※2012年12月1日より新ブログに移行しました。自分で言うのもおこがましいですが、20代の頃に書いた本ブログよりも、30代に入ってから書いている現行ブログの方がはるかに中身が濃く、内容が多岐にわたり、面白いと思いますので、是非ご覧いただけるとありがたいです!
>>>現行ブログ free to write WHATEVER I like
February 20, 2012

戦略による競争優位からビジョンによる競争優位へ?―『「チェンジ・ザ・ワールド」の経営論(DHBR2012年3月号)』

拍手してくれたら嬉しいな⇒
Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2012年 03月号 [雑誌]Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2012年 03月号 [雑誌]

ダイヤモンド社 2012-02-10

Amazonで詳しく見るby G-Tools

 まだまだ続くDHBR2012年3月号のレビュー。

価値観を成長の源泉とする インフォシス:尊敬される企業を目指して(N・R・ナラヤナ・ムルティ)
 (創業メンバーと)何度も議論を戦わせた後、私たちは価値観に基づく企業の設立に合意しました。その夜にはビジョン・ステートメントの草案を作成し、「最高の技術ソリューションを顧客に提供し、一流のプロフェッショナルを雇用する、インドで最も尊敬される企業を目指す」という理念を掲げました。

 この時の私たちの話し合いが、インフォシスの価値体系「C-LIFE」の基礎となりました。Cは「顧客第一主義」(Client focus)、Lは「率先垂範のリーダーシップ」(Leadership by example)、Iは「高潔さと透明性」(Integrity and transparency)、Fは「公正さ」(Fairness)、Eは「卓越性」(Excellence)を表しています。

 このビジョンが「私たちは一緒にな何を成し遂げようとしているのか」という問いの答えであり、価値体系は「このビジョンをどのように実現するのか」という問いの答えです。
インドのITアウトソーシング業大手であるインフォシス・ムルティ会長のインタビュー記事。インフォシスには「知性を原動力に、価値観を推進力に」という行動規範(クレド)があるそうだ。ムルティ会長によると、インフォシスの価値観は戦略策定プロセスに組み込まれており、「価値観の重視は我々の差別化の試みの1つ」であるという。

 先日の記事「経済的⇔社会的価値という二項対立を克服するグレート・カンパニー―『「チェンジ・ザ・ワールド」の経営論(DHBR2012年3月号)』」で取り上げたカンターの論文とこのインタビュー記事を読みながら考えたのが、今日の記事タイトルにもしたように、これからは戦略ではなく、組織の共通目的や価値観を包含するビジョン(※)が競争優位のカギになるのではないか?ということである。カンターはグレート・カンパニーの条件として、「共通の目的」、「長期的視点」、「感情的な絆」、「公的組織との連携」、「イノベーション」、「自己組織化」という6つを挙げているが、(「公的組織との連携」や「イノベーション」はひとまず脇に置くとして、)要するに長期的なビジョンを掲げることと、それによって社員の結びつきを強めることの重要性を説いているように思える。

 個人的な話だが、年明けからずっと「戦略に加えてなぜビジョンが必要なのか?」という問いが私の頭から離れずにいた。戦略が適切であれば、企業は競合他社を排し、多数の顧客を取り込んで利益を出すことができる。それなのに、なぜ戦略の他にビジョンまで求められるのだろうか?

 まだ説得力に欠ける部分が大いにあることは承知の上で書くけれども、戦略は「『顧客』を束ねるための構想」であるのに対し、ビジョンは「『社員』を束ねるための構想」という違いがあると考えられる。より発展的なビジョンは、社員だけでなく、仕入先や販売チャネル、投資家、地域社会など、自社を取り巻く多様なステークホルダーをも束ねる。

 ここでポイントとなるのは、戦略は真似されやすいという点である。確かに、マイクロソフトのように10年以上も成長に貢献する強力な戦略や、Amazonのように下手に競合が真似しようものならかえって痛手を被るようなよくできた戦略(※2)もある。しかし、つい先日報道されたばかりの例を挙げると、サークルKサンクスが打ち出した「中高年向けのコンビニ」というコンセプトは、あっさりとセブンイレブンやファミリーマート、ローソンに真似されてしまい、規模で劣るサークルKは、主に東海で店舗を展開する小売業ユニーの完全子会社となって、戦略の再構築を迫られる結果となった(※3)。また、ブルーオーシャン戦略の典型例として一時は絶賛された任天堂のWiiでさえ、ソーシャルゲームという破壊的イノベーションの攻撃を受けて、今や全く安泰ではないのも有名な話である。

