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October 28, 2011

従来の「ソフト・パワー」は「知的パワー」として再構成できるのでは?(1/2)―『スマート・パワー』

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ジョセフ・S・ナイ
日本経済新聞出版社
2011-07-21
posted by Amazon360

 前回「「パワーの資源⇒活用能力⇒具体的な手段」のモデルに沿った各パワーの整理―『スマート・パワー』」の続き。『スマート・パワー』のレビューは今回と次回でもう本当に最後(ナイは、「アメリカは21世紀にも最強国の地位を維持する可能性が高い」と強気な姿勢を崩していないけれども、国際政治の舞台におけるアメリカの相対的なパワーの弱体化は、ナイの予測よりも早い時期に始まるのではないか?という記事を書こうとしたが、もうキリがないのでやめました)。

 前回の記事に2点ほど補足だが、経済力の手段の1つである「経済的制裁」は、実は直接的な効果が小さいという研究を、ナイは本書の中で紹介している。この研究では、「貿易制裁によって強制や相手国の政権転覆に成功することはほとんどなく、相手国を制約する効果は限られている」と結論づけられているそうだ。これを受けてナイは、「有名なキューバの『失敗』に戻ると、制裁でカストロ政権を転覆することはできず、国際的な影響力の行使を少し抑えただけであった」と指摘している。

 しかしながら、制裁の間接的な効果として、ナイが紹介した研究では、「国内外に向けたシグナルとしては成功することが多い」という点が挙げられている。ナイによると、キューバへの制裁は、「アメリカ国民や他国に対し、ソ連と同盟すれば高くつくというシグナルを送ることができた」という。

 もう1つの補足は、これも経済力の手段である「開発援助」に関するものだが、ナイは「今日、経済学者は経済開発の明確な原則について合意できておらず、援助が役立つかどうかについてすら、意見が対立している。援助は、依存の文化や政府の腐敗などの原因になって逆効果だとする主張すらある」と述べており、開発援助もまた制裁と同様に、その効果に疑問が残るとしている。

 多くの開発支援が狙い通りの成果を上げられない中で、例外的に目覚ましい成功を収めたマーシャル・プランについては、「ヨーロッパの経済はすでに発展していたので、必要なのは復興だけだった」とナイは分析している。言い換えれば、ヨーロッパには十分な経済基盤があったため、資金さえ与えればあとはヨーロッパ各国がそれをうまく活用すればOKだった、というわけだ。

 裏を返せば、経済や社会の基盤が整っていないところに資金だけを与えても、大した効果は出ないということになる。日本は長年にわたってアフリカ諸国に多額の開発援助をしてきたが、世界的な反捕鯨の気運に対抗すべく、アフリカ諸国を味方につけることが援助の目的だったわけではない。

 では、アフリカ諸国は、日本(を含む世界各国)から受けた開発援助の額に応じた発展を遂げているかというの問いに対して、自信を持って”Yes”と答えられる政府関係者や支援組織がどのくらいいるのであろうか?開発支援で重要なのは、資金の多寡ではなく、相手国の経済や社会の高度化を意図した具体的な支援策の提供ではないだろうか?

◆サイバー・パワー
 サイバー・パワーについては、以前の記事「新たに追加された「サイバー・パワー」の概要まとめ―『スマート・パワー』」である程度述べたので、表の掲載と簡単な補足にとどめておく。

具体的な手段 資源 活用能力
(1)ネットワークの監視・検閲
※それぞれの主体が異なる資源を有する
(a)主要国政府が有するネットワーク
・インフラ、教育投資
・サイバー領域における法的規制

(b)大規模な企業・組織による高度なネットワーク
・独自ソフト、アプリケーション
・ブランドと名声

(c)結びつきが弱い個人によるネットワーク
・参入コストの低さ
・退出の容易さ
・高度なIT・通信技術
(2)ネットワークへの物理的・論理的侵入、および破壊
(3)ネットワーク上でのコミュニティ形成 ・自らの属性、思想、嗜好、個性などを他のコミュニティメンバーに訴求する能力
・他のコミュニティメンバーから信頼を得る能力
(4)ネットワーク上でのネガティブキャンペーン
(ネットワーク上での「名指し非難」)
・信頼性のあるストーリーの構築能力
・メッセージの内容が変質しないようにモニタリングする能力

