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April 01, 2012

「課題の洗い出しが上手」という社風は、実は「ビジョン欠如」の裏返し―『衰退産業・崖っぷち会社の起死回生』

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衰退産業・崖っぷち会社の起死回生衰退産業・崖っぷち会社の起死回生
遠藤 咲子

日本経済新聞出版社 2010-06-25

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 風土改革コンサルティングで有名なスコラ・コンサルト社の本。「コンクリート製電柱」の一貫供給をメイン事業とするメーカー(M社)が、市場の成熟化に伴う業績不振から(電柱は耐久年数が40年以上と長いことから、一旦設置されれば需要は頭打ちになる運命にある)、風土改革を通じて業績回復へ到った道筋が物語仕立てで書かれている。

 本書を読んで、面白かった点と引っかかった点を1つずつ挙げたいと思う。面白かったのは、この会社は「課題を拾い上げるのは得意」という、一見よさそうな組織風土を持っているのだが、逆にそれが「ビジョンのなさ」を表しているという指摘である。
 M社は、「課題を拾い上げるのは得意」という社風があったが、これもビジョンのなさに起因していると考えられた。経営課題をいくら網羅していっても、ビジョンがないと、どの課題から手をつけるべきかの優先順位が定まらず、結局、課題は放置されてしまう。大切なのは、ビジョンに向かって課題を1つひとつ達成していくことであって、課題を数え上げることではないのだ。
 こういう状態が続くと、課題が未解決に終わっても、(それが発覚した直後の会議などでは現場が役員から怒鳴りつけられたりするのだろうが、)大したお咎めもなく、すぐに忘れ去られてしまうに違いない。そうすると、現場には「やってもムダ」という空気が、上層部には「言ってもムダ」という空気が漂い始める。現場と経営陣の間には深い溝が生じ、経営陣からの「やれ」という命令に対して、現場は建前上「ハイ」と答えるものの実際にはやらないという、本書の言葉を使えば「面従腹背の二重構造」ができ上がるのである。

 このくだりを読みながら、ある戦略コンサルタントから聞いた話を思い出した。その方は、いろんな業界で戦略策定のコンサルティングに携わった経験があり、本書でも登場するような「経営陣の合宿」も何度となく経験している実力派である。こういう合宿では、コンサルタントは百戦錬磨の役員たちの議論をファシリテートしなければならず、非常にタフで高度な能力が要求されるのだが、この方が一度だけ、ファシリテーションができずに半ば放棄してしまったことがあるというのだ。

 要は、「あれがやりたい」、「それをやるならこっちが先だ」、「今はこれができていない」、「そういえばあれもできていない」といった具合に、役員たちの発言が脈絡なくあちこちに脱線するので、その方の力をもってしても、論理的にまとめ上げることができなかったというわけである。今思えば、この方が担当していたクライアントにも、おそらくビジョンがなかったのであろう。

 参考までに、ビジョンの必要性などについて書いた最近の記事を載せておく。
 戦略による競争優位からビジョンによる競争優位へ?―『「チェンジ・ザ・ワールド」の経営論(DHBR2012年3月号)』
 競争優位が戦略からビジョンへ移行しつつあることの再発見―『絆の経営(DHBR2012年4月号)』

 もう一方の引っかかった点に話を移したい。M社はこういう状況だったので、果たして経営陣の合宿によってM社のビジョンを策定することとなった。その合宿で作成された草案に、その後社員からなるチームが自分たちの思いを乗せて完成した理念とビジョンが以下の通りである。
経営理念
 (1)コンクリート製品の製造、設置、保守、回収、再利用までそのライフサイクルに責任を持つ。
 (2)すべての工程で品質をつくり込み、人と環境を守り続ける信頼と安心を社会に提供する。
 (3)すべての社員が経営に参画し、対話を通じて情報を共有し、会社の継続的な発展に努める。

経営ビジョン
 (1)メーカーとして、常に新たな付加価値を生み出すことで業界をリードする。
 (2)「2020年・売上高100億円」を達成する。
 (3)継続的に改革を進め、成長し続ける会社になる。
 個人的には、ビジョンを構成する要素は、その企業がなぜ存在するのか、なぜ存在するべきなのかという「目的」、その目的を達成するために社員が守るべき行動規範である「価値観」、目的に向かい価値観に従って仕事を続けた結果、社員を含む各種ステークホルダーはどのような状態になっているかを描写した「未来イメージ」の3つだと考えている。これに従うと、経営理念の(1)と(2)の後半部が「目的」であり、経営理念の(2)の前半部と(3)、および経営ビジョンの(1)と(3)が「価値観」、経営ビジョンの(2)が「未来イメージ」に該当するように思える。

 これはあくまでも整理の軸の話であって、私が引っかかったのはこの箇所ではない。経営陣の合宿では、それぞれの役員に経営課題が1つずつ与えられ、解決の責任を負うことになった。これ自体は何の問題もないのだが、割り振られた課題の内容がどうも引っかかるのである。

 本書の内容に従えば、役員が受け持った経営課題というのは、「ストックヤードの改革」、「パイル事業(メインのコンクリート製電柱事業に次ぐ2つ目の事業の柱)の黒字化」、「チョコ停の根本的解消」、「人員の適正配置」、「技術継承」、「間接部門の業務改善」、「(コスト削減のための)本社移転」のようである。ここで問うべきは、これらの課題と、先ほどの経営理念や経営ビジョンとの整合性が取れているかどうか?である。私の印象だと、理念やビジョンは作ったけれども、それはさておき結局は、それぞれの役員が1番関心のある課題に終始しているようである。

 M社は、地域の電力会社が共同出資して設立した会社で、創業以来、親会社依存が非常に強い企業であった。しかし、冒頭で述べたように、コンクリート製電柱の需要は一巡しており、これ以上の市場の拡大はない。コンクリート製電柱に変わる新しい付加価値製品を生み出し続けなければ、売上高の成長も、脱親会社依存も望めない状況であった。先ほどの経営ビジョンには、まさにその危機感が現れている。ところが、「新製品の開発」や、「新規顧客の開拓」に責任を持つ役員がいないのである。これがどうしても引っかかる。

 M社は確かに、台風によって破損した電柱の徹底分析を活かして、鉄以上の強度を持つコンクリートポールの開発に成功したり、今までは受注してこなかった小ロット・特注品も製造するようになったりと、新しい挑戦を続けているようだ。だが、それらに続く新しい製品が出てこないのが現在の課題であると、本書の最後の方で述べられている。私からすると、その課題に責任を持つ役員がいないのだから、現場の活動もうやむやになるのは当然ではないか?という感じである。もう少し厳しい言い方をすれば、こんな解りやすい欠陥を、スコラのコンサルタントたちは、なぜ経営陣の合宿の最中に指摘しなかったのか?ということである。

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