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February 09, 2012

怒りっぽい人が心臓発作に至る過程がリアルで怖かった―『怒りのセルフコントロール』

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怒りのセルフコントロール怒りのセルフコントロール
レッドフォード ウィリアムズ ヴァージニア ウィリアムズ Redford Williams

創元社 1995-05

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 タイトルの通り、本書では怒りをコントロールするための17の方法が紹介されている。著者の2人は名前を見ると解るように夫婦であり、かつ2人とも研究者である。夫のレッドフォードは性格と健康の関係を専門とする医学者、妻のヴァージニアは第1次世界大戦に関する著書などがある歴史学者だそうだ。本書は基本的に夫の研究に基づいているが、面白いことに17のメソッドの中には、夫婦間の危機がきっかけで編み出され、実際に2人で試行されたものも含まれているという。

 アメリカの心臓病学者であるマイヤー・フリードマンとレイ・ローゼンマンは『タイプA―性格と心臓病』の中で、狭心症や心筋梗塞などの心臓疾患になりやすい性格傾向を明らかにし、それをタイプA行動パターンと名づけた。タイプAは、緊張、性急さ、競争心、敵対心などを特徴とする人々である。レッドフォードはタイプAと疾患の関係に関する研究をさらに続け、その結果、タイプAの特徴のうち健康に影響するのはただ一つ、「敵対性」だけであるという結論に達したという。

 その「敵対性」がなぜ心臓疾患につながるのか?そのシナリオが非常に具体的で、読んでいてちょっと怖くなったよ(汗)(『キレないための上手な「怒り方」』にも似たような話が登場するけれど、本書の方がずっとリアル)。簡単にそのシナリオをまとめてみた。
 ・怒りを感じると視床下部が刺激され、神経細胞が副腎にシグナルを送って、アドレナリンとコルチゾールを血中に大量に分泌させる。
 ・アドレナリンは身体を戦闘モードに切り替えるべく、動脈を拡張させて心臓と筋肉に血液を送り込む。
 ・視床下部は交感神経を刺激して、皮膚や腎臓、腸に血液を送る動脈を収縮させる(戦闘モードの時は、食べ物を消化している場合ではないため)。
 ・コルチゾールには、アドレナリンの効果を増幅させる働きがある。さらに視床下部は、副交感神経系の働きを抑制し、これによってアドレナリンの効果を持続させる。
 ・アドレナリン&コルチゾールのタッグで血圧が上昇したことにより、冠状動脈の内膜にある内皮細胞が侵食される。すると、血小板がその傷を治そうと集まってくる。
 ・血小板が分泌する化学物質は、冠状動脈壁の筋肉細胞を動脈内面に移動させ、動脈内で肥大、増殖させる。
 ・血中の細胞群であるマクロファージが冠状動脈の損傷箇所に集まり、傷ついた組織や残骸を飲み込んでいく。
 ・アドレナリンは脂肪細胞にも働きかけ、戦闘に使用するエネルギーを供給するために、脂肪を運動エネルギーに変換する。
 ・しかし、本当に戦闘をするわけではないからエネルギーは過剰となり、余ったエネルギーは肝臓でコレステロールに変えられ、血中に放出される。
 ・血中のコレステロールは、冠状動脈の損傷箇所に溜まっている血小板やマクロファージに吸収されて、泡沫細胞となる。
 ・コレステロールが詰まった泡沫細胞は、怒りを感じるたびに上記のようなプロセスを繰り返して肥大し、冠状動脈を圧迫する。
 ・ある日冠状動脈が完全にふさがれてしまい、心筋梗塞に至る(怖ぇ〜)。
 17のメソッドの詳細はここでは紹介しないが、2人の著者は基本的に、「怒りの大半は大したことではない」という前提に立っているようだ。まず、「敵対性ログ」という方法で、日常生活の中で怒りを感じた出来事を、どんなに些細なことも含めて1つ1つ記録していく。次に、それらの出来事を以下の3つの基準で評価し、本当に重要な怒りのみを絞り込んでいく。
(1)こだわり続ける価値があるほど重要な問題か?
(2)(筆者補記:自分が怒りを感じる)正当な理由はあるか?
(3)(筆者補記:怒りを引き起こした事象に対して)効果的に対処できるか?
 大雑把に言ってしまえば、この3つを全て満たすものだけが真に対応すべき怒りであって、それ以外は早く忘れるか、考えを切り替えるか、相手を許す(!)などした方が、自分の健康のためでもあり、人間関係を円滑にする秘訣だというのが著者の主張である。17のメソッドの9割以上は、「怒りの大半は大したことではない」と思えるようになるためのものだ(それでもまだ怒るだけの正当な理由があり、何かしらの対処法が取れそうな場合は、「主張法」と呼ばれるメソッドを使う。ただし、そのようなケースに有効なメソッドとして著者が挙げているのは、この「主張法」ただ1つだけである)。

