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December 07, 2011

【論点】経営者の報酬を規定する評価指標とは何か?―『リーダーの役割と使命(DHBR2011年12月号)』

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 (レビューの続き)

成長企業のリーダーは進化を追求し続ける ウォルト・ディズニー:伝統を守り、伝統を壊す(ロバート・A・アイガー ウォルト・ディズニー・カンパニー社長兼CEO)
【論点】経営者の報酬を規定する評価指標とは何か?
 経営者は企業の業績(特に株価)に責任を負っているという意識を植えつけるために、役員報酬と業績とを連動させるというのは、今ではよく知られた方法である。日本でも業績連動型報酬は広く浸透しているようで、プライスウォーターハウスクーパーズの調査によると、業績連動型報酬を採用している企業の割合は、2007年の約60%から、2011年には75%超にまで上昇している(=4社に3社の割合)。なお、報酬総額に占める業績連動報酬額の平均比率は約25%である(※1)。

 ただし、これもまた今ではよく知られているように、株価と報酬を連動させると、経営者は短期的に株価を上げやすい施策に頼るようになる。最も解りやすい施策は、言うまでもなくリストラだ。マイケル・ハマーが1990年代の初頭に『リエンジニアリング革命』の中で提唱したBPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)は、本来は「顧客への提供価値を最大化するために、自社の業務を部門横断的に最適化する」ことを目的としたものであったが、いつの間にかリストラのための方策へと成り下がってしまった。

 無理なリストラ、過剰なBPRを行った企業は、瞬間風速的に利益を増加させ、株価を釣り上げることに成功したものの、疲弊した組織は利益を創出し続ける体力を失い、長期的にはかえって株価を下げてしまった。そのため、90年代の後半になると、「BPRは効果がない」などという悪評が立ち始め、提唱者であるマイケル・ハマーの名誉にも少なからぬ傷がつくハメになってしまった。

 こうした教訓があるにもかかわらず、株式市場からの圧力に耐えかねて、安易にリストラに走る企業が現在でも後を絶たないのは非常に残念である。その点、ディズニーは独自の業績連動型報酬制度を導入することで、この問題を回避しようとしている。ロバート・A・アイガーCEOは、ウォルト・ディズニーの「長期インセンティブ制度」について、以下のように語っている。
 当社では(株価以外の指標と)バランスを取っています。私の報酬は主にROIC(投下資本利益率)、当社で言うところの営業収入(operating income)、そしてEPS(一株当たり利益)に基づいています。それから、株価S&P(スタンダード・アンド・プアーズ)500種指数をベンチマークと比較してどうであったかについても考慮に入れています。
 だが、ここでまた新たな疑問が生じる。それはつまり、営業収入やEPS、S&Pとのベンチマークも、結局のところ財務の指標であり、株価ほどではないにしろ、短期的な視点に立った指標なのではないか?ということである。実際、アイガーCEOも次のように述べて、自分を評価する指標が短期志向であることを認めている。
 私の報酬の大半は業績に基づいています。ただし、ここで言う「業績」は、繰り返しますが、長期よりも現在と連動しています。ですから、私の報酬と、株主の投資との間には、少なくとも整合性があります。
 それでは、経営者の報酬はどのように決定すればよいのだろうか?別の言い方をすると、報酬総額のうち、業績と連動しない約75%の金額(日本企業の場合)は、どんな基準によって算出すればよいのだろうか?この点について考えるには、報酬の本来の性質に立ち返る必要がある。それはつまり、「役割に対する見返り」という性質である。一般社員や管理職レベルでは、「役割給」や「職務給」が用いられており、「役割に対する見返り」という性質がすでに報酬に反映されている。これと同じことを、経営者に当てはめてみよう。

 経営者の役割とは何だろうか?アイガーCEOはインタビューの中で、CEOにしかできない役割を3つ指摘している(※2)。
(1)戦略を決定し、その一番の提唱者となり、そして「あれこそ我々が向かっているところだ」と宣言すること。
(2)自社に採用すべき基準を設定すること。具体的には、社員の行動規範、社員同士の関係、自社と自社製品に求められる倫理基準、そして自社のグローバルな行動規範を定めること。
(3)優れた社員を採用し、その意欲を喚起すること。
 役割給のコンセプトに従うならば、経営者の評価ポイントは、

 (1)適切な戦略を策定し、それを全社に浸透させることができたか?
 (2)自社が従うべき基準(価値観)を定め、それを社員に意識づけることができたか?
 (3)優秀な人材を採用できたか?また、彼らのモチベーション向上に寄与したか?

