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February 01, 2012

失敗の「基準の明確化」は、失敗の原因分析以上に重要―『日経情報ストラテジー(2012年3月号)』

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日経情報ストラテジー

日経BP社 2012-01-28

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 部外者の印象を申し上げるなら、日本人は批判されることに慣れていない。批判されると、まるで終身刑を言い渡されたように落ち込んでしまう。だが、チーム内で批判し合うことは必要だ。批判に耳を傾ける姿勢や能力は、レベルアップに必要な資質だ。

 日本人は失敗に向き合う姿勢が不十分なのではないか。ミスをミスとして認識し、なぜ失敗したか、責任は誰にあるのか―。「仕方がない」ではなく、それらをはっきりさせれば、同じ失敗を繰り返さずに済むようになる。
 引用文はイビチャ・オシム氏の言葉。「日本人は失敗に向き合う姿勢が不十分」という部分は、特に耳が痛い。日本企業の人事制度は「加点主義」ではなく「減点主義」だと言われるし(※1)、日本人は失敗という”事象”と失敗した人の”性格”を区別するのが苦手なようで、失敗を責めようとするとついつい人格攻撃になりがちだ(※2)(※3)。イノベーションを生み出す企業は、失敗に対して寛容な企業文化を持っているというのは有名な話だが、日本企業にとってはまだまだハードルが高いのかもしれない。

 本号を読んで気づいた点を2点ほど書いてみたいと思う。

(1)失敗の「基準の明確化」は、失敗の原因分析以上に重要
 楽天・野村名誉監督が好んで用いる「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」という言葉の通り、失敗には必ず何かしらの原因があるから、原因をきちんと分析して次に活かすことが肝要であるのは、今さら言うまでもないだろう。だが、よく考えると、何をもって”失敗”とみなすのか?は、結構あやふやな場合が多い。例えば、次のようなケースを考えてみる。

<ケースA>
 A社の情報システム部門は、同社のWeb通販が好調なことを受けて、Web通販システムの拡張に乗り出した。具体的には、ユーザーインターフェースを大幅に改良し、取扱可能な製品数を従来の2倍にまで増やした。さらに、最近流行のfacebookなどを活用して、クロスメディアでプロモーション攻勢をかけた。幸い、システム自体は何のトラブルもなく稼働しており、会員数や顧客単価も当初の予定を上回るスピードで増加し続けている。しかし他方で、一気に増えた製品数や注文数に対応するため、自社倉庫の社員が死にそうになりながら働くハメになってしまい、物流部門の社員満足度が低下してしまった。

<ケースB>
 B社は業界では後発のベンチャー企業である。この業界は既存の大手企業との競争が激しく、B社はなかなか業績を伸ばせない。B社の営業部門は、今期も業績目標が達成できそうになく、経営陣から白い目を向けられている。ところが、期末の間際になって、営業担当者のXさんが、大手の競合をひっくり返して、何と5年分の大型案件を受注してきた。これで営業部門は今期の業績目標を達成できたばかりでなく、来期以降もかなり楽に業績目標を達成できる見込みが立った。浮足立った役員の1人が、Xさんに受注の成功要因を尋ねたところ、Xさんは主力製品の価格を3割ほど下げて、競合よりも価格優位に持ち込んだのだという。

<ケースC>
 プロ野球チームCは、投手力が高い反面、打線の得点力は低い。今日の試合もいつも通りロースコアの展開で、投手陣は奮闘して9回を1失点に抑えた。ところが、打撃陣が1点も取れなかったので、結局は0-1で敗戦した。

 <ケースA>に関しては、システムは問題なく動いているし、会員数も顧客単価も伸びているから、経営陣にとってはうれしい限りだろう。情報システム部門の社内ステータスも上がったに違いない。しかし、パンク寸前の物流部門は、今のところ人海戦術で何とか乗り切っているものの、やがて配送ミスや配送途中での製品の破損など、小さなミスを犯すであろうことは目に見えている。そうしたミスが積み重なれば、せっかく増えた会員数は減少し始めるに違いない。

 そういう意味では、A社のWeb通販システム拡張プロジェクトは、完全な成功とは言えない。当たり前の話だが、情報システム部門は、システムの技術的な要件のみにこだわるのではなく、他部門への影響を考慮し、他部門の業務の見直しも含めてシステムを構築するべきだった。

 <ケースB>では、営業部門が今期の業績目標を達成しただけでなく、来期以降の経営の基盤固めにまで貢献したという点では、大成功のように見える。だが、営業担当者のXさんは、目先の案件を取りたいがために大幅な値引きを行った。これによって何が起きるだろうか?まず、B社は少なくとも5年間、本当は正規価格で売れたはずの他の顧客を犠牲にして、3割引の価格でこの顧客に製品を提供し続けなければならない。その分、機会損失が発生することになる。

 さらに悪いことに、B社の値引きに対抗して、競合他社も来期以降はB社以上の値下げをしてくるかもしれない。しかも、相手は大手であり、B社はベンチャーだ。価格勝負が長く続けば、B社の方が圧倒的に不利であろう。これらの点を総合すると、実はXさんの受注は成功ではなく、失敗(しかも、会社を倒産に追いやるかもしれない大失敗)の可能性が高いのである。Xさんもさることながら、Xさんに値引率3割での提案を許した上司、加えて営業部門長も責任を取る必要が出てくるかもしれない。

