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April 07, 2012

今さらだけど、エルピーダ破綻の7原因(仮説)を個人的に検証(4)〜産活法という縛り

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 今さらだけど、エルピーダ破綻の7原因(仮説)を個人的に検証(1)〜円高説は違う
 今さらだけど、エルピーダ破綻の7原因(仮説)を個人的に検証(2)〜シナリオなきPC分野への進出
 今さらだけど、エルピーダ破綻の7原因(仮説)を個人的に検証(3)〜スマイルカーブの嘘
 《メモ書き》DRAM、パソコン、ノートブック、タブレットPC、スマートフォン関連の市場規模データなど

(6)「最終製品のコンセプト」に影響を及ぼせず、プロフィットプールを取り込むことができなかった(続き)
 プロフィットプールを握ることができるのは誰なのか?それは、「最終製品(サービスを含む)のコンセプトを主導したプレイヤー」である。アップルやインテルもしかり、「必要最低限の機能・スペックが揃った法人向けの安価なPC」というコンセプトを生み出した初期のデルもしかりである。最近は、電子書籍市場をめぐって出版社とアマゾンがプロフィットプールの争奪戦を繰り広げているが、この対決は「消費者の『読書体験』をより上手にデザイン・演出できるのはどちらなのか?」と読み替えることができる。

 部品メーカーが最終製品のコンセプトを主導して、「最終製品メーカーはその部品メーカーの部品を使わないと製品が製造できない」という状況を創り出す。すると、最終製品メーカーは部品メーカーに対する依存度が高くなり、部品メーカーは最終製品メーカーに対して大きな交渉力を発揮できるようになる。価格の決定権に関しても、部品メーカーが主導権を握れる。サムスンのように、部品メーカーでありながら最終製品も製造する場合は、部品から最終組立までの各プロセスに存在するプロフィットプールを総取りできるから、より有利である。

 逆に、単に最終製品メーカーの要求に従って、下請け的に部品を提供しているだけでは、部品メーカーの立場が弱くなり、買い叩かれるリスクも大きくなる。iPhoneやiPadに採用されている日本メーカーの部品の割合は依然として高いから、アップル製品が売れれば売れるほど、実は日本企業が潤うという声もあるものの、実際にはアップルに買い叩かれてほとんど利益は出ていないと見た方がよい。

 エルピーダはiPhoneやiPad用のモバイル向けDRAMで、下請け的な部品メーカーに成り下がっていたのではないか?そして同じことが、PC向けDRAMについてもあてはまるに違いない。だから、景気後退でノートPCの価格が下がった時、エルピーダ(を含む標準型DRAMのメーカー)はノートPCメーカーから標準型DRAMの値下げを要求され、素直にそれを飲むしかなかったのだろう。原因(1)で言及した「事業構造の脆弱性」とはつまり、最終製品のコンセプトへの影響力がなく、最終製品メーカーの下請け的な存在に甘んじていた、ということなのである。

(7)産活法を活かした「国家による業界支援」という構図がまずかった
 もう1つの重要な原因として私が考えているのが、実はこの原因(7)である。産活法(産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法)は、文字通り産業活力の再生と産業活動の革新のための法律であり、1999年に初めて制定され、2009年4月7日に改正法が施行されて現在に至る。産活法の適用認定を受けた企業は、税制、金融、会社法の特例措置を受けたり、株式会社産業革新機構などの下で経営再建を目指したりすることになる。リーマン・ショックの影響で2009年3月期に大幅な経常赤字に転落したエルピーダは、改正産活法が初めて適用された事例である。

 経済産業省は、エルピーダに産活法を適用することで、どのような再生シナリオを描いていたのだろうか?
 エルピーダメモリ株式会社から提出された「事業再構築計画」について平成21年6月30日付けで認定を行いました。この計画で、同社は、第三者割当増資及び金融機関からの資金調達を実施し、財務基盤を強化します。同社の強みである微細化技術に加えて、広島工場に高付加価値DRAMの最先端設備を導入することにより、更なるシェア拡大を図ります。汎用DRAMについては、台湾のDRAMメーカーと連携して製造の主軸を台湾に移管します。これらの取組を通じて、同社は、技術優位性を維持し、生産性の向上を目指します。(※21)
 政府としては、エルピーダの元々の強みである高価格のモバイル向けDRAMと、PCや液晶TVなどに用いられる低価格の標準型DRAMを両方とも拡大する目論見だったように感じる。まさに、”日の丸半導体”の復活を賭けていたわけであり、”DRAMで再び世界一を”という目標が経産省の中にあったのかもしれない。

 一方、エルピーダは若干異なるシナリオを構想していたような気がする。この点は、エルピーダが作成した「事業再構築計画」の中から読み取れる計画の中で、エルピーダは自社の戦略を次のように語っている。
 現在当社は、高付加価値マーケットへの事業集中による差別化を推進しつつあり、中でも低消費電力及び大容量・高速品への市場要求は高まっている。当社は将来における高付加価値DRAM市場で高い収益性を確保できる世界トップクラスのDRAM カンパニーを目指すものである。そのためには最先端工場への投資とグループ経営力の強化が当社にとって不可欠である。(※22)
 また、事業再建の対象となる「中核的事業」を「今後急拡大が予想される高付加価値市場(デジタルコンシューマー、サーバー等)向けを中心とするDRAMの開発、設計、製造、販売」としており、標準型DRAMについては一切言及がない(※22)。つまり、国のメンツにかけて”DRAM業界全体の復活”を目指す政府側と、まずは"企業としての生き残り”を優先するエルピーダの間には、再生シナリオに差があったわけである。

 両者の狙いに微妙なズレがあったことに加え、政府側が”DRAM業界の復活”という具合に、製品をDRAMに限定したことも、エルピーダの戦略を狭める結果になったのではないだろうか?これは原因(5)と関連する部分である。もしもこの縛りがなければ、エルピーダはDRAM事業を縮小して、DRAMよりも市場の成長と大きな利益が期待できるNANDフラッシュメモリなど、他の半導体部品へと進出したかもしれない。エルピーダがDRAMに固執したのは、エルピーダがそうしたというよりも、”DRAM復活”を願う経産省のメンツを立てるためだった、というのは行き過ぎた邪推だろうか?

 もちろん、原因(5)で書いたことの繰り返しになるが、ありものの部品を単にくっつけたり、優れた部品を取り揃えたりするだけではダメであり、それらを使って最終製品としてどう仕上げていくのか?最終消費者にどういう顧客価値や経験を提供するのか?というコンセプトが大事である。そのコンセプトによって、最終製品メーカーならびにエンドユーザの市場に対しパワーを発揮していくことが必須である。

 (続く)


(※21)「エルピーダメモリ株式会社の産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法に基づく事業再構築計画の認定について」(経済産業省、2009年6月30日)
(※22)「エルピーダメモリ株式会社の産業活力再生特別措置法に基づく事業再構築計画のポイント」(経済産業省、2009年9月26日)
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