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April 06, 2012

今さらだけど、エルピーダ破綻の7原因(仮説)を個人的に検証(3)〜スマイルカーブの嘘

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 今さらだけど、エルピーダ破綻の7原因(仮説)を個人的に検証(1)〜円高説は違う
 今さらだけど、エルピーダ破綻の7原因(仮説)を個人的に検証(2)〜シナリオなきPC分野への進出
 《メモ書き》DRAM、パソコン、ノートブック、タブレットPC、スマートフォン関連の市場規模データなど

(5)DRAMに固執しすぎて、他分野への進出が遅れた
 半導体の技術に詳しい方々からは、原因(5)のような指摘が見られる。
 今回の会社更生法申請に行きつくのに、これまでの技術の大きな流れ、すなわちメガトレンドを読んでいない、と思われる節がある。というのは、セミコンポータルが何度も指摘してきたようにDRAMだけに固執していると危ない、という不安が的中したからだ。サムスンやマイクロンはNANDフラッシュも製品ポートフォリオに採り入れ、サムスンはさらにアップル向けのロジックファウンドリへ軸足を移し、マイクロンはCMOSイメージセンサにも力を入れていた。DRAMだけでは成長できないと考えていたからだ。(※13)
やはり単一の製品に頼る構造が不安定ということで、フラッシュ・メモリ関係の事業との統合も一案なのでしょうが、ありもの同士をくっつけ合わせても当座しのぎにしかならないようにも見えます。いっそのこと、不揮発で高速に書き換えられる新メモリで、既存のフラッシュ・メモリやDRAMを吹き飛ばしてしまうようなところから勝負しないと、メモリLSI事業で成功することは難しいのかも、とも思います。(※14)
 前者の引用文にあるように、DRAM市場の先行きはそれほど芳しくなく、それよりもNANDフラッシュ(PC用のUSBメモリやSSD、デジタルカメラ用のメモリカード、携帯音楽プレーヤー、携帯電話などの記憶装置として使われる。日本のメーカーでは、東芝がサムスンに次いで世界シェア2位につけている(※15))の方が有望な市場であった(データ集を参照)。NANDフラッシュ以外にも、DRAM市場以上に成長が見込める半導体部品はあったようである。だが、後者の引用文で述べられている通り、単に他の部品分野へと進出し、ありものをくっつけただけではおそらく業績は回復しなかっただろう。

 エルピーダが経営破綻する寸前、日本政府主導で東芝との経営統合が検討されていることがリークされた。台湾の市場調査会社TrendForceは、政府は東芝とエルピーダを統合して、価格が暴落している標準型DRAMの投入削減や、DRAMとNANDフラッシュの製品ラインの整理を行い、これによって韓国系大手と同様に、スマートフォンやタブレットPC市場に対応するのが狙いだったと指摘している(※16)。最近も、破綻したエルピーダの支援先として東芝の名前が挙がっている(※17)。ただ、仮に東芝とエルピーダの統合がもっと早い段階で実現していたとしても、NANDフラッシュの利益をDRAMの赤字が食いつぶして終わった可能性が高いような気がする。

 ありものをくっつけただけではうまくいかないことを如実に表しているのが、アメリカのマイクロンの業績である。マイクロンは事業規模がエルピーダとほぼ同じだが、フラッシュメモリを扱っている点でエルピーダと異なる。しかも、売上高に占めるフラッシュメモリの比率が大きい。2011年3月〜5月期では、NANDフラッシュメモリが売上高の35%前後、NORフラッシュメモリが売上高の15〜20%を占めており、DRAMの40〜45%よりもフラッシュメモリの売上比率が高い構造となっている。DRAMに比べるとフラッシュメモリの価格水準は高く、利益を稼ぎやすいと言われる(※18)。

 では、そのマイクロンの業績はどうなのかと言うと、お世辞にもよいとは言えないだろう。エルピーダと同じように2007年は赤字であり、2010年に営業利益率24%をマークしたものの、2011年は営業利益率9%と急落している。つまり、エルピーダの業績推移と大して変わらないのである(エルピーダの営業利益率は、2010年3月期が5.7%、2011年3月期が7.0%)。

 原因(3)(4)の流れを引き継いで言うと、川上の部品メーカーは優れた部品だけをたくさん集めても仕方がない。その部品を使って、最終製品としてどういうものをエンドユーザーに提供したいのか?これがポイントなのである。この点は、次の原因(6)で述べたいと思う。なお、エルピーダがDRAMに固執し続けた理由は、別のところにも求めることができると感じる。これについては、最後の原因(7)で述べる。

(6)「最終製品のコンセプト」に影響を及ぼせず、プロフィットプールを取り込むことができなかった
 長々とあちこちに脱線しながら考察を続けてきたけれども、原因(3)(4)(5)を突き詰めていけば、結局はこの原因(6)に行き着くのではないか?というのが私の結論の1つである。サムスンとエルピーダ、インテルとエルピーダの決定的な違いは、「最終製品のコンセプトに対する影響力があるか否か?」である。インテルは、かつてはマイクロソフトとの連合によって、そして最近は「Ultrabook」という独自コンセプトの提唱によって、最終製品の市場を自ら動かそうとしていることは前回の記事で述べた。サムスンの場合はもっと直接的で、部品供給メーカーであると同時に最終製品メーカーでもあり、PCも携帯電話もスマートフォンもタブレットPCもデジタル家電も自ら製造している(携帯電話、スマートフォン、タブレットPC市場におけるサムスンのシェアについては、データ集を参照)。

 「プロフィットプール」という言葉がある。製品開発や部品の製造という川上から、最終消費者へのサービスという川下に至る業界全体のバリューチェーンを描き、それぞれのプロセスでどのくらいの付加価値が生み出されているのか、平たく言えばどのくらい利益が上がっているのかを分析すると、プロセスによって利益の規模に差があることに気づく(垂直統合型の企業ならば、自社の利益を購買・製造・物流・営業など機能別に分析すると、特定の機能に利益が集中していると解る)。言い換えれば、儲かりやすいプロセスと、儲かりにくいプロセスがあるわけだ。その儲かりやすいプロセスが、「プロフィットプール」=利益のたまり場と呼ばれる。戦略を練る際には、どうやってそのプロフィットプールを自社に取り込むか?が重要なポイントとなる。

 もう1つ、「スマイルカーブ」という言葉がある。これは、以前に比べて業界内でプロフィットプールの場所が移動したことを表す言葉としてよく使われる。バリューチェーンの各プロセスのプロフィット(利益)の大きさを折れ線グラフで表現すると、かつてはバリューチェーンのほぼ中央に位置する最終製品の組立プロセスを頂点として、”山形のカーブ”を描くのが一般的であった。つまり、最終製品の組立が一番儲かるプロセスであり、反対に川上の製品開発や素材・一次部品の製造、川下のサービスは儲からないプロセスだった。

 それが、最近では最終製品の組立プロセスを頂点とする”谷型のカーブ”へと変化したという。この谷型のカーブが、ちょうど笑っている顔に似ていることから、「スマイルカーブ」という名前がついている。要するに、最終製品の組立や、その一歩手前の製品加工など、どの企業でもできるような製造プロセスは、新興国の企業が安い労働力でまかなうようになり、逆に、高い技術を結集させた上流部品の製造や、顧客への付加的なサービスの方が儲かるプロセスになったというわけである。アップルはその好例で、「製品のデザイン」という川上と、iTunesやアプリストアという川下のサービスで高い利益を上げる構造になっている。

 ただし、このスマイルカーブは必ずしも全ての業界に当てはまるわけではない。むしろ、当てはまらない業界の方が多いのではないか?とさえ思える。例えば、デルは最終製品の組立に特化している。スマイルカーブの考え方からすると、こんな戦略は自殺行為に等しいけれども、実際にデルはこのビジネスモデルで成功している。

 逆に、スマイルカーブに従えばもっと利益が上がっていなければおかしいのに、そうなっていないというケースもある。例えば、それこそエルピーダのような日本の部品メーカーである。中台韓を始めとする新興国メーカーから猛烈な追い上げを食らっている日本の製造業を擁護する声として、日本のメーカーは、上流の部品レベルでは依然として高いシェアを上げているから大丈夫だという意見がある。しかし、高いのはあくまでシェアであって、収益ではない(※19)。また、もしスマイルカーブが成立するならば、バリューチェーンの川下にあたる日本のサービス業の生産性がアメリカに比べて低いとか、製造業で生産性を挙げても、川下のサービス業の生産性の低さが足を引っ張っているといった議論は出てこないはずである(※20)。

 (続く)


(※13)「エルピーダが会社更生法を適用、DRAMへの固執が成長路線から脱落」(セミコンポータル、2012年2月28日)
(※14)「拝啓 半導体エンジニアさま(34) ― 「システムLSI事業の統合案」と「エルピーダの経営破たん」に思う」(Tech Village、2012年2月28日)
(※15)【Market View】4Q11 Sales Ranking of Branded NAND Flash Manufacturers(DRAMeXchange、2012年2月2日)
(※16)「【産業動向】 エルピーダの命運、キングストンとPTIの動向が左右と指摘 台湾メディア」(EMS One、2012年1月5日)
(※17)「エルピーダ支援入札に参加方針 東芝、米マイクロンなど」(MSN産経、2012年3月30日) ただし、最終的に東芝は支援候補から外れた(「エルピーダ:支援企業から東芝外れる 候補は海外3社に」毎日新聞、2012年4月5日)。
(※18)「■福田昭のセミコン業界最前線■高コストの日本から低コストの台湾へ、軸足を移すエルピーダ」(PC Watch、2011年9月27日)
(※19)妹尾堅一郎著 『技術力で勝る日本が、なぜ事業で負けるのか―画期的な新製品が惨敗する理由』(ダイヤモンド社、2009年)

技術力で勝る日本が、なぜ事業で負けるのか―画期的な新製品が惨敗する理由技術力で勝る日本が、なぜ事業で負けるのか―画期的な新製品が惨敗する理由
妹尾 堅一郎

ダイヤモンド社 2009-07-31

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(※20)ただし、この「日本のサービス業の生産性の低さ」をめぐっては、必ずしもそうではないという見解も多数存在する。例えば、「サービス産業の生産性は低いのか?〜企業データによる分析〜」(RIETI、2008年)、「「日本のサービス業の生産性は低い」はウソでした。」(時間管理術研究所、2007年9月25日)など。
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