解決に導くことができなかった私も、いろんな意味で力不足だった。

 最後の方はかなり話が脱線してしまったけれど、本書に関してはもう1つだけ書きたいことがあるので、あと1回記事を書きます。それにしても、ドラッカーの本1冊に対してこのペースで記事を書いていたら、1か月の記事がDIAMONDハーバード・ビジネス・レビューの書評とドラッカー再訪企画だけでほとんど埋まってしまうなぁ・・・。ちょっとやり方を考えないと(汗)。


(※)余談だが、優先順位づけの能力に関して一番解りやすく書かれているのは、やはりスティーブン・コヴィーの『7つの習慣』だと思う。あの「重要度」×「緊急度」のマトリクスは、非常に使い勝手がよいと感じる。

7つの習慣―成功には原則があった!7つの習慣―成功には原則があった!
スティーブン・R. コヴィー Stephen R. Covey

キングベアー出版 1996-12

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October 25, 2011

D・カーネマンによる「認知バイアスを見抜く12の質問」―『「破壊的」経営論(DHBR2011年11月号)』

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 (DHBR2011年11月号の書評は今回で最後)

認知バイアスを見抜く12の質問 意思決定の行動経済学(ダニエル・カーネマン他)
 最後に取り上げる論文は、2002年にノーベル経済学賞を受賞した行動経済学の権威、ダニエル・カーネマンらによる論文。認知学者によると、人間の思考には「システム1」と「システム2」の2つがあるという。システム1は直観的な思考を、システム2は合理的な思考を支えている。システム1は、我々が日々直面する無数の意思決定の場面で、迅速に判断を下すのに役立つ。しかし一方で、システム1はバイアス(偏見)を生み出し、時に合理的・論理的な思考を妨げてしまう。

 この論文では、周囲からの提案を受けて重要な意思決定を下さなければならないという局面で、システム1による性急な判断を防ぎ、システム2による合理的な決断を導くための12の問いが提示されている。以下、太字で示した質問文は論文からの引用、各質問の補足説明は、論文の内容などに基づき私なりにまとめたものである。

.意思決定者が自問すべき質問
(1)提案チームが「私利私欲にかられて意図的に誤りを犯したのではないか」と疑われる理由はないか?
 表向きは立派な大義名分や目的を掲げているが、実はその裏で提案チームが私腹を肥やしているという話は、官民どちらの世界でもよくあることだ。ただ個人的には、そういう”私的な動機”というのも時には必要だと思う。極端なことを言えば、資本主義とは、個人の利潤動機を社会全体の富の創造へとつなげるシステムである(以前の記事「最初の動機は不純だって構わないんじゃないか?」を参照)。

 私的な動機の存在そのものが問題なのではなく、私的な動機が他の集団や社会にとってメリットを生まないことが問題である。最初の質問は、この点を見極めるのに役立つだろう。

(2)提案者たち自身が、その提案にほれ込んでいるか?
 以前の記事「果たして意思決定に感情は不要なのか?」でも書いたように、意思決定における感情の扱いは非常に難しい。興奮や刺激的といった感情は、チームメンバーを特定の結論へと急がせる傾向があり、多角的な視点から選択肢を洗い出したり、大小様々なリスクを想定したりするのを妨げてしまう。提案チームがあまりに熱心になっている場合は、彼らが行き過ぎた楽観主義に陥っていないかどうか、疑ってかかる必要がある。

 ただ、提案者自身がほれ込んでいないような提案内容では、相手を説得できないのも事実であろう。「私はそれほど魅力的だとは思わないのですが、あなたがやってみたら面白いと思いますよ(棒読み)」などという無責任な提案に耳を貸すマネジャーはいない。相手を説得し、さらに賛同者を増やしていくためには、一定の熱意が必要である。よって、提案を受けた人が識別しなければならないのは、提案チームが提案内容を検討している段階から興奮状態にあったのか、それとも検討プロセス自体は冷静に進められており、私に提案している今この時だけ興奮しているのか、ということである。

(3)提案チームのなかに反対意見があったか?
 質問(2)でも述べたが、提案チームが興奮状態にあると、重要なリスクを過小評価して合意形成に至ることがある。また、提案チームのメンバーの同質性が高いと、いわゆる「グループ・シンキング(集団思考)」に陥りやすくなる。さらに、メンバー間に上下関係があると(上司―部下、部長―課長といった組織図上の公式な上下関係だけでなく、メンバー間で自然と形成される非公式な上下関係も含まれる)、下の地位の人は反対意見を押し殺して、上の地位の人につき従うことがある。

 提案内容の複雑さや難易度の割に、提案チームがあまりにスピーディーに合意に至ったと感じた場合は、質問(3)の出番である。「反対意見がない」イコール「いい提案」ではない。GMのアルフレッド・スローンは、経営会議ですんなりと合意に至った場合には、「来週、もう一度この議題について話し合いましょう」と言って会議室を後にするのがクセだったという。

.提案者に問うべき質問
(4)顕著な類似性が、状況の分析に大きく影響するおそれはないか?
 提案内容の魅力を強調するために、「他社ではこうやっています」とか、「以前に社内でこういう活動をした時には、これぐらいの成果がありました」といった具合に、過去の成功事例を持ち出すことがある。そのような事例は確かに、提案内容の成功の可能性や効果の大きさを推し量る上で、欠かせない情報となる。

 しかし、その成功事例と今回の提案内容では、どのくらい状況が類似しているのかを提案者に問わなければならない。言い換えれば、事例の成功要件が、今回の提案内容でも本当に再現可能なのかどうかを十分に吟味する必要がある。

(5)信頼できる代替案が検討されたか?
 この質問の重要性は言うまでもないだろう。提案を受けた人は、チームの提案内容が”結論ありき”のものになっていないかどうかを、この質問を使って見定めなければならない。

(6)一年後に、同じ意思決定を繰り返さなければならないとしたら、どのような情報が必要になるか?それをいま入手できるか?
 この質問の意図をもっと端的に表すならば、提案を受けた人はその場で即決せずに、もう少し時間の猶予があるつもりで意思決定しよう、ということである。切羽詰まった状況に置かれた人間は、その時手元にある情報をうまくつなぎ合わせて、物事を何とか説明しようとする傾向がある。

 この傾向が裏目に出ると、提案を受けた人は、本当ならば提案内容のストーリーに欠陥があるにもかかわらず、全体としては何となく筋が通っているからOK、といった感じで、ついジャッジが甘くなってしまう。そして案の定、その欠陥が命取りとなって、提案内容が実行フェーズで失敗するのである。時間の誘惑に負けない姿勢が意思決定者には求められる。

(7)数字の出所を承知しているか?
 提案内容の効果が定量的な数値でシミュレーションしている場合には、提案チームに数値の根拠や試算のロジックを尋ねて、どこまでが事実に基づく数値・算定ロジックであり、どこからが仮説ベースなのかをはっきりさせる必要がある。試算の出発点となる数値自体が仮説ベースであるならば、効果が大幅に上下する可能性を覚悟しなければならない。

(8)「ハロー効果」が見られないか?
 ハロー効果とは、ある対象を評価をする時に、顕著な特徴に引きずられて、他の特徴についての評価が歪められる現象のことである。とりわけ、成功事例を目にすると、その事例のよいところばかりが”後光”(halo)のように輝いて見え、マイナス面を見失ってしまうことがある(故スティーブ・ジョブズに対する評価は、ハロー効果に陥りやすい一例と言えるだろう)。

 質問(4)とも関連するが、ハロー効果は他社のベストプラクティスを自社に導入する際に陥りやすい。ベストプラクティスの成功要件を自社で再現できるかどうかを問うのが質問(4)であるならば、質問(8)はベストプラクティスが潜在的に抱えているリスクやデメリットを炙り出すものである。

.提案を評価するための質問
(9)提案者たちは過去の意思決定にこだわりすぎていないか?
 人間は、”負け”が込んでくると、過去の負けを取り戻すために、通常よりも大胆な方法を選択する傾向がある。これは、カジノや賭け事で敗者を追い詰める心理である。提案チームが過去に何度か手痛い失敗を重ねているケースでは、自分たちの名誉を挽回するために、思い切った施策を提案してくるかもしれない。

 しかし、この場面で重要なのは、今ここで議論の的となっている投資案件が、投資に見合ったリターンをもたらすかどうかであって、投資に加えて過去の埋没費用まで取り戻せるほど高いリターンがあるかどうかではない。この点を間違えると、不相応のリスクを犯して危ない行動を選択することになるし、本来ならば適切な投資対効果がある案件を却下してしまうことになる。

(10)基本となるケースは楽観的すぎないか?
(11)最悪のケースは、本当に最悪なのだろうか?
(12)提案チームは慎重すぎないか?
 質問(10)〜(12)はセットでとらえた方がいいだろう。通常、ある提案を行う場合には、提案内容を実行した後のシナリオを何パターンか作成するものである。IT投資であれば、新システムの構築によってどのくらいのコスト削減が見込めるのかを試算するし、マーケティングへの投資であれば、各種プロモーション施策によって、どの程度の新規顧客が獲得できそうなのか、あるいは顧客満足度がどのくらい改善されそうなのかを推測する。一般的には、ノーマルなシナリオに、楽観的・悲観的という2つのシナリオを加えた3パターンのシナリオを作成するのが望ましいとされる。

 だが実際には、時間の都合や情報の制約のために、シナリオを3パターンも作らないことの方が多いだろう。2パターン用意されていれば、提案チームが楽観的・悲観的のどちらに傾いているかを察知することができる。ところが、1パターンしか提示されなかった場合には、提案チームの心理的傾向を図ることができない。そこで、この質問(10)〜(12)を用いて、提案チームのスタンスを探る必要がある。

 提案チームが過度に楽観的、または悲観的・慎重になっていることが明らかになったら、提案チームに対して、これまでのスタンスとは逆サイドから、もう1つシナリオを作成することを指示する。すると、楽観的過ぎたチームは見過ごしていたリスクを、悲観的過ぎたチームは明るい材料を発見できるかもしれない。
August 31, 2011

【再考察】菅直人首相はなぜ退陣に追い込まれたのか?(3完)

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(3)「重要度は高いが緊急性が低い」課題に着手し、復興を遅らせた
 今回の震災後に最優先で取り組むべき課題は、「被災地の生活支援と雇用創出」、「福島原発事故の鎮静化と健康被害など各種被害の抑制」の2つである。そして、そのための補正予算を早く成立させなければならない。それが、「国民の生活が第一」を掲げる民主党であればなおさらである。ところが、原発事故処理の失点で信頼を失った菅首相は、信頼を回復させるために、国民の目を別の方向へ向けさせようとした。それが、先ほどの「ソーラーパネル1,000万戸設置宣言」も含めた「再生エネルギーの推進」である。

 確かに、再生エネルギーの推進は重要課題である。原発事故を機に、国民も再生エネルギーを前向きに捉えるようになったことも、菅首相にとっては追い風であった。しかし、今この時期に検討するほど、優先度が高いと言い切れるだろうか?二酸化炭素の排出量が少ない日本は、世界から低酸素社会の早期実現を迫られているわけではない(少なくとも、アメリカほど切迫した課題ではない)。本来であれば、復興のメドがつき、事故処理の道筋が立った段階で、エネルギー戦略と経済成長戦略の見直しとともに、再生エネルギーの議論を始めるのが筋だろう。

 ところが、菅首相が再生エネルギーの推進を急ぎ、退陣条件にも「再生エネルギー特別措置法案の成立」が盛り込まれたものだから、国会で十分な議論が行われないまま法案は成立してしまった。24日に成立した再生エネルギー特別措置法は、

 ・電力会社側の買い取り価格をいくらにするか?
 ・電力会社の買い取りに必要な設備をどうやって増強するか?国はどこまで支援するのか?
 ・仮に、電力会社が買い取りを拒否をした場合はどうするのか?
 ・電力会社による値上げの影響を大きく受ける大口契約者への優遇措置をどうするか?

など多くの課題を抱えている(※12)。極端な言い方をすれば、今回の法律は”スカスカ”の法律であり、「とりあえず、再生エネルギーを推進することにしました!」と言っているにすぎないのである。

 以上、菅首相が退陣に追い込まれた要因を3つに分けて論じてきた。だが、ここでもう1つの疑問が出てくる。それは、これら3要因は野党側が菅首相を退陣に追い込む理由にはなるけれども、なぜ身内である民主党内でも激しい「菅降ろし」の風が吹いたのか?ということである。ここからは完全に推測の域を出ないけれども、菅首相の性格・資質そのものに問題があったのかもしれない。

 すなわち、東電社員を怒鳴り散らし、思いつきでポンポンと新しい施策を打ち出したように、被災地対応や原発事故対応に当たっている民主党議員にも怒鳴り声を上げ、支離滅裂な指揮命令を出していたことが理由で、”嫌菅”の民主党議員が増えていったのかもしれない。この辺りは、もうしばらくして民主党がぶっ壊れてくれれば、暴露話となってあちこちで表面化するだろう(※13)。

 忘れてはならないのは、東北地方の避難所が相次いで閉鎖へと向かっている中、仮設住宅の建築の遅れなどによって、福島県では現時点でもまだ約5,000人が避難所生活を続けており(※14)、岩手・宮城・福島の3県で震災後に離職を余儀なくされた約15万人のうち、就職したのは約1割の1万4,700人程度にとどまる(※15)という事実である。菅首相が民主党代表選の行方を悠長に眺めている間にも、東北は復興の道のりを歩んでいかなければならないのである。

(※12)「再生可能エネルギー特措法 残る課題 価格の決め方 買い取り拒否 優遇の線引き」(MSN産経ニュース、2011年8月24日)
(※13)MSN産経ニュースの記事「【民主漂流】党を覆う虚脱感 一人はしゃぐ首相、軽口叩きピザをパクリ」(2011年6月22日)では、岡田克也幹事長、さらには気性の荒いことで知られる仙谷由人官房副長官までもが、菅首相に怒鳴りつけられたことが報じられている。
(※14)「福島県内の避難所 10月閉鎖の工程厳しく」(河北新報社、2011年8月24日)
(※15)「民間の力で被災者に職を」(日本経済新聞、2011年8月23日)

【再考察】菅直人首相はなぜ退陣に追い込まれたのか? (1)(2)(3完)