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May 19, 2012

アメリカ金融帝国主義が本当なら経営学は何のためにあるのか?―『「競争力再生」アメリカ経済の正念場(DHBR2012年6月号)』

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Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2012年 06月号 [雑誌]Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2012年 06月号 [雑誌]

ダイヤモンド社 2012-05-10

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 今月のDIAMONDハーバード・ビジネス・レビューは、マクロ経済、金融、政治が絡んでいるので、私にとっては非常に難易度が高かった。こういう時に政治や経済をもっと勉強しておけばなぁ・・・と後悔するんだよね。それでも何とか頑張って3本ぐらいレビュー記事を書こうと思うのだが、なにぶん知識不足ゆえに内容が誤っているかもしれないので、お気づきの方はご指摘いただければ幸いです。

構造的な問題の克服への提言 それでもアメリカ経済は成長する(マイケル・E・ポーター、ジャン・W・リプキン)
 公共財への投資が不十分であるため、アメリカは事業を展開するうえで魅力の乏しい国となり、企業は外国に投資しようとする。企業活動が国外へ移り、それに伴い税収が失われるので、政府にとって公共財への充分な投資はいっそう難しくなる。

 企業が雇用を国外に移して記録的な利益を上げる一方で、アメリカ人の賃金が伸び悩み、社会ではビジネスの制度面に対する懐疑的な見方が高まる。そうなると政治家は、アメリカでビジネス支援策を成立させることがより難しくなり、企業はますます国外拠点を目指すようになる。

 反対に、好循環をうまく利用しているのが中国である。その政策と莫大な規模を考えれば、同国の存在はアメリカにとって深刻な課題である。中国は余剰資金を生産性向上への投資に回し、それがさらに余剰資金を生む。拡大する国内市場が多様な国々の投資を呼び、それがまた国内の賃金や購買力を押し上げ、・・・というように。
 この論文でポーターらが最も懸念しているのは、「アメリカで熟練労働者、R&Dの能力、先進的な製造能力、国内サプライヤーのネットワーク、国内教育機関への投資が減少している」ことだ。ポーターが産業クラスタの競争力を論じる際に用いる「ダイヤモンド・モデル」に従えば、アメリカはとりわけ「要素条件」が弱っている、ということになるだろう(「ダイヤモンド・モデル」については、以前の記事「サステナビリティ=環境経営になってない?−『戦略の実現力(DHBR2010年11月号)』」を参照)。引用文にある「公共財への投資が不十分」とは、要素条件を支える教育や研究開発への投資が不十分であることを意味している。

 引用文にあるアメリカと中国の対比を読んでいて、『TOPPOINT』2012年4月号で紹介されていた中谷巌著『資本主義以後の世界』と、原田武夫著『教科書やニュースではわからない 最もリアルなアメリカ入門』の2冊のことを思い出した。まず『資本主義以後の世界』によると、アダム・スミスが描いた理想的な資本主義に近いのは、アメリカではなく中国の方であるようだ。
 スミスが『国富論』の中で考えた資本主義発展のあるべき姿は、まず農業の生産性の向上からスタートして、国内の社会基盤を整え、徐々に工業化へ進む。そして余力ができたら、商業、金融を整備し、最後に外国との交易を通じて豊かな社会を築く。つまり、社会が内部からゆっくり成長していく、「自然な」発展形態を理想としていた。(イタリア人学者の)ジョヴァンニ・アリギによれば、中国経済の発展はまさにこうのスケジュール通りに進展してきた、という。
(※『TOPPOINT』2012年4月号からの引用)
資本主義以後の世界―日本は「文明の転換」を主導できるか資本主義以後の世界―日本は「文明の転換」を主導できるか
中谷 巌

徳間書店 2012-01

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 もう少し補足すれば、理想的な資本主義は、

 農業の生産性向上⇒所得の増加⇒余剰資金の発生⇒銀行の登場⇒余剰資金を銀行に預金
 ⇒銀行は預金を元手に工業へ融資⇒工業化の進行⇒所得の増加⇒余剰資金の発生
 ⇒余剰資金を銀行に預金⇒銀行は預金を元手にさらに工業へ融資(=いわゆる信用創造機能)
 ⇒工業化のさらなる進行⇒農作物や簡単な工業品を輸出
 ⇒外貨の取得⇒所得の増加⇒高度な工業品の輸入
 ⇒高度な工業品を国内でも生産(政府の保護主義により、輸入は制限される)
 ⇒国民が高度な工業品を購入&輸出(輸出規模が大きくなるにつれて、政府の保護主義は弱められる)

という流れ(かなり大雑把だが・・・)で発展していくものと思われる。ただし、このシナリオには1つ条件がある。それは、発展途上の段階で、自国の製品を輸出する相手国が存在しなければならない、ということである。しかし、最初に本格的に資本主義化した国、つまり(イギリスではなく)アメリカには、主たる輸出相手国がいない。輸出ができなければ、外貨が取得できず、所得を増やすことができない。そこでアメリカがひねり出したのが「金融帝国主義」という考え方なのではないか?という気がしてきた。

 もう1冊の『最もリアルなアメリカ入門』によると、「金融帝国主義」が生まれたのは、1890年頃のこととされる。当時のアメリカは西部を開拓し尽くしており、帝国主義を掲げてアジア・アフリカなどを支配し始めていたヨーロッパに対抗すべく、海外の植民地化に乗り出そうとしていた。しかし、イギリスの迫害を逃れて誕生したアメリカが、他国を侵略するのはアメリカの精神に反するということで、世論は批判的であった。そこで、時のセオドア・ルーズベルト大統領は、武力ではなく金融の力で支配することにしたのである。
 まず表向きは、中南米の国々に対する経済的な支援という体裁をとり、各国の発行した国債を買い取る。次に、経済使節団を派遣して、その国の経済政策を徹底的に変えさせ、繁栄させる。この結果、その国の政府はアメリカが持っている国債の償還に応じることができ、アメリカは儲かるという仕組みを作り上げたのである。
(※『TOPPOINT』2012年4月号からの引用)
教科書やニュースではわからない 最もリアルなアメリカ入門教科書やニュースではわからない 最もリアルなアメリカ入門
原田武夫

かんき出版 2012-01-21

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 原田氏によれば、現在のアメリカの「金融帝国主義」はさらに進んで、次のようになっているという。
(1)アメリカが外国から借金をする(=米国債を購入してもらう)。そして、借りたマネーで景気がよくなるよう、国内にそれを流していく。
(2)その結果、アメリカ国内はカネ余りの状態が生じ、アメリカの株価が上昇する。
(3)アメリカ人が高騰を続ける株に続々と投資をし始める。そこで儲かったマネーを使って、外国製品を次々に購入・消費していく。
(4)繊維・自動車・半導体といったモノを生産し、アメリカで儲けた国々には貿易代金の決済のため大量の米ドルが蓄積されていく。これらの国々は放っておいては増えることのないこの外貨で、米国債を再び購入する。その結果、このプロセスの振り出しである(1)に戻る。
(※『TOPPOINT』2012年4月号からの引用)
 すなわち、「国債」を使って錬金術的にカネを増やせるようになっているというわけだ。先ほどのセオドア・ルーズベルト大統領が取った方法と合わせると、アメリカの「金融帝国主義」は次のようにまとめられる。

(A)新興国・途上国に対しては、その国の国債を購入し、アメリカに有利になるようにその国の経済を発展させる。
(B)先進国には米国債を購入させ、キャッシュリッチになったアメリカ人が先進国からの輸入品を購入する。
(C)新興国・途上国も、米国債を購入できるレベルまで発展すれば、(B)の仕組みに組み込まれる。

 「モノを作るためにカネが必要」という本来の資本主義ではなく、「モノとは関係なく、カネがカネを呼ぶ」というのがアメリカの資本主義なのである。だから、冒頭でポーターが提示した問題に対しても、「金融帝国主義」の立場からすれば、公共財になど投資せず、国債を刷りまくって米国企業に投資させておけば、勝手に所得が増えていくからOK、ということになる。

 もっとも、これはかなり極端なモデル化のようで、本当にそう言えるのかどうかは検証が必要であろう。ただ、もしこれがそれなりに妥当性を持っているとすれば、経営資源をうまく活用して、顧客に製品やサービスを購入してもらうための方法を一生懸命に追求している経営学は、一体何のためにあるのだろうか?と、ちょっと空しい気持ちになった。

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