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April 24, 2012

【ドラッカー書評(再)】『創造する経営者』―ドラッカーの「戦略」を紐解く(2)〜「暫定的な診断」への個人的疑問

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創造する経営者 (ドラッカー名著集 6)創造する経営者 (ドラッカー名著集 6)
ピーター・F・ドラッカー 上田 惇生

ダイヤモンド社 2007-05-18

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 個人的に、「暫定的な診断」である「(1)業績をもたらす領域、利益、資源についての分析」と「(2)コストセンターとコスト構造についての分析」をめぐっては、いくつかの疑問がある。まず第一に、「暫定的な診断」は製品別の分析からスタートしており、ドラッカーも「業績をもたらす領域についての分析は、製品やサービスの分析から始めるべきである」と述べて、ユニバーサル・プロダクツ社の分析も個々の製品単位で行っているものの、製品単位での分析は必ずしも望ましいとは限らないのではないか?ということである。

 なぜなら、とりわけ最近はその傾向が顕著だが、顧客はいつも単一の製品を購入するわけではないからだ。顧客は、複数の製品を組合せてソリューションとして購入する。これはBtoBでもBtoCでも同じである。BtoCにはソリューションという言葉があまり馴染まないけれども、例えば食品スーパーで買い物をする消費者は、夕食の問題を”解決”してくれる製品の組合せを探していると言える。そして、その組合せは、顧客のタイプによって異なる。食品スーパーの例で言えば、一人暮らしの男性と、食べ盛りの男の子が2人いる母親では、ソリューションが全く別物になることは想像に難くない。

 したがって、製品別の分析を始める前に、市場を分析して顧客のタイプを見極める方が先であるように思えるのである。その上で、顧客のタイプ別に売上とコスト(当然、その顧客タイプが購入する複数の製品の合計売上および合計コストになる)を分析した方が、有益な分析結果が得られるのではないだろうか?(この分析方法については、後日の記事でもう少し詳しく述べたい)個々の製品単位での分析が有効なのは、各製品のターゲット顧客が全く別であり、顧客が複数の異なる製品を購入することが滅多にないケースであろう。だが、現在ではそのケースの方が滅多にない(※)。
 
 2つ目の疑問は、コスト分析の目的がはっきりしないように感じる点である。「(1)業績をもたらす領域、利益、資源についての分析」では、製品別にコスト分析を行っているのに対し、「(2)コストセンターとコスト構造についての分析」になると、一転してまずは全社的なコスト分析から輸送費のコスト高を指摘し、次に販売チャネル別にコスト分析を行って小規模チャネルの維持費の高さを導き出している。もう少し別の言い方をすると、「(1)業績をもたらす領域、利益、資源についての分析」の製品別コスト分析から導かれた示唆が、「(2)コストセンターとコスト構造についての分析」では活かされていない、ということである。

 もちろん、多角的な視点からコスト分析を行うことは悪くはない。とはいえ、やみくもに分析すればよいというわけでもなく、複数の分析結果の間には意味のあるつながりが必要である。ユニバーサル・プロダクツ社の場合、例えば私の勝手なストーリーだが、製品別のコスト分析から製品Xのコストが高いことが判明し、その原因を探ってみると、小規模チャネルが製品Xの欠品を恐れて過剰に発注をかけるため、輸送費がかさんでいることが解った、というのであれば、コスト分析も意味を持つ。本書のコスト分析は、それぞれが何となくバラバラの目的で行われている気がしてならない。

 そして第三の疑問として、前述のように「暫定的な診断」の内容を「(3)マーケティング分析」と「(4)知識分析」によって再点検し、「これがわが社の事業だ」と言えるものを明確化しなければならない、とされているにもかかわらず、ユニバーサル・プロダクツ社の事例はこれ以降の章で登場せず、結局のところ同社の戦略がどのように再定義されていったのか判然としない、という点である。次回紹介するが、「(3)マーケティング分析」と「(4)知識分析」では、また別の事例が登場する。この点でも、内容の一貫性にやや欠けている印象を受けてしまう。

 なお、「暫定的な診断」だけを見ると、その目的は既存の製品ラインナップの点検やコスト構造の見直しが中心であるという点で業績の”改善”であり、「どの顧客をターゲットとし(=Who)、どんな顧客価値を(=What)、どうやって(どのような差別化で/どんな組織能力を用いて)提供するか?(=How)」を構想する大局的な戦略観は感じられない。それが感じられるようになるのは、実は「(3)マーケティング分析」と「(4)知識分析」である。この2つの分析手法については、次回の記事で述べたいと思う。

 (続く)


(※)ここからは余談。仕事の関係上SIerのIR資料を読む機会が多いのだけれども、自社の売上構成を「ハード(=クライアント、サーバなどの機器の売上)」、「ソフト(=パッケージ本体およびライセンスの売上)」、「SI(SEやコンサルタントのフィー)」という区分で表記し、利益変動要因を「ハードの単価下落に伴う利益率の減少を、ソフトやSIの利益率でカバーした」などと説明している企業が結構ある。これはまさに、製品別にコスト分析を行っている例であろう。

 しかし、顧客企業は(クラウド化が進んでいるとはいえ)ハードもソフトもSE・コンサルタントも同時に購入するわけだから、この分析結果をもって「利益率の低いハードの比重を下げて、ソフトやSIを中心に販売せよ」と現場に命令することは不可能だ。SIerこそ、顧客別に市場と業績を分析しなければならない。すなわち、

 ・市場のポテンシャルが大きい顧客層は誰か?(業界[製造、流通、金融、サービスなど]とIT投資領域[生産管理、在庫管理、販売管理、会計、基幹業務など]別に分析する)
 ・自社はそれぞれの顧客層からどの程度の売上と利益を上げているのか?
 ・売上と利益をさらに伸ばすためには、どの顧客層を重点的に狙えばよいのか?
 ・各顧客層の利益率を高めるためには、どのような施策を打てばよいか?

を問うべきなのである(もっとも、これは戦略的に重要な機密情報であり、IR資料に載せるべき内容ではないから、敢えて前述のようなアバウトな製品別売上・コスト分析にとどめているのかもしれないが)。

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