 このように、戦略は他社に真似されやすいし、本当によくできた戦略を練ることは非常にハードルが高い。したがって企業は、戦略を次々と生み出す必要がある。戦略を生み出すというと難しく聞こえるものの、噛み砕いて言えば「顧客のためになりそうな製品・サービスのアイデアを持ってくる」ということである。

 やや楽観的ではあるけれども、社員がビジョンによって固く結ばれていると、自社戦略の有効性が失われつつあることに敏感に反応し、自らが忠誠を誓った自社の目的・ミッションに貢献するために、組織の階層を問わずあらゆる社員が、顧客のためになる新しいアイデアを創造し始めると思うのである。より発展的なビジョンを掲げる企業であれば、そのようなアイデアが、取引先や販売チャネルなど、外部のプレイヤーから持ち込まれることもあるだろう。たたき上げの起業家が肌身で感じているように、「人脈が仕事を呼ぶ」という現象が起きるわけだ。ここに、戦略に加えてビジョンが必要とされる理由があるのではないか?

 「日本企業に戦略はない。あるのはオペレーション戦術だけだ」とマイケル・ポーターに酷評されながらも、日本企業はそれなりに世界で成功を収めた時期があった。その要因の1つは、日本企業の経営陣がビジョンの浸透に時間をかけ、さらに終身雇用や年功序列などの仕組みで社員の高いロイヤルティを担保していたためであり、これによって継続的な戦略の策定と実行を可能にしていたというのは言いすぎだろうか?(※3)(もちろん、他にも理由はたくさんある。単にポーターの戦略観が狭かっただけとか、日本が保護主義であったのに対し、欧米市場は開放的だったので加工貿易が成り立ったとか、日本には安くて若い労働力が豊富に存在したなど、様々な要因が関連し合っている)

 逆に、終身雇用や年功序列の制度を維持しにくくなっている現在、社員のロイヤルティを維持・向上させる上でビジョンが果たすべき役割はますます大きくなっている。堅牢なビジョンを持つ企業は、今の事業戦略が多少揺らいでも、社員や他のステークホルダーの力によって、また次の戦略を生み出すに違いない。この点で、今後は競争優位の源泉が戦略からビジョンへと移行するように感じるのである。

 余談だが、インフォシスが価値観に基づいて戦略的な意思決定をした例として、ムルティ会長がこの論文で挙げていたのは、新規事業立ち上げに不可欠だったある海外コンピュータの輸入にあたり、税関担当者が要求してきた賄賂を断った話とか、海外パッケージの輸入販売を計画した際に、他社が会計操作によって高い関税を回避していたのに対し、インフォシスはそういう方法を嫌い、結局はパッケージ販売を断念したという話など、傍から見ると「??」と思うような(もっとストレートに言えば、それほど次元が高くないような)ものだった。論文に出てきた例がたまたまそうであっただけで、実際にはC-LIFEの価値体系に基づいて、もっとレベルの高い議論が交わされているものと信じたい。


(※1)ビジョンの構成要素については、過去の記事
 「ビジョンを構成する要素とは一体何なのだろうか?
 「ビジョンの3要素「目的」「価値観」「未来イメージ」はどう関係し合っているのか?
 「「ビジョンは不要」と言いながらも強力なビジョンを掲げたガースナー−『巨象も踊る』」 を参照。

(※2)楠木建著『ストーリーとしての競争戦略』(東洋経済新報社、2010年)を参照。レビュー記事は「(※注)以降の記述で作品に関する核心部分が明かされています―『ストーリーとしての競争戦略』」。

ストーリーとしての競争戦略 ―優れた戦略の条件 (Hitotsubashi Business Review Books)ストーリーとしての競争戦略 ―優れた戦略の条件 (Hitotsubashi Business Review Books)
楠木 建

東洋経済新報社 2010-04-23

Amazonで詳しく見るby G-Tools

(※3)「ユニー:サークルKを完全子会社化」(毎日.jp、2011年2月16日)

(※4)日本企業の場合、ミドルマネジャーが戦略の構築と実行フェーズにおける各方面との調整において重要な役割を果たしていたとする研究もある。

変革型ミドルの探求―戦略・革新指向の管理者行動変革型ミドルの探求―戦略・革新指向の管理者行動
金井 壽宏

白桃書房 1991-07

Amazonで詳しく見るby G-Tools

おススメの書籍

トラックバックURL

このエントリーのトラックバックURL:

コメントする