 <ケースC>は、プロ野球を知っている人ならば、中日ドラゴンズのことだとすぐにお解りいただけるだろう。このケースで、9回を1失点に抑えた投手陣は、果たして成功と失敗のどちらに該当するだろうか?もしもこれが巨人の原監督ならば、投手陣を責める可能性は低い。なぜならば、原監督は「打線は4点以上取り、投手陣は3点以下に抑える」野球を目指しているからだ。この基準に照らすと、投手陣は十分に仕事をしたことになり、非難の矛先は、4点どころか1点も取れなかった打線に向けられる。

 しかし、落合前監督の考え方は違う。落合氏の近著『采配』には、こんなくだりがある。
 監督になったつもりで考えてほしい。0対1の悔しい敗戦が3試合も続いた。恐らく多くの方は、打撃コーチやスコアラーの分析結果も踏まえて、3試合で1点も取れない野手陣に効果的なアドバイスをしようと考えるだろう。つまり、「0対1」の「0」を改善するという考え方だ。

 私は違う。投手陣を集め、こう言うだろう。「打線が援護できないのに、なぜ点を取られるんだ。おまえたちが0点に抑えてくれれば、打てなくても0対0の引き分けになる。勝てないときは負けない努力をするんだ」
采配采配
落合博満

ダイヤモンド社 2011-11-17

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 つまり、落合氏にとって投手陣の成功と失敗を分ける基準は、「打線が挙げた得点以下に、失点を抑えることができたか否か?」なのである。例えば、ノーアウト3塁というピンチを迎えたとしよう。中日以外のチームは、「最低1点は仕方ない」と割り切って、犠牲フライや内野ゴロの間に1点を失う程度は許容する傾向が強い(犠牲フライや内野ゴロで1点が入れば、ランナーがいなくなるので投手の気持ちも楽になる)。

 これに対して中日の投手陣は、「ノーアウト3塁であっても、1点もやらない」というピッチングをしてくる(具体的には、三振を狙いに来る)。にもかかわらず、相手打者が外野フライを打ちやすい球を不用意に投げてしまったり、空振りを狙って投げた変化球がワイルドピッチになったりして1点を失うと、それで失敗になるのである。1点を失った投手は、「なぜあの場面であのコースに投げてしまったのだろう?」、「なぜ暴投になってしまったのだろう?」と原因分析をするに違いない。これが他のチームと決定的に異なる。

 ケースAは「部分的な失敗」、ケースBは「成功に偽装された失敗」、ケースCは「失敗の基準をめぐる錯誤」とでも言えるだろうか?いずれのケースにも共通するのは、同じ事象であっても、見る人が異なれば成功にも失敗にもなるという点である。特に、本人は成功だと思っているけれども、周りは失敗だと捉えている場合は要注意である。失敗の原因分析を始める前に、各関係者がその事象を成功・失敗のどちらと認識しているのか?また、なぜ成功・失敗と位置づけているのか?を十分に議論することは、実は原因分析よりもはるかに重要だと思う。

 (続く)

(※1)永井隆著『人事と出世の方程式』(日本経済新聞出版社、2008年)

人事と出世の方程式 (日経プレミアシリーズ)人事と出世の方程式 (日経プレミアシリーズ)
永井 隆

日本経済新聞出版社 2008-06

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(※2)八代京子他著『異文化トレーニング』(三修社、2009年) 同書では以下の研究が紹介されている。アルフォンス・トロンペナールスとハムデン・ターナーによると、アメリカ人は感情を表に出すが、感情は客観的・合理的な判断から切り離して考える傾向にあるという。一方、デイビッド・マツモトによれば、日本文化においては上下関係がある場合には上司は部下に対して怒りなどの否定的感情を出すことはまれではないのに対し、その反対は抑制されているという。

異文化トレーニング異文化トレーニング
八代 京子 町恵理子 小池浩子 吉田友子

三修社 2009-10-21

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(※3)全くの余談であるけれども、福沢諭吉は1962年に欧州各国の議会を視察した際の印象を、『福翁自伝』の中で次のように述べている。事象と人格を区別するというヨーロッパ人のスタイルに日本人が違和感を覚えるのは、明治の頃から変わっていないようだ。
 党派には保守党と自由党と徒党のやうなものがあつて、双方負けず劣らずしのぎを削って争ふてゐるといふ。何のことだ。太平無事の天下に政治上のけんかをしてゐるといふ。(中略)あの人とこの人とは敵だなんといふて、同じテーブルで酒を飲んでめしを食つてゐる。少しも分らない。ソレがほぼ分るやうになろうといふまでには骨の折れた話で、そのいはれ因縁が少しづつ分るやうになつて来て、入りくんだ事柄になると、五日も十日もかかつてヤツと胸に落ちるといふやうなわけで、ソレが今度洋行の利益でした。

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コメント

こんばんは、初めまして、タッキーと申します。

中日投手陣の「ノーアウト3塁であっても、1点もやらない」というお話、常にベストを尽くせば結果が違うし、失敗してもそこから得ることが違う。ビジネスや生き方に通じますね。

今後も更新を楽しみにしております。

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