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December 12, 2011

【感想】「分析」の限界を知った企業が「直観」をうまく使えるのでは?―『リーダーの役割と使命(DHBR2011年12月号)』

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 12月号のレビューはもうこれで最後。近日中に1月号のレビューに取り掛かります。ところで、補足するのをすっかり忘れていましたが、12月号の表紙の顔は、コカ・コーラのムーター・ケントCEOです。

成長企業のリーダーは進化を追求し続ける ウォルト・ディズニー:伝統を守り、伝統を壊す(ロバート・A・アイガー ウォルト・ディズニー・カンパニー社長兼CEO)

 先日の「【論点】経営者の報酬を規定する評価指標とは何か?―『リーダーの役割と使命(DHBR2011年12月号)』」に続いて再びディズニーの論文。経営者の評価方法の他に印象的だったのが、同社が意外と分析重視の企業であるという点である。世界が認めるように、そしてアイガーCEOも自認するように、ディズニーは創造的な企業である。重要な意思決定では直観に頼ることも多いという。だが一方で、分析を専門とする戦略立案スタッフもちゃんと抱えている。
 当社は分析的な企業でもあります。本当に頭の切れるスタッフたちが、将来性の高い事業に関する意思決定を分析しています。そしてもちろん、相当額の資本を投じる前には、社内である種の評価基準を設定します。ですが、結局のところ、一連の数字を見る時でさえ、それらの正当性を信じるかどうか、ほかにも重要な要因を検討すべきかどうかに当たっては、直感的に判断を下したり、あるいは本能の声を聞いたりする必要があります。
 ヘンリー・ミンツバーグは、大半の大企業が採用している分析的な戦略立案プロセスに関して、「分析からは優れた戦略は生まれない」と繰り返し主張しており、直観の重要性を指摘している。ところが、これは決して、分析の意義を全否定しているわけではないと思う。

 今年に入ってから、このブログでP&Gの事例を何度か取り上げてきたけれども、P&Gは昔からマーケティングにおける分析的手法に強いこだわりを見せる企業である。ある経営者が若い頃にP&Gの面接を受けた時のエピソードを何かの本で読んだのだが(※人物と書籍の名前が思い出せず申し訳ないです・・・解ったら追記します)、その人は面接官からこんな風に言われたそうだ。

 「週次の報告で、A地域におけるX製品のシェアがPポイント落ち、競合のシェアQポイント上がったとしよう。報告を受け取った君は、週末のうちにシェアが落ちた原因を分析し、週明けからすぐに実行に移せる対応策を練るだけの気概があるのか?」

 もっとも、これは数十年前の話であるから、現在は事情が変わっているかもしれない。さらに近年のP&Gは、マーケティングよりもイノベーションに力を入れており、強みとしてきた分析的アプローチとは異なる手法を取り入れつつある(「「コネクト・アンド・ディベロップ」の次を目指すP&G(1/2)―『マーケティングを問い直す時(DHBR2011年10月」に掲載したリンク一覧を参照)。だがこれは、必ずしもP&Gが分析的アプローチを捨てたことを意味しない。P&Gは今でも大量の市場調査を行っていることは指摘しておく必要があるだろう。
 P&Gは実際、年間20億ドル近くをR&Dに費やしている。これは、P&Gに次ぐ競合他社のそれよりもおよそ50%多く、残りのライバルほとんどのR&D費を足し合わせたものよりも大きい額である。

 P&Gは毎年、イノベーションのチャンスを発見するために、その下敷きとなる消費者調査には新たに最低でも4億ドルを投じている。実施される調査は年間約2万件に上り、約100カ国500万人以上の消費者が参加している。(ブルース・ブラウン、スコット・D・アンソニー著「P&G:ニュー・グロース・ファクトリー」(『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』2011年10月号))

