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July 26, 2012

イノベーション戦略の70:20:10の法則、他―『イノベーション実践論(DHBR2012年8月号)』

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Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2012年 08月号 [雑誌]Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2012年 08月号 [雑誌]

ダイヤモンド社 2012-07-10

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 それぞれの論文から印象に残った部分を引用。DHBRのレビューは本来、このぐらいライトな感じで収めたいというのが本音なんだけどね。ただし、今月号のレビューはあと1本続きます(苦笑)。

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資源配分の黄金比率 イノベーション戦略の70:20:10の法則(バンシー・ナジー、ジェフ・タフ)
 我々の調査で浮き彫りになった、卓越したイノベーション実績を誇る企業は、イノベーションに対する明確な展望を理路整然と説明できる。そして「中核的イニシアティブ」「隣接イニシアティブ」「転換的イニシアティブ」のバランスを事業全体で適正に保ち、これらさまざまなイニシアティブを、まとまりのある全体の一部としてマネジメントするツールとケイパビリティを備えている。
 前回の記事「マーケティングも、ソーシャルメディアを使ったコミュニケーションに限定されてはならない―『イノベーション実践論(DHBR2012年8月号)』」で紹介した論文。論文タイトルの「70:20:10の法則」とは、具体的には以下の内容を指す。
 我々は、製造系、ハイテク系、消費財系の各分野の企業を対象とする研究で、「中核的イニシアティブ」「隣接イニシアティブ」「転換的イニシアティブ」に対する特定の資源配分比率と、株価で評価したパフォーマンスの向上に、有意な相関があるかどうかを調査した。その結果、データからある1つのパターンが明らかになった。イノベーション活動の約70%を中核的イニシアティブに、20%を隣接イニシアティブに、10%を転換的イニシアティブに割り振る企業は、同業他社のパフォーマンスを上回り、概して10〜20%高いPER(株価収益率)を達成していた。
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グローカリゼーションとは明らかに異なる リバース・イノベーション 実現への道(ビジャイ・ゴビンダラジャン)
 グローカリゼーションは、途上国市場の最上位セグメント、すなわち、先進国と同様のニーズと資力を持つ購入者には効果的であることがわかっている。だが、新興国市場における成長の機会のほとんどは、最上位ではなく中位以下の市場にある。これらの顧客ニーズは、先進諸国の中位以下の顧客ニーズと大きく食い違っている。

 そこで出現したのが、次のような考え方から始める新しいアプローチである。「新興国市場で成功したいなら、新興国市場のためのイノベーションが必要だ」。しかし、話はそれで終わりではない。グローバル経済はいまや緊密につながっており、新興国市場向けのイノベーションは他の市場にも流用できる。そこには、先進国市場も含まれる。だからこそ、企業はリバース・イノベーションの思考様式を身につけなければならない。
 論文では、オーディオ・メーカーであるハーマン・インターナショナルが車載インフォテインメント部門でリバース・イノベーションを達成した事例が紹介されている。同社の中核製品は高級車向けであるが、インド人と中国人を中心メンバーとするリバース・イノベーションのプロジェクトは、既存製品と機能的にはほぼ同じでありながら、コストは3分の1、価格は半分という新製品を生み出した。

 先日の記事「中小企業白書(2012年)に対する疑問―中小企業の強み「短納期・小ロット」は海外展開では弱み」とも関連するが、中小企業が新興国に進出する際には、何かにつけ高付加価値戦略が推奨される。『中小企業白書』では、今年度版も含めて毎年のように高付加価値戦略が成功事例として取り上げられている。だが、本当に成功したければ、新興国の中間層を狙うべきではないだろうか?

