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October 25, 2011

D・カーネマンによる「認知バイアスを見抜く12の質問」―『「破壊的」経営論(DHBR2011年11月号)』

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 (DHBR2011年11月号の書評は今回で最後)

認知バイアスを見抜く12の質問 意思決定の行動経済学(ダニエル・カーネマン他)
 最後に取り上げる論文は、2002年にノーベル経済学賞を受賞した行動経済学の権威、ダニエル・カーネマンらによる論文。認知学者によると、人間の思考には「システム1」と「システム2」の2つがあるという。システム1は直観的な思考を、システム2は合理的な思考を支えている。システム1は、我々が日々直面する無数の意思決定の場面で、迅速に判断を下すのに役立つ。しかし一方で、システム1はバイアス(偏見)を生み出し、時に合理的・論理的な思考を妨げてしまう。

 この論文では、周囲からの提案を受けて重要な意思決定を下さなければならないという局面で、システム1による性急な判断を防ぎ、システム2による合理的な決断を導くための12の問いが提示されている。以下、太字で示した質問文は論文からの引用、各質問の補足説明は、論文の内容などに基づき私なりにまとめたものである。

.意思決定者が自問すべき質問
(1)提案チームが「私利私欲にかられて意図的に誤りを犯したのではないか」と疑われる理由はないか?
 表向きは立派な大義名分や目的を掲げているが、実はその裏で提案チームが私腹を肥やしているという話は、官民どちらの世界でもよくあることだ。ただ個人的には、そういう”私的な動機”というのも時には必要だと思う。極端なことを言えば、資本主義とは、個人の利潤動機を社会全体の富の創造へとつなげるシステムである(以前の記事「最初の動機は不純だって構わないんじゃないか?」を参照)。

 私的な動機の存在そのものが問題なのではなく、私的な動機が他の集団や社会にとってメリットを生まないことが問題である。最初の質問は、この点を見極めるのに役立つだろう。

(2)提案者たち自身が、その提案にほれ込んでいるか?
 以前の記事「果たして意思決定に感情は不要なのか?」でも書いたように、意思決定における感情の扱いは非常に難しい。興奮や刺激的といった感情は、チームメンバーを特定の結論へと急がせる傾向があり、多角的な視点から選択肢を洗い出したり、大小様々なリスクを想定したりするのを妨げてしまう。提案チームがあまりに熱心になっている場合は、彼らが行き過ぎた楽観主義に陥っていないかどうか、疑ってかかる必要がある。

 ただ、提案者自身がほれ込んでいないような提案内容では、相手を説得できないのも事実であろう。「私はそれほど魅力的だとは思わないのですが、あなたがやってみたら面白いと思いますよ(棒読み)」などという無責任な提案に耳を貸すマネジャーはいない。相手を説得し、さらに賛同者を増やしていくためには、一定の熱意が必要である。よって、提案を受けた人が識別しなければならないのは、提案チームが提案内容を検討している段階から興奮状態にあったのか、それとも検討プロセス自体は冷静に進められており、私に提案している今この時だけ興奮しているのか、ということである。

(3)提案チームのなかに反対意見があったか?
 質問(2)でも述べたが、提案チームが興奮状態にあると、重要なリスクを過小評価して合意形成に至ることがある。また、提案チームのメンバーの同質性が高いと、いわゆる「グループ・シンキング(集団思考)」に陥りやすくなる。さらに、メンバー間に上下関係があると(上司―部下、部長―課長といった組織図上の公式な上下関係だけでなく、メンバー間で自然と形成される非公式な上下関係も含まれる)、下の地位の人は反対意見を押し殺して、上の地位の人につき従うことがある。

 提案内容の複雑さや難易度の割に、提案チームがあまりにスピーディーに合意に至ったと感じた場合は、質問(3)の出番である。「反対意見がない」イコール「いい提案」ではない。GMのアルフレッド・スローンは、経営会議ですんなりと合意に至った場合には、「来週、もう一度この議題について話し合いましょう」と言って会議室を後にするのがクセだったという。

.提案者に問うべき質問
(4)顕著な類似性が、状況の分析に大きく影響するおそれはないか?
 提案内容の魅力を強調するために、「他社ではこうやっています」とか、「以前に社内でこういう活動をした時には、これぐらいの成果がありました」といった具合に、過去の成功事例を持ち出すことがある。そのような事例は確かに、提案内容の成功の可能性や効果の大きさを推し量る上で、欠かせない情報となる。

 しかし、その成功事例と今回の提案内容では、どのくらい状況が類似しているのかを提案者に問わなければならない。言い換えれば、事例の成功要件が、今回の提案内容でも本当に再現可能なのかどうかを十分に吟味する必要がある。

