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July 03, 2012

水曜どうでしょうを支えるミスターの自己犠牲の精神

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 水曜どうでしょう好きにしか伝わらないような自己中心的な記事を書いてみようかと。どうでしょうを見ていて最近思ったのは、この番組を支えているのは、やっぱりミスターの自己犠牲の精神だということである。ミスターは初期を除いてほとんどしゃべらないので、ミスターの性格を推し量るのは容易ではないものの(怒ると怖いらしいが)、TOKYO-MXでのClassicやDVDを繰り返し見ているうちに、ミスターの自己犠牲の姿勢が見えてきた。ただし、ここで言う自己犠牲とは、

 ・甘いものが嫌いなのに無理やり食べさせられる(その際たるシーンが、2011年の「原付日本列島制覇」で、嬉野Dが「ミスターが爆発する瞬間をファインダー越しに始めて見た」と感嘆した赤福勝負のシーン)。
 ・初期の「サイコロの旅」で、ゴールから遠ざかる目ばかりを出して、“ダメ人間”呼ばわりされる。
 ・「アメリカ合衆国横断」では、肝心なところでインキーをしてしまい、土下座で平謝りをさせられる。
 ・「ユーコン川160km」では、カヌーの前方に座った時に限って、後ろに座った大泉さんや藤村Dの舵取りの失敗により、川岸や流木の流れ込みに突っ込んでしまう。
 ・どうでしょう全般を通じて、自分で企画を考えておきながら自分でつらい目に遭う。

といった類のものではない。これらは、ミスター自身が面白く映るような自己犠牲であって、笑いにはつきものの精神である。そうではなく、ミスター自身が”面白く映らない”ような自己犠牲こそが、この番組を支えているのである(※)。

 ミスターの自己犠牲の歴史は、「ヨーロッパ21か国完全走破」に始まる。スケジュールの遅れを取り戻すべく、1日で5か国を回るという恐怖の“合宿計画”を立てて必死に車を運転するミスター。そのミスターが運転交代後に眠りについたのをいいことに、藤村Dが大泉さんをそそのかし、ドイツのロマンティック街道や古城街道へと寄り道させてしまう。ミスターは当然機嫌を悪くしたものの、内心では、「この番組は自分が頑張るより、大泉・藤村Dの2人に自由にやらせた方が面白いんだ」と悟ったのである(DVD副音声より)。これ以降、ミスターの饒舌さは影をひそめ、無口なミスターへと転向していく。

 ミスターの“面白くない”自己犠牲の例として、私は次のような場面を挙げたいと思う。

 ・カブ企画では、必ず先頭を走らされる。先頭を走ると、前方確認をしなければならないし、何よりもカメラに映りにくくなる。
 ・「マレーシア ジャングル探検」でも、D陣が下見をしておらず、どんな危険生物が出るかも解らない道なのに、先頭を歩かされる。ここでもやはり、カメラに映りにくくなる。
 ・「アメリカ合衆国横断」では、カメラが回っていないところで、実はミスターが長時間運転している。ミスターも「どうぞ寝ていてください」と言うものだから、他の3人は収録を忘れて寝ている(DVD副音声より)。
 ・「シェフ大泉 夏野菜スペシャル」では、半角斎(大泉さん)とく斎(藤村D)が粘土細工を作って遊んでいる横で、料理に必要な皿を人数分黙々と作り続ける。
 ・「ヨーロッパ・リベンジ」では、初日にいきなりドイツで野宿をするハメになり、タレント陣は車中で、D陣はテントで寝ることになった。しかし、D陣がキーを持って行ってしまったために、開いていた車の窓を閉めることもできず、寒い一夜を過ごす。翌朝、大泉さんはD陣にそのことをボヤいていたが、本当は同じく寒い思いをしたミスターだって愚痴の一つでも言いたかったはずだ。
 ・「中米コスタリカ」では、完全に”写真家大泉”のアシスタント役に回ってしまい、他の企画以上にミスターが映っている時間の割合が少ない。
 ・「ヨーロッパ20か国完全制覇 完結編」では、大泉さんと藤村Dが子供じみた口喧嘩複雑をしている横で、スペインの複雑な道路地図に悪戦苦闘して神経をすり減らし、結局はその日の夜のホテルで吐いてしまう。
 ・「喜界島一周」や新作の「原付日本列島制覇」などで、宿(喜界島はテント)の狭さをめぐって大泉さんとD陣の3人が喧嘩をしている時、ミスターはどちらにも味方せず、必ず黙って成り行きを見守っている。

 ミスターの“面白い”自己犠牲の最たるものが前述した赤福対決であるならば、“面白くない”自己犠牲の最たるものは、レギュラー放送の最後の企画「ベトナム縦断1,800km」だろう。ホーチミンにゴールした後(すなわちそれは、レギュラー番組の終了を意味する)、藤村Dがこらえきれずに号泣し、つられて大泉さんも涙を流した時、ミスターだけは気丈な態度で「ダメだよ、ダメだよ、君たち」と周囲をけん制し、笑顔で3人に握手を求めるのである。

 後の日記でミスターは、「自分も泣きたかったが、自分も泣いてしまったら寒い。自分はミスターである。だから、どうでしょうの象徴として振る舞わなければならない」と振り返っている。これによってミスターは、視聴者から「冷たい人間だ」という評価を受けたかもしれない(事実、どうでしょうのテーマソング「1/6の夢旅人2002」のCDに収録されたエクストラ映像での対談を見ると、ミスターがそういう風に言われたことが示唆されている)。しかし、ミスターとしてはそれでいいのである。

 ミスターの自己犠牲は、他の3人に手柄を譲るという点で非常に重要である。ミスターが黙ることで、番組作りは大泉さんと藤村Dの罵り合いにフォーカスが絞られる。また、ミスターが「自分は画面に映らなくてもいい」というスタンスをとることで、嬉野Dは遠慮なく大泉さんのリアクションをどアップで撮影することができる。仮に、ミスターも貪欲に笑いを追求したら、おそらく全員で笑いのつぶし合いになり、やかましいだけのガサツな番組になっていただろう。ミスターの自己犠牲の精神は、どうでしょうの画を落ち着かせ、同時に笑いを増幅させる役割を果たしていると思うのである。

 ここまでの話からいきなり飛躍するけれども、ミスターの自己犠牲の精神は、人の上に立つ者に必要不可欠な精神である。いわば、ミスターは上司の鏡である。ミスターが自分を犠牲にしたことで、大泉さんは“北海道出身の面白いタレント”という地位を確立し、藤村・嬉野両Dは、“面白いローカル番組を作れるディレクター”という評価を得た。レギュラー番組終了後、3人が全国で活躍していることは周知の通りである。

 最近はプレイングマネジャーが増えて、部下の成果を横取りしてしまう管理職がいるという話も聞く。これは自己犠牲の精神とは真逆である。自己犠牲の精神は、逆説的だが後々になって報われる。大泉さんの活躍によって、大泉さんが所属する劇団「チーム・ナックス」の知名度も上がり、ミスターが社長を務める事務所「クリエイティブ・オフィス・キュー」も所属タレントの数が増えている。人の上に立つ者は、自分の下にいる者が成功を収めて出世しなければ、自分も出世できないことを知るべきであろう(ミスターの場合は、自身が既に社長なので、事務所自体の成長が出世に該当する)。

 そして、さらに話が飛躍するが、私なんかは、ミスターの自己犠牲の精神を見るにつけ、老子の次の言葉を思い出さずにはいられないのである。
 大上は下之れ有るを知るのみ。其の次は親しみて之を譽(ほ)む。其の次は之を畏れ、其の次は之を侮る。信足らざれば、信ぜられざる有り。悠として其れ言を貴(わす)れ、功成り事遂げて、百姓、皆な我れを自然と謂う。(『老子』第17章より)

【現代語訳】
 最も優れたリーダーは、部下がその存在を知るだけの人のことである。次に優れたリーダーは、周囲から親しまれ賞賛される人である。その次は、人々から畏れられるリーダーである。最低なリーダーは、人々から軽蔑される。人を信頼しなければ、人から信頼されない。優れたリーダーは、目的が達成された時も悠然として何も語らず、部下が口を揃えて『自分たちがやったのだ』と言う。

(※)ちなみに、サイコロなどの運任せ企画に関して言えば、ミスターは“ダメ人間”呼ばわりされている割には、実は随所でいい目を出している。
 ・「韓国食い道楽サイコロの旅」では、麗水で一泊の目を出している。
 ・「香港大観光旅行」では、初日の夕食の食卓で「全員食える」のカードを引き、「韓国食い道楽サイコロの旅」の悪夢を払しょくした。
 ・「サイコロ6」では、4人の体力が限界を迎えた2日目の夜、大阪での「生きるか死ぬかの大勝負」で大阪一泊の目を出し、大泉さんから崇められた。
 ・「日本全国絵はがきの旅2」では、宮崎県・綾町で行われた「究極の選択」で、綾の絵はがきを見事に引き当て、綾での宿泊を確定させた。

 にもかかわらず、そんなことは他の3人からすっかり忘れられて“ダメ人間”扱いされ、「サイコロ5」では藤村Dから「(指宿温泉の)砂に埋まってろよ」とまで罵倒されているのも、ある種の自己犠牲であるわけだが、私が言いたい自己犠牲とはそういうことでもないことをここで断っておく。

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