ということになる。ただ、これだとまだ定性的すぎて評価しにくいため、何かしらの定量的な指標に置き換え、その測定方法を検討する必要がある。

 (1)「戦略が適切であったかどうか?」は、結局のところ業績となって現れる。しかも、短期的ではなく、中長期的な業績に反映される。従って、例えば新戦略立案後の「一定期間(3年〜5年)の業績の伸び率」を評価指標とすることができるだろう。もう1つ、「戦略を全社に浸透させられたか?」という点については、社員満足度調査の中に、「自社の戦略を十分に理解しているか?」という項目を入れて、そのスコアの平均値を指標にするという手が考えられる。

 (2)これもまた社員満足度調査を活用して、「自社の行動規範や価値観を十分に理解しているか?」、「自社の行動規範や価値観に従って行動しているか?」を尋ね、そのスコアを評価の材料とする。社員本人の自己評価だけでなく、「上司や同僚は、自社の行動規範や価値観を十分に理解していると思うか?」、「上司や同僚は、自社の行動規範や価値観に従って行動しているか?」といった具合に、他者を評価する項目も入れると、評価の信頼性がより高まるだろう。

 (3)経営者が採用プロセスに関与するパターンは、大きく2つに分けられる。1つは直接的に関与するパターンで、取締役のメンバーや上級管理職の候補者を自ら探し出し、取締役会や人事部に打診するケースである。この場合は、採用した取締役や上級管理職のパフォーマンスの程度、換言すれば「彼ら自身の人事考課上の目標の達成度合い」が、経営者の評価材料にもなる。

 もう1つは、経営者が最終面接を行うといった、間接的な関与のパターンである。このケースは、経営者が候補者の資質を見極めるという側面ももちろんあるけれど、どちらかというと候補者の動機づけが主たる目的であるように思える。候補者は経営者とのコミュニケーションを通じて、「この経営者の下で働いても大丈夫か?」を見極めている。また、経営者が(自社のいいところも課題も含めて)自社の魅力を熱心に語れば、入社後のモチベーションにも影響を与えうる。

 経営者による面接の効果を把握するには、例えば入社後一定期間(半年ぐらい)が経過したら、人事部が入社後のフォローと称して仕事に対する意識調査を行い、そのアンケートの中に「経営者との面接は、入社の意思決定にどの程度影響を与えたか?」、「経営者との面接で、『この会社で働こう』という気持ちはどのくらい強くなったか?」という質問を入れて、スコアを測定するとよいだろう。

 以上のような評価は、いわゆる一般的な業績連動型の評価制度に比べると、非常に煩雑である。しかし、報酬の本来の性質に従って評価を行うならば、何らおかしなことではないと思う。ディズニーでは、CEOが自らの役割を明言しているが、果たして報酬委員会は、これまで述べてきたような情報を人事部や総務部などの協力の下に集めてきて、経営者の報酬を議論しているのだろうか?

(※1)プライスウォーターハウスクーパーズ株式会社「役員報酬サーベイ2011」より。
(※2)参考までに、ドラッカーが主張した「CEOにしかできない5つの仕事」と、その仕事についてP&Gのアラン・ラフリーCEOが自らの回答を提示しているDHBRの論文を紹介しておく。
何でもコラボすりゃいいってもんじゃないんだよ(前半)−『信頼学(DHBR2009年9月号)』

Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2009年 09月号 [雑誌]Harvard Business Review (ハーバード・ビジネス・レビュー) 2009年 09月号 [雑誌]

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