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October 16, 2011

新たに追加された「サイバー・パワー」の概要まとめ―『スマート・パワー』

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ジョセフ・S・ナイ
日本経済新聞出版社
2011-07-21
posted by Amazon360

 (「あれ?「ソフト・パワー」の定義変わりました??―『スマート・パワー』」の続き)

(2)新たなパワー「サイバー・パワー」の追加
 本書には、『ソフト・パワー』では全く取り上げられていなかった新しいパワーとして、「サイバー・パワー」が追加されている。これは、インターネットの発達に代表される情報革命によって、サイバー空間でもパワーを発揮することが容易になった昨今の事情を反映させたものである。

 サイバー・パワーの特徴は、それを発揮する主体が限定されず、世界中に幅広く拡散している点にある。もちろん、サイバー・パワー以外のパワー、例えば軍事力に関しても、最近では民間のテロ組織、さらには一般人も戦闘を仕掛けるケースが増えており、パワーが拡散していると言える(※3)。また、経済力についても、国家がそれを単独で発揮することが難しくなり、グローバル企業と歩調を合わせなければならない局面が増加しているという意味では、やはりパワーが拡散している。

 しかし、軍事力や経済力に比べて、サイバー・パワーは拡散の度合いがはるかに大きい。サイバー空間においては、ネットワーク、とりわけインターネットの利用コストが非常に低いために、ありとあらゆるプレイヤーに門戸が開かれている。ナイは、「主要国政府が有するネットワーク」、「大規模な企業・組織によるネットワーク」、「結びつきが弱い個人によるネットワーク」という3タイプに分類し、それぞれのネットワークが有するパワーの資源と、パワーを行使する手段の特徴を体系化している(ただ、今回の記事では細部にまで触れられないけれども、個人的には非常に解りにくい整理だと感じた。そこで、ここからは、私のオリジナルの整理をしてみたいと思う)。

 ネットワークがパワーを有する場合、大きく分けて2通りのパワーがあると考えられる。1つは、ネットワークを通じて形成・発信される情報が持つパワーである。身近な例を挙げると、Amazonや楽天市場に多数投稿されているユーザの口コミ情報は、他のユーザの購買意思決定を左右する重要な情報となる。また、ネットオークションサイトでは、出品者が信頼に足る人間かどうかをユーザが評価する仕組みができ上がっており、評価が低い出品者はサイト管理者からペナルティを受ける。

 もう1つは、「ネットワークの存在そのもの」がパワーを持つというケースである。例えば、ウィキリークスが存在することで、アメリカの政府関連機関は、機密情報を安易にやりとりすることが難しくなっている(それが政策の形成にプラスに働くのか、それともマイナスの働くのか?という別の論点はあるが)。また、企業が不正行為を働くと、すぐに2ちゃんねるにスレッドが立ち、さらにはtwitterやfacebookでその情報が一気に広まる。こうしたネットワークは、企業の不正行為を防ぐ抑止力としての機能を担っていると言える。

 軍事力や経済力がハード・ソフトの両面を兼ね備えているのと同様に、サイバー・パワーにもまた、ハード・ソフト両方の要素がある。ところで、ハードとソフトの違いを明確に述べていなかったが、ここで今一度、両者の違いを述べておこう。ハード・パワーとは、相手に特定の行為や思想を強要したり、相手の行為や思想を封じたりする「支配力」である。

 これに対し、ソフト・パワーとは、自らの行為や思想が魅力的であり、正当であることを示すことによって、相手を自分の方に引きつける「吸引力」である(マーケティングの言葉を借りれば、ハード・パワーは「プッシュ型」、ソフト・パワーは「プル型」ということになる)。

 ハード・パワーは、高い確率で相手のパワーを封じることができる。他方、ソフト・パワーは必ずしもこちらの思惑通りに相手を魅了できるとは限らない。しかし、この事実をもって、「ハード・パワーの方がソフト・パワーより強い」と言えるわけではない点には注意が必要である。ハード・パワーで無理やり特定のイデオロギーを植えつけられた市民は、ある日突然不満を爆発させ、怒りの矛先を権力者に向けることがある。最近のアフリカ諸国における民主化の動きは、まさにその例であろう。

 ソフト・パワーの場合は、効果が出るまでに時間がかかるものの、一旦効果が出ると、強大な吸引力になりうる。アップルの創業者である故スティーブ・ジョブズは、内部の権力抗争に敗れて一度はアップルを追い出された。ところが、ピクサーでの成功などを経て再びCEOとなり、iPod、iPhoneといったイノベーティブな製品やサービスを次々と市場に送り出すと、そのカリスマ性は世界中の人々を虜にした。

