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December 09, 2011

【論点】事業拡大後、創業以来の重要顧客とはどうつき合うか?―『リーダーの役割と使命(DHBR2011年12月号)』

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 (まだまだ続く12月号のレビュー)

ヨルダンの国際宅配便企業の臥薪嘗胆 フェデックスやDHLに挑む(ファディ・ガンドゥール アラメックス・インターナショナル創業者兼CEO)
【論点】事業が一定の規模に達した後、創業以来の重要顧客とはどのようにつき合えばよいか?
 1982年に創業した中東・ヨルダンの宅配便企業アラメックスは、創業から2年後の1984年に1つの転機を迎える。アラメックスは、エアボーン・エクスプレス(現DHL)に、自社の株式の50%を10万ドルで買い取ってもらうことを計画した。残念ながら交渉は不調に終わったものの、エアボーンの中東地域向けの荷物に関して、アラメックスが配達業務を請け負うことに成功した。要するにベンチャー企業が大手企業から下請業務を受注したというだけなのだが、これがアラメックスの重要な成長源となった。

 エアボーンはその後、世界の隅々まで顧客にサービスを提供できるよう、アラメックスのようなローカルな宅配便企業とグローバル規模でアライアンスを構築し始めた。それが"Overseas Express Careers"(OEC)と呼ばれるネットワークである。アラメックスは、OECに最初から参画した企業の1社となった。

 アラメックスは、可能な限りエアボーンと緊密に歩調を合わせ、OECの発展とともに事業を拡大させていった。営業地域の拡大に加え、陸運、海運、空運の全てを扱い、多種多様な物流サービスを中東全域で提供できる体制を整えた。また、OECのガバナンスにも関与し、アライアンス参加企業で営業活動を展開したり、参加企業のために、エアボーンに対して中東でアメリカ企業との取引を獲得するよう働きかけたりもした。

 こうして事業を軌道に乗せたアラメックスは、1982年に自社株売却に失敗してから10年余りを経て、とうとうエアボーンにアラメックス株の9%を200万ドルで買い取ってもらうことに成功したのである。ところが、その資金を使ってアラメックスが行ったのは、OECへの依存度を下げることであった。アラメックスは、インド、スリランカ、バングラデシュ、香港など、中東以外の地域に積極的に進出し始めた。

 この戦略は、エアボーンとの間で意見が分かれるものだった。だが2003年、もう1つの転機が訪れる。エアボーンがDHLに買収されることになったのだ。エアボーンは買収に先立ち、アラメックスへの支援や取引から一切手を引くことを通告してきた。しかし、アラメックスは慌てなかった。既に中東以外の地域でサービスを確立していたし、自社開発した荷物追跡システムをOECのメンバーに開放することで、OECとの関係も維持することもできたのである。

 この事例から見えてくるのは、「創業以来の重要顧客とどのようにつき合えばよいか?」という論点である。資金繰りに悩まされるベンチャー企業や中小企業にとって、毎年一定のお金を落としてくれる重要顧客の存在はあまりにも貴重である。しかし一方で、そのような重要顧客は、経営上のリスク要因でもある。一般的に、中小企業では、1社で売上高の10%以上を占める顧客がいる場合は要注意であると言われる(※1)。

 重要顧客が自社との取引をいつ何時、どのような理由で打ち切るかは読み切れない。アラメックスの例で言えば、エアボーンが中東地域の重要性を感じなくなり、中東地域向け配達サービスから完全に撤退するかもしれない。逆に、エアボーンが自社で中東地域向け配達サービスを行うだけの人員や設備、ノウハウなどを獲得し、OECを活用しなくなる可能性もある(実際、エアボーンと同様に、中東地域向け配達サービスをアラメックスに委託していたフェデックスは、徐々にアラメックスへの発注を減らし、自社でサービスを完結させる方針へと転換したそうだ)。だから、重要顧客に甘えるのではなく、新しい顧客をどんどん開拓し続けなければならない。これは至極当然の話だ。

 幸いにして重要顧客が自社との取引を継続してくれる場合でも、喜んでばかりはいられず、リスクを抱えることを認識しなければならないだろう。なぜならば、創業時に設定した価格はたいてい現在の価格よりも低く、他の顧客に比べて利幅が小さくなることが多いからだ。創業当初は間接費が少なくて済むから、その分価格を下げることができる。また、既存プレイヤーから仕事を奪うため、価格を低く設定することもある。

 その後、事業規模が大きくなって、スタッフ部門が設けられ、多額の設備投資を行うなどすると、コストが膨らんでいく。通常はその動きに合わせて徐々に値上げをしていくものだが、創業以来の重要顧客に対しては、これまでの関係性を重視して、値上げを見送ることもある。

 しかも、「その重要顧客を何が何でも手放すな」という創業時の厳命が効いていて、創業から一定期間が経過した後も、顧客の要望を何でも聞き、過剰なサービスを提供していることもある。創業して間もない頃は、残業代がつかない経営者自身が重要顧客へのサービスに奔走し、社員も残業代を諦めて頑張ってくれたから(本当は法的にNGだが・・・)、それでもよかったかもしれない。