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 2万件の中には、例えば「Livin'it」や「Workin' it」のような、エスノグラフィー・マーケティングの調査も含まれるであろうが、大半は伝統的な市場調査であると推測される。事実、P&Gのコミュニティサイト「マイレシピ.com」は、会員に対してオーソドックスな選択式アンケートへの回答を要求するし、他の消費財メーカーと同じように、懸賞を活用して顧客情報と製品への要望を集めたりもしている。

 私の手前味噌な経験で恐縮だけれども、戦略策定やマーケティング施策立案の際に用いられる様々な分析ツール、あるいはコンサルタントなどが好んで用いるロジカルシンキングやフェルミ推定などの思考法に対して、意外と強い拒絶反応を示されることがある。「そんなものは大事な時に役に立たない。最終的には意思決定は直観で決まる」などと言われることもしばしばだ。とはいえ、私からすれば、そういう人たちに限って、何か新しい戦略・戦術を作らせても、およそ創造的とは言えないものしか上がってこないことを何度も経験してきた。

 私は別に、完璧にロジックが通ったアイデアを求めていたわけではない。むしろ、多少の論理的飛躍には寛容なつもりである。しかし、多少の穴に目を瞑るか否かという次元以前に、基本的なストーリー構成の部分でコケてしまっていて、その先を聞く気になれないアイデアに失望させられるのである。

 私見だが、意思決定において直観をうまく活用できる企業は、「分析の限界を知っている企業」なのではないだろうか?分析の有用性を強く信じ、長年にわたって徹底的に分析を行って、何度も目覚ましい成果を上げてきた企業がある時、重要な潜在ニーズを見落としてしまったがために、そのニーズを捉えて躍進を遂げた競合他社に辛酸を舐めさせられる。

 「なぜわが社は、競合のように潜在ニーズの存在に気づくことができなかったのか?」と振り返ってみると、「実は、顧客の行動を観察したり、家族や友人の取り留めない話を聞いてみたり、自分自身の消費者としての経験を振り返ったりした時に、薄々そういうニーズがあるような気がしていた」と答える社員が何人も出てきた。しかし、社員個人の感覚的な提案では、分析的なプロセスを重視する自社の意思決定の俎上には載らないと判断し、提案を躊躇ったのだという。こういう議論が社内で広く行われ、その意味が多くの社員に共有されて初めて、直観的なアプローチの採用に本腰を入れるのではないだろうか?

 分析的アプローチに頼りすぎて一度や二度ほど痛い目に遭うことは、直観的アプローチへ目を向け、両者を組み合わせ融合させる上で、実は避けては通れない道であるように思える。この痛みをすっ飛ばして、直観的アプローチにいきなり飛びついても、先ほど私が体験談として述べたように、めぼしいアイデアはほとんど出てこないように感じる。

 これから述べる話はまだ一般化できるほどのレベルではないものの、Aという従来型のアプローチに対して、Aの限界を超越するBという新しいアプローチが生まれたとする。流行り廃りに敏感な人々は「Aは終わった。これからはBの時代だ」と吹聴し、新しい物好きの人々はそれに釣られてBに食らいつく。こうしたトレンドの移行が発生するのは、AとBが二項対立の関係にあるからだ。「分析」と「直観」もそうである。

 しかしながら、本当の意味でBを活用するには、逆説的だがAに精通している必要がある。Aには欠陥や限界があると解っていながらも、Aをある程度駆使できるレベルまで達していなければ、Bを使いこなせないのである。これは、経営の世界ではよくある話だと思う。例えば、マネジメントとリーダーシップの関係がそうだ。「事業環境が目まぐるしく変化する現在では、自ら課題を設定するリーダーシップが重要だ。既に明確になっている課題を実現するマネジメントでは不十分である」という話をよく耳にする。

 そこで、管理職にリーダーシップを身につけさせようと人事部にリーダー育成研修などを提案すると、人事部からは往々にして「リーダーシップ以前に、わが社の管理職はマネジメントができていない」という答えが返ってくる。確かに、リーダーシップは自分で新しい課題を設定すれば終わりではなく、その課題を実現させなければならない。そして、課題を実現させる力の基盤は、結局のところマネジメントに帰着するのである。

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