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March 14, 2012

オフィス・エボルバーのビジョン(ドラフト)の補足(2)

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 前回「オフィス・エボルバーのビジョン(ドラフト)の補足(1)」の続き(⇒オフィス・エボルバーのビジョン草案)。

 【価値観】
 これは、新しいアイデアを生み出し、それを実現するための基本的な行動原則を並べたものである。1つ1つは取り立てて珍しいものではないと思う。我々はこれらの規範に従って、お客様のビジネスにとってプラスとなるアイデアを構想し(または、お客様自身がアイデアを構想できるよう支援し)、それが現実のものとなるまで寄り添い続ける。

 「1.慣例や常識を疑う。」
 「2.一方で、伝統を尊重する。」

 どんな仕事であっても、それが初めて誰かに割り振られた時には、何かしらの合理的な理由や根拠があったはずだ。ところが、時間の経過とともに、その理由や根拠が正当性を失い、人々の記憶から消え去ってしまうことが多い。新しい仕事は、既存の慣例や前提、常識やルール、やり方や手続きを疑い、否定するところからスタートする。

 あらゆる仕事について、「なぜそれをやっているのか?」、「それをやり続けるもっともな理由はあるか?」と問わなければならない。その答えがNoであれば、その仕事は止めるべきだ(ドラッカーが言うところの「体系的廃棄」である)。そして、新しい現実を前に、「何を前提としなければならないか?」を問い、その前提に基づいた新しい仕事を設計する必要がある。

 だが、無駄に思える仕事や無効に感じる慣習を何でもかんでも否定すると、それはそれで災いを招くから要注意であるこれが、一見矛盾するようだけれども、2番目に「一方で、伝統を尊重する。」という項目を入れた所以である。よくよく考えると、実に高度に設計された仕事というのはあるものだ。最近、興味深い記事を読んだので引用しておく。
 高級なクラブなどに行くと気づくのは、そこにある灰皿が極端に小さいことだ。小さく造形された灰皿はそれだけで独特な美しさを持っているが、ここには原作者の粋なアイデアが詰まっている。小さな灰皿は、一本でもたばこを吸えばいっぱいになってしまう。そうすると、スタッフが灰皿を新しいものに替える。そうするとことで、客への細やかなサービスを演出できるし、スタッフに自然と客へ細かく注目させることを可能にしている。

 もちろん、これを違うやり方で実現することもできる。たとえばマネージャーが、スタッフに「客を細かく見ろ。灰皿は、客が一本たばこを吸ったら必ず変えろ」と言えばいい。そういうマニュアルを作ってもいいし、バックルームに貼り紙をしてもいい。なんらかの指示や号令を書いた張り紙は、オフィスなどでもよく見られるものだ。でも、これは無粋なのだ。
(「フェンスを外す人」[β2、2012年2月27日])
 こうした伝統は捨ててはならない。マイケル・ハマーが90年代に著書『リエンジニアリング革命』でBPR(Business Process Reengineering)を提唱した際、アメリカ企業はこぞってBPRに飛びついた。しかしながら、株主に対して約束したコスト削減目標を達成することばかりが目的と化し、捨ててはならない仕事まで捨ててしまった結果、その後の競争力に影を落としたという苦い経験を思い出す必要がある。

 「3.現実世界をよく観察する。」
 「4.創造力を働かせる。」
 「5.異分野から積極的に学ぶ。」

 机の上に座って誰かが編集した数字や情報を眺めているだけでは、斬新なアイデアはまず出てこない。先入観を捨てて現実世界をじっくりと観察し、帰納的思考を駆使することによってこそアイデアは湧いてくる。インドのタタ・モーターズの低価格車「ナノ」は、いわゆる市場調査ではなく、会長自身がインドの交通事情を観察するによって誕生したことは、以前このブログでも紹介した(「リーダーが帰納的に課題を設定するとはどういうことか?」)。

