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March 20, 2012

自社のビジョンに利害関係者も巻き込む「価値観連鎖(Values Chain)」の再発見―『絆の経営(DHBR2012年4月号)』

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 (DHBR2012年4月号のレビューの続き)

組織の「接着剤」と「潤滑油」が生み出す 「集合的野心」の力(ダグラス・A・レディ、エミリー・トゥルーラブ)
 集合的野心(collective ambition)とは、リーダーと社員が、みずからの存在理由について、そして、お互いに何を実現したいと考えているのか、その野心の達成に向けてどのように協力するのか、また、ブランドの約束と価値観をどのように整合させるのかについて、集約したものである。
 著者は、リーマンショックや欧州経済危機などの世界的な信用不安の中でも、高い業績を上げている企業には、「集合的野心」というモデルが存在しているという。本論文では、スタンダード・チャータード銀行(SCB)、フォーシーズンズ、フランスの化粧品小売りセフォラ、ダノンのアメリカ法人などの事例に触れながら、「集合的野心」のモデルが解説されている。

 「集合的野心」とは、(1)目的、(2)ビジョン、(3)目標とマイルストーン、(4)戦略上および業務上の優先事項、(5)ブランドの約束、(6)価値観、(7)リーダーの行動という7つの要素から成り立つ。(1)目的、(2)ビジョン、(6)価値観の3要素は、このブログでもたびたび述べているように、企業の「ビジョン」を構成する要素であるから((2)のビジョンは、論文をよく読むと「未来イメージ」とほぼ同じ)、私の解釈としては、「集合的野心」≒「ビジョン」である(以前の記事「ビジョンを構成する要素とは一体何なのだろうか?」を参照)。

 ただ、「集合的野心」は、(4)戦略上および業務上の優先事項と(5)ブランドの約束によって、ビジョンが戦略やマーケティングと紐付けられている点、(3)目標とマイルストーンがあることで、現場での実行プランとの整合性を意識している点、さらに(7)リーダーの行動によって、リーダー自身が率先垂範する決意を表明している点で、ビジョンをより具体化したものと言える。

 事例を読んでいくうちに、2つ面白いことに気づいたので、それについて書いてみたいと思う。1つ目はSCBの事例。SCBは、「長きに渡って営業を続け、その地域のお役に立つ」というブランドの約束を打ち出し、それを「ヒア・フォー・グッド("Here for good")」というフレーズで表現した。しかも、「集合的野心」を自社の社員だけに適用するのではなく、規制当局や顧客にまで広げている。
 SCBはまた、その国の法規制を遵守している顧客だけと取引しており、規制当局については、健全な事業環境をつくり出すためのパートナーと認識している。(中略)SCBはさらに、核となるビジネスプロセスにも「ヒア・フォー・グッド」を浸透させている。たとえば融資を申し込む人は、自分が「ヒア・フォー・グッド」を果たすことをSCBに納得させる書類を作成しなければならない。具体的には、製造業者が新しい工場を建設するために融資を受けたい場合、持続可能な方法によって廃棄物を処理することを求められる可能性がある。
 その国の法規制を遵守している顧客だけと取引をするのは、コンプライアンスの観点から当然だとしても、融資を希望する顧客企業に「ヒア・フォー・グッド」を約束させるところがユニークである。SCBの「その地域のお役に立つ」という価値観、言い換えれば地域のサステナビリティに貢献するという価値観に沿った行動を、顧客企業にも要求しているわけだ。規制当局との関係について、引用文以上の分析がなかったのが残念だけれども、おそらく規制当局ともSCBの価値観が共有されているものと推測される。自社とステークホルダーとのこうした関係は、実は以前、最強のローカル番組と評される「水曜どうでしょう」の考察を通じて得られた「価値観連鎖(Values Chain)」に通じるところがある。

 【水曜どうでしょう論(3/6)】外部のパートナーを巻き込んで「価値観連鎖(バリューズ・チェーン)」を形成する
 【水曜どうでしょう論(4/6)】素人さえも「価値観連鎖(バリューズ・チェーン)」に組み込んでしまう凄さ
 【水曜どうでしょう論(6/6)】作り手の「価値観連鎖」と受け手の「憧れ」が交錯する所でビジネスは成立する

 ジェームズ・コリンズの『ビジョナリー・カンパニー』が示す通り、強い企業=長きに渡って高業績を上げ続けている企業では、ビジョンがある意味カルトのように組織の隅々まで浸透している。ビジョナリー・カンパニーの選定基準の妥当性が高いことは、最近の記事「《補足》ビジョナリー・カンパニーのリーマンショック後の株価推移」でもある程度明らかになった。だが、さらに先駆的で、真に強い企業のビジョンは、自社だけにとどまらず広く利害関係者とも共有されており、かつビジョンに強く共感する特定の利害関係者と特別な「絆」を築いているように思える。これが、ポーターの「価値連鎖(Value Chain)」ならぬ、「価値観連鎖(Values Chain)」が形成されている状態である。

 (もう1つの発見については次回)

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