 サイバー・パワーに話を戻そう。本書ではかなり入り組んだ議論が展開されているので、私が個人的に再整理し直した内容になるけれども、ハード・パワーとしてのサイバー・パワーは、結局のところ「ネットワークの監視・検閲」と、「ネットワークへの物理的・論理的侵入、および破壊」という2つの手段に集約されると考えられる。「ネットワークの監視・検閲」は、中国政府によるインターネットの監視が一番解りやすい例であろう。もっとも、最近では当局がいくら監視をしても、その隙間を狙って政府を批判する情報が溢れるようになっているため、当局のハード・パワーが賞味期限を迎える日はそう遠くないようにも思える。

 自国にとって脅威となるネットワークに対し、もっと直接的なダメージを与えようとするならば、もう1つの「ネットワークへの物理的・論理的侵入、および破壊」という手段を講じることになる。「ネットワークへの論理的侵入、および破壊」とは、相手のネットワークに不正プログラムを用いて侵入し、データを盗み出したり、破壊したりすることである。

 つい最近、三菱重工のネットワークがサイバー攻撃を受け(※4)、攻撃元は中国ではないか?という疑惑(※5)が持ち上がったことは記憶に新しい。今回のサイバー攻撃は、三菱重工が保有している軍事・防衛技術関連の機密情報を盗み出し、日本の軍事情報ネットワークの弱体化を狙ったものであると推測されている。

 「ネットワークへの物理的侵入、および破壊」とは、ネットワークを構成するハードウェアが設置された場所に侵入し、ハードウェアや周辺機器そのものを破壊する行為である。この手段については、表だった大事件はまだないものの、「中国は、宇宙空間を周回するアメリカの軍事衛星を破壊する方策を探っている」と指摘する軍事専門家もいる。

 偵察衛星は1日に十数回地球を周回でき、搭載された高感度カメラで、各国・地域の軍事施設に対する精密な情報を収集できる。しかも、搭乗する飛行士を通して地上と情報通信できるから、地上に対する指揮命令の伝達、コントロールも可能になる。

 軍事力でアメリカに劣る中国は、アメリカにがっぷり四つの戦いを挑むことなど考えてはいない。どうすればアメリカの弱点を突いて打ち破ることができるか考え抜いた結果、たどり着いた結論の一つが、「米軍事力は宇宙経由の情報や指示によって動いているから、軍事衛星を破壊すれば機能不全になる」という考え方だったというのである(※6)。

 以上がハード・パワーとしてのサイバー・パワーの話であったが、ソフト・パワーとしてのサイバー・パワーは、「ネットワーク上でのコミュニティ形成」、「ネットワーク上でのネガティブキャンペーン」という2つの手段にまとめられる。前述のように、twitterやfacebookなどの中で構成されるコミュニティは、そのコミュニティの存在自体が、企業や政府に不正行為を思いとどまらせる抑止力となる。また、より活発なコミュニティは、企業や政府を批判するメッセージを発信することもできる。

 ただ、ソフト・パワーとしてのサイバー・パワーは、火がつけばとめどなく広がるものの、火がつかないと全く広がらないという両極端の性質を持っているように思える。そういう意味では、ソフト・パワーとしてのサイバー・パワーは、当事者によるコントロールが非常に難しい。

 例えば、反原発や嫌韓流の動きに関しては、賛同者がネットワーク上で一斉に集まり、各地のデモにまで発展したが、それに比べると外国人参政権や人権擁護法案に反対する人たちのネットワークは、十分なパワーを発揮できていないように感じる。ソフト・パワーとしてのサイバー・パワーを、より効果的に発揮するためにはどうすればよいのか?この点は、今後の重要な論点になるであろう。

(※3)イスラム原理主義組織によるテロの増加は言うまでもないが、例えば「【ノルウェー連続テロ】首相を狙った連続テロ 92人死亡、32歳男逮捕」(MSN産経ニュース、2011年7月)のように、一個人が単独でテロ行為を行うことも可能になっている。
(※4)「三菱重工 ウイルス感染 サイバー攻撃か 「重要情報は流出せず」」(MSN産経、2011年9月19日)
(※5)「中国関与は「根拠なし」 三菱重工のサイバー攻撃」(MSN産経ニュース、2011年9月20日)
(※6)「【正論】中国軍事専門家・平松茂雄 すぐに中国宇宙軍の時代が来る」(MSN産経、2011年10月6日)

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