 アップルのマッキントッシュも、スティーブ・ジョブズの観察によって誕生した製品である。ジョブズは、ゼロックスのパロアルト研究所を見学した際、数々のアイコンやウィンドウが画面に並び、その全てをマウスのクリック1つで操作するコンピュータを観察して、「いつか全てのコンピュータが、こんなふうに動作するようになるとはっきり解った」と悟ったという。それから5年をかけて開発されたマッキントッシュは、世界で初めてGUI(グラフィカル・ユーザ・インターフェース)を搭載したパソコンだった(※1)。

 製品やサービスだけでなく、経営手法も観察から生まれることがある。トヨタ生産方式は、生みの親である大野耐一がアメリカ出張中に、当時の日本にはまだなかった大規模な食品スーパーを観察したことがきっかけであった。スーパーでは、買い物客が必要な品物を必要な分だけ買い物かごに入れていく。これと同様に、各工程も必要な部品を必要な分だけ前工程から引き取れば、余分な在庫を持たなくても済むのではないか?と大野は考えたわけだ。

 そして、大野耐一の例からも解るように、イノベーティブなアイデアはしばしば、異分野との結合によって創造される。例を1つ挙げると、数か月前に在庫管理のコンサルタントの講演を聞く機会があった。この方は、古典的な在庫管理の方法論(発注点における発注量や、安全在庫量などを算出する理論)に異議を唱え、より実用的かつ精度の高い在庫管理を可能にする理論を構築した、在庫管理の第一人者とでも言うべき専門家である。その人が理論の着想を得たのは、意外なことに1つはアインシュタインの相対性理論の数式であり、もう1つはピカソの絵だったという。

 異分野同士の交流から画期的なアイデアが生まれる、という例は枚挙にいとまがない。古くはイタリアのメディチ家が、彫刻家から科学者、指示、哲学者、画家など、幅広い分野の専門家をフィレンツェに集め、彼らが創造的な作品を次々と生み出す触媒となった。これは「メディチ現象」と呼ばれる(※2)。

 フランスの豊かな芸術や思想は、同国のカフェ文化と切り離すことができないと言われる。アポリネール(詩人)、ピカソ(画家)、ヘミングウェイ(小説家)、サルトル(哲学者)らの知識人は足繁くカフェに通い、異分野の達人たちとのコミュニケーションを通じて、自分のアイデアに磨きをかけていった(※3)。アイデアの枯渇とコミュニケーションの断絶に悩む最近の企業は、こうしたカフェ形式でのオープンな対話に打開策を求めているようで、「ワールド・カフェ」なるものがちょっとしたブームになったりもしている。

 イーベイの創設者であるピエール・オミダイアは、新しアイデアのためなら郵便係と話をすることだって厭わない、といった趣旨の発言をしている。我々もこのぐらいの気持ちで、異分野を積極的に知る気概を持たなければならない。
 「合い言葉にするなら『CEOより、郵便係と話したい』って感じかな。自分とは違う背景、考え方を持つ人とこそ出会いたい。とにかく色々な思考方式に触れたいんだ。決まった方法にとらわれず、全く自由なやり方で、様々な方面からインプットを得ている」(※1)

 「6.チームワーク、多様性を活用する。」
 「7.相手の提案やアイデアに真摯に耳を傾ける。」
 「8.相手に積極的に提案する。また、反対意見を恐れない。」

 自分が思いついたアイデアは、それだけではまだよちよち歩きの赤ん坊に過ぎない。だから、周囲の人の意見を聞き、支援を仰ぎながら、一人前の大人へと育て上げる必要がある。その際には、できるだけ様々な考え方、能力、バックグラウンドを持った人たちの力を借りるとよい。多様性に満ちた人材は、自分が見落としていた視点を教えてくれる。時には、耳が痛い反対意見に出くわすこともあるだろう。しかし、反対意見は物事の本質を突いている可能性がある。だから、反対意見こそ歓迎しなければならない。