(5)信頼できる代替案が検討されたか?
 この質問の重要性は言うまでもないだろう。提案を受けた人は、チームの提案内容が”結論ありき”のものになっていないかどうかを、この質問を使って見定めなければならない。

(6)一年後に、同じ意思決定を繰り返さなければならないとしたら、どのような情報が必要になるか?それをいま入手できるか?
 この質問の意図をもっと端的に表すならば、提案を受けた人はその場で即決せずに、もう少し時間の猶予があるつもりで意思決定しよう、ということである。切羽詰まった状況に置かれた人間は、その時手元にある情報をうまくつなぎ合わせて、物事を何とか説明しようとする傾向がある。

 この傾向が裏目に出ると、提案を受けた人は、本当ならば提案内容のストーリーに欠陥があるにもかかわらず、全体としては何となく筋が通っているからOK、といった感じで、ついジャッジが甘くなってしまう。そして案の定、その欠陥が命取りとなって、提案内容が実行フェーズで失敗するのである。時間の誘惑に負けない姿勢が意思決定者には求められる。

(7)数字の出所を承知しているか?
 提案内容の効果が定量的な数値でシミュレーションしている場合には、提案チームに数値の根拠や試算のロジックを尋ねて、どこまでが事実に基づく数値・算定ロジックであり、どこからが仮説ベースなのかをはっきりさせる必要がある。試算の出発点となる数値自体が仮説ベースであるならば、効果が大幅に上下する可能性を覚悟しなければならない。

(8)「ハロー効果」が見られないか?
 ハロー効果とは、ある対象を評価をする時に、顕著な特徴に引きずられて、他の特徴についての評価が歪められる現象のことである。とりわけ、成功事例を目にすると、その事例のよいところばかりが”後光”(halo)のように輝いて見え、マイナス面を見失ってしまうことがある(故スティーブ・ジョブズに対する評価は、ハロー効果に陥りやすい一例と言えるだろう)。

 質問(4)とも関連するが、ハロー効果は他社のベストプラクティスを自社に導入する際に陥りやすい。ベストプラクティスの成功要件を自社で再現できるかどうかを問うのが質問(4)であるならば、質問(8)はベストプラクティスが潜在的に抱えているリスクやデメリットを炙り出すものである。

.提案を評価するための質問
(9)提案者たちは過去の意思決定にこだわりすぎていないか?
 人間は、”負け”が込んでくると、過去の負けを取り戻すために、通常よりも大胆な方法を選択する傾向がある。これは、カジノや賭け事で敗者を追い詰める心理である。提案チームが過去に何度か手痛い失敗を重ねているケースでは、自分たちの名誉を挽回するために、思い切った施策を提案してくるかもしれない。

 しかし、この場面で重要なのは、今ここで議論の的となっている投資案件が、投資に見合ったリターンをもたらすかどうかであって、投資に加えて過去の埋没費用まで取り戻せるほど高いリターンがあるかどうかではない。この点を間違えると、不相応のリスクを犯して危ない行動を選択することになるし、本来ならば適切な投資対効果がある案件を却下してしまうことになる。

(10)基本となるケースは楽観的すぎないか?
(11)最悪のケースは、本当に最悪なのだろうか?
(12)提案チームは慎重すぎないか?
 質問(10)〜(12)はセットでとらえた方がいいだろう。通常、ある提案を行う場合には、提案内容を実行した後のシナリオを何パターンか作成するものである。IT投資であれば、新システムの構築によってどのくらいのコスト削減が見込めるのかを試算するし、マーケティングへの投資であれば、各種プロモーション施策によって、どの程度の新規顧客が獲得できそうなのか、あるいは顧客満足度がどのくらい改善されそうなのかを推測する。一般的には、ノーマルなシナリオに、楽観的・悲観的という2つのシナリオを加えた3パターンのシナリオを作成するのが望ましいとされる。

 だが実際には、時間の都合や情報の制約のために、シナリオを3パターンも作らないことの方が多いだろう。2パターン用意されていれば、提案チームが楽観的・悲観的のどちらに傾いているかを察知することができる。ところが、1パターンしか提示されなかった場合には、提案チームの心理的傾向を図ることができない。そこで、この質問(10)〜(12)を用いて、提案チームのスタンスを探る必要がある。

 提案チームが過度に楽観的、または悲観的・慎重になっていることが明らかになったら、提案チームに対して、これまでのスタンスとは逆サイドから、もう1つシナリオを作成することを指示する。すると、楽観的過ぎたチームは見過ごしていたリスクを、悲観的過ぎたチームは明るい材料を発見できるかもしれない。

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