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April 09, 2012

今さらだけど、エルピーダ破綻の7原因(仮説)を個人的に検証(5終)〜復活のカギは”インテル化”?

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 今さらだけど、エルピーダ破綻の7原因(仮説)を個人的に検証(1)〜円高説は違う
 今さらだけど、エルピーダ破綻の7原因(仮説)を個人的に検証(2)〜シナリオなきPC分野への進出
 今さらだけど、エルピーダ破綻の7原因(仮説)を個人的に検証(3)〜スマイルカーブの嘘
 今さらだけど、エルピーダ破綻の7原因(仮説)を個人的に検証(4)〜産活法という縛り
 《メモ書き》DRAM、パソコン、ノートブック、タブレットPC、スマートフォン関連の市場規模データなど

(7)産活法を活かした「国家による業界支援」という構図がまずかった(続き)
 そもそも、政府が一企業の再生を支援することはできても(りそな銀行やJALのように、再建に成功した例もある)、業界全体の再生や発展を支援することは非常に難しい(エルピーダの場合は、エルピーダ自体が国内唯一のDRAMメーカーであるから、エルピーダへの支援がエルピーダという企業単体の支援を意味するのか、DRAM業界全体の支援を意味するのか区別しにくい面もあるが、前回の記事で紹介した経産省の狙いからして、やはり後者と判断してよいだろう)。

 1960年代から70年代前半にかけて、日本企業が急成長した背景を説明するモデルの1つに、チャルマーズ・ジョンソンなどが提唱した「日本型政府モデル」というものがある。ジョンソンらは、日本政府(特に当時の通産省)が各種産業の発展を後押ししたとして、政府の役割を積極的に評価する。
日本型政府モデルの構成要素
(1)安定した官僚機構を持つ中央政府による積極的介入(主に通産省)
(2)経済成長に貢献する特定産業の重点育成
(3)輸出の積極的促進
(4)広範にわたる「指導」、許認可、規制
(5)国内市場の選択的保護
(6)外国企業による直接投資の制限
(7)独占禁止法の緩い運用
(8)不況産業にとどまらない政府主導の合理化
(9)カルテルの公認
(10)規制に縛られた金融市場および限定的なコーポレート・ガバナンス制度
(11)政府が支援する共同研究開発プロジェクト
(12)堅実なマクロ経済政策
 この「日本型政府モデル」をめぐって、マイケル・ポーターは日本の成功産業と失敗産業を研究し、モデルに挙げられた政府の行動が実際にどの程度存在したのかを調査した。その結果、成功産業ではモデルにある政府の行動はほとんど見られず、逆にそのような行動が見られるのは失敗産業の方であったと結論づけている。ポーターは、産業全体の競争優位を説明する自らの「ダイヤモンド・モデル」(※23)に沿って、失敗産業には何が足りなかったのか?政府は何をすべきだった/すべきでなかったのか?を分析しており興味深い(詳細はここでは割愛)(※24)。なお、ポーターによる成功産業と失敗産業の分類は以下の通りである。

 《成功産業》
 半導体(ポーターが研究した時期には、成功産業にグルーピングされていた!)、VTR、ファクシミリ、家庭用オーディオ機器、カーオーディオ、タイプライター、マイクロ波および衛星通信機器、楽器、産業用ロボット、家庭用エアコン、ミシン、炭素繊維、合成繊維織物、カメラ、醤油、テレビゲーム、自動車、フォークリフト、トラック・バス用タイヤ、トラック

 《失敗産業》
 民間航空機、化学、証券業、ソフトウェア、洗剤、アパレル、チョコレート

 乱暴な言い方になるけれども、政府が介入すればするほど、産業全体は失敗に向かうのである。経産省が認定した具体的な再建スキームに従って、政府が具体的にどのような行動をとっていたのかは、残念ながら現時点で情報が収集できていない。エルピーダに関しては、「日本型政府モデル」のうち、少なくとも(6)外国企業による直接投資の制限、(10)規制に縛られた金融市場および限定的なコーポレート・ガバナンス制度、(11)政府が支援する共同研究開発プロジェクトなどはなかったと思われるが、”政府主導による業界全体の再生”はそれほど甘くないことを、関係者は十分に認識できていなかったのではないだろうか?

終わりに:エルピーダに考えられた戦略オプション
 では、エルピーダはどうすればよかったのだろうか?まず、原因(2)で述べたように、低価格のPC向けDRAMと、高単価のモバイル向けDRAMの二兎追いは、決して不可能ではなかったと思う。事実、サムスンは二兎どころか、他の半導体部品にも進出しており、三兎も四兎も追っている。ただし、最終部品メーカーの言う通りに部品をせっせと供給する下請け的な部品メーカーではなく、インテルやサムスンのように、最終製品のコンセプトを主導することが条件である。

 とはいえ、実際問題として、その準備ができないままに2008年を迎えてしまい、リーマン・ショックによる大赤字で経営基盤がかなり脆弱になってしまった。よって、荒治療になるとはいえ、PC向けDRAMとモバイル向けDRAMの一方を売却するという選択が必要だったのかもしれない。しかも、産活法のスキームを活用せずに、である。どちらを売却するかによって、その後のシナリオは異なる。

 【(A)モバイル向けDRAMを残した場合】
 PC向けDRAMに比べてまだ単価が高いから、携帯電話メーカーやタブレットPCメーカーに部品を供給するだけでも利益は出せる可能性がある。また、モバイル向けDRAMよりも将来性も収益性も高いNANDフラッシュメモリなどへ進出するのもアリだろう。

 だが、モバイル向けDRAMは国内生産が中心であるから、円高リスクを常に考慮しなければならない。また、モバイル向けDRAMの価格が急落する可能性も否定できない(現在は顧客メーカーごとのカスタムメイドのようだが、仮に汎用化が実現したら一気に下落する)。

 そのような事態に備えて、エルピーダが通信キャリア、メーカーを巻き込んで、iPhone、iPadに対抗できる製品の開発を主導する、という戦略オプションがあり得る。しかしながら、ソフトバンクのiPhone、iPadへの対抗馬としてドコモが用意した目玉製品が、サムスンのGalaxyシリーズであったという時点で、日本のメーカーの力が落ちている証だから、このシナリオは実現可能性が怪しい。そうなると、よりハードルが上がるが、海外の(もちろんサムスン以外の)キャリアやメーカーへと働きかける必要がある。

 【(B)PC向けDRAMを残した場合】
 技術力を誇りとするエルピーダ社にとっては、こちらの決断の方が難しいだろう。だが、売上比率が大きいのはPC向けDRAMであるし、第1回の記事で書いた通りエルピーダの元々の戦略シナリオが”モバイルからPCへ”というものであったことからも、PC向けDRAMの方を残すという選択肢は十分にあり得る。

 PCの場合、薄利多売ビジネスになるため、「多売」が可能な市場を探さなければならない。1つの案としては、新興市場におけるノートPC需要の伸びに着目し(データ集を参照)、主に新興市場向けの新しいノートPCを、こちらもやはり海外のPCメーカーと共同で開発する、という戦略オプションが考えられる(相当チャレンジングなシナリオだが)。

 一言で言ってしまえば、”インテルのようになる”ということに尽きる。いずれもかなり突飛な事業再編案であるが、そのくらいのことをやらなければ、エルピーダは生き残れたとしても未だに低空飛行のままだったのではなかろうか?もっとも、エルピーダがその成り立ちからして、日立、NEC、三菱電機という最終製品メーカーが(言葉は悪いが)お荷物のDRAMを切り離すために作られたような会社(※25)であるから、エルピーダには最終製品のコンセプトをリードするだけの組織能力は備わっていないかもしれない。

 以上がエルピーダ破綻の原因に関する私の考察である。5回に渡り長々と文章を重ね、私の独り善がりな分析もかなり混じっている点は、いつものことながらご容赦ください。


(※23)http://www.obishin.co.jp/business/collaboration/2008_ecofeed/01th.pdf などを参照。
(※24)「日本型主導モデル」と、このモデルに異を唱えるマイケル・ポーターの研究の概要に関しては、マイケル・ポーター著『日本の競争戦略』(ダイヤモンド社、2000年)を参考にしている。

日本の競争戦略日本の競争戦略
マイケル・E. ポーター 竹内 弘高 Michael E. Porter

ダイヤモンド社 2000-04

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(※25)「エルピーダついに倒産 支援先探しは難航必至」『週刊東洋経済』(2012年3月10日号)
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