 ところが、会社が大きくなって仕組みができ上がると、そうも言っていられない。過剰サービスに伴って発生した残業代やその他の追加コストは、会社がきちんと負担しなければならなくなる。また、他の顧客には標準的な業務手順に従って製品やサービスを提供しているのに、創業以来の重要顧客に対してのみイレギュラーな対応が多くなれば、社員のモチベーションにも影響を与える。

 この段階に至って重要顧客に値上げをお願いすることも考えられるけれども、長い間値上げが凍結されていた分、値上げ幅が大きくなってしまうから、おそらく成功の確率は低い。もはや「金になる顧客」ではなくなった重要顧客に対してとりうる選択肢は、次の3つではないだろうか?

 1つ目は、その重要顧客を「知恵になる顧客」とみなすことである。言い換えれば、新製品・サービス開発やイノベーションのアイデアをくれる顧客と位置づけるのである。標準プロセスから外れた重要顧客のイレギュラーな要求は、実は市場の潜在ニーズを先取りしたものかもしれない。「異質」は、企業にとって重要な学習の機会となるものだ(以前の記事「「業務プロセスがイノベーションの原動力」というのは別の意味で一理あり―『イノベーションの新時代』」を参照)。

 2つ目は、「若手を教育してくれる顧客」とみなすことである。重要顧客から新しい製品・サービスや新ビジネスの種をもらうことはできなくても、基本的な仕事のやり方や不測時の対応など、ビジネスのイロハを教わることは依然として可能かもしれない。そこで、若手や新人中心のチームにその重要顧客を担当させ、重要顧客に”鍛えて”もらうのである。

 「知恵になる顧客」にも「若手を教育してくれる顧客」にも該当しない、すなわち、ただ単に「割に合わない要求ばかりを繰り返す顧客」になってしまっていたら、最後の選択肢をとらざるを得ない。それは言うまでもなく、「取引中止」である。ただ、いきなりばっさりと契約を切るのは、長年のつき合いを考慮するとあまりにも不義理であるから、類似の製品やサービスを提供してくれる同業他社を紹介する形になるだろう。

 しかし、安易に同業他社に自社の重要顧客を引き渡すと、後になって自社のビジネスを破壊させる結果を招くこともあるので要注意である。とりわけ、よく検討すれば本当は「知恵になる顧客」だったのに、その顧客を切り捨ててしまった場合に悲劇が起こる。同業他社は、自社が気づかなかったビジネスチャンスをその顧客から発見し、これまでの製品を代替する斬新な製品を市場に投入する可能性がある。

 創業以来の重要顧客を競合に譲ってしまったがためにビジネスを失敗させてしまった事例はすぐには思いつかないのだが、クレイトン・クリステンセンの「破壊的イノベーション」はまさに、既存の大企業が高付加価値路線に走り、収益性の低い顧客を新参のプレイヤーに明け渡してしまったばかりに、大企業のビジネスモデルを脅かす新しいビジネスモデルの登場を許した例である。

 事業を成長させる過程で、常に重要顧客を”試して”きた企業の例として思い浮かぶのが楽天だ。そのやり方は強引すぎたのではないか?という疑問が残るとはいえ、楽天は事業の発展フェーズに応じて、価格体系の変更という手段をうまく使いながら、重要顧客の入れ替えを行ってきた。楽天への出店料はもともと5万円/月の定額制だったが、2002年からシステム利用料として、大手を対象に売上の2〜4%を徴収する従量制に変更した。この従量制は、2005年2月からは、月商100万円以下の小口加盟店にも適用された。

 さらに2005年7月に、輸入雑貨販売のセンターロードが運営するAMCの顧客情報が流出する事件が発生すると、楽天は顧客情報の管理強化を決定した。当時の楽天は、決済や発送などを主に加盟店側に任せる形をとっていたため、顧客の住所やクレジット情報は、楽天と加盟店の両方が把握していた。AMCの顧客情報流出事件は、この脆弱性を突いたものであった。

 楽天は、加盟店が顧客情報に直接アプローチすることを禁じ、自社で顧客情報を一元管理する運用へと変更した。しかも、システム強化に伴い、楽天は決済手数料をそれまでの2%程度から一律3.6%へと引き上げた。出店料の引き上げと合わせると、加盟店は最大で売上の約8%を楽天に支払わなければならない(※2)。高い負担に耐えられない加盟店は、楽天創業時からの加盟店も含めて大量に流出してしまったが、楽天からすれば、自社の料金体系について来られる加盟店を暗黙のうちに取捨選択していたのであろう。


(※1)「【中小企業の大口顧客への依存】大口顧客依存のリスクを考えます。得意先を小口分散させてリスク軽減を図りたいものです」などを参照。
(※2)楽天の料金体系の変遷については、以下を参考にしている。

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