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March 24, 2012

ルーズリーフでメモを取る上司に不信を抱くグルジア人部下の話、他―『絆の経営(DHBR2012年4月号)』

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Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2012年 04月号 [雑誌]Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2012年 04月号 [雑誌]

ダイヤモンド社 2012-03-10

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 DHBR2012年4月号のレビュー最終回。1週間、この雑誌だけで引っ張ってしまいました(苦笑)。

「スティーブ・ジョブズ」はいらない イノベーション・カタリスト(ロジャー・L・マーティン)
 インテュイットでは、<パワーポイント>のプレゼンテーションに基づいて意思決定を下していた。そこで管理職たちは、(みずからが考えるところの)優れた製品を開発するだけでなく、上司にコンセプトを売り込むために優れたプレゼンテーション・スキルを身につける必要があった。同社では、このようなシステムの下、アイデアの良し悪しは管理職たちが判断し、これを顧客に販売していた。

 それゆえ、D4D(※「Design for Delight:顧客を感動させるデザイン」と呼ばれる同社のプログラム)の重要な役割の1つが、管理職たちの間に見られるプレゼンテーション重視の傾向を転換させることであった。(経営陣の)ハンソンとクックは、実験を通じてみずから顧客に学ぶほうがよほど効果的であると考えていた。
 アメリカのIT企業であるインテュイット社(※ちなみに、中堅・中小企業向けの会計ソフトで有名な弥生株式会社は、この会社からMBOして独立した企業である)がどのように新製品開発の方法を転換したか?を紹介した論文。一言で言ってしまえば、企画書ベースから実験ベースに移行したということに尽きる。同社では以下の3つのプログラムによって、”顧客密着型”の製品開発を実現している。
(1)ペインストーム(問題の発見)
 顧客の望むところを社内であれこれ想像するのではなく、実顧客の職場や自宅に出向き、直接話を聞き、その行動を観察する。そして、顧客の抱える「ペイン・ポイント」(悩みの種)を見出す。

(2)ソル・ジャム(問題の解決)
 あぶり出されたペイン・ポイントに対処するために、製品やサービスのソリューションのためのコンセプトを思いつく限り並べ上げ、取捨選択した上で、プロトタイピングやテストに備えてリスト化する。プロトタイピングの初期段階では、これら潜在価値の高いソリューションがインテュイットのソフトウエア開発プロセスに組み込まれた。

(3)コード・ジャム(ソース・コードの作成)
 ソル・ジャムから2週間以内に、完璧でなくともよいから顧客に渡せるようなソース・コードを書く。これにより、ペインストリームに始まり新製品に関する最初のユーザー・フィードバックに至るまで、通常4週間で足りることになる。
 個人的には、3つの取り組みはそれほど目新しいものではないという感じだった。顧客の行動を観察しながら潜在ニーズを発掘し、それを新製品へとつなげていく手法は「エスノグラフィー・マーケティング」と呼ばれており、このブログでも何度か取り上げてきた。

 顧客のことは顧客でも解らないことがある−『マーケティングこそすべて(DHBR2010年10月号)』
 P&Gが顧客(=ボス)との距離を極限まで縮めるためにやっていること―『ゲームの変革者』
 今月号はインド企業の事例がいっぱい―『ビジネスモデル 構想と決断(DHBR2011年8月号)』

 なお、論文のタイトルに「イノベーション・カタリスト」とあるものの、インテュイット社の事例は、既存の製品を改善して、既存市場におけるシェアや収益を上げていく「マーケティング」を指しているのか、顧客価値をドラスティックに再定義して、新市場や新しいビジネスモデルを創出する「イノベーション」を指しているのか判然としない。イノベーションに関しては、前述のリンクと以下のリンクで触れているように、P&Gの仕組みの方がはるかに進んでいると感じる。

 柔らかいアイデアの段階で予算をつける勇気がイノベーションのカギ―『ゲームの変革者』
 イノベーションを既存事業部門から敢えて切り離さないP&G―『ゲームの変革者』
 P&Gは”イノベーションは結果が出ればOK”という柔な評価で済まさない―『ゲームの変革者』

 P&Gの仕組みで一番すごいと思ったのは、「柔らかいアイデア創成の段階でも予算がつく」という点である。通常の企業では、アイデアを生み出す段階で予算がつくなどというのは、最初から一定の予算が確保されているR&D部門を除けば、ほとんどないだろう(R&D部門と言えども、新製品につながりやすい応用研究から優先的に予算が割り当てられ、基礎研究は後回しにされることが多いと聞く)。アイデアは社員が空き時間をうまくやりくりしてまとめられ、社内の提案制度などを活用して上層部に上げられる。そして、上層部にアイデアが承認されて初めて予算がつくものだ。

