※2012年12月1日より新ブログに移行しました。自分で言うのもおこがましいですが、20代の頃に書いた本ブログよりも、30代に入ってから書いている現行ブログの方がはるかに中身が濃く、内容が多岐にわたり、面白いと思いますので、是非ご覧いただけるとありがたいです!
>>>現行ブログ free to write WHATEVER I like
June 13, 2012

キャプラン&ノートン著『BSCによるシナジー戦略』に関する個人的な疑問(続き)

拍手してくれたら嬉しいな⇒
BSCによるシナジー戦略 組織のアラインメントに向けて (HARVARD BUSINESS SCHOOL PRESS)BSCによるシナジー戦略 組織のアラインメントに向けて (HARVARD BUSINESS SCHOOL PRESS)
ロバート S キャプラン デビッド P ノートン 櫻井 通晴

武田ランダムハウスジャパン 2007-10-12

Amazonで詳しく見る by G-Tools

 前回の記事「スタッフ⇔ライン間のシナジーを発揮するためのBSCが中心と理解しているが…―『BSCによるシナジー戦略』」の続き。

(p76〜93)「顧客の視点」における「顧客」の定義が曖昧である。純粋に「外部顧客」を指すケースもあれば、サポート・ユニット(=スタッフ部門)にとっての「社内顧客」を意味するケースもある。例えば、アムステルダムに本社を置く民間投資持株会社アクティバ社の事例では、本社が事業子会社に対して提供するガバナンス支援の内容を、キャプランとノートンの別のツールである「戦略マップ」で可視化し、それをBSCへと落とし込んでいる。

 この場合の顧客は、事業子会社、すなわち社内顧客である。よって、「顧客の視点」の指標は、事業子会社がガバナンス支援の価値をどれだけ享受できたか?あるいは、ガバナンスのノウハウをどれだけ吸収できたか?といった観点から設定される。

 一方、インスツルメンタリウム社(現在はGEヘルスケアの一部)の子会社であるデーテックス・オメダ社(麻酔器、酸素吸入器、薬物送達システムなどの救急治療分野におけるメーカー)の経営陣は、多数のビジネスユニット間でシナジーを発揮すべく、同一の顧客に対し、複数の製品やサービスを組み合わせたトータル・ソリューションを提供する体制への移行を進め、BSCを作成した。

 同社のケースでは、「顧客の視点」が外部顧客に向けられており、顧客のウォレット・シェア(顧客の予算のうち、自社に対して支払っている金額の割合)、ターゲット顧客が利用した製品・サービス数、顧客の生涯価値などといった指標が検討されている。この「顧客」の中身の違いが、若干読み手の混乱を招くように感じる。


(p94〜97)これは、サポート・ユニットや本社の企画部門、あるいは各事業部が、他の事業部とのシナジーを考慮したBSCを作成する手順に関するものである。個人的には(1)最初に4つの視点のうちどのレイヤーでシナジーを発揮するのかを定めて、そのレイヤーでの活動とKPIを設定し、(2)その次に上下のレイヤーへと視点を移す、すなわち、

 (2)-a.下位レイヤーに関しては、シナジーを発揮するレイヤーのKPIを改善するために、サポート・ユニットや本社の企画部門、あるいは各事業部内でどのような取り組みが必要か?また、その取り組みの成果をどのようなKPIで測定するか?を検討する。
 (2)-b.上位レイヤーに関しては、シナジーを発揮するレイヤーのKPIが改善されると、サポート・ユニットや本社の企画部門、あるいは各事業部でどのような成果が見込めるか?あるいはどのような成果を見込むべきか?また、その成果はどのようなKPIでモニタリングするのか?を検討する。

という2段階で検討が進むように思える。より具体的に言えば、仮に先ほどのデーテックス・オメダ社のように、複数の部門が「顧客の視点」でシナジーを発揮すると決めた場合には、各部門はまず(2)-aのステップに従い、「顧客の視点」におけるシナジーを考慮したKPIの達成に向けて、どのような業務プロセスを構築する必要があるか?(「内部プロセスの視点」)さらに、その業務を円滑に遂行するためには、どのような能力を持った人材を育成し、いかなる情報システムを構築すべきか?(「学習と成長の視点」)を熟考する。

 そして、(2)-b.のステップに沿って、最下層の「学習と成長の視点」から順番にレイヤーを昇って行き、それぞれのレイヤーのKPIが改善されていくと、最終的に「財務の視点」で何が達成されるのか?をシミュレーションする。または、顧客レベルでのシナジーを通じて実現すべき財務目標があらかじめ想定されているならば、その目標に到達できるよう、それぞれのレイヤーのKPIを再調整する必要性も出てくる。

 私としてはこういう手順でBSCの作成が進むと解釈しているのだけれども、アメリカ南東部のメディア・ジェネラル社が目指した印刷、放送、双方向メディアの3事業間における顧客シナジーの説明は、私の解釈からするとやや不十分なように感じる。というのも、同社が作成したBSCを、「学習と成長の視点」から「財務の視点」へと順番に説明しているため、BSCの作成段階における具体的な検討内容が見えにくくなっているからだ。


(p101〜105)ヒルトンホテルの事例について。直営、フランチャイズを含めて2,300以上の施設(2005年時点)を抱えるヒルトンホテルでは、各施設のサービス水準のばらつきをなくし、サービス品質の全体的な底上げを狙って、本社がBSCを導入した。そのBSCがp102に掲載されており、

 ・「財務の視点」には「GOP(Gross Operational Profit)」
 ・「顧客の視点」には「顧客ロイヤルティ指数」(満足度、リピート利用の意思、他者への推奨の意思の度合いに基づいて算出)
 ・「内部プロセスの視点」には「ブランド一貫性指数」(端的に言えば、サービス品質の基準)
 ・「学習と成長の視点」には「従業員ロイヤルティ」

などの指標が設定されている。とはいえ、このBSCは本社が活用すべきものというよりも、それぞれの施設が使用すべきものであろう。本社自体へのBSC導入の狙いが、施設間の「サービス水準のばらつきをなくすこと」であるならば、本社はそれぞれのKPIの数値について、施設間の「バラつき」をモニタリングする必要があると考える。つまり、「顧客満足度の”標準偏差”」などを指標にすべきなのである(複雑なITツールを使わなくても、エクセルで統計的に算出することが可能である)。要するに、BSCの利用目的に合致した、適切な指標を設定しなければならない。

《2012年7月14日追記》
 「バラつき」をモニタリングすることには意味があることを示す事例が、『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』2012年7月号にちょこっとだけ掲載されていたので紹介。今はもうなくなってしまったアメリカの大手書籍チェーン・ボーダーズの事例だが、
 ボーダーズの1999年〜2002年のデータを250店以上について分析したところ、1店舗あたりの労働力水準の標準偏差が1増加すると、1年間の利益率が10%増加したのだ。
(ゼイネップ・トン著「業績低迷の悪循環から脱却する方法 小売業は人件費を削ってはいけない」)

Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2012年 07月号 [雑誌]Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2012年 07月号 [雑誌]

ダイヤモンド社 2012-06-08

Amazonで詳しく見る by G-Tools

 先進的なアメリカ企業の特色の1つとも言えるだろうが、一部の企業は、中間的なKPIが最終的なKPIである財務の数字にどのくらいのインパクトを与えるのかを統計的に明らかにすることに躍起になっている。トーマス・ダベンポートが『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』2010年12月号に寄稿した論文「情報技術が人事管理を変える 「人材分析学」がもたらす競争優位」には、次のような記述がある。
 我々が調査したほとんどすべての企業は、「社員のやる気を重視している」と言うが、特定店舗における社員のやる気が0.1%増加した時の価値を正確に見極めることができるのは、そのうちの数社―スターバックス、大手衣料品製造小売業のリミテッド・ブランズ、ベスト・バイなど―である。たとえばベスト・バイの場合、その価値(※社員のやる気が0.1%増加したときの価値)はその店舗での年間の年間の営業利益が10万ドル超増加することに相当する。

Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2010年 12月号 [雑誌]Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2010年 12月号 [雑誌]

ダイヤモンド社 2010-11-10

Amazonで詳しく見る by G-Tools

(p119-125)同書では、同じホテル業界から、マリオット・バケーション・クラブ(MVCI)の事例も紹介されている。ところが、MVCIのケースは、何かしらのシナジーを狙ったものには見えない。なぜならば、マリオット、リッツ・カールトン、ルネッサンス、コートヤード、フェアフィールドといった各ブランドに属する個々の施設が、本社の企画部門が用意したBSCの雛形に従い、本社が設定した全社目標をブレイクダウンする形で、BSCを作成しているからだ。

 もちろん、これはこれで重要な活動なのだけれども、シナジーを発揮するという本書の趣旨からはやや外れている印象を受ける。むしろ、目標管理制度をブランド、事業、下部組織レベルで徹底的に行ったケースと言えるのではないだろうか?(あるいは、敢えてシナジーという言葉を使うならば、「マネジメントのシナジー」ということか?)


 以上が私の感じた主な疑問である。これ以外にも細々としたものを挙げればキリがないので、この辺でやめておく。次回は、ライン⇔スタッフ部門間、事業部間のシナジーを発揮するためのBSCの作成方法について、同書を基に私なりに整理した内容を述べてみたいと思う。

おススメの書籍

トラックバックURL

このエントリーのトラックバックURL:

コメントする