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ニトリ、ワールド、ポイントの事例に学ぶ 模倣からイノベーションが生まれる(井上達彦)
 価値の新奇性という面でも、業種を超える結びつきという面でも、「遠さ」が1つのカギとなる。遠い世界からの模倣こそが仕組みのイノベーションを引き起こす。(中略)

 近いところの模倣では同質化が進んでしまう。特に仕組みの模倣の場合、近くの競合からだとノウハウの獲得の面で倣うのが難しく、不完全な模倣に陥るか、うまくやれても追いつくのがやっとである。逆に、遠い世界からの模倣は、みずからが依って立つ業界・地域の境界、すなわち「本業の縁」に相当する場所へと企業を誘い出してくれる。「イノベーションは辺境から」ともいわれるが、本業から近すぎると新しい結合は見出しがたい。遠い世界からの模倣こそが適度な遠心力を生み出し、新しい市場や意外な結びつきを見出す機会を高めてくれるのである。
 ニトリは、地理的に遠いアメリカのチェーンストアからチェーンストア・オペレーションの極意を見て取り、業界的に遠い自動車業界(特にホンダ)から品質管理のノウハウを吸収した。さらに、セブン・イレブンやイトーヨーカ堂からも、商品管理の方法や業務の効率化の方法を学んでいるという。

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飛躍的新製品を設計する秘訣 ひらめきは組織的に生み出せる(ロベルト・ベルガンティ)
 新たな技術が登場すると、ほとんどの企業は限定的なイノベーション、すなわち単なる「技術の置き換え」だけに関心を向ける。「従来の技術の代わりに新技術を使えば、既存の顧客ニーズに対し、もっと適切に対応することが可能となるだろう」と考えるのだ。

 一方、テクノロジー・エピファニ―(※「エピファニー」=物事の本質を見抜く洞察力を意味し、一般的には独創的な天才による突然かつ直観的なひらめきであると理解される。ただし、論文の著者は、テクノロジー・エピファニーは戦略的・組織的に開発可能だとしている)を追求する企業は次のように自問する。「この技術を使って、現在我々が提供しているものよりも価値があると顧客が考えるような、新しい製品やサービスを開発できないだろうか。既存のニーズを超越して、製品を購入するためのまったく新しい理由を顧客に与えることが可能だろうか」と。
 論文ではフィリップス・エレクトロニクスの「AEH」(Ambient Experience for Healthcare:医療のための周辺環境経験)システムの事例が紹介されている。AEHはLEDディスプレー、アニメ動画、RFIDセンサー、音響制御システムなど複数の技術を駆使して、病院でCTスキャン、MRIなどの検査を受ける患者がリラックスできる環境を作り出すものである。

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特許件数だけでは測れない R&D投資を最適化する指標(アン・マリー・ノット)
 経済学の分野では何年も前から資本と労働力の生産性、すなわち、このどちらかを増やした場合の限界価値の変化が計算されてきた。R&Dの生産性もこれと同じ方法で算出できる。(中略)

 基本的にこの公式は、企業のインプット(どれだけ投資するか)とアウトプット(その企業の売上高)の間の関係を明らかにするものである。通常この計算には、2つのコスト、すなわち資本と労働力(人件費)を使う。当然ながらこれだけで売上高が決まるわけではない。この公式を拡大して、もう1つの主要なインプット、すなわちR&D支出を計算に含めることについて、異議をはさむ経済学者はほとんどいないだろう。

 標準的な回帰分析を使った計算により、これらのインプットがそれぞれアウトプット創出においてどれほど生産的であるかがきわめて正確にわかるようになる。たとえば、企業がR&D支出を1%増やすと、売上高がどれだけ増えるのかも把握できる。
 論文の著者が特許件数などに代わる指標として提唱しているのが「R&D指数」(RQ:Research Quotient)である。著者の分析によると、アメリカの上場企業のRQの値、すなわちR&Dの生産性が10%上昇すると、株式時価総額は1.1%増加するという。アメリカの上場企業のうち上位20社が、RQ手法を使って2010年度のR&D投資を最適化していたら、株式時価総額は全体で1兆ドル増えていたらしい。

 これは本当かどうかやや眉唾物。DHBRは学術誌ではないから、RQの具体的な算出方法が論文には記載されておらず、その妥当性を検証することができない。この点がDHBRの弱みでもある。2011年のアメリカの上場企業の時価総額は合計約16.8兆ドル(※)であり、アメリカの上場企業約1万5,000社のうち上位20社がR&Dを最適化しただけで、時価総額が約6%も増加するというのはにわかに信じがたい。


(※)「S&P500指数(構成企業と割合)」(海外投資データバンク)の記述を基に計算。

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