 一例を挙げると、サイバーエージェントが新規事業の継続的な創出を目的として開催している「あした会議」は、まさにこうしたプロセスをたどる。新規事業の構想段階では、予算は出ない。役員、管理職、現場社員など多様なメンバーで構成される戦略立案チームは、忙しい業務時間の合間を縫って企画を考える。晴れて予算がつくのは、「あした会議」のプレゼンで経営陣のGOサインが出た企画のみである。

 ところが、今月号の巻頭コラムを読んでいたら、非常に興味深いくだりがあった。
 基礎研究に1000億円を投資する場合、大型プロジェクトに全額投資するのと、1000人に1万人ずつ配分するのとでは、どちらがイノベーションの創成に貢献するかという議論がある。この時、ノーベル賞を受賞した研究の多くが、後者のプロセスを経て成功したことが忘れられがちである。将来的な研究成果が不明という理由だけで、リスクを取らずに投資の可否を決めては、大きく開花するかもしれない千載一遇のイノベーションを摘み取ることになりかねない。
(安西祐一郎「科学技術の未来」)
 つまり、柔らかいアイデアの段階で、少額でもいいから予算をつけると、イノベーションの確率が上がるというのである。この意味でも、P&Gの仕組みは非常に高度化されていると改めて感じた。

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あなたのコラボレーション・スキルを診断する 部門横断的に巻き込み高業績を実現する力(ハーミニア・イバーラ、モルテン・T・ハンセン)

 多くの企業で部門横断的な取り組みが増えている現在、社員には高いコラボレーション・スキルが要求される。著者によると、コラボレーションに優れた人材は、(1)「コネクター」(※マルコム・グラッドウェルが『ティッピング・ポイント』の中で用いた言葉で、様々な社会と結びついている人々のこと)の役割を果たす、(2)様々な人材と関係を作る、(3)トップがコラボレーションの範を垂れる、(4)チームが泥沼の論争に陥らないために強力な影響力を発揮する、という4つの能力を持っているという。

 この4つのスキルは、「まぁ、そりゃそうだよな」という感じだし、論文をさらっと読むと、「顔が広い」つまり、部門や職位、職種、経験の枠を超えて、幅広く人々とリレーションを構築することがコラボレーションのカギであるかのような印象を受ける。しかし、よく読めば、2点ほど注意すべき点があると私は思った。1つ目の注意点は、次の引用文に出てくる。
 コネクターの重要性は、知り合いの数の多さによって説明することはできない。むしろ、普通ならば遭遇することのない人々やアイデア、資源などを結びつける能力にある。ビジネスの世界では、コネクターはコラボレーションに棹差す役割を果たす。(※太字は私がつけた)
 当たり前だけれども、重要なのは人脈の「数」ではなく「質」である。この点は、『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』2012年2月号の論文「数だけが重要ではない ハイ・パフォーマーの人脈投資法」(ロブ・クロス、ロバート・トーマス)でも指摘されている(以前の記事「自分を鍛える人脈 自分をダメにする人脈―『自分を鍛える 人材を育てる(DHBR2012年2月号)』」を参照)。コラボレーションのポイントは、「いかに知り合いを増やすか?」という交友術めいたものではなく、「コラボレーションの目的を達成するために、どのようなタイプの人材と組む必要があるか?」を見極める眼である。

 これは単に、自分が知らない領域や、自分に足りない能力を補ってくれる人材を特定することにとどまらず、意見の偏りやリスクの過小評価を避けるために、コラボレーションに否定的な人を敢えて最初から入れることや、コラボレーションの結果として生まれた新しい施策が現場でスムーズに実行されるよう、現場の社員(特に、いわゆる「2:6:2の原則」で言うところの「6」に該当する”普通の社員”)を早い段階で巻き込むことなども含まれると私は考える。