 これは、自分がアイデアを思いついた時だけでなく、他の誰かが思いついたアイデアを自分に持ちかけられた時も同様である。相手のアイデアに欠けていると感じる視点を補い、時には反対することを恐れてはならない。地位や年齢、経験年数の違いなど気にしなくてもよい。アイデアの前では、何人も平等でなければならない。「法の下の平等」ならぬ、「アイデアの下の平等」である。

 「9.投入したリソースとパフォーマンスのバランスを厳しく検証する。」
 「10.利益の質を追求する。」

 最後の2つは、コンサルティングなどでいろんな企業のことを見聞きしてきた中で、「こういうことをしてはいけないな」と、反面教師的に追加した項目である。9などは当たり前のように思えるが、当たり前のことが案外できなかったりするものである。どんなに素晴らしいアイデアも、最終的に利益に結びつかなければ、企業として意味がない。アイデアが利益に結びつくシナリオを描き、シナリオ通りに進んでいるかどうか、絶えずモニタリングする必要がある。そして、どんな改善策を打っても芽が出なさそうなアイデアは、涙を呑んで摘む覚悟を持たなければならない。

 もう1つ忘れてならないのは、利益につながるアイデアならば何でもよい、というわけではないという点だ。今ここで策定したビジョンという基軸から外れることだけは、断じて避けなければならないと思う。つまり、【目的】の実現につながるものを、【価値観】に沿ったやり方で実現しなければならない。

 ある中小企業の元社員の方から聞いた話で、(その方には申し訳ないが)1つ次元の低い話を紹介したい。その企業では、5年ほど前に一度、大きな黒字を出した。しかしその黒字は、経営陣が本業とは別に運営していた投資部門が稼いだものであった(その当時は好景気だったことが幸いした)。実のところ、本業は赤字だったにもかかわらず、投資部門の黒字のせいで実態が見えなくなっていたのである。その年の年度末には、黒字祝いとして、高級ホテルのレストランを貸し切り、シェフを招いて随分と派手なパーティーをした。

 だが、その後の5年間では、一度も黒字を達成できなかったばかりか、経営破綻寸前の赤字を出し続けた。もちろん、5年前のような派手なイベントは行われなくなった。元社員の方によると、こんな状態でも経営陣は、「投資部門の運用益で、自分の給料分ぐらいは稼げる」と言って憚らなかったし(言うまでもなく、経営陣の仕事は自分の給料を稼ぐことなどではない)、朝出社するとまず最初に声をかけるのは投資部門の社員であったそうだ。

 経営陣は「朝の挨拶をしているだけだ」と思っているかもしれないが、経営陣の習慣を見続けた社員は、「うちの経営陣は、本業よりも投資の方が優先なんだな」と感じたに違いない。こういう経営は甚だよろしくない。絶対に真似してはならない、と私は思った。


(※1)クレイトン・クリステンセン他著『イノベーションのDNA―破壊的イノベータの5つのスキル』(翔泳社、2012年)

イノベーションのDNA 破壊的イノベータの5つのスキル (Harvard Business School Press)イノベーションのDNA 破壊的イノベータの5つのスキル (Harvard Business School Press)
クレイトン・クリステンセン ジェフリー・ダイアー ハル・グレガーセン 櫻井 祐子

翔泳社 2012-01-18

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(※2)フランス・ヨハンソン著『メディチ・インパクト』(ランダムハウス講談社、2005年)

メディチ・インパクト (Harvard business school press)メディチ・インパクト (Harvard business school press)
フランス・ヨハンソン 幾島 幸子

ランダムハウス講談社 2005-11-26

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(※3)飯田美樹著『Caf´eから時代は創られる』(いなほ書房、2009年)

新版 Caf´eから時代は創られる新版 Caf´eから時代は創られる
飯田 美樹

いなほ書房 2009-09

Amazonで詳しく見るby G-Tools
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