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April 03, 2012

今さらだけど、エルピーダ破綻の7原因(仮説)を個人的に検証(1)〜円高説は違う

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沼上 幹 一橋MBA戦略ワークショップ

東洋経済新報社 2011-12-16

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 一橋大学の沼上幹教授が監修した『戦略分析ケースブック』。この本では、エルピーダが見事に業績回復を遂げた企業として分析の対象になっている。ところが、本が発売された昨年の12月からわずか2か月後にエルピーダが経営破綻したものだから、沼上教授の心中たるや複雑だろうと思いつつ、エルピーダに関してどんな分析がされているのか?と思い買ってみた。

 エルピーダの事業は、PC向けDRAM(エルピーダの用語では「コンピューティングDRAM」)とモバイル向けDRAM(同「プレミアDRAM」)という2つの柱で成り立っているが、企業全体の成長の原動力となったのはモバイル向けDRAMであった。2000年代前半、日本の第3世代携帯電話の高機能化に伴って、モバイル向けDRAMには小型化、省電力化、処理能力の向上など、高い機能水準が同時に求められるようになった。エルピーダは、他社に先駆けてこの要求を満たすDRAMを開発し、モバイル向けDRAM市場でシェアを大幅に拡大。ここで得たキャッシュを活かして、今度はPC向けDRAMの量産体制を構築していった、というのが本書における大まかな分析内容である(PC向けDRAMに関しては、分析が行われていない)。

エルピーダ業績推移(製品別)

(沼上幹、一橋MBA戦略ワークショップ著『戦略分析ケースブック』より引用)

 では、なぜ順調”そうに見えた”エルピーダが、会社更生法の適用という道を選択することになったのか?その理由はいろいろと言われているけれども、私なりに7つの原因(仮説)を取り上げて、その1つ1つについて見解を述べてみたいと思う。エルピーダの経営破綻から約1か月が経過しており、若干”今さら感”が漂うものの、どうぞお付き合いください。本来ならこの手の記事は、経営破綻が発覚してからすぐにアップできれば価値もあろうが、私はどうもそういう時流に乗った記事をすぐに書くのが苦手なもので・・・。だから、ブログのPVも爆発的な伸びを見せないんだな(苦笑)。

 なお、DRAM市場で50%以上のシェアを保ち首位をひた走るサムスンに関しては、韓国随一の財閥で国からいくらでも補助金が出るからまともに勝負しても勝てないとか、「世界最悪企業」(スイスの「Berne Declaration」というNGOが2000年から開始したランキングで、社会的責任を果たしていない企業を世界中の投票によって決定。その結果は、世界経済フォーラムで発表される)の常連企業であり、労働者を不当に搾取して安い半導体製品を生産しているとか、どこまで根拠があるのか解らない話もいくつかあるけれども、その辺はひとまず置いておく。

(1)円高が続いて業績が悪化した
 まず最初に思いつく原因が、円高の長期化である。リーマン・ショック以降の円高をずっと放置していた日銀の無策を攻撃するには、言い方は悪いがエルピーダの破綻はいい材料になった。日銀を批判する人たちは、「産活法(産業活力再生特別措置法)によってエルピーダを”国策企業”に指定し、国を挙げて”日の丸半導体”の復活を目指していたのに、日銀が足を引っ張ってしまった」と言うわけである。

 ただし、この”円高説”には注意が必要だろう。エルピーダーの事業のうち、国内で生産されているのはモバイル向けDRAMであり(広島工場など)、PC向けDRAMの生産は台湾など海外に移管されている。しかも、前掲のエルピーダの製品別業績推移の図から解るように、売上の比重はPC向けDRAMの方が大きい。実際、直近でもモバイル向けDRAMとPC向けDRAMの割合は「40:60」になっていたようである(※1)。

 そして、もう1つ重要な点は、エルピーダは円高になる前から赤字になっていたという事実である。同社の営業利益の推移を見ると、2008年のリーマン・ショックによる大赤字の前年にも赤字を出している。

エルピーダの営業利益推移

(エルピーダHPの「業績ハイライト」より引用)

 2007年の為替レートは、1ドル120円あたりからスタートし、その後円高が続いて年末には1ドル110円を切る水準にまで達したとはいえ(※2)、昨今の円高に比べればずっとマシな状況だったと言える。にもかかわらず赤字に転落したということは、円高とは無関係に、事業構造に何らかの脆弱性を抱えていたと考えた方がよいのではなかろうか?

(2)PC向けDRAMという低価格製品と、モバイル向けDRAMという高付加価値製品の二兎追いがまずかった
 エルピーダがモバイル向けDRAMを「プレミアDRAM」と呼んでいることからも容易に想像がつく通り、両者には大きな価格差がある。2008年の経済産業省の関税・外国為替等審議会の資料には、「携帯電話向けDRAMは、PC向けに比べて1.5〜2.0倍の価格で受注されており、個別取引における価格交渉では、PC向け市況動向が参考にされている」という記述がある(※3)。DRAMに関する各種市場データやニュースを提供している「DRAMeXchange」のページを見ると、最近では両者の価格差はさらに広がっている模様だ(「DRAM Spot Price」がPC向けDRAMの価格、「Mobile DRAM Contract Price」がモバイル向けDRAMの価格)。

 つまり、エルピーダは、PC向けDRAMという低価格のコモディティと、モバイル向けDRAMという高付加価値製品の両方を扱っている格好になる。そこでふと私の頭をよぎったのが、この2番目の仮説である。一般的に、この手の「二兎追い戦略」は失敗しやすい。高付加価値製品は、顧客ごとのカスタムメイドが中心であり、営業活動にじっくりと時間をかけて顧客のニーズを汲み取っていく。調達する部品も高価な一品モノが多く、製造リードタイムも長い。

 これに対し、コモディティ製品では、顧客ニーズの最大公約数を素早くつかみ、広範囲に渡るプロモーションを通じて製品の知名度を一気に高め、大量生産によってコストダウンされた製品を迅速に提供することがカギとなる。つまり、両者では求められる組織能力が大きく異なり、その結果として事業のコスト構造も変わるのだ。異質な組織能力とコスト構造を同時に併せ持つのは、実は非常に難易度の高い技であって、失敗した事業多角化がよく陥っている典型的な罠である。

 また、高付加価値製品と低価格製品を同時に持つと、高付加価値製品の顧客が低価格製品に流れるというカニバリゼーション(共食い)を引き起こす可能性もある(※4)。例えば、航空業界ではLCCへの参入が相次いでいるが、従来路線の主たる顧客であるビジネスパーソンがLCCに移行してしまったらアウトだ。LCCはあくまでも、従来路線の顧客になっておらず、深夜バスや新幹線など他の交通機関を利用していた層を狙う必要がある(深夜バスの顧客と新幹線の顧客では随分と違いがあるが・・・)。だから、LCCのサービスは、従来のビジネスパーソンには「こんなサービスでは満足できない!」と思わせ、深夜バスなどの利用者層には「深夜バスより快適〜♪」と思わせるような、絶妙なラインを保たなければならない。

 前置きが長くなってしまったけれども、二兎追い戦略は「一般的には」失敗しやすい。ただし、カギ括弧をつけたように、DRAMの場合はこれが当てはまらないように思える。というのも、PCも携帯電話も、消費者のニーズが変化しやすく、かつ新製品がすぐにコモディティになる点で共通している。また、PC向けDRAMとモバイル向けDRAMは、製造コストにさほど差がないという話もある。例えば、40nm世代でPC向けの2Gbit品を製造するコストと、30nm世代でモバイル向けの4Gbit品を製造するコストは、初期投資の違いを除くとあまり変わらないという(※5)。加えて、今や消費者がPCと携帯電話を両方持つのは当たり前になっているから、PC向けDRAMとモバイル向けDRAMの間で顧客の共食いが発生することは考えられない。

 2番目の仮説は、円高説の最後で触れた「事業構造の脆弱性」に関するものだったが、この説はどうやら違うということで片付けてよさそうである。ただ、1点気になるのは、エルピーダは結局のところ、PC向けDRAMとモバイル向けDRAMのどちらに主軸を置きたかったのか?がイマイチはっきりしなかったことである。

 2010年11月に坂井社長は、タブレット端末市場の成長を見越して、「今後3年間を見ると、2010年はPCオリエンテッドからMobileオリエンテッドへ移行するエポックな年になる」と述べ、モバイル向けDRAMに注力する姿勢を見せていた(タブレット端末のDRAMは、PC向けDRAMではなく、モバイル向けDRAMである点に注意)(※6)。その一方で坂井社長は、経営破綻を発表した今年2月の記者会見の席上で、2GbitのDRAMが約50円前後(2011年12月時点)であることに触れて、「最先端の技術を使っているのに、(コンビニで売っている)おにぎりの半分の値段にしかならない」とこぼしていた(※7)。その発言内容は、まるでPC向けDRAMへの未練というか執着を感じさせるものであった。

 (続く)

(※1)「2011年4QモバイルDRAMシェア、韓国勢74%、エルピーダ17%」(MoCell、2012年2月29日)
(※2)「図録▽円の対ドル・ユーロ為替レートの推移
(※3)経済産業省 関税・外国為替等審議会 関税分科会特殊関税部会「DRAM産業の現状について」(2008年8月22日)
(※4)ただし、低価格製品がクレイトン・クリステンセンの言う「破壊的イノベーション」である場合には、既存事業である高付加価値製品の顧客が侵食されるのを覚悟の上で、低価格製品のラインナップを揃えるべきである。そしないと、他社が低価格製品を揃えて市場に参入し、自社の高付加価値製品の顧客を侵食し始める。この辺りの戦略の攻防は、『イノベーションのジレンマ』などで詳細に描かれている。
(※5)「■福田昭のセミコン業界最前線■高コストの日本から低コストの台湾へ、軸足を移すエルピーダ」(PC Watch、2011年9月27日)
(※6)「エルピーダの2011年3月期上半期決算、DRAM単価下落も黒字を維持」(マイナビニュース、2010年11月4日)
(※7)「エルピーダがついに経営破綻 生殺与奪にぎる支援会議の”空転”」『週刊ダイヤモンド』(2012年3月10日号)
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