 とはいえ、敵対性が強い人=怒りっぽい人(私もそのうちの1人)にとって、(1)(3)はまだ何とかなるかもしれないけれど、(2)が最大の障害になりそうだな。怒っている人は、自分が正しいと思って怒っているのだから、その理由を自分で疑うことは非常に難しいんだよね・・・そんな時には、相手の思考回路にも思いをめぐらせ、相手にも何かしらの事情があるのでは?相手にもそれなりの合理的な理由があるのでは?(こちらから見れば正当な理由に見えなくとも)などと考えるだけでも、怒りが緩和されると著者は述べている。うーん、これは訓練次第だな。

 逆に、前述の3つの基準を満たす重大な怒りは、どのような意味を持つのだろうか?前向きにとらえれば、それはきっと、人生の目的や使命を示唆する怒りなのではないだろうか?(過去の記事「「その課題を解決できるのは自分だけ」という思いが使命感になる―『MBB:思いのマネジメント』(1)(2)」を参照)。

 ものすごく解りやすい例で言うと、マーティン・ルーサー・キングは黒人差別に対して、マハトマ・ガンディーはイギリスの支配に対する大きな怒りを抱いていた。坂本龍馬を始めとする幕末の藩士たちは、旧態依然とした江戸幕府への大きな怒りを、倒幕と開国へのエネルギーへと変換した。

 その倒幕によって生まれた明治政府に対しても、過度な欧化主義によって日本人のアイデンティティが失われることを危惧したジャーナリストたち(陸羯南、三宅雪嶺、志賀重昂など)が、国粋主義の名の下に一生をかけて対抗し続けた。現代に目を向ければ、スティーブ・ジョブズはマイクロソフトへの大きな怒りを感じながら(晩年は、長年の盟友であったグーグルに対しても大きな怒りを向けながら)、アップルを経営した(残念ながら、ジョブズは早世だったが)。大きな怒りはストレスも並大抵ではないものの、「自分の人生の目的が見つかった!!」といった気持ちで、むしろ喜ぶぐらいの方がいいのかもしれない。

 松下幸之助の『指導者の条件』には、西ドイツの首相だったコンラート・アデナウアーの逸話が紹介されている。アデナウアーがアメリカのアイゼンハワー大統領に会った時、人生において重要な3つのことを話したという。1つ目は「人生というものは70歳にして初めて解るものである。だから70歳にならないうちは、本当は人生について語る資格がない」ということ。2つ目は「いくら年をとっても老人になっても、死ぬまで何か仕事を持つことが大事だ」ということ。そして3つ目が興味深いのだが、「怒りを持たなくてはいけない」というのである。

指導者の条件指導者の条件
松下 幸之助

PHP研究所 2006-02

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 この言葉に関して、松下幸之助は次のように分析している。
 これは、単なる個人的な感情、いわゆる私憤ではないと思う。そうでなく、もっと高い立場に立った怒り、つまり公憤をいっているのであろう。(中略)第2次世界大戦でどこよりも徹底的に破壊しつくされた西ドイツを、世界一といってもよい堅実な繁栄国家にまで復興再建させたアデナウアーである。その西ドイツの首相として、これは国家国民のためにならないということに対しては、強い怒りを持ってそれにあたったのであろう。占領下にあって西ドイツが、憲法の制定も教育の改革も受け入れないという確固たる自主独立の方針をつらぬいた根底には、首相であるアデナウアーのそうした公憤があったのではないかと思う。
 アデナウアーは91歳で亡くなったので、十分長生きだったと言える。アデナウアーは、首相、しかも敗戦からの復興を目指す首相という重責を担い、大小様々の事柄に怒りを感じてもおかしくない立場にありながら、自分が本当にこだわり続けるだけの価値と正当性がある問題(=要するに、西ドイツ国家のためには許されざる問題)のみにフォーカスをあてる術を身につけていたのであろう。今度はアデナウアーの伝記でも読んでみるかな?

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