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   新ブログ 谷藤友彦ー本と飯と中小企業診断士
February 27, 2012

自分自身は信頼するが、未来への希望は下がり始めるミドル層―『ミドルの自己信頼が会社を救う(Works No.110)』

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リクルートWorks ミドルの自己信頼が会社を救うWorks No.110 ミドルの自己信頼が会社を救う
リクルートワークス研究所
2012年2月-3月号


 今日はリクルートワークス研究所の機関紙『Works』の最新号についての記事。リクルートワークス研究所は本号で「自己信頼」という新しい概念を提唱しており、「自己信頼とは、現在の自己、将来の自己に対して、信頼と希望をもっていること」と定義づけている。そして「自己信頼」は、(1)自分への信頼、(2)良好な人間関係、(3)未来への希望という3つの要素から成り立つとしている。

 「自己信頼」と類似の概念には、哲学・心理学の分野で昔から用いられている「自尊感情(自尊心)」、カウンセリング領域で生まれた「自己受容」、そして最近になって登場した「自己効力感」があるが、これら既存のコンセプトと「自己信頼」の違いについて、本号では東京未来大学の角川剛教授が次のように述べている。
 「他者からの信頼」という因子があって「関係性」が明確に入っている。また、「未来への希望」という因子で、時間的なパースペクティブ(展望)を含めているという点でも、既存の概念とは規定している中身に違いがあります。
自己信頼3要素 年齢層ごとの変化 その「自己信頼」を構成する3要素のスコアを、年齢層別に調査した結果が左図である。「良好な人間関係」のスコアはどの世代もほぼ変わらず、50〜59歳でやや上昇する。これに対して、残りの2要素は特徴的な変化を見せる。年齢が上がるにつれて、「自分への信頼」のスコアは上昇する一方、「未来への希望」のスコアは下降線をたどるのである。本号では、ミドル層が「35〜49歳」とやや幅広く捉えられているのだが、左の結果から、「ミドル層は、自分への信頼が上がり、未来への希望が下がっていく分岐ゾーンに位置する」と分析されている。

 だが個人的には、「『自分への信頼』が向上する一方で『未来への希望』は低下する」という状態が一体どういうことなのか、どうもしっくりこない。なぜならば、「自分への信頼」を測定する質問には、

 ・将来、状況が変わっても、自分を頼りに乗り切っていけると思う
 ・将来、困難なことが起きたとしても、私は大丈夫だと思う
 ・つらいことがあっても、最後には乗り越えられると思う

といった、「未来への希望」とも関連する項目が含まれているからである。これらの答えがYesならば、「未来への希望」が低下することは考えにくい。1つありうるとすれば、「将来、自分は大丈夫だが、周りはダメかもしれない」という、「自意識過剰に起因する他者不信」とでも言うべき心理状態にミドル層が陥っているのではないか?ということである。

 ここでもう少し考察を進めて、「未来への希望」を測定する質問を見てみると、

 ・新しいことに挑戦していきたい
 ・いろいろな人と出会ってみたい
 ・いろんな役割を果たしていきたいと思う

など、将来の能動的な行動を想定した項目が並ぶ。「自己への信頼」を測定する質問と合わせて考えると、例えば「将来、状況が変わっても、自分を頼りに乗り切っていけると思う」のに、「新しいことに挑戦していきたい」とは思わないというのは、やはり不可解である。やや乱暴な解釈かもしれないけれど、「自分では変化に適応できる力があると思うものの、実際に新しいことに挑戦するのは嫌だ」ということだろうか?ということは、先ほどの「自意識過剰に起因する他者不信」の裏に、潜在的な「自己不信」があるのではないだろうか?

 実はこの心理状態、数年前に速水敏彦氏が著書『他人を見下す若者たち』で提唱した「仮想的有能感」に通じるところがあると思う。「仮想的有能感」に囚われた若者は、自分を有能に見せかけ、他者を貶めることで自分の体面を保つ。しかし、実際のところ彼らは、深層心理の次元では自分に自信を持てていないのであり、それが周囲にバレるのが怖いから、他者に対して攻撃的な態度を取るのだという。

他人を見下す若者たち (講談社現代新書)他人を見下す若者たち (講談社現代新書)
速水 敏彦

講談社 2006-02-17

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 こうした心理が現在のミドル層にまで広まりつつあるとすれば、これはゆゆしき事態である(それを言ってしまえば、「自己への信頼」が最も高く、「未来への希望」が最も低い50〜59歳の層は、もっと深刻な問題を抱えていることになってしまうが・・・)。もちろん、私の解釈はやや極端であり、他の解釈も十分に成り立つであろう。とはいえ今回の調査は、総じて質問項目や結果をどう解釈していいのかが解りにくい印象であった。

(※)他に解りにくかった点としては、(1)要素別のスコアは掲載されているものの、総合的な「自己信頼」のスコアは載っておらず、結局どの年齢層の「自己信頼」が一番高いのかが不明である。(2)3つの要素間で相関分析を行うと、いずれも高い相関係数が出るとのことだが、それならば18〜29歳と50〜59歳で「自己への信頼」と「未来への希望」のスコアがこんなにも離れることを説明できない。

 調査結果などに多少の疑問はあるものの、一旦それに目をつぶって、「ミドル層の『自己信頼』を強化する必要があり、3つの要素をそれぞれ高めていかなければならない」という本号の主張に従うとしよう。しかし、そのための解決策として提案されているものにも、若干の疑問を覚えずにはいられない。例えば、ミドル層は管理職に昇進すると、部下との人間関係に悩むようになり、それが「自己信頼」の構成要素の1つである「良好な人間関係」に影響を与える。そこで、組織としては以下のような支援をすべきだという。
 対応策の1つはマネジメントスキルを高めることです。自己信頼は非常に基盤的な要素なので、その意味ではマネジメントスキルを身につけさせるというのは表層的な対策に見えるかもしれませんが、それでも、コーチング研修で学んだことを使って部下の指導に成功したというような経験が積めれば、一つひとつは小さな成功でも自信をつけることになり、自己信頼を高めることにつながるでしょう。
 しかし、先ほどの図を見ても解るように、「良好な人間関係」は年代によってほとんど上下しない。もちろん、部下との良好な人間関係は、上司や部下本人、そして組織全体にとって非常に重要であることは言うまでもない。だが、前掲の調査結果に素直に従うならば、ミドル層の「自己信頼」を高める上で人間関係よりも優先すべきなのは、「未来への希望」の低下を食い止めることである。その意味では、『フリーライダー』の著者である河合太介氏のアドバイスが、一見不真面目(?)なように見えて、実は一番当を得ているような気がした。
 河合氏はミドル層に対して、「もっと遊んで、現地現物に触れよ」とメッセージする。「たとえば、中国やインドの市場をどう開拓するかが課題になっているなら、不景気で会社がお金を出してくれないなんて言わずに、自腹で遊びに行く」。仕事に直結する「視察」や「調査」はしっかりこなし、一方で遊びを楽しんでいい思い出を作る。「すると、『現地の市場はこうだった』ということが自分のストーリーになり、説得力をもって語れるようになるのです」。
フリーライダー あなたの隣のただのり社員 (講談社現代新書)フリーライダー あなたの隣のただのり社員 (講談社現代新書)
河合 太介 渡部 幹

講談社 2010-06-17

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