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April 05, 2012

今さらだけど、エルピーダ破綻の7原因(仮説)を個人的に検証(2)〜シナリオなきPC分野への進出

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 今さらだけど、エルピーダ破綻の7原因(仮説)を個人的に検証(1)〜円高説は違う

 ここからの文章は、「《参考》DRAM、PC(デスクトップ/ノート)、タブレットPC、スマートフォン関連の市場規模データなど」のページを見ながら読むことをお勧めします。文中でも随所に、「データ集を参照」というリンクを入れてあります。

(3)モバイル向けDRAMの量産体制を築けなかった
 これは、エルピーダと取引をしていたという方のブログに書いてあったのだが、
 PCの主記憶用のDRAM市場価格は確かにPC売上急減に伴い前年同月比で1/3にまで急落しましたが、一方のiPhoneやアンドロイド機などスマートフォン用の高性能DRAMは十分収益を上げられる価格を維持していますが、エルピーダメモリの生産ラインは一年前もそして今も過半数が旧来のPC用DRAM生産ラインのままでスマートフォンの爆発的な需要を吸収できていなかったのが一番致命的な要因であります。

 現にDRAM市場シェアトップの韓国サムスンは、主要な製造ラインをスマートフォン用の高性能DRAMに次々に設備投資して置き換え、この一年でも45%超とシェアを拡大しつつ、DRAM事業においても10%を超える収益を上げています。(※8)
という。確かにこの見方は一理あるだろう。沼上教授らの『戦略分析ケースブック』でも述べられていたように、エルピーダはもともとモバイル向けDRAMに強みを持つ企業である。このブログの著者は、スマートフォンなどの爆発的な普及に伴って、自社の強みを活かす機会が現れたにもかかわらず、PC向けDRAMにこだわることでミスミスそのチャンスを逃してしまったと指摘したかったのだろう。

 だが、市場規模だけを見れば、モバイル向けDRAMよりも、それ以外の用途に使われるDRAMの方が圧倒的に大きい(データ集を参照)。エルピーダも、モバイル向けDRAMで稼いだキャッシュをPC向けDRAMなどにつぎ込んで、DRAM市場の覇権を握るシナリオを描いていたに違いない。引用文の中で、サムスンはモバイル向けDRAMの製造ラインへの切り替えを進めていったと述べられているが、モバイル向けDRAM市場で50%以上のシェア(2011年第4Q)を占めるサムスンは、DRAM市場全体のシェアも44.3%(同)とその割合をほぼ維持しており、DRAM事業全体で10%超の利益をたたき出している。つまり、モバイル以外のDRAM、具体的にはPCやデジタル家電などの分野でもちゃっかり稼いでいるのだ。

 問題は、エルピーダがPC向けDRAMなどの分野でどのように収益を上げるシナリオを描いていたのか?なぜエルピーダはサムスンのように、モバイル向け以外のDRAMで収益を上げることができなかったのか?ということである。この点については、次の原因(4)で詳しく見ていきたい。

(4)PC向けDRAMの価格下落スピードを見誤った
 先ほどの引用文にもあるように、PC向けDRAMは、欧州の景気減速などの影響を受けて、ここ1年ぐらいで価格が暴落した。だが、そもそもIT業界というのは、製品のコモディティ化が急速に進みやすく、しばしば価格の急落が起きる業界である。例えば、2000年代前半にはサーバの価格が急落して(※9)、サーバ中心のITソリューションを提供していたメーカー系SIer各社が苦境に陥ったこともあった。

 PC向けDRAMの価格下落も、2010年の段階で既に予測されていたことである(データ集を参照)。半導体業界の専門講演会である「MemCon(メムコン)」は、2013年からノートPCの需要が頭打ちになり、PC向けDRAMの価格が下落すると予想していた(専門講演会がこのデータを2010年6月に発表したということは、業界の一部では2009年頃から将来への悲観的予測が広まっていたに違いない)。その予測が現実のものとなるのが3年早まったことは非常に不幸であったけれども、こうした価格下落のリスクを吸収する対策が、エルピーダには十分に備わっていなかったのだろう。

 ただしこの問題は、単に生産コストを下げて価格下落に備えれば解決する、という柔な話ではない。日本に比べてコスト競争力が高い台湾メーカーでさえ、PC向けDRAMの価格下落によって、各社とも損失を出したのである(※10)。だから、コスト削減とは次元の異なる努力が求められる。

 そこで1つヒントになるのは、インテルであろう。インテルの主力製品であるCPUと、エルピーダのDRAMを同じ土俵の上に乗せて語ることは安直だと思われるかもしれないが、インテルは2007年〜2011年の過去5年間ずっと黒字を出し続けている(2008年のリーマン・ショックの年でさえも黒字)点に注目したい。インテルも他社と同様にPC市場の不況のあおりを受けているはずなのに、赤字にはなっていないのである。インテルの業績を支えているのは、部品メーカーらしからぬ盤石な戦略である。

 インテルは、「ウィンテル」という言葉があるように、あたかもマイクロソフトと連合を組んでいるかのごとく、Windowsの発展に合わせてCPUの性能を向上させてきたことはあまりにも有名である。そのマイクロソフトは、PCメーカー各社に、Windowsのスペックや機能に合わせてPCをデザインするように要請してきた。つまり、インテルは、CPUという超上流に位置する部品メーカーでありながら、マイクロソフトを通じて川下のPCメーカーをコントロールする力を持っているのである。

 最近はその力をさらに強めているようで、「Ultrabook(ウルトラブック)」という新しい製品コンセプトを打ち出して、低迷するノートPC市場に一石を投じようとしている。インテルは、Ultrabookが2012年末までに、ノートPC市場の4割を占めると強気な姿勢を見せている。もっとも、市場調査会社の見方は慎重であり、DRAMeXchangeが2011年9月に発表したレポートでは、2012年のUltrabookの市場シェアは、ノートPC市場の10%にとどまるとされている(※11)。とはいえ、アップルはUltrabookによってiPadのシェアが切り崩されることを警戒しており、サプライヤに対してアップルへの優先的な部品供給を要請したとのニュースもある(※12)。

 要するに何が言いたいのかというと、単なる部品メーカーとして、川下のプレイヤーの要求に従い部品を粛々と供給しているうちは、市場の変動に対してどうしても受け身にならざるを得ないということである。部品メーカーであっても、川下のプレイヤーと最終顧客の市場に影響力を及ぼすぐらいのつもりでいないと、利益を上げることはできない。この点については、後述の原因(6)でさらに詳しく述べたい。

 (続く)


(※8)「スマートフォン時代に追いつけなかったかわいそうなエルピーダメモリ」(木走日記、2012年2月29日)
(※9)「IT Market Trend 第5回 PCサーバのハイエンド化への施策」(@IT、2001年3月28日)
(※10)「【台湾】 DRAM価格下落、底値見えず 台湾メーカーはコスト割れで損失拡大」(EMS One、2010年11月29日)
(※11)「【PC】 Ultrabookのシェア拡大ペースに慎重な見方」(EMS One、2011年9月8日)
(※12)「【EMS/ODM】 アップル、超薄型Ultrabook迎撃でサプライヤーに優先供給求める」(EMS One、2011年9月7日)
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