 本書では、「(a)主要国政府が有するネットワーク」、「(b)大規模な企業・組織による高度なネットワーク」、「(c)結びつきが弱い個人によるネットワーク」という3つのネットワークが有する資源がもっといろいろ記述されている。しかしながら、「これは資源と言えるのか?」と疑問に感じるものも含まれていたため(例えば、「主要国政府」の資源に「サイバー攻撃とサイバー防衛」とあるが、これは資源ではなくて、パワーを発揮する手段なのでは?など)、一部の資源にとどめた。

 また、厳密に整理するならば、この3つのネットワークがそれぞれ固有の資源を有するので、「手段―資源―能力」の組合せは全部で12パターンになるのだが、そこまで細かく整理するのはもう大変。よって、上の表でご容赦いただきたい。

 1点補足すると、(4)の「ネットワーク上でのネガティブキャンペーン」は、経済力の手段にあった「相手国や相手国企業の経済的不正・不備を名指しで非難」をネットワーク上で展開することである。経済力の場合は、公的な機関やマスコミを通じてメッセージを発信するから、メッセージの内容が変質することは少ない(もちろん、マスコミが情報操作していないかどうか注意を払う必要はあるが)。

 これに対して、サイバー・パワーの場合は、ネットワーク上で不特定多数の人や組織が伝言ゲームのようにメッセージを伝えていく。その過程で、当初の狙いとは異なる内容にすり替わってしまったり、虚偽の情報が混じり込んだりする危険性がある。サイバー空間においては、こうした意図せぬ変質が起きていないかどうか、メッセージの発信者とコミュニティメンバーが綿密にモニタリングすることがより重要になると考えられる。

◆知的パワー
 軍事力、経済力、そしてサイバー・パワーにハードとソフトの両面があることは、これまで何度も述べてきたが、ここで困った問題が生じる。それは、文化、政治的価値観、外交政策の3つを資源とする、元々の「ソフト・パワー」の位置づけである。ソフト・パワーが特定のパワーのソフトな面を指すのであれば、「ソフト・パワー」というカテゴリが独立して存在するのは、論理的には合点がいかない。言い換えれば、「ソフト・パワー」にはソフトな一面しかないというのでは、他のパワーとのつじつまが合わないのである。

 そこで、私はこう考えることにした。文化、政治的価値観、外交政策のうち、「政治的価値観」は各パワーを発揮する手段に反映される考え方である。例えば、経済力を発揮して関税を高くしようとする国は、自国の保護主義を経済政策に反映している。逆に、最近話題になっているTPP(環太平洋経済連携協定)を積極的に推進する国々は、自国の開放的な市場原理を経済政策に反映させており、日本など保護主義的な政策をとる諸外国に対して圧力をかけていると言える。

 また、軍事力を発揮して同盟関係の強化を求める国は、「どの国が自国にとって脅威であり、その脅威を防ぐためにはどの国との同盟を重視すべきか?」という政治的な構図を念頭に置いている。言うまでもなく、現在のアメリカにとって最大の脅威は中国であって、中国が日本の領海を通り越し、太平洋におけるアメリカの覇権を脅かすケースを常に想定している。そして、日本に対し”防波堤”としての役割をこれまで以上に要求しているのである(それを、民主党政権はぐちゃぐちゃにしてしまったわけだが)。したがって、「政治的価値観」は他のパワーに吸収させてしまって構わないのではないか?と考える。

 「外交政策」に関しても、これを単独で切り出すというより、「軍事外交」、「資源外交」などという言葉があるように、軍事力、経済力、サイバー・パワーを発揮する手段と関連させて捉えた方が解りやすい。そうすると、残るのは「文化」となるわけだが、これをどう位置づけるかが次の論点になる。

 (続く)

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