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   新ブログ 谷藤友彦ー本と飯と中小企業診断士
October 27, 2011

「パワーの資源⇒活用能力⇒具体的な手段」のモデルに沿った各パワーの整理―『スマート・パワー』

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ジョセフ・S・ナイ
日本経済新聞出版社
2011-07-21
posted by Amazon360

 再びジョセフ・ナイの『スマート・パワー』のレビュー。よく考えると、先月末から今月にかけて、ほとんどナイの著書に関する記事ばかりになっているな。いやぁ、そのぐらい書かないと、著書の内容を自分なりに咀嚼できなかったんですよ(苦笑)。

 《『スマート・パワー』に関するこれまでの記事》
 あれ?「ソフト・パワー」の定義変わりました??―『スマート・パワー』
 新たに追加された「サイバー・パワー」の概要まとめ―『スマート・パワー』


 さて、これまで「パワーを発揮する」という表現を何度か使ってきたが、この言葉の意味をもう少し厳密にしておきたい。パワーを発揮するとは、ある具体的な「手段」を打つことである。そして、その手段を講じるには、何らかの資源が必要となる。ところが、資源があれば十分というわけではない。お金があれば事業が成功するわけではないのと同じだ。資源と手段の間には、資源をうまく活用するための「能力」が介在する。

 これを端的に表すと、今回の記事タイトルにもあるように、「パワーの資源⇒活用能力⇒具体的な手段」というモデルができ上がる。これが、「パワーを発揮する」という表現の意味するところである。ちなみにナイは、「資源⇒変換戦略⇒望む結果」というモデルを用いており、資源と変換戦略の間に「状況」、変換戦略と望む結果の間に「スキル」を介在させている。

 2つの介在要因に関しては、ある資源を活用した変換戦略は状況によって規定され、変換戦略が望む結果につながるかどうかはスキルによって決まることを意味していると考えられる。しかしながら、個人的に解りにくいモデルだったので(今こうして文章にしてみても、自分で何を書いているのかよく解らないので)、前述のように単純なモデルを使うことにした。

 先ほどの「パワーの資源⇒活用能力⇒具体的な手段」というモデルを用いて、軍事力、経済力、サイバー・パワーの具体的な内容を私なりに整理してみたいと思う。ただ、この整理の過程で、文化、政治的価値観、外交政策を資源とする「ソフト・パワー」が宙ぶらりん状態になってしまうことに気づいた。この点をどう解消すればよいかも含めて、以下順番にパワーの中身を見ていきたいと思う。

◆軍事力
 軍事力に関しては、前述のモデルに近い形でナイが整理をしている。本書より引用した表が下表である。

行動のタイプ 形式 戦略的成功の鍵となる資質 使用される資源
(1)物理的強制 物理的破壊 能力 人員、武器、戦略
(2)強制するとの脅し 威嚇外交 能力と信頼性 機敏な外交
(3)保護 同盟と平和維持 能力と信用 軍隊と外交
(4)支援 援助と訓練 有能さと善意 組織と予算

 ただ、ちょっとこの表はいくら何でも乱暴なんじゃないかなぁ、ナイ教授・・・。「戦略的成功の鍵となる資質」に「能力」という言葉が頻繁に登場するけれども、あまりにモヤっとしすぎている。そりゃ、何をやるにしても何かしらの能力は必要だろうが、具体的にどういう能力なのかもう少し踏み込んでほしかった。というわけで、私が個人的に整理し直したのが下表である(もちろん、これでも十分とは言えないだろうが、多少は解りやすくなったはず)。

具体的な手段 資源 活用能力
(1)戦闘 ・戦闘のための人員、武器、戦略 ・戦略・戦術の構築力
・戦略・戦術の遂行力
・戦闘の状況に応じて戦略・戦術を変更する能力
(2)威嚇外交 ・状況の変化に機敏に対応する外交機関
・軍事資源
・信頼性のあるメッセージを発信する能力
(3)同盟と平和維持 ・同盟国のキーパーソンを結ぶネットワーク
・平和維持活動のための軍隊
・相手からの信用を引き出す交渉能力
・同盟の条件を確実に遵守する能力
(4)援助と訓練 ・組織と予算
・過去の援助・訓練のノウハウ
・状況や相手の事情に応じて、効果的な援助・訓練を計画・実施する能力

 「威嚇外交」にあった「機敏な外交」という資源は、「状況の変化に機敏に対応する外交機関」と書き変えた。これでも大して中身は変わらないのだが、要するに「機敏な外交(状況の変化に機敏に対応する外交機関)」とは、相手国の動きに素早く反応し、即座にメッセージを発信できる外交(あるいは外交機関)のことを指している。

 例えば、民主党政権に代わってから、新政権に十分な外交能力がないと見るや、ロシア(※7)、韓国(※8)、中国(※9)が立て続けに日本の領土を脅かしているのは、「機敏な外交」の一例であろう。また、こうした「機敏な外交」においては、中国が尖閣諸島付近に海洋調査船を送り出したり、尖閣諸島の上空に軍機を飛ばしたりするように、軍事資源を併用して威嚇のメッセージを強化することもある。そのため、資源の欄には「軍事資源」を追加している。