 もう1つの注意点は、次の引用文に潜んでいる。
 チームの活気が失われないように、コラボレーション・リーダーは定期的に新しい人材を招き入れる。コラボレーションをより活性化させる具体的な方法として、Y世代(70年代中頃から2000年代初期の生まれで、オンラインで知識や意見を共有しながら成長してきた人たち)の社員を採用することが挙げられる。実際、リーダー企業の多くが、Y世代のアイデアや視点を活用する技術を活用している。(※同じく、太字は私がつけた)
 確か、GEがeビジネスへの参入を検討した際、当時のジャック・ウェルチCEOはITのことが全く解らなかったので、ITに詳しい20代社員を自分のメンターに指名して、メンターからITのことを学びながらeビジネスを構想したという話を聞いたことがある。チームに新しい視点を取り入れるためには、チームの新陳代謝を促すとよいとしばしば言われる。ところが、そのペースが速すぎると、メンバー間の信頼関係が十分に構築されず、アイデア創出云々かんぬん以前の問題として、日常業務において重大なミスを犯しやすくなると指摘する論者もいる。

 『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』2009年9月号の論文「心理学の調査が教える チームワークの嘘」(J・リチャード・ハックマン)によると、アメリカ国家運輸安全委員会(NTSB:National Transportation Safety Board)のNTSBのデータベースに登録されている飛行機事故の73%が、乗務員たちが初顔合わせした日に発生しているそうだ(過去の記事「何でもコラボすりゃいいってもんじゃないんだよ(後半)−『信頼学(DHBR2009年9月号)』」を参照)。

 もっとも、ハックマンもチームメンバーの固定化をよしとしているわけではない。ハックマンが言及しているR&Dチームに関する研究によると、創造性と新しい視点を失わないために、新しい人材を投入することの有効性が示されているという。ただし、その投入ペースは「3〜4年ごとに1人という緩やかなペースである」という。先ほどの引用文で私が太字にしたように、新しい人材は「定期的に」投入しなければならない。このペースを見極めることも、コラボレーション・スキルの重要な一部をなしているように思える。

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現場の自発的関与を促す6つの原則 「依存し合う」経営(ハラランボス・A・ブラフチコス)

 著者が長年に渡り同族企業で経営に携わった経験や、その後のコンサルティングなどから得た、マネジャーが守るべき6つの教訓を紹介した論文。その6つとは、(1)謙虚になる、(2)真摯に耳を傾け、それを部下に知らせる、(3)反対意見を歓迎する、(4)議題の数を絞る、(5)すべて自分で答えを出そうとしない、(6)自分で意思決定することに固執しない、である。著者自身も認めているように、「私が示す教訓は、理論的にはありふれているかもしれない」。ところが、著者が「真の価値は常に細部に宿るものである」と述べているように、よく読むと非常に興味深い箇所があったので、2つほど引用したいと思う。
 私はかつて、グルジアの製粉工場の再建に携わったことがある。私は現地のマネジャーたちを意思決定に巻き込もうと努めたが、彼らは私が提案した変革に抵抗を示していた。そこで、最も不満を持っていたマネジャーの1人と、話し合いの場を持った。自分の提案に私が耳を傾けようとしていないと、彼は主張した。

 「でも、私はすべての会議の細かなメモを取ってきました。あなたもご存知でしょう」と、私は告げた。「たしかにあなたが書き留めているのは見ましたが、ルーズリーフを使っていたので、後できっと捨ててしまうでしょう。私たちの意見を真剣に受け止めているなら、私が使っているような綴じノートを使うはずです」と、彼は答えた。
 この部下は、ノートの形式で「私の上司は本当に自分の話を聞いているのか?」を判断しているのが印象的であり、意外でもあった。「部下は自分が意識している以上に、自分のことを隅々までよく見ている」ことをマネジャーは知っておいた方がいいのかもしれない。

 もう1つは、共産圏の企業とビジネスをする際の教訓。文化的背景の違いを理解することの重要性を教えてくれる事例であった。
 私が以前、アメリカの大手配送会社から受けた依頼は、ベラルーシの現地スタッフからフィードバックがないという問題を解決することだった。同地域を担当していたフィンランド人マネジャーのペッカは、「どんなに働きかけても、反論はおろか提案すらしてくれません」と、こぼしていた。
 ペッカは、会議で現地スタッフを集めて意見を求めても、誰一人としてうんともすんとも言わないことに不満を感じていた。そこで著者が直接現地に赴き、現場のリーダー格とおぼしき社員と個別に話をしたところ、実に具体的な業務改善案を語ってくれたという。
 3世代も続いた独裁的な共産主義のせいで、だれもすすんで意見を言わなくなったこと、ましてや、上司に反論することなど、個人的に意見を求められない限りありえないことを、私はペッカに説明した。そこで、ペッカは個別に助言を求めることにした。数ヶ月もすると、部下が反対意見を述べるようになったという報告があった。

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