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   新ブログ 谷藤友彦ー本と飯と中小企業診断士
March 23, 2012

マネジメントの究極の目的はマネジャー職をなくすことかもしれない―『絆の経営(DHBR2012年4月号)』

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Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2012年 04月号 [雑誌]Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2012年 04月号 [雑誌]

ダイヤモンド社 2012-03-10

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自主マネジメントを徹底する世界最大のトマト加工業者 マネジャーをつくらない会社(ゲイリー・ハメル)
 組織の拡大とともに、マネジャーにかかるコストは絶対額が増えるばかりか、コスト全体に占める比率も高まっていく。小さな組織であればマネジャー1人で平社員10人を管理できるかもしれない。この1対10という割合を保とうとするなら、平社員10万人の組織ではマネジャーの数は1万1111人になるだろう。マネジャーを管理監督するために1111人が余計に必要なのだ。(中略)仮にマネジャーの報酬が、最下層の社員の平均3倍だとするなら、支払い給与総額の33%がマネジャーに振り向けられている計算になる。どう考えても高コストである。
 「マネジメントは、組織で最も非効率な活動ではないだろうか」という過激な文章で始まるゲイリー・ハメルの論文。位置づけとしては、ハメルの近著『経営の未来』の延長線上にある内容である。

経営の未来経営の未来
ゲイリー ハメル

日本経済新聞出版社 2008-02-16

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 《『経営の未来』のレビュー記事》
 この本を読んで、前提が崩れたマネジメント手法を整理してみた−『経営の未来』
 企業経営に市場原理を入れてみよう!でもマネジャーの仕事はどうなる?−『経営の未来』
 マネジメント・イノベーションがもたらす「自由」と「責任」−『経営の未来』

 ハメルが『経営の未来』で提示した新しいマネジメントとは、伝統的な上意下達の階層組織を前提とせず、組織の階層を減らし、現場社員をもっと信頼して彼らに自由と責任を与え、組織の未来を左右する重要なアイデアや、組織の成長・発展を後押しする優れた能力を現場社員から引き出すマネジメントであった。ハメルはこうしたマネジメント観の移行を「マネジメント・イノベーション」と呼び、その先駆的な企業として、

 ・ホールフーズ(有機野菜などを販売し、ウォルマートの低価格路線とは逆の戦略を展開している小売業)
 ・W・L・ゴア&アソシエイト(アウトドア製品などに用いられる防水透湿性素材「ゴアテックス」などを製造する化学メーカー)
 ・グーグル

の3社を取り上げた。だが、ハメルが今回の論文で分析している「モーニング・スター社」(カリフォルニア州にある世界最大のトマト加工業者で、アメリカの年間加工量の25〜30%を取り扱っている)は、この3社の長所を全て兼ね備えた、まさにマネジメント・イノベーションの先頭を走る企業である。ハメルが同社の評判を聞いた時には、「一も二もなくカリフォルニア州サンホアキンバレーの工場を訪問させてもらうことにした」という気持ちも理解できる。同社のマネジメントには、具体的に以下の10の特徴がある。

(1)使命(ミッション)を上司の代わりにする
 同社では、社員は「誰からの指示も受けない」。代わりに「トマト関連の製品やサービスを提供して、品質や対応の面でお客様の期待に確実にお答えする」という同社の目標が、社員に仕事を命じている。社員は皆、この目標をどのように達成し、自分はどう貢献するのかをミッション・ステートメントに記入する義務を負う。

(2)社員同士で合意を形成させる
 上司がいないため、各自の役割や業務範囲は、社員同士の合意によって決定される。各社員は毎年、自分が仕事上極めて大きな影響を及ぼす同僚たちと相談しながら、合意書(CLOU: Colleague Letter of Understanding)を作成する。CLOUを作成するには、10人以上の同僚と、それぞれ20〜60分ほど話し合う。でき上がったCLOUでは、最大で30もの活動分野が規定され、成果の測定指標も設定される。

(3)全員に本当の意味での権限を与える
 権限とは、言い換えれば経営資源、すなわち人、モノ、カネ、情報、知識を自分の裁量で動かす権利のことである。ただ、モノはカネで買えるし、重要な情報や知識は人に紐付いていることが多いから、実質的には人とカネを動かす権利こそが権限と言える。しばしば、部下のモチベーションや能力を高めるために権限移譲が行われるものの、その多くが行き詰まるのは、上司が困難な仕事だけを部下にやらせて、実質的な権限は与えないからである。

 この点、モーニング・スター社では、本当の意味で権限委譲が行われている(もっとも、同社には初めから上司がいないので、権限が委譲されるわけではないのだが)。すなわち、全社員に購買と採用の権限があるのだ。仕事に使うツールや機器がほしければ、社員は自分で発注する。また、仕事を完遂するために新しい人材が必要になれば、自ら採用活動に乗り出すのである。