 「援助と訓練」の資源には、「過去の援助・訓練のノウハウ」を追加したが、これは、以前の記事「あれ?「ソフト・パワー」の定義変わりました??―『スマート・パワー』」で取り上げた「COINマニュアル」や、9月にオバマ大統領がリビアの反カダフィ派議長と会談を行い、食料や医療品の提供をはじめ、治安維持や選挙態勢の構築について、イラクやアフガニスタンで培ったアメリカのノウハウを活用しながら復興を支援することを約束したという記事を踏まえたものである(※10)。

◆経済力
 ナイが表による整理を施しているのは、実は軍事力だけなので、それ以外のパワーについては、完全に自力で表を作成しなければならなかった。本書では、経済力を発揮する手段として、「金銭的報酬の提供、または剥奪」が中心に据えられているが、それ以外にも「市場構造の変容」、「スマートな制裁」、「相手国や相手企業の経済的不正・不備を名指しで非難」といった手段が指摘されている(『ソフト・パワー』では、経済力は「金銭的報酬の提供、または剥奪」に限定されていた)。

具体的な手段 資源 活用能力
(1)金銭的報酬の提供、または剥奪
(開発援助、経済制裁など)
・GDPの規模と質
・国民1人あたりのGDP
・技術のレベル
・天然資源や人的資源
・市場に関する政治制度と法律制度
・貿易、金融、競争などの個別の領域で形成される資源
・相手が自分に依存する度合いを大きくする能力
(2)市場構造の変容
(自国市場への参入を制限する割当制度、為替レートの操作、天然資源のカルテルなど)
(3)スマートな制裁
(エリート層の特定人物の渡航禁止、海外資産の凍結など)
(4)相手国や相手国企業の経済的不正・不備を名指しで非難
(ネガティブキャンペーン)
・信頼性のあるストーリーの構築能力

 資源に関しては、本来であれば各手段と特定の資源をきちんと紐づけるべきなのだが、だんだんこっちも疲れてきたので(汗)、本書で「ハード・パワー、ソフト・パワーに共通している資源」として、ナイが列挙しているものをそのまま記載した。また、能力についても同様に、個別の能力を整理するのではなく、ナイが本書で頻繁に触れている「経済的相互依存」という言葉を参考に、「相手が自分に依存する度合いを大きくする能力」という大きな括りでまとめてみた。

 相手が自分に依存する度合いが大きくなると、相手に対してより強いパワーが発揮できるようになるという点については、マイケル・ポーターの「5 Forces Model」を思い返してみるとよく解る。買い手(顧客)に対してパワーを発揮しようとする企業は、買い手を囲い込み、他社製品へのスイッチングコストが高くなるようにする(携帯電話のキャリアがとってきた戦略がまさにそう)。

 また、企業が売り手(仕入先)に対するパワーを強化するには、売り手の売上のうち、自社の仕入高が占める割合を大きくすればよい。売り手はこの企業を失うと一気に経営基盤が揺らいでしまうため、企業側から多少の無理難題を押しつけられても従わざるを得ない。自動車業界では、完成品メーカーが原価を下げてくれと言えば、系列の部品メーカーは要求を呑むしかなかったのがその例である。

 (1)〜(3)についてはハード・パワーの側面が強いが、(4)の「ネガティブキャンペーン」は、批判対象となった国や組織が素直に非難を受け入れるかどうかが不明であるという点で、ソフト・パワーに属する。ネガティブキャンペーンでは、メッセージに信頼性・一貫性があることが重要だ。昨今の世界経済危機をめぐって、アメリカはEUに対し、「EU圏内の金融危機を早く何とかしてくれ」と訴えているものの、アメリカ自体も財政危機状態にあるから、EUも「おたくも財政赤字を何とかしなさいよ」とでも言わんばかりに、アメリカからの声を聞く耳を持っていない(というよりも、外野の声を聞いている暇などない、というのが双方の本音だろうが)。(※11)

 (サイバー・パワーとソフト・パワーについては次回の記事で)


(※7)
ロシア副首相が北方領土訪問 震災後初の要人、4閣僚も」(MSN産経、2011年5月15日)
北方領土訪問は「国内問題」 露外務省」(MSN産経ニュース、2011年9月13日)など。
(※8)
韓国、竹島ヘリポート改修に着手実効支配強化狙う」(MSN産経、2011年3月31日)
韓国が竹島の樹木復元を本格化へ 実効支配強化の一環 」(MSN産経ニュース、2011年4月3日)
鬱陵島に海軍基地建設へ韓国、竹島の実効支配強化」(MSN産経ニュース、2011年)など。
(※9)
尖閣周辺EEZに中国海洋調査、約9時間後に離れる 今年初、昨日の漁業監視船に続き」(MSN産経ニュース、2011年7月31日)
中国軍機が尖閣上空に飛来、空自が緊急発進6月下旬」(MSN産経、2011年8月22日)
尖閣周辺に中国の海洋調査船今年2回目、事前通報とは別の海域で調査」(MSN産経ニュース、2011年9月26日)など。
(※10)「 復興支援を約束 オバマ米大統領、反カダフィ派議長と初会談」(MSN産経ニュース、2011年9月21日)
(※11)「経済危機対応に目立つ足並みの乱れ 米など欧州に「資本増強せよ!!」」(MSN産経、2011年9月25日)
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