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April 26, 2011

業務デザインの”定石”+組織の”価値観”=模倣困難な業務プロセス―『上流モデリングによる業務改善手法入門』

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世古 雅人
技術評論社
2010-11-23
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 (前回からの続き)

 ここで問題になるのは、「どうやって”価値ある”業務プロセスをデザインするか?」、「どうやって”To-Be”を描くか?」ということだ。本書は現状業務の記述方法については詳しいが、あるべき姿のデザインについてそれほど言及されていない印象を受けた。

 業務改善の”定石”みたいなものを使えば、あるべき姿をそれなりに描けるようになる。どんな定石があるのかと問われると答えるのが難しいけれども、ぱっと思いつくもので言うと、

 ・類似の業務は集約して、まとまった時間内で処理する
 ・各社員の待ち時間(=開始条件がそろわないがために仕事に着手できず、手持ち無沙汰にしている時間)が最小になるように、他の社員のタスクを入れ替えたり、担当者を変更したりする
 ・重要な意思決定を下す会議には、ステークホルダーを必ず出席させる
 ・成果物の品質チェックは、成果物の完成度が低い段階で実施する
 (できあがってから品質チェックをすると、手戻りのリスクが大きいため)

などが挙げられる。ただ、”定石”だけに頼ると、どの企業も似たような業務プロセスになり、特徴のない組織になってしまうかもしれない。特に、業務の固有性がその企業の競争優位性と密接に関連している場合は、優位性を消してしまう危険性すらある。

 業務の固有性が現れるのは、その企業に特有の”価値観”が業務プロセスに反映された場合である。例えば、トヨタの会議には、”必要以上に”多くの人が出席するらしい。席がなくて後ろに立っているだけの人も大勢いる。しかも、後ろに立っている人たちは特に発言するわけでもなく、ただ資料に目を通し、ずっと会議の成り行きを見守っているだけだそうだ。(※)

 これは、先ほどの”定石”からすればちょっと考えられない慣行である。「発言しないなら会議に出席するな!」と叱られた経験のある人ならば(私も経験あります・・・汗)、なおさら不可思議に思えるに違いない。そこまで言わなくても、会議に必要以上の人数が出席すると、広い部屋を確保して資料をたくさん印刷しなければならず、準備が大変になるだけだ。ムダを嫌うトヨタが何とムダな会議をしているのか?という疑問も湧いてくる。

 ただこれは、トヨタにしてみれば自身の価値観を反映させた”理にかなった”業務なのかもしれない。トヨタは現場を重視し、「普通の人から普通以上のパフォーマンスを引き出す」ことをよしとしている。そして、そのための人材育成には並々ならぬ労力を注ぐ。工場では、「カイゼン」を通じて多くの現場社員が問題解決に関わる。しかし、新人や若手はいきなり解決策を導き出すことができない。そんな時、熟練社員は「そこで立って見ていろ!」と、背中で教えることも決して少なくないという(トヨタ生産方式の生みの親である大野耐一が、まさにそんな感じの人だったそうだ)。これと同じことが、社内会議でも行われているにすぎないのではないだろうか。

 トヨタ生産方式が複雑で真似しにくいのは、理論的に説明可能な”定石”(例えば、ゴールドラットの制約理論など)に加えて、トヨタならではの”価値観”が場所を問わずあらゆる業務に埋め込まれているからだ。”価値観”が投影された業務は、トヨタの社員ですらその存在に気づかないことがある。だから、トヨタ生産方式はトヨタの社員でも完璧には説明できない。しかし、この模倣困難性こそが、トヨタの競争力の源泉だと思うんだよね。

(※)竹内弘高他「6年間の実地研究が明かす トヨタ:「矛盾力」の経営」(『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』2008年12月号)

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April 25, 2011

QCサークルを工場以外の業務にも広げたいんだよね―『上流モデリングによる業務改善手法入門』

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世古 雅人
技術評論社
2010-11-23
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 現状業務の棚卸し方法が解りやすく書かれていた本。SEやシステム会社向けというよりも、通常の企業で社内業務改善プロジェクトに携わっている人たち向けのような気がする。最初は粗い分析から入って、徐々に細かい分析に入っていくという作業イメージがつかみやすかった。

 (1)まず、各個人が自分の担当業務を細分化する。そして、それぞれの業務について「業務名」、「業務内容」、「担当者(=ここでは自分の名前)」、「インプット(=業務を始めるのに必要な情報、資料など)」、「アウトプット(=業務の結果できあがる成果物)」を整理し、付箋に書き出していく。
 (2)模造紙に全員の付箋を貼りつけ、内容の重複やレベル感を修正しつつ、それぞれの付箋を業務の流れに沿って線でつないでいく。
 (3)付箋どうしのつながりを見ながら、各業務の「開始条件/制約条件(=「Aさんの成果物Xができあがったら着手する/成果物Xができあがるまで着手してはいけない」など)」を明確化する。
 (4)(3)までの内容をエクセルに業務一覧としてまとめる。一覧には、「業務名」、「業務内容」、「担当者」、「インプット」、「アウトプット」、「開始条件/制約条件」が含まれる。
 (5)(4)までの内容をUMLモデルで書き表す。

 個人的には、UMLモデルまで作る必要はないと思うんだけれども(それこそITベンダーなどに任せればいい)、(4)までは現場レベルでできるようになるといいと思うんだよね((4)までできなくても、最低限(3)までできれば、業務が可視化されて改善アイデアの議論ができるようになる)。先日の記事「「たくさん働けば、その分報われる」という価値観が組織を壊すことも―『リーダーシップ 真実の瞬間(DHBR2011年5月号)』」でも書いたが、組織は放っておくと余計な業務が増えて煩雑になっていく性質を持っている。だから、本来であれば定期的に業務を見直して、不要な仕事を捨て去り、本当に必要な仕事にリソースを集中させなければならない。

 工場ではQCサークルに代表されるように、現場レベルで業務改善・品質向上を目指す自主的な活動がずっと昔から行われているし、「QCの7つ道具」のような改善ツールも整っている。これに比べると、営業部門、マーケティング部門、サービス部門、物流部門、購買部門、その他の事務部門は、これといった業務改善の方法論を持ち合わせていない。もちろん、これらの部門にシステムを導入する際には、標準的な業務プロセスを一応は定義するものだ。しかし、システム導入後もその標準プロセスが継続的に見直されているかどうかはやや疑問である。

 業務改善の方法論といっても、特別なものを使う必要は全くない。逆に、特別なものだと、使える人が限定されてしまうからよくない。そういう意味では、本書で紹介されているやり方は(UMLモデルを除けば)非常にオーソドックスなものだから、現場で十分に習得可能だと思う。

 私の個人的な想いとしては、今回の記事タイトルにも掲げたように、QCサークルのような活動を工場以外の業務にも広げたいんだよね。意味のない無駄な仕事は社員のモチベーションを下げるし、企業側にも余計なコストを押しつける。とはいえ、現場の細かい業務にまでトップが口を挟んで改善を断行するのは非現実的だ。現場の仕事に責任を持つのはあくまでも現場の社員であるし、現場が自分たちの仕事を自らの力で価値あるものにデザインし直すことができれば、仕事に対するコミットメントが高まるのは間違いないだろう。

 (続く)
April 23, 2011

「たくさん働けば、その分報われる」という価値観が組織を壊すことも―『リーダーシップ 真実の瞬間(DHBR2011年5月号)』

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 (これで最後ね)

クライシスの火種を消す 「その場しのぎ症候群」から脱する法(ロジャー・E・ボーン)
 ほとんどのアメリカ企業では、最悪の窮地から組織を救った人は英雄視される。しかしその人は、問題が発生した時には、どこで何をしていたのだろう。なぜ、問題が大きくなる前に、先手を打って行動しなかったのだろう。問題の発生件数が少ないマネジャー、長期的な予防策やシステマティックな問題解決を実践しているマネジャーに報奨を与えるべきである。
 「その場しのぎ」の仕事が増えていくと、いずれは社員の処理能力を超える。それでも放置して「その場しのぎ」を続けていると、やがて大問題に発展してしまうという、頭で考えればすぐ解りそうなことなんだけれども、実際にはよくある話だ。

 組織というものは、業務を効率的に回すために「仕組み化」を志向する。しかし実際には、時々刻々と変わる環境に適応すべく、例外的な処理が増えていくものだ。また、社会学者パーキンソンの有名な法則に従えば、「人は時間がある限り仕事を増やしていく」動物であり、個性を強調する個人主義者ならば、ルーチンに自我を埋没させないよう、オリジナリティのある仕事をすべきだと主張するだろう。こうした諸々の要因が重なって、組織にはアドホックで属人的な仕事が増えていく。

 例外的な処理やオリジナルの方法の中には、組織全体にとって大きな意味を持つものもある。当初の仕組みが想定していなかった最新の事業環境に、実は最もうまく適合したやり方なのかもしれない。本来であれば、そうした「意味のある例外」を仕組みに取り込み、それ以外の「意味のない例外」を思い切って捨て去るという活動を定期的に繰り返す必要がある。これが、ドラッカーの言う「体系的廃棄」というものである。

 体系的廃棄を行うのはマネジャーの重要なミッションなのかもしれないけれど、肝心のマネジャーが「その場しのぎ症候群」にかかっていることもある。H・ミンツバーグが実証的な研究で明らかにしたように、マネジャーとはそもそも複数の仕事を同時並行的にこなさなければならない職務である。十分な熟慮の時間が得られず、その場しのぎの決断をしてしまうこともあるに違いない。

 マルチタスク型のマネジャーの性質を変えることはおそらく困難だろう。マネジャーとはそういう仕事だと割り切るしかない。ただし、仮にマルチタスク型であっても、意思決定の拠り所や判断基準が組織的に明確になっていれば、その場しのぎ症候群に陥るリスクを押さえられる可能性が出てくる。

 それよりも深刻なのは、「たくさん働けば、その分報われる」という、量的な価値観が組織を支配している場合である。確かに、バブル経済の頃まではそういう価値観も通用しただろう。また、発達心理学者のE・エリクソンが発見した「10年ルール」(=スポーツや音楽の世界で、プロフェッショナルとそうでない人を分けるのは、「10年間の継続的な練習を積んでいるかどうか」であるというルール)のように、量が成果に結びつくケースもあることはある。

 しかし、今のビジネスは量が成果、つまり売上や利益に直結するとは限らない。量的な価値観は足かせにすらなっているのだ。それよりも、「仕事に優先順位をつける」という価値観(これ自体はすごく当たり前なんだけど・・・)を組織内に醸成しなければならない。余計な仕事はやらない、利益にならない仕事は断る、一時的なヒマを恐れない、こういう価値観こそがその場しのぎ症候群を避ける上で非常に重要だと思うのである。