(4)社員を枠にはめない
 同社では、会社側が社員の役割を決めないので、社員自身が自分の責任で技能を伸ばしたり、困難な仕事の経験を積んだりする必要がある(論文中に「研修・育成責任者」が登場するので、研修部門は一応存在すると推測される)。ただし、高い技能や経験を有する社員には、より大きな責務を引き受ける機会がやってくる(論文には具体的に書かれていないものの、(2)で述べたCLOU作成プロセスの中で、技能や経験に応じて職務が調整されるものと思われる)。

 また、社員全員があらゆる分野の改善提案を出してよいことになっている。トップダウンで変革が進むことが多い他社に対し、同社では、変革は自分たちの責任で起こすものだと考えられている。

(5)昇進するためではなく、影響を及ぼすための競争を奨励する
 そもそも階層がないので、昇進という概念が同社にはない。とはいえ、このことは社内競争がないことを意味するわけでもない。社内の競争は、誰が日の当たるポストに就くかではなく、誰が最も大きく貢献するかに置かれている。この点についても、論文ではこれ以上詳しくかかれていないが、(4)で述べたのと同様に、CLOUを作成する段階で、同僚から高い評価を受けた社員が、より挑戦的かつ貢献的な仕事を優先的に引き受けることができるのであろう。そしてこの仕組みが、各社員のモチベーションの大きな源泉になっているとも思われる(同社の評価制度については、(9)(10)で後述)。

(6)明確な目標とガラス張りのデータ
 自主管理を実践するには情報が欠かせない。同社は、自分の仕事ぶりを把握して賢明な判断を下すのに必要な情報を、全て社員に与えようとしている。CLOUには必ずマイルストーンが細かく記され、それを拠り所にすれば、各自が同僚のニーズにどれだけ応えられているかを確認できる。加えて、事業部ごとの詳しい収支が月に2回、全社員に公表される。「同僚が責任を果たしているかどうかお互いに注意を払う」という意識が植えつけられている。これだけ透明性が高いと、愚行や怠慢はすぐに見つかる。

(7)計算と協議
 (3)で述べたように、社員は自分の裁量で社費を支出して構わないが、費用対効果を計算して、事業上の妥当性を示さなくてはならない。また、支出にあたり同僚と協議することも期待されている。購買に限らず、同社の社員はその裁量の大きさとは裏腹に、独断を下すことはまずない。誰かが何か新しい活動を進めようとする時には、同僚と協議するよう促される。そしてもちろん、アイデアを握りつぶす権限を持つ人もいない。

(8)対立の解消と適正手続き
 これまで見てきたように、同社は社員に大きな裁量を与え、社員同士の信頼関係に立脚したマネジメントシステムを採用している。しかし、それでも裁量の濫用、恒常的な成績不振、同僚との喧嘩などは発生する。商取引の当事者間で衝突が起きると、調停や裁判で決着をつける場合が多いが、同社でもこれと似たような仕組みを用いている。

(9)同僚による評価と異議の申し立て
 人事考課に関しては、年末には全社員が、CLOU上でつながりのある同僚からフィードバックを受ける。部門の業績評価に関しては、1月に全ての事業部が前年の業績の妥当性を説明することになっている。各事業部は、経営資源を適切に使っていることを説明し、至らない点については認め、改善プランを示す必要がある。

 2月に開かれる戦略会議では、各事業部が全社員を前に20分をかけて年間の事業計画を説明する。聞き手たちは、「これは有望そうだ」と思う戦略に仮想通貨を投じる。このバーチャル投資で十分な資金が集まらないと、社内からの厳しい視線を浴びる。

(10)互選制の報酬委員会
 各社員は年末になると、CLOUで掲げた目標やROI目標などの指標に照らしながら、業績の自己評価を作成する。次いで、互選によって地域ごとに報酬委員を決める。毎年、全社で合計8つほどの委員会が設置される。委員会は社員の自己評価を吟味し、そこから漏れた成果も追加する。そして、これらの情報を慎重に検討した上で、付加価値に見合うよう留意しながら、一人ひとりの報酬額を決める。

 ドラッカーは「マーケティングの究極の目的は、販売をなくすことである」と述べたが、この表現を少し変えれば、「マネジメントの究極の目的は、マネジャー職をなくすこと」なのかもしれない。事実、同社のクリス・ルーファー社長は、次のように述べている。
 「当社では全員がマネジャーなのです。石を投げればマネジャーに当たりますね。マネジメントには経営計画、業務の段取り、指示、人材の手配、管理・監督が含まれ、全従業員にこれらすべてを期待しています。だれもが自分の使命をマネジメントするわけですよ。同僚との取り決めや、仕事をこなすのに必要な経営資源についてもしかり。同僚に責任を果たさせるという意味でも、全員がマネジャー役を担っています」
 同社では、全社員がまさにドラッカーの言うところの「エグゼクティブ」ある。つまり、企業の業績に影響を与える意思決定を下し、その実行に責任を負う知識労働者の集まりなのである。
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