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April 26, 2012

【ドラッカー書評(再)】『創造する経営者』―ドラッカーの「戦略」を紐解く(3)〜一般的な戦略策定プロセスに沿って整理

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創造する経営者 (ドラッカー名著集 6)創造する経営者 (ドラッカー名著集 6)
ピーター・F・ドラッカー 上田 惇生

ダイヤモンド社 2007-05-18

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 前回までは、ドラッカーが事業の「暫定的な診断」と呼ぶ、事業の現状把握のための2つの方法、すなわち「(1)業績をもたらす領域、利益、資源についての分析」と「(2)コストセンターとコスト構造についての分析」について述べた。今回からは残りの2つである「(3)マーケティング分析」と「(4)知識分析」について整理してみたいと思う。

 前回の記事の最後で、「暫定的な診断」はどちらかと言うと業績改善のための方法であり、戦略観があまり感じられないと書いた。戦略策定と関連するのは、むしろ「(3)マーケティング分析」と「(4)知識分析」の方である。以下に、よくある戦略策定プロセスを掲載したが(パワポで書くのが面倒だったので、手書きの図にしてしまった点はご容赦ください)、(3)は市場や競合を俯瞰する外部環境分析に相当し、(4)は自社の経営資源の強み・弱みを洗い出す内部環境分析にあたる。ドラッカーは、経営資源の中でも、「知識」がとりわけ重要な競争優位の源泉になるとしているが、これは後にゲイリー・ハメル&C・K・プラハラードがまとめた「コア・コンピタンス」に通じる考え方である。

戦略策定プロセス

 上図について少し補足すると、上図では戦略(戦略コンセプト)とビジネスモデルを区別している。戦略とは、「どのターゲット顧客に(=Who)、どのような顧客価値を(=What)、どのようにして(=How)提供するか?(自社の組織能力をどう活用し、どうやって競合との差別化を図るのか?)」という基本構想であり、ビジネスモデルはその構想を実現する仕組みを意味する(過去の記事「戦略とビジネスモデルの違いが解る特集―『ビジネスモデル 構想と決断(DHBR2011年8月号)』」を参照)。

 より具体的に言えば、業界全体のバリューチェーンの枠組みに従って、自社が担当するプロセスと、外部プレイヤーである仕入先、販売先などが担当するプロセスを整理し、自社、外部プレイヤー、顧客の間でお金がどのように流れるのか?自社はどうやって売上と利益を上げるのか?を可視化するものである。

 もっと完成度の高いビジネスモデルは、プレイヤー間のお金の流れだけでなく、ヒト、モノ、情報、知識といった経営資源の流れをも明らかにする。簡単な例を挙げると、Amazonのビジネスモデルでは、購買履歴”情報”が顧客からAmazonに流れ、Amazonがそれを高度な統計技法で分析して”知識”に転換し、その知識に基づき顧客におすすめ製品”情報”を提供して、継続購買を促す仕組みになっている(顧客が継続購買をすれば、Amazonはまた新しい購買履歴”情報”を入手し、自社の”知識”がさらに高度化する、という正のフィードバックループもはたらいている)。(ビジネスモデルに関しては、以前の連載モノ「【シリーズ】ビジネスモデル変革のパターン(全20回予定)」も参照)

 ビジネスモデルをデザインした後は、モデルを有効に機能させるために必要な経営資源の量と質を明確にする。これが現有リソースのFit&Gap分析である。その分析結果を基に、経営資源のギャップをどのように埋めるのかを検討しなければならない。例えば、先進的な技術や特許、顧客価値の形成に欠かせない新製品やサービス、営業・販売上の重要な情報や販売網などを獲得するにあたって、R&Dや人材育成への追加投資による内部調達を選択するのか?それとも、買収や提携という手段に出るのか?(提携にしても、業務提携と資本提携のどちらを選択するのか?)を決定する。ドラッカーは本書で、ビジネスモデルについては言及していない(ドラッカーは「戦略」は世に知らしめたが、「ビジネスモデル」という概念までは提唱しなかった)ものの、買収に関しては第13章で解説している。

 これらのリソース調達・強化方法が戦略的打ち手、あるいは戦術という名前で、各部門で実施すべき施策に落とし込まれる。そして、施策の実行スケジュールを引き、実行責任者を特定し、さらに施策の成果を測定する指標(KPI)を設定する。戦略を画鋲に終わらせないためには、スケジュールの作成と成果管理指標の設定まできっちりと行うことが肝要である。この点は、本書の第14章で強調されている。

 (続く)

《2012年5月16日追記》
 この記事を書いた後で思ったのだが、図中の「外部/内部環境分析」は「外部/内部環境の『認識』」と改めた方がいいのかもしれない(図の修正が面倒なので後回しになっているが、汗)。ドラッカーも本書の中で「分析」という言葉を多用しているけれども、「分析」という言葉は、分析の方法や切り口が客観的にきっちりと決まっていて、誰がやっても同じ結論が出るような印象を与える。
 
 ところが、こうした客観的な分析から導かれる戦略コンセプトは、得てして誰でも思いつくような凡庸なものに落ち着いてしまう傾向がある。競合と差別化された戦略を導くには、社内の戦略立案スタッフやコンサルタントが編集したデータや情報を使うだけでなく、既存の顧客や潜在顧客と直に接し、また各部門の現場に赴いて、「多少歪んだレンズ」で現実をじっくりと観察した方がいいのかもしれない。

 そうした「主観的な知覚」が、他の人たちには見えていない市場のチャンスや自社の強みの発見につながる可能性がある。特に、イノベーティブな戦略を導くには、このような主観的な環境認識が重要になると思う(以前の記事「リーダーが帰納的に課題を設定するとはどういうことか?」)。その意味で、環境の「分析」ではなく、環境の「認識」という言葉の方がふさわしいだろう。

 もちろん、こうした主観的な環境認識にはリスクもある。イノベーティブな戦略家は、特定かつ少数の事実を一般化して、事業機会があると思い込む危険性がある(例えば、自分の友人のうち、数人が「こんなサービスが欲しい」と言っただけで、そのサービスが事業として成り立つと思い込んでしまう、など)。とはいえ、結局のところイノベーションは、「どれが当たるのかはやってみないと解らない」という性質から逃れられない。一説によると、1つのイノベーションを起こすには3,000のアイデアが必要だという。だから、「多少歪んだレンズ」を持った戦略家が集まって、戦略コンセプトのアイデアを量産することが重要なのかもしれない。

 なお、「戦略コンセプトの策定」と「ビジネスモデルのデザイン」の間には、「戦略目標の設定」というプロセスが必要である(これは完全に書き忘れた、大汗)。戦略目標の例は、「市場シェア○○%」、「新製品の売上○○億円」、「新規顧客獲得数○○人」などである。こうした目標がないと、ビジネスモデルを描くにあたって、どのくらいの生産体制や販売チャネルが必要になるのか?何社ぐらいの仕入先を開拓しなければならないのか?などといった規